海賊マスターに俺はなる!   作:ことのはだいり

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第4話 VS チュウ

「えっ……もうアーロン一味いないの!?」

 

「んだよ無駄足かよ……」

 

 魚人海賊アーロンを捕獲するためにアーロン一味の拠点を訪れたマシロたちが見たものは、既に崩壊した建物と、その残骸を撤去する一般人たちの姿だった。

 

「ああ! 長いこと苦しめられたが、この前ついに奴らを倒せる人たちが来てくれたんだ!」

 

「それって海軍?」

 

「いや、彼らは……」

 

「こら、お前! 無駄話してないで手を動かさんか!」

 

 アーロンを倒した者たちの話になった瞬間、遠くから慌てた様子で駆け寄ってきた傷だらけの駐在の男が口を挟んできた。

 

「ご、ごめんよ、ゲンさん」

 

「その子たちとは私が話す」

 

 マシロたちが最初に声をかけた人を追い払い、ゲンさんと呼ばれた男がマシロたちへの対応を引き継いだ。

 

「それで……君たちのような子供が、アーロン一味なんかに何の用があるというのだね? 珍しいから見に来たというのなら、それはあまりにも愚かな行為だぞ」

 

 マシロもコーラルも普通の子供にしか見えず、実際子供ではあることは間違いない。

 そのため魚人の恐ろしさを嫌というほど知っているゲンさんが説教をしたくなるのは仕方のないことだが、軽んじられたと感じたコーラルは機嫌を悪くした。

 

「何しに来ただぁ!? 魚人なんかにぶっ殺す以外の用なんてあるわけねぇだろ!」

 

「コーラル、殺すんじゃなくて捕獲だからな」

 

 子供とは思えない剣幕でコーラルがゲンさんに迫り、それをマシロがなだめた。

 

「生け捕りでなければ賞金が減額されるというやつか……つまり君たちは賞金稼ぎだな」

 

 一般人なら怖がって腰が引けたかもしれないが、駐在という職業柄、常人よりも肝が据わっているゲンさんは平然としていた。

 

「うん、まあ、そんなとこです」

 

「ふん、なら来たのが今で良かったな」

 

「え?」

 

「その年で死ぬこともあるまい」

 

 ゲンさんはマシロたちがアーロン一味と戦っても勝てなかったと確信しているようだった。

 

「は〜〜〜〜〜!? なめやがって! コーラルの力を思い知らせてやろうか!?」

 

「やめろコーラル!」

 

 日頃から見下している魚人よりも弱いと言われたせいで今にもゲンさんに電撃を放ちそうなほどに怒り狂ったコーラルをマシロが叫んで止めた。

 

「うが〜〜〜〜〜!」

 

「落ち着けって。海賊がいないならいいことです。俺たちはもう行きます」

 

「まあ待ちたまえ」

 

 コーラルを引きずって離れようとするマシロをゲンさんが呼び止めた。

 

「せっかく来てくれたんだ。少し歩いたところにココヤシ村という集落があるから、立ち寄って買い物でもしていきなさい。うちの村のみかんは絶品だぞ」

 

 ゲンさんの提案はマシロたちへの気遣い半分、営業半分だ。

 

「へぇ……それはいいですね」

 

「ちっ……そこまで言って不味かったら許さねえからな!」

 

 マシロが乗り気なのでコーラルも同行せざるを得ない。

 

「出て来い! シャム! ブチ!」

 

 村へと出発する前に、マシロはシャムとブチをボールから出した。

 

「二人とも、船番しろ」

 

「コーラルたちの部屋には入んなよ。甲板上で見張っとけ」

 

 以前の海賊団でも船の番人をしていたという二人にラプラス号を守らせてマシロとコーラルはココヤシ村に向かった。

 

「いらっしゃいませー」

 

「すみません、みかんください。とりあえずふたつ」

 

 ココヤシ村は小規模で、これと言って他に立ち寄りたくなるような目ぼしい店がなかったため、マシロたちはみかん農家が屋外でやっている直売所に直行して、味見のためにひとり一個ずつミカンを購入した。

 

「……うん、ちょうどいい甘酸っぱさでいい感じ」

 

「おっ、なかなかいけるじゃん」

 

 その場でみかんを食べた二人の感想は好意的だった。

 

「だろ? うちのみかんは世界一だからね! もっと買うかい? 安くしとくよ!」

 

 みかんの味を褒められて気を良くしたみかん売りの女性はマシロたちに親身になってくれた。

 

「へー。坊やたち、船旅の途中で立ち寄ったのか」

 

「そうなんです。船だと保存のきかない野菜や果物をあまり貯め込めないから、ここでたくさん調達できて助かりました」

 

「そういうことなら、ちょっと待ってな」

 

 少し世間話をしてマシロの食料事情を知ったみかん売りの女性は席を外し、戻って来た時には低木が植えられた鉢植えを抱えていた。

 

「お姉さん、それは?」

 

「みかんの木だよ。室内で育てられる小さめのやつだけどね。これやるから、船の中で収穫して食べな」

 

「いいんですか!?」

 

「子供が遠慮しなさんな!」

 

「……ありがとう! すごく助かります!」

 

 壊血病対策にビタミンCが豊富なみかんは最適だ。

 これさえあれば海賊船から食料を盗る必要がなくなるので、マシロは悩んだ末にありがたく貰っていくことに決めた。

 

「二人で運ぶの大変だろ? 船まで配達するよ」

 

「あっ、それは大丈夫です。運べる人呼ぶので」

 

 みかん売りの女性は至れり尽くせりで配達までしようと言ってくれたが、さすがに申し訳ない上に、手は足りているので断った。

 

「旅の仲間でもいるの?」

 

「いや、こいつは仲間というか……何だ?」

 

「ど……」

 

 奴隷だろ、と言いかけたコーラルは、それを言うと自分もそうなってしまうので口を閉じた。

 

「……? あたしに気を遣ってくれたなら、その必要はないよ。こう見えて農作業で鍛えられてるんだ」

 

 言い淀む二人を見たみかん売りの女性は運べる人を呼ぶというのが自分を気遣った嘘だと思ったようだ。

 

「ああいや、本当に運べる人はいますから! 出てこい、パール!」

 

 本当に大丈夫なことを早く証明しなければと焦ったマシロはパールを出した。

 

「ハーッハッハッハッハ! てっぺき! よって無敵!」

 

「……!?」

 

 マシロの能力を知らないみかん売りの女性には虚空から変な盾男が突然現れたようにしか見えず、彼女は驚きのあまり開いた口が塞がらなくなった。

 

「この鉢植えをラプラスまで運ぶから、持ってくれ」

 

 そんなみかん売りの女性の様子に気付かなかったマシロはそのまま平然とパールに指示を出した。

 

「お安い御用だマシロさん! この鉄壁の盾男にしてダテ男、パールさんに任せてくれたまえ!」

 

 パールも既にシャムやブチが受けたものと同じ説明をされているので、彼は待遇向上のためにマシロにいいところを見せようとしていた。

 

「イブシ銀だろ?」

 

「おーい、行くぞー。遅れるなよー」

 

「おせぇよノロマ! さっさと来い!」

 

 鉢植えを軽々と持ち上げてキメ顔で格好つけたパールを無視してマシロとコーラルは先に出発していた。

 

「それじゃお姉さん! みかんありがとう! じゃあね!」

 

「…………………………はっ!」

 

 マシロに呼びかけられたみかん売りの女性は我に返った。

 

「いやいやいや! 待って! その人は何!?」

 

「ダテ男さ!」

 

「それじゃ分かんないわよ!」

 

 パールが何者かなど分かったところで何もいいことはないのだし、マシロは説明する必要はないのではと思っていたが、説明しないとみかん売りの女性が追いかけてきそうな勢いなので、仕方なく足を止めて説明することにした。

 

「話すと長くなるんだけど……」

 

「大変だノジコちゃん!」

 

 マシロが長話を始めようとしたちょうどその時、アーロン一味の拠点跡地でマシロたちが最初に会った男が慌てた様子で走ってきた。

 

「えっ……どうしたの!?」

 

「魚人どもが戻って来た! たぶん海軍のネズミ野郎があいつらを逃しやがったんだ!」

 

「……!」

 

 その知らせを受けたみかん売りの女性ことノジコは顔面を蒼白にした。

 

「坊やたち! すぐに逃げな!」

 

「いや待ってくれ!」

 

 そして何よりも先にマシロたちを避難させようとしたのだが、それを村人の男が止めた。

 

「待つ余裕なんてないでしょ! 急がないと!」

 

「いや、落ち着いてくれノジコちゃん。魚人どもが戻って来たのは本当なんだが……アーロンの奴はいないし、来た奴らは既にほとんど倒されたんだ」

 

「え……あいつらを倒した!? いったい誰が……」

 

「ネコみたいな格好の変な二人組だ」

 

 ああ、あいつらちゃんと仕事してるんだな、とマシロは感心した。

 

「それでその二人組からそっちの帽子の坊やに伝言を頼まれたんだ。乱戦につき加減できず雑魚は殺してしまったが、しぶとい奴が一匹いる。捕獲可能な状態にしておくので来てくれ。だってさ」

 

 これからは魚くらいは食わせてやろうとマシロは決めた。

 

「あはははは! あの二人なんかに全滅させられんのかよ! 所詮魚だな!」

 

「お姉さん、俺たちもう行きます!」

 

 シャムとブチが捕獲対象を仕留めてしまう前に到着しなければと考えたマシロたちが走り出した。

 

「待って待って! 何が何だか全然分かんない! あたしも行くから!」

 

 そしてノジコも、マシロたちを追いかけて魚人海賊団の拠点跡地へと向かった。

 

          ◯

 

 海軍の護送船から脱獄したアーロン一味の残党は自分たちに屈辱を味わわせた者たちに復讐するべくココヤシ村がある島に戻って来た。

 そこで彼らが見たのはココヤシ村の人間たちがアーロン一味の拠点にシロアリのように群がり解体している光景だった。

 

「チュッ♡ お前ら! 下等種族を皆殺しにするぞ!」

 

「魚オオオオオ!」

 

「うわあああああ! 魚人だあああああ!」

 

 アーロン一味の幹部だったキスの魚人、550万ベリーの賞金首チュウを先頭に、海から続々と出てきた魚人たちが対話もなく村人たちを襲った。

 

「おいブチ、なんだか向こうが騒がしくねぇか?」

 

「そうだな、シャム。ありゃ……魚人ってやつじゃねえか?」

 

 襲撃者たちの人間とは異なる肌の色、そしてヒレやエラのような魚の特徴を望遠鏡で視認したシャムとブチは、それがマシロの標的であった魚人だと確信した。

 

「船を守れって指示だったが、あれは放っておけばこっちにも来るよなぁ?」

 

「ああ。そうなる前に未然に防ぐのも船番の役目に違いねぇ」

 

 シャムとブチの解釈は正しかったようで、二人はボルボルの魔法による行動制限を受けることなくラプラス号を離れて魚人たちが暴れている現場に向かうことができた。

 

「シャシャシャシャシャー!」

 

「ぎゃあああああ!」

 

 人間の十倍の腕力を持つとされる魚人だが、所詮は一般人の十倍でしかない。

 

「彼らは! ……誰だ?」

 

「誰かは知らんが魚人を圧倒してるぞ!」

 

「あの耳に爪……ネコの獣人なんじゃないか?」

 

「獣人って存在するのか? いやでも魚人がいるしな……」

 

 村人たちはマシロがラプラス号の上でシャムとブチを出した瞬間を目撃していなかったので、二人は突然現れたネコみたいな格好の変な奴ら以外の何者でもなかった。

 

「なんなんだお前らはぁ!? 人間か!?」

 

「なんだかんだと聞かれたら」

 

「答えてやろうか明日のため」

 

 村人のみならず魚人からも何者かと問われたシャムとブチは、もしかしたら明日の後輩になるかもしれない今日の敵に名乗ってやることにした。

 

「俺らの破滅を避けるため」

 

「俺らの自由を守るため」

 

「ネコをかぶらぬ忠義を捧げる」

 

「キュートでプリティな元海賊」

 

「コマンダー・マシロの忠実なる配下、シャム!」

 

「同じくコマンダー・マシロの忠実なる配下、ブチ!」

 

「二人合わせて……ニャーバン・ブラザーズ!」

 

 名乗り口上の最後は二人が声を合わせて叫んだ。

 結局のところ名乗りを聞いてもシャムとブチが人間なのか獣人なのかははっきりしなかったが、元海賊のニャーバン・ブラザーズだということは伝わった。

 

「ニャーバン・ブラザーズだと!? 知っているぞ! 確か二人合わせて700万ベリーの賞金首だ!」

 

 仕事柄、世間の悪党たちに詳しい駐在のゲンさんがシャムとブチの賞金額を周囲に知らせた。

 

「700万って……あいつら550万のチュウさんより上じゃねぇか!?」

 

「いや待て! 二人合わせてそれなら一人あたり350万! チュウさんの方が強ぇ!」

 

「チュッ♡ そうだお前ら! 賞金がかかってるってだけでたかが下等種族二匹にびびってんじゃねえ!」

 

 シャムとブチの賞金額に戦慄した魚人たちは同じく賞金首のチュウの存在を心の支えとして戦意を復活させた。

 

「魚オオオオオ!」

 

「やれやれ、見てわからんもんかねぇ」

 

「魚がネコに勝てるわけねえってのによぉ!」

 

 そこから先は一方的な蹂躙だった。

 魚人たちは確かに優れた身体能力を持っているが、拠点を構えてココヤシ村を含めた周辺の村の一般人たちから金品を徴収するばかりで、長年戦闘らしい戦闘をしていなかった。

 そんな海賊を半分引退したような状態で身体がなまりきっていた魚人たちに対して、シャムとブチは敵対する海賊や海軍と今日までずっと戦い続けてきた歴戦にして現役の海賊だ。

 もはや腕力自慢の一般人程度でしかない魚人たちなどシャムとブチの敵ではなかった。

 

「ネコ柳大行進!」

 

「ギャアアアアア!」

 

 シャムのみだれひっかきが魚人を斬殺し、刺身にした。

 

「猫殺! キャット・ザ・フンジャッタ!」

 

「ぺぶっ!」

 

 ブチのふみつけが魚人を圧殺し、釣り上げられた深海魚のようにした。

 そんな調子で気分良く戦っていると、気付けば魚人の生き残りはチュウだけになっていた。

 

「しまった、手加減すんの忘れちまってた」

 

「仕方ねえよブチ。こいつらが脆すぎんだ」

 

 魚人を捕獲したがっていたマシロが戻って来た時に怒られないよう、シャムは言い訳を考えた。

 

「おい! 誰でもいいからココヤシ村ってとこに向かったコマンダー・マシロ……帽子をかぶった十歳くらいの白髪の少年に伝えてくれよ! 乱戦につき加減できず雑魚は殺してしまったが、しぶとい奴が一匹いる。捕獲可能な状態にしておくので来てくれ。ってな!」

 

 ボールの中にいてもマシロの声だけは聞こえるため、シャムとブチはバラティエでマシロがコーラルと魚人の扱いを巡って言い争っていた内容を知っていた。

 その時の話を思い出す限りではマシロが魚人を求めたのは溺れた時の救助要員としてなので、複数体確保する必要はないはずだ。

 そのため幹部らしき魚人を一匹捕獲できれば十分喜んでもらえるだろうとシャムは見通しを立てた。

 

「つうわけでブチ! あいつは絶対生け捕りにすんぞ!」

 

「おうともシャム!」

 

「下等種族がなめやがってえええええ! ぶっ殺してやらあああああ!」

 

 手加減して勝てると公言されたことに怒り狂ったチュウは、言葉とは正反対の行動に出た。

 チュウはシャムとブチに背を向けて、海に向かって走り出したのだ。

 

「は? あいつ逃げやがった!」

 

「追うぞシャム! 逃がしたらコマンダーにどう思われるかわかったもんじゃねえ!」

 

 シャムとブチは遠距離の攻撃手段を持たず、逃げるチュウを足止めすることができなかった。

 

「クソッ! 逃げんな魚類!」

 

「この腰抜けが! 戻って来いやゴラァ!」

 

「チュッ♡ 言われずとも下等種族相手に逃げやしねえよ!」

 

 海に飛び込んだチュウに対してできることが何もないシャムとブチが波打ち際から罵声を浴びせていると、逃げたと思われたチュウが海面から顔を出した。

 

「水鉄砲!」

 

「ぐぁっ!」

 

 チュウのラッパのように突き出た口から発射された水が銃弾のようにシャムの肩を撃ち抜いた。

 

「シャム!」

 

「てめぇもくらいな! 百発水鉄砲!」

 

 海水を銃弾として打ち出すチュウに弾切れはない。

 放たれた水鉄砲が百発を超えた頃、すばやさに特化していて防御力が低いシャムは倒れ、防御力に秀でたブチも長くはもたない満身創痍の状態に追い込まれてしまった。

 

「見たか下等種族ども! これが魚人の力だ! チュッ♡」

 

「……芋引いて……遠くからちまちま削るだけの魚野郎が……調子に……乗りやがって……」

 

「はっ、負け犬の……いや、負け猫の遠吠えってやつだな! あの世でなんとでも言ってろ! チュッ♡」

 

 大量の海水を吸い上げたチュウが動けなくなったブチに最大火力の攻撃を放つ。

 

「水大砲!」

 

 砲弾のような威力のそれを受ければ脂肪の厚いブチであっても弾け飛んでしまうだろう。

 

「逃げろネコの人おおおおお!」

 

 凄惨な光景を予言した村人たちが絶叫する前で水大砲が着弾し、霧となってブチの姿を覆い隠した。

 

「ああ……そんな……」

 

「私が奴を足止めする。全員今すぐこの場から逃げるんだ」

 

 結果として自分たちを守ってくれていたシャムとブチの敗北を村人たちが嘆く中、チュウが次は村人たちを襲うと考えたゲンさんが殉職の覚悟を決めた。

 しかし彼らの希望は潰えていなかった。

 

「ハーッハッハッハッハ! てっぺき! よって無敵!」

 

 ブチは割り込んだパールによって守られたのだ。

 

「なんだあの変な盾男は!?」

 

「お前、パール……なんで……」

 

「ハッハッハ、勘違いするなよ。俺の意思じゃない。マシロさんの指示さ」

 

 別にブチが瀕死になってもボールに戻るだけなので問題はないが、まあ仕事はしてくれたので助けてやるかと考えたマシロがパールにブチを庇えと指示したのだ。

 

「よくやったブチ! 戻って休め! ……さて」

 

 回復のためにブチをボールに戻したマシロがチュウに目を向けた。

 

「あれが一匹だけ残ったしぶとい奴か。確か……アーロン一味の幹部、懸賞金550万ベリーのチュウ」

 

「あははははは! 何あのラッパみたいな唇! オカマみてぇ! さすがは世界一醜い種族だな!」

 

「あ゙あ゙!?」

 

「しかもなんか生臭いんですけどー? かわいくないから好きじゃないけど、マスクしてくりゃ良かったな!」

 

 コーラルの強烈な煽りを聞いたチュウは瞬時にぶち切れた。

 

「この……下等種族のメスガキがあああああ!」

 

「ハーッハッハッハッハ! てっぺきぃ!」

 

 チュウが水鉄砲を乱射してもパールの盾を突破できない。

 

「パール! そのまま突撃して……頭突きだ!」

 

「了解だマシロさん!」

 

「ちっ……くしょおおおおお!」

 

 沖に逃げればマシロたちは追いつけないというのに、魚人としての誇りが邪魔をしてチュウは人間から逃げるという選択肢を選べない。

 

「サービスパール……」

 

 水鉄砲を受けながら突進したパールが波打ち際で跳躍し、頭からチュウに突っ込んだ。

 

「イブシギンプレゼント!」

 

「ブチュゥゥゥウウ!」

 

 パールが砲弾のようにチュウに着弾し、突き出た唇ごと顔面をぐちゃぐちゃに潰した。

 

「行け! 監獄ボール!」

 

 ここしばらく地道に鍛えていた肩と制球力によってマシロが投げたボールは正確にチュウに当たり、瀕死のチュウを閉じ込めた。

 

「パール! ボールを回収して戻って来い!」

 

 盾をイカダ代わりにしたパールが戻って来て、マシロにボールを献上した。

 

「アーロン一味のチュウ、ゲットだぜ!」

 

 チュウの入ったボールを掲げてマシロが勝利を宣言すると、遠巻きに眺めていた村人たちがざわめき出した。

 

「勝った……んだよな?」

 

「……たぶん」

 

 マシロのボールを使った捕獲による決着は倒れた敵の姿が残らないため、傍目には勝ったかどうかよく分からないのだ。

 

「ゲンさん、何が起きたの?」

 

「ノジコか。いや、私にも何がなんだか……」

 

 到着したばかりで状況を把握していないノジコが最初から現場にいたゲンさんに説明を求めるが、全てを見ていたゲンさんにも何ひとつ理解できていなかった。

 そんな村人たちの前でコーラルが自慢げに語り出した。

 

「うちのマシロはボルボルの実の能力者! 海賊をボールで捕まえて従える! あのオカマみてぇな魚類はこの先一生マシロの言いなりだ! あはははは!」

 

 そしてコーラルはにやつきながらゲンさんに話しかける。

 

「あれ〜? コーラルたちじゃ魚類に勝てないとか言ってたのって誰だっけ〜? よゆーで勝っちゃいましたけどぉ?」

 

「ぐ……ぬ……」

 

 態度が悪い子供を叱りたくても恩人たちに返す言葉などあるはずもないため、ゲンさんは身体を震わせることしかできなかった。

 

「こらゲンさん。この子たちと何があったか知らないけど、素直にお礼くらい言っときな」

 

「おいコーラル。この人も俺たちを心配して言ってくれたんだ。あんまり言うなよ」

 

「む……」

 

「へいへい……」

 

 注意を受けた二人が互いに態度を改めて向き合った。

 

「前言は撤回する。君たちは強い賞金稼ぎで……今回は助けられた。ありがとう」

 

「おう」

 

 頭を下げたゲンさんにコーラルは不用意な発言をするとマシロに怒られてしまうので素っ気ない返事をした。

 

「それじゃ、用事も済んだし俺たちは行きます」

 

「もう行くの? 大したもの出せないけど、何かお礼を……」

 

 引き留めようとするノジコにマシロは首を横に振った。

 

「いえ、お姉さんたちも片付けで大変でしょうし、みかんの木も貰いましたから」

 

 何より他の島でも今この時に海賊の襲撃が起きているかもしれない。

 ノジコには言わなかったが、そんな焦りがマシロにはあった。

 

「そっか。みかんが足りなくなったらまた来なよ。好きなだけ持ってっていいからね」

 

「はい!」

 

 こうして予定通りに魚人海賊を捕獲したマシロたちは、みかんの木の鉢植えをお土産に貰い、次の海賊を求めて海に出た。

 

「やっぱうめぇなこのみかん」

 

「コーラル! 食べるのはいいけど俺の分もちゃんと残してくれよな!」

 

 美味しいみかんを頬張りながら、マシロとコーラル、二人の旅はまだまだ続く!

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