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大監獄インペルダウンの陥落および水没後、世界政府と海軍は総力を挙げて事態の原因調査を行った。
魚人囚人兵を動員した獄内の現場検証により判明したのは、インペルダウン建設時にはなかったはずの広大な空間と、そこに囚人たちが潜伏して強力な爆発物を量産していた痕跡であった。
「つまりは遅かれ早かれこうなっていたということだ。マシロがレベルシックスの囚人を持ち出していたおかげで本来よりも被害は抑えられたとすら言える。あまり気を落とすな」
センゴクは負傷のため自室療養していたマシロを執務室に呼び出し、二人きりで話をしていた。
「でも……せっかく海軍のみんなが頑張って捕まえた海賊が逃げ出しちゃって、それなのに俺が味方だけ殺しちゃって……」
「君が殺したのではない。自由になった囚人どもが拷問を受けた恨みを晴らさないはずがないのだ。マシロが到着した時点で味方の生存者はいなかった……そう考えなさい」
生きているかもしれない監獄職員たちを巻き添えにしてまで囚人たちを殲滅しようとしたというのに、死んで強制送還されてきたチュウの復活後の報告で囚人を全員取り逃がしたと知ったマシロは激しく自分を責めた。
そんな半泣きのマシロをセンゴクは責めず、それどころか優しく励ましてくれていた。
「それにマシロ、君がやったことなどかわいいものだぞ。赤犬なんて一般人が大勢乗った船に標的が潜んでいるかもしれないからと砲撃して沈めさせたことがあったくらいだ。しかも標的は逃げ延びた」
「え゙っ……」
笑い事ではないが、マシロを慰めるためにセンゴクは笑い話のように語った。
マシロはサカズキ大将の想像以上の失態に絶句した。
「つまり、我々とていつでも上手くやってこれたわけではないのだ。マシロはよくやってくれている。だから今回の失敗など気にせず、これからも正義のために励んでくれ」
「…………………………はい!」
マシロがくよくよして立ち止まっている間にも海賊は誰かを襲っているのだ。
償いをしたいのならその方法は取り逃がした海賊をひとり残さず捕獲することだと思い直したマシロは気力を取り戻して元気に返事をした。
「じゃあ俺、海賊捕まえに行ってきます!」
「待て!」
勇んで出陣しようとするマシロの肩をセンゴクが掴んだ。
「もうこの際だからはっきり言わせてもらうが、マシロに死なれると非常に困るから戦場には出ないでくれ! 刺されて負傷したと聞いた時には吐くかと思ったんだぞ!」
不死身になった白ひげ海賊団という強大な兵力のおかげでグランドライン前半の掃海は順調に進行しており、浮いた戦力をグランドライン外に振り分けることで海に出たばかりのルーキー海賊を育つ前に潰す布陣も整えたところだ。
おかげでやっと大海賊時代の終わりが見えてきたというのに、マシロが死ねば全てが台無しになってしまう。
センゴクが今最も頭を悩ませていることは、世界政府の闇でもなければ忌々しい海賊が起こす事件の数々でもない、マシロの安全確保である。
「心配してくれてありがとうございます! でも傷はもう治りましたから! 戦えます!」
落ち込ませるのを覚悟でセンゴクが率直に後方待機を頼んだにもかかわらずマシロは気を遣われているだけだと思って遠慮した。
違うそうではない。
そう言いかけたセンゴクは、言っても同じやり取りを繰り返すだけになりそうだと思い留まり、別のやり方でマシロを後方に縛り付けようと目論んだ。
「……話は変わるが、マシロはガープから特訓メニューを貰っているそうだな」
「えっ? はい、そうです。内容は……」
「聞かなくても分かる。奴のことだ。どうせ攻撃力を鍛えるものばかりで回避や防御は鍛えていなかったのだろう? だから不意打ちをかわせず、たかがナイフで傷を負った」
捕獲した人間に直接戦闘を任せられるマシロの能力の性質を考慮すれば鍛えるべきは攻撃力ではなくマシロ自身の生存能力のはずだ。
ガープは脳筋だからそれが分かっていないのだとセンゴクはため息をついた。
「そういうわけだから、マシロ。学校に行って基礎から学んできなさい」
訓練生からやり直せ。
海兵になりたての新人がよく上官から言われる言葉だが、大将にもなって言われたのはマシロが史上初であった。
◯
海軍特別幼年学校。
そこは海軍が保護した十三歳未満の児童を未来の優秀な海兵に育て上げるべく幼少期からの英才教育を施す全寮制の教育施設である。
「今日からこの能力者クラスに新しい仲間が加わります」
幼年学校には男子クラスと女子クラスの他、画一的な教育では育てられない能力者のみを集めた特別なクラスがある。
「二人とも、クラスのみんなに挨拶を」
それぞれの能力に合わせた特別な個別指導を行わなければならない能力者クラスを受け持つ女将校アインは並んで教壇に立つ二人に自己紹介を求めた。
「俺……いや私はまっ……ミルクです」
「はじめまして! コーラちゃんで〜す!」
その二人というのが幼年学校の大きな襟が特徴的な白い女子制服を着たマシロとコーラルだ。
白ひげ海賊団との戦争で活躍して一躍有名になった二人がいつもの姿で幼年学校に通えるはずもなく、マシロは男装をやめて長い髪を見せる本来の性別に合わせた装いにすることで、コーラルは逆に長い髪を帽子に隠してサングラスをかけることで、ミルクとコーラという別人に変身したのであった。
「能力の紹介もお願いします」
「は、はい。私はボル……違う、えっと、ホジョホジョの実のてだすけ人間で……わっ!」
「パートナーのコーラを強くしてくれるんだ!」
コーラがミルクに横から抱きついて頬を密着させた。
それを見た二人しかいないクラスメイトのうち、ひとりは口を抑えて驚き、もうひとりは興味がなさそうに頬杖をついていた。
「でもってコーラはバチバチの実の帯電人間! コーラに触ったらみんな痺れちゃうぞ!」
「わひゃっ!?」
コーラは弱い電気を手に纏ってバチバチと音を立てさせた。
その音にクラスメイトのひとりが驚いて声をあげ、もうひとりはやはり無関心を貫いていた。
「二人ともありがとう。では、次にクラスのみんなも自己紹介をしましょう」
「はい! あたしアピスよ!」
ミルクたちの自己紹介への反応が大きかった方の、黄土色の髪を後ろで一本に結んでいる女子生徒が立ち上がった。
「能力はヒソヒソの実! どんな生き物とでもお話できるのよ! これからよろしくね!」
「よろしくお願いします」
「うん、よろしくー!」
アピスの自己紹介を聞いたミルクたちは流れでもうひとりも自己紹介をするのだろうと思ってそちらに視線を移したが、もうひとりの黒髪を猫耳のように頭の左右で纏めた女子生徒は黙ったまま動かなかった。
「タッカさん」
「ふん……」
アインに催促された黒髪の女子生徒は渋々といった様子で椅子に座ったまま口を開いた。
「名前は今聞いたでしょ。能力はネコネコの実モデル『黒猫』。言っとくけど私、あんたたちとよろしくする気ないから」
「もうタッカちゃん! せっかく新しいお友達ができるのに、そんなんじゃダメよ!」
アピスに態度を叱責されたタッカがそっぽを向いた。
「挨拶もまともにできないなんて、やっぱ海賊の親から生まれた奴はダメだな! 血が腐ってら!」
気が短いコーラはタッカの態度に腹を立てて、良い子の演技をすっかり忘れた本来の口調で強烈な嫌味を言った。
「なっ……あんた、何で……」
「何で知ってんのかって? だってコーラちゃんはお前と違っていいとこの生まれだも〜ん。アマゾン・リリーとかいうアバズレ島出身の危ねぇのがいるって忠告ぐらい受けるに決まってんだろ」
「コーラさん、それは……」
教師歴一年未満の未熟なアインがコーラを止めようとした時にはもう遅かった。
「好きであんな島に生まれたわけじゃない!」
机を倒しながら勢いよく立ち上がったタッカが人間と黒猫の中間となる獣人の姿に変身してコーラに飛びかかった。
「タッカさん! クラスメイトへの暴力はいけません!」
コーラに突き刺そうとした爪はアインに腕を掴まれたせいで届かなかった。
「モドモド!」
さらにアインはその身に宿すモドモドの実の能力を発動してタッカの年齢を七歳巻き戻し、無力な幼児に変えてしまった。
「クソッ!」
「あははははは! 自分から勝負しかけといてなんだよそのザマ!」
「モドモド」
「へっ?」
ついでに喧嘩両成敗ということでコーラも三歳の幼児にされてしまった。
「二人とも?」
笑顔で怒るアインの迫力にタッカとコーラは背筋を伸ばした。
「私のモドモドは一度当てるごとに時間を七年分戻します。そして七歳未満の状態でさらに当てると……その相手は消滅します」
そうなれば普通のゾオン系能力者のタッカは確実に死に、ボルボルの実の能力で死んでも蘇るコーラであってもどうなるか分からない。
「共に海賊と戦う仲間への侮辱や暴力を私は許しません。次やったら、分かってますね?」
アインの宣告にタッカもコーラもガクガクと震えながら頷くことしかできなかった。
◯
「……というわけで、この世界法への違反こそが海賊という存在が悪に分類される根拠となるわけです。では午前の授業はここまで。午後は運動場で体術訓練を行います」
午前の座学を終えた能力者クラスの四人はそのまま教室で昼食をとることになった。
「ねぇ! あたしも混ぜて!」
食事を始める前にミルクとコーラが机を向かい合わせに移動させていると、そこにアピスも机を寄せてきた。
「ああ? いきなりなん……」
「うん、いいよ。コーラ、クラスメイトとは仲良くしないと、またアイン先生に叱られちゃうよ?」
「ちっ、わーったよ」
「ありがと! ほら、タッカちゃんも!」
事後承諾で許可を得たアピスはひとりで食事をしようとしていたタッカにも声をかけた。
「……なんで私まで」
「ミルクちゃんが言ってたでしょ? アイン先生に言っちゃうわよ?」
「……ちっ」
コーラのように舌打ちしながらタッカも自分の机を移動させた。
四人の机を繋げてできた大きな食卓を囲み、食事とおしゃべりが始まった。
「へー、ミルクちゃんとコーラちゃんは大将さんに助けてもらってここに来たんだ」
「うん。麦わらのルフィっていう億越え賞金首のすごく悪い海賊に殺されそうになって……ボルサリーノさんが来てくれなかったらきっと死んでた」
会話は主にアピスが話題を振ってミルクがそれに答えるという形でそれなりに弾んだ。
「あたしはね、海兵さんのふりをした海賊に監禁されてたところを本物の海兵さんに助けてもらったのよ。それで私が能力者だって知った海兵さんたちが海軍に入らないかって誘ってくれたの」
厳密にはアピスを監禁していたのは汚職に手を染めていた本物の海兵だったのだが、センゴクの大粛清によって事件が発覚し解決された後、貴重な能力者であるアピスが海軍に敵意を抱かないように犯人は海兵に偽装した海賊だったということにされたのであった。
「そうなんだ。やっぱ海賊って最悪だね。海軍を悪者だって勘違いさせようとするなんて」
ミルクは本心からアピスの話を信じて憤った。
「あははは! ほんとにな! やっぱ海賊ってろくでもねぇよ!」
コーラは事件の真相をなんとなく察した上であえてそれを口に出さなかった。
「なぁ、タッカだっけ? お前もそう思うだろ?」
にやつくコーラに話を振られたタッカが猫のような鋭い目でコーラをにらみつけた。
「喧嘩売ってんの?」
「はぁ? コーラは話に入ってこれねぇぼっちに気ぃ遣ってやっただけなんですけどぉ」
「あんたは知ってんでしょうが! 私がどうしてここに来たのか!」
タッカが机を叩きながら立ち上がった。
「あはははは! そーだな! 全部知ってら!」
そんなタッカにコーラは臆すことなく煽りを重ねた。
「海賊国家アマゾン・リリー出身のタッカちゃんは生まれた時から犯罪者! 本当なら他の海賊女どもと一緒に奴隷になるはずだったのに、世界一優しくてかっこいい大将白鼠様のおかげで海兵になって罪を償うことを許してもらえたんだろ!? せいぜい感謝しないとな!」
ここまで煽られてはタッカも黙ってはいられないだろう。
生体電気でアインが近くにいないことを感知しているコーラは、今度こそ痛めつけて立場の違いというものを教え込んでやるべく、タッカが先に手を出してくるのを待ち望んでいた。
「……してるわよ」
「え?」
しかしタッカは激昂せず、むしろおとなしくなって席に座り直した。
「ここに来てから女ヶ島にいた頃は知らなかったことをたくさん習ったわ。蛇姫……ボア・ハンコックがゴルゴンの呪いだって言ってたものが本当は私が食べたのと同じ悪魔の実の力だって。ハンコックは白ひげっていう強い海賊と戦うのを怖がった腰抜けで、そのせいで九蛇は海軍の敵になったって」
ボア三姉妹は背中に焼き付けられた天竜人の奴隷の証を隠すため女ヶ島の民にゴルゴンの呪いという作り話を広めた。
討伐したゴルゴンという怪物から呪いを受けた三姉妹の背中には怪物の瞳が宿り、その影響で人を石にしたり蛇に変身したりできるのだと言って悪魔の実のことを隠していたのだ。
そのせいで女ヶ島の民は悪魔の実の知識を持たず、偶然島で見つけたネコネコの実を食べたタッカは奇妙な病気に罹患したと思い込み、病を広げないために殺害されるような事態を恐れて誰にも相談できないまま、幼い子供にはあまりにも辛い不安だらけの孤独な日々を過ごすことになったのであった。
「私は立派な海兵になって、真実を教えてくれた海軍と、そのきっかけをくれた大将白鼠様に恩返しをするの。あんたたちみたいな軽い気持ちで海兵になろうとしてる奴らと馴れ合ったりなんて……」
「なんだよ! だったらコーラたちが揉める理由ねぇじゃん!」
背景から白鼠を恨んでいるものと思っていたタッカが実際は大将白鼠に心の底から感謝していると知ってコーラは態度を一変させた。
「仲良くやろうぜ! マシ……大将白鼠様のために、一緒に強くなろうじゃねぇの!」
コーラの豹変にしばらく唖然としていたタッカは、やがて自分も初対面の相手に対する態度ではなかったと反省し、差し伸べられたコーラの手を握り返した。
「なんだかんだで仲良くやれそうで良かったね」
「ねー」
そんな二人の仲直りを眺めながらミルクとアピスは気を取り直して食事を口に運んだのであった。
◯
切磋琢磨する仲間を得たミルクとコーラは順調に実力を伸ばしていた。
「できた! これが紙絵!」
「ではないですね。でも銃弾を回避できるようになったのは立派です」
アインが拳銃で放ったペイント弾を大きく転がって回避したマシロをアインが称賛した。
絶対に死んではいけない立場であるために回避能力向上に主眼を置いて指導を受けているマシロは、海軍に伝わる六つの超人体術『六式』のひとつ、敵の攻撃の起点を予測して最低限の動きで回避する『紙絵』の習得を目指している。
「私の方が先にゴールしてた!」
「いーやコーラの方が速かった!」
タッカとコーラは既に六式のひとつである『剃』という名のこうそくいどうを覚えており、今はその次の段階である宙を蹴って空中を歩く『月歩』の習得のためにひたすら走り込みをしている。
「ふっ、たりとも、まっ、てぇ」
アピスは育成方針を決める以前の問題として体力が不足しているため、タッカとコーラの走り込みに付き合うなどして体力作りの最中である。
「総員、集合!」
走り込み組が落ち着いたのを見計らってアインが号令をかけると軍隊らしい小走り移動で四人の生徒が集合し、整列した。
「本日の授業はここまでです。各員、寮に戻って休息を取り、しっかり身体を休めなさい」
四人が声を揃えて「はい」と返事をした。
その後は普段であればアインがすぐに解散の号令を出すのだが、この日は違った。
「それから皆さんに重要通知があります。明日から一週間ほど、ミルクさんが特別外部実習のため不在になります」
「はっ? 何それ聞いてねぇけど」
「私も……」
コーラだけでなく当事者のミルクも知らないと分かり、タッカとアピスが怪訝な顔を見合わせた。
「静かに。これは私や校長先生が決めたことではなく、さらに上……ミルクさんが拒否できない立場の方の意向によるものです」
正式な身分が天竜人のミルクでも拒否できないとなれば、それは五老星の決定以外にありえない。
つまりは特別外部実習というのは名目で、実際は神の従刃としての任務なのだ。
「了解しました」
アインの遠回しな発言からそのことを正しく読み取ったミルクは頷いた。
「でも、あの……コーラは?」
「コーラさんは呼ばれていません。なので残って授業を受けてもらうことになります」
「はぁ!? コーラに一週間もミルクと離れろっての!?」
「……そうなります」
「ふざけっ……」
「ミルクちゃんがいない間はあたしたちの部屋に来ていいよ」
今にも暴れ出しそうなコーラをおとなしくさせたのは、珍しくミルクではなかった。
「はぁ!? 何でそうなんだよ!?」
アピスの突然の提案の意図を理解できなかったコーラが怒りを忘れて疑問をぶつけた。
「だって、ひとりになるのが寂しくて嫌なんでしょ?」
「コーラあんた、それでごねてたの? 意外とかわいいとこあんのね」
「ちがっ……」
コーラは否定の言葉を途中で止めた。
よく考えてみるとアピスの指摘は間違いではないし、何よりそれを否定すればミルクが傷つくかもしれないと思ったのだ。
「くはねぇけど! でもお前らはお呼びじゃねぇ! もう帰る!」
「あっ、待ってコーラちゃん! まだ解散って言われてな……」
コーラは逃げるように寮の方へと走り去った。
その様子を見て頭を押さえながらため息を吐いたアインは指導者の苦労を実感するのと同時にコーラの手綱を握るミルクがいない期間を無事に乗り切れるのだろうかと不安になっていた。
「いっそゼファー先生に力を借りられないか相談してみようかしら……」
あまりにも不安が強かったために思わずこぼれたその弱音は、三日三晩悩み抜いたアインによってやがて実行に移されるのであった。
◯
「ドフィ。面白い話を耳にした」
海軍のとある支部にて、ひとりの将校が電伝虫で誰かに連絡をとっていた。
「フッフッフ……お前が面白いと言うならよほどのことだな。聞かせてくれ」
将校の男が使っている電伝虫は目が鋭いサングラスのような形に変化していた。
それはドフィと呼ばれた通信相手の顔の特徴を電伝虫が模倣しているためだ。
「ああ。どうやら今、マリンフォードは過去に類を見ないほど手薄になっているようだ。大将は四人全員が出払っていて、センゴクは本部移転計画のため新世界側のG1支部の視察に、ガープは火拳を伴ってイーストブルーに出張している。中将は数人いるようだが飛び抜けた実力者は含まれていない」
「ほぅ……よく天竜人どもが許したもんだ」
海軍本部の最も重要な役割はその背後に存在する聖地の防衛だ。
そのために少なくとも大将がひとりは本部で待機しているのが普通であり、ここまで手薄になるのは海軍史上初であった。
「大将白鼠が急な任務で本部を離れることになったのが原因らしい。その任務の詳細は不明だが……」
「構わねぇ。下手に探るのはやめとけ。それよりも、マリンフォードは攻め時か……フッフッフッフ!」
「仕掛けるのか?」
「まさか。俺は何もしねぇよ。俺は、な。フッフッフッフッフッ!」
ドフィは犯罪者がひしめく裏社会において長年暗躍している闇の仲介屋であった。
彼が違法取引で扱う商品は多岐に渡り、武器や麻薬、悪魔の実といった形あるものから、果ては情報のような形なきものまで様々だ。
「普通の海賊はわざわざ政府に喧嘩なんて売らねぇが……世の中物好きもいるもんだ! せいぜい潰し合ってもらおうじゃねぇか!」
マリンフォードに大将、元帥、および英雄不在。
出どころを辿られないように複数の情報屋を経由して世界中の犯罪者に広められたその情報は、ジョーカーが意図した相手のみならず、想定外の曲者たちにも届くことになる。
「あたしが盗聴した情報によると、今マリンフォードににっくき大将白鼠はいない! つまりは白ひげもいない! これを逃す手はないよ!」
「ほーん……でもかーたん、とーたんいないんじゃ助けらんねぇど?」
盗聴用の電伝虫で裏社会の噂話を盗み聞きした子供のように小さな金髪の老婆は、質問をしてきた屈強な上半身に対して木の枝のように貧弱な下半身の不揃いが特徴的な白いひげの金髪の男の足を杖で叩いた。
「いでっ! いでーよかーたん!」
「いないからいいんだよ! あんた父親と戦えんのかい!?」
「無理だど! とーたんと戦うなんてできねぇ!」
「だろ! ほんっと優しい子だねぇ! このあたしの宝物は!」
この老婆の名は諜報の達人にして『科学強盗』の異名で知られたバッキンガム・ステューシー。
通称はミス・バッキンだ。
「あたりまえだど! だっておで、白しげの息子なんだから!」
そしてその隣にいるエドワード・ウィーブルはバッキンの息子であるのと同時に『白ひげ』エドワード・ニューゲートの息子を自認していた。
「それじゃ行くよ! あたしが集めた情報によれば戦争の時に目立ってたあの生意気そうな天竜人のメスガキが今もマリンフォードに滞在してんのは確実! あいつを捕まえて、人質交換で白鼠からニューゲートを取り返すんだよ!」
かくして主要な戦力が不在のマリンフォードに迫る脅威から知らないうちに目を付けられた生意気そうな天竜人のメスガキ、コーラ。
「そういえばコーラちゃん、今日はやらないの?」
「は? 何をだよ」
「自主訓練よ。あんたとミルクって部屋に戻ってから毎日やってんでしょ? 夜にあんたたちの部屋の前通ると時々ベッドが軋む音とかうめき声とかが聞こえてくんのよね」
「あー……まあな。組み手の特訓を少し……」
何も知らない同年代の学友二人とひとつ屋根の下で暮らす、海軍特別幼年学校での生活はまだまだ続く!