海賊マスターに俺はなる!   作:ことのはだいり

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第7話 VS ドリー

「おいブチ! そっち行ったぞ!」

 

 密林の中、シャムが巨大な動物を追い回している。

 それは首についた襟巻きのような部位を回転させて浮力を生み出し、宙を自在に飛び回るトリケラトプスであった。

 

「ブモオオオオオ!」

 

「任せろシャム! 猫殺! キャット・ザ・フンジャッタ!」

 

 タイミング良く大樹の上から飛び降りたブチがトリケラトプスをふみつけた。

 

「ブッ……モォ!」

 

「クソッ! タフなやつめ!」

 

 地面に叩き落とされたトリケラトプスはまだ絶命していなかった。

 

「空さえ飛んでなきゃ十分だ!」

 

 トリケラトプスに追いついたシャムがかぎ爪でトリケラトプスの首を切り裂いた。

 シャムのきりさく攻撃はトリケラトプスの首を落とせはしなかったが、激しく出血させることに成功した。

 トリケラトプスはその後もしばらく暴れ回り、やがて力尽きて息絶えた。

 

「……ふぅ。野生動物の分際でなかなか強かったじゃねぇか」

 

「つーかこいつ……トリケラトプスって飛ぶんだな」

 

 ウィスキーピークから通常のログポースに従って進んだマシロたちが辿り着いた島の名はリトルガーデン。

 ここでは太古の昔に絶滅したとされる恐竜が生き残っていて、初めて見る本物の恐竜たちはどれも独特で奇抜な生態を有していた。

 

「ブラキオサウルスは首がすっぽ抜けて蛇になりやがるし、プテラノドンはトサカを弓みたいに引き絞ったかと思えばクチバシを射出しやがるし……次は何が出てくるやら」

 

「さあな。アンキロサウルスあたりがアルマジロみてぇに転がってくんじゃねぇか?」

 

「おいネコども! 逃げんぞ!」

 

 シャムとブチがひと息ついていると、そこに何かから逃げているらしいコーラルが通りすがった。

 

「コーラルさん!?」

 

「あんたが逃げるなんて……何が来てるんすか!?」

 

 マシロたちの中で最も強く、無敵にすら思える電気の身体を持つコーラルが逃げるなど尋常ではない。

 

「ロサミガレ・グラウボゲリィだ!」

 

 コーラルに並走しながらシャムとブチが尋ねると、いつになく余裕がないコーラルは嫌味のひとつも言わずに普通に答えてくれた。

 

「……何て?」

 

 その生物をシャムとブチは知らなかった。

 

「だからロサミガレ・グラウボゲリィだっつってんだろ! 知らねぇのかよ!?」

 

「いや……全然聞いたことないんすけど」

 

「はぁー!? これだから下々民は……いいか? ロサミガレ・グラウボゲリィは大昔に絶滅したはずの蜘蛛だ!」

 

「蜘蛛っすか。じゃあ糸とか出すんですかね」

 

「毒にも気を付けたほうが良さそうだな、シャム」

 

「馬鹿野郎! ロサミガレ・グラウボゲリィをそこらの蜘蛛と一緒にすんじゃねえ!」

 

 一般的な蜘蛛の生態しか思い浮かべられない呑気なシャムとブチをコーラルは叱った。

 

「あの蜘蛛は他の生き物に幻覚を見せる霧を吐くんだよ! 吸った奴はロサミガレ・グラウボゲリィが一番会いたい存在に見えちまう! それで獲物が近寄ってきたとこを捕食する! あとついでに火も吐ける! でもって大きさはさっき転がってた恐竜くらいだ!」

 

「それもう怪獣じゃねえか!?」

 

「だからそうだって言ってんだよ! しかも蜘蛛らしく繁殖力もたけぇし、群れやがる! 今後ろから百匹くらい来てるんだからな!」

 

「うぎゃあああああ!」

 

 振り返らずともその気色が悪すぎる光景を鮮明に想像できてしまったシャムとブチが悲鳴をあげた

 能力的に戦えば勝てるはずのコーラルも、巨大な蜘蛛の群れを正面から直視するのが生理的に不可能だったため、こうして戦わずに逃げている。

 

「見えた! ラプラス号だ! おーい! マシロー!」

 

 しばらく走って海岸に到達したコーラルたちはこれで逃げられると思って満面の笑顔でラプラス号の甲板上からこちらを見ているマシロに手を振った。

 マシロは無言で親指を立てた。

 そしてラプラス号はコーラルたちが乗り込むよりも早く出航した。

 コーラルが乗っていなくて電気の供給がされなくてもラプラス号には非常時用に少量の蓄電がされているため短時間なら動かせるのだ。

 

「……はぇ?」

 

「コーラル! シャム! ブチ!」

 

 泳げないコーラルが飛び移れないほどに離れた場所でラプラス号が停止し、そこからマシロが大声で指示を飛ばしてきた。

 

「後ろの奴ら、ちゃんと全部倒してから戻って来い!」

 

「はあああああ!? ふざけっ……」

 

 口ではどんなに嫌だと言ってもマシロの命令には逆らえない。

 

「ちっ……くしょおおおおおおおおおお!」

 

「うわああああ!? あいつらもう来てますよコーラルさん!」

 

「こうなったらもうやるしか……」

 

「あああああ! 虫けらどもがあああああ! あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」

 

 見た目が気持ち悪いから正面から見たくないというだけで、覚悟さえ決まってしまえばロサミガレ・グラウボゲリィはコーラルの敵ではない。

 微力ながらシャムとブチも手助けして、蜘蛛の群れは五分とかけずに殲滅された。

 

          ◯

 

「マシロおおおおお! おまっ……よくもやりやがったな!」

 

 蜘蛛との激戦を終えたコーラルが海岸に戻ってきたラプラス号から姿を見せたマシロに食ってかかった。

 ちなみにシャムとブチは戦闘後に毒で瀕死になったのでボールに戻された。

 

「なんでコーラルを置き去りにしやがったぁ!」

 

「だって、コーラルを待って逃げ遅れたら俺死んじゃうよ。そしたらコーラルも死んでたよ?」

 

 あくまで合理的に判断しただけだとマシロが言ってもコーラルの怒りは収まらなかった。

 

「それにしたってもっとやりようあったろ! 例えばボールにコーラル戻すとかな!」

 

 ボールをぶつける必要がある初回の捕獲時と異なり、手持ち海賊をボールに戻すのは少し距離が離れていても可能だ。

 

「いつもボールの中は嫌だって言ってるくせに!」

 

「時と場合によるだろ!」

 

 マシロとコーラルの言い争いはしばらく続いたが、やがてどちらからともなく腹の虫を鳴らし、いったん休戦して食事の準備をすることにした。

 

「出てこいパール」

 

「てっ……ぺ……きぃ」

 

「この枝を燃やしてくれ」

 

 マシロは回復途中だったパールをボールから出して火打ち石代わりにした。

 パールはこの島に来てすぐにブラキオサウルスのしめつける攻撃で全員の骨を粉砕されており、今もまだ回復が完了していない状態だが、戦闘は無理でも雑用だけならどうにかこなせる程度にはなっていた。

 

「よし、戻れパール。コーラル、そっちはどう?」

 

「もうちょっとかかりそうだ。おい魚! さっさと解体しやがれ! あんまりもたもたすんならてめぇを刺身にしちまうからな!」

 

「……チュッ」

 

 コーラルの監視下で海岸までトリケラトプスの死体を運搬させられ、さらには解体までさせられているのは、マシロやコーラルよりも腕力がある魚人のチュウだ。

 溺れた時の救助要員であるチュウは恐竜との戦いに駆り出されなかったためパールのように瀕死ではないが、度重なる敗北で魚人が人間よりも優れているという信条を打ち砕かれたチュウは既にマシロたちに逆らう気力を失っていて、コーラルの電撃による罰を受けたくない一心で黙々とトリケラトプスの解体を進めている。

 やがてちょうどいい大きさになったトリケラトプスの骨付き肉を直火焼きにして、チュウをボールに戻したマシロとコーラルは食事を始めた。

 

「いただきます」

 

「いただきます……さすがにコーラルも恐竜の肉食うのは初めてだな」

 

「どんな味だと思う? 俺は豚肉の味が一番近いと思う」

 

「いや牛肉だろ。角あんだぞ」

 

 二人は引き締まった硬めの肉をよく噛んで飲み込んだ。

 

「……トリ肉だよこれ!?」

 

「確かに……何が近いかっつったらトリ肉だな。鳥の祖先が恐竜っつう説があっけど、マジなのか?」

 

 味の感想としては少なくとも不味くはなかったようだ。

 

「それで、この島に人はいた?」

 

 とにもかくにもお腹はいっぱいになったので、気を改めて真面目な話し合いの時間だ。

 

「いるわけねぇだろ。こんな場所で生活できてたまるか」

 

 上陸直後にブラキオサウルスに襲われてこの島の危険性を感じ取ったマシロは、自分はラプラス号で待機して、コーラルたちだけで島を探索させたのだ。

 

「それじゃ海賊は?」

 

「いたとしてもよっぽどの実力者じゃねえと生きてけねぇよ。そこらのロサミガレ・グラウボゲリィ一匹にも勝てねぇんじゃねぇか?」

 

「ロサ……何?」

 

「さっきの蜘蛛だ。そんくらい知っとけ」

 

 自分が無知なだけだと思ったマシロはコーラルの辛辣な言葉に言い返さなかった。

 世間的にはロサミガレ・グラウボゲリィを知っている人の方が少数派であることを二人は知らない。

 

「あんなのがうじゃうじゃいやがんだからわざわざ雑魚海賊なんて置いとく必要ねぇよ。ほっといても上陸した奴ら全員食われて終わりだ」

 

 現在のこの島は原生生物が爆発的に増殖して活性化するカンブリア季という特別な季節になっていて、実のところ普段のこの島はここまでの危険地帯ではないのだが、並の海賊では原生生物に捕食されてしまうという点に間違いはない。

 

「そっかぁ。でもログポースって海岸に停泊させた船の上で生活してても磁気が溜まるんだろ? 上陸しないでやり過ごされたら困るよ」

 

 ログポースが次の島を示すようになるまでには多少の時間がかかるため、海賊たちは島に到着してもすぐに出航することは不可能だ。

 そのため身動きが取れない期間中に島に上陸して略奪を行い物資を調達する海賊が一般的だが、ログポースの仕様上は必ずしも上陸が必須というわけでもなく、その島の軍が強い場合などは船に隠れて時間を潰す選択肢が存在する。

 

「そこも問題ねぇ。磁気は電気に近いもんがあるから、コーラルにはそれぞれの島でログを溜めんのにどれだけかかるか分かる。で、この島はだいたい一年ってとこだから、船の物資がもつはずがねぇよ」

 

 つまり真水などの生存に必須の物資が尽きた海賊たちは島に上陸して調達する他なくなるということだ。

 

「そうなんだ。コーラルの能力っていろいろできるんだね」

 

 マシロはコーラルが嘘をついたとは疑わなかった。

 命令すれば嘘なんて簡単に暴かれるとコーラルが理解しているだろうと思っているのも理由だが、何よりコーラルと一緒にいる期間が長くなってきたマシロは思っていることが素直に口に出てしまう彼女が嘘をつけない性格であると分かってきたのだ。

 

「そりゃなんたってピリピリの実はうちの先祖が昔の大会で勝ち取った景品だかんな! 数ある悪魔の実の中からの選りすぐりだ!」

 

 褒められて悪い気がしなかったコーラルがぽろりと悪魔の実の入手経路を漏らした。

 ちなみにその大会の名前は先住民一掃大会という。

 

「へぇ、悪魔の実が景品になるなんてすごいね」

 

 オーキッドに教わらなかったマシロは大会という単語の意味を理解できなかった。

 一方で手を出してはいけない危険な行為として賭け事に関する注意は受けていたため、それに関連して景品という単語については理解できた。

 

「まぁな。でも本当にすごいのは能力を使いこなしてるコーラルだけどな!」

 

 他者が企画している大会よりも自分を褒めてほしいタイプのコーラルは大会についての話題をあえて広げなかった。

 

「ああ! コーラルは本当にすごいよ!」

 

「だろ? だろ!?」

 

 事実コーラルの能力は強力だと認めているので、マシロは素直にコーラルを称賛した。

 

「じゃあ、そのすごい能力でこの島の森を焼き尽くしてくれ!」

 

 そして唐突に強烈な要求をした。

 

「おう! ……いや待て、どうした急に? 何しろって?」

 

 その言葉が善良なマシロの口から飛び出たとは思えなかったコーラルが聞き返した。

 

「この島の森を焼き尽くして、海賊が植物性栄養を摂取できないようにするんだ!」

 

 釣りの道具さえあれば海から魚を調達できてしまうので、島の動物を絶滅させたところで海賊の餓死を狙うのは難しい。

 しかし植物性栄養を欠乏させて壊血病のような病気にさせるだけならば十分に現実的だ。

 

「……そこまでやる必要あんのか?」

 

 海賊に対するマシロの異常な執着にコーラルは初めての感情を覚えた。

 

「だって、海賊ってこの世界にいちゃダメな奴らなんだぜ? やれるだけやらなきゃ!」

 

 笑顔でそう言ったマシロを見てコーラルの心臓は高鳴った。

 それは先住民一掃大会で活躍する男性天竜人に対して女性天竜人が見せるものと同じ反応だった。

 

「……マシロって男装してるだけだよな? マジで男だったりしない?」

 

 まだ存命だった頃の曾祖母が「結婚の決め手は大会でおじいさんが先住下々民どもを爆殺する時に見せた爽やかな笑顔だったアマス」と語っていた姿を思い浮かべたコーラルが身体をもじもじさせながら質問した。

 

「前も言ったけど、俺ちゃんと女の子だよ。ほら」

 

 帽子を取って長い髪を下ろしたマシロは女の子にしか見えなかった。

 

「そうだよなぁ……女なんだよなぁ……」

 

 マシロが男ではないと再確認してもコーラルの胸の鼓動は早いままだった。

 

「そんなことより、早く森を燃やそうぜ!」

 

「……! お、おう!」

 

 急かされたコーラルは身体の奥から湧き上がる不思議な気持ちをいったん棚上げしてマシロの指示を実行することにした。

 しかしコーラルのピリピリの実の能力は雷に遠く及ばない威力の電気を出すものであって、火を出すものでもなければ着火させるものでもない。

 

「……いやこれ無理だな。コーラルの電撃じゃ燃えずに炭化しちまう」

 

 とりあえず試しに近くの木に電撃を放ってみたが、水分の多い生木は燃えにくく、発火する前に炭になって砕けてしまった。

 

「じゃあまたパールを出して……」

 

「火打ち石じゃ効率悪いだろ。島ひとつ焼き尽くしてぇならバスターコールかけるか……赤犬でも呼ぶか」

 

「なんで森を燃やすのに犬?」

 

「そういう異名の海兵だ。マグマグの実の能力者で溶岩を出せるんだとよ。あぁでも電伝虫ねぇや」

 

 正義の海兵が自然破壊に協力してくれるだろうかという疑問がマシロにはあったが、とりあえず今は実行不可能ということなので深掘りせずに話を流した。

 

「じゃあやっぱりパールで……」

 

「ゲギャギャギャギャ!」

 

 マシロが着火したパールに不眠不休で島中を走り回らせようとしかけた瞬間、密林の奥から不気味で巨大な笑い声が聞こえてきた。

 

「……今のは」

 

「おい何か来るぞ!」

 

 声の正体は推測するまでもなく自ずと姿を見せた。

 

「邪な覇気を感じたぞぉ! チビ人間ども〜〜〜〜〜!」

 

 野生の巨人族が飛び出してきた!

 

「うわあああああ! 巨人族だあああああ!」

 

 およそ20メートルの巨体を有する巨人の出現にマシロは目が飛び出そうなほど驚いた。

 

「しかもこいつ……巨兵海賊団船長の青鬼ドリーか!?」

 

 海賊団の船長を奴隷にしてコレクションするのが趣味の知り合いから奴隷に欲しい船長について話を聞いたことがあるコーラルはその巨人の名前を知っていた。

 それは100年前に圧倒的な力で世界を荒らし回った巨兵海賊団の二大船長のひとり、懸賞金1億ベリーの大海賊、青鬼のドリーであった。

 

「ゲギャギャギャギャ! 今度は先制させねえぞ〜〜〜〜〜!」

 

 前に誰かに奇襲を受けた経験でもあるのかドリーは既に臨戦態勢で、子供が相手だからと戦わずに逃がしてくれそうにはなかった。

 

「海賊なのか……なら!」

 

「やんだなマシロ!」

 

「ああ!」

 

「っしゃあ! 巨人だろうが億超えだろうが、無敵のコーラルがぶっ倒してやらぁ!」

 

 怯えていたマシロが覚悟を決めたのを見てコーラルも戦意をたぎらせた。

 マシロの手持ち海賊は野生動物との戦いで壊滅状態だが、ゴムを使われない限り攻撃が当たらない無敵の身体を有する最高戦力、コーラルが健在だ。

 巨人が相手でも十分に勝ち目はあると見越してマシロはドリーと戦うことを選択し……すぐに目の前が真っ暗になった。

 

「…………………………え?」

 

「ゲギャギャギャギャ!」

 

 コーラルの電気ショックが直撃しても巨人からすれば冬場の静電気程度のダメージにしかならなかった。

 さらに信じられないことに反撃でドリーが放ったメガトン級のパンチはゴム手袋を装着しているわけでもないのに不思議とコーラルの身体をすり抜けず、一撃でコーラルを瀕死に追い込んだ。

 

「見たところ戦士ではないようだが……人に戦いを挑んできたからには覚悟はできてんだよなぁ!?」

 

 呆然として動けなくなったマシロにドリーのはたく攻撃が迫った。

 一秒後には人間が羽虫を叩き潰すようにドリーがマシロを潰すだろう。

 

「何ぼーっとしてやがんだ! 逃げんぞ!」

 

 そうなる前に本気になれば電気の速度で動けるコーラルがマシロを抱きかかえて救出した。

 マシロのボールに捕獲された人間は通常ならば死亡するダメージを受けた場合にのみ自動かつ強制でボールに回収される。

 今回のコーラルは瀕死であってもどうにか死ぬ寸前で踏みとどまっていて、ボールに戻ることなく行動を継続できたのだ。

 

「ゲギャギャギャギャ! 逃がさん!」

 

「うぁっ……」

 

「きゃっ!」

 

 ドリーの巨拳が地面を揺るがし、元々ふらついていたコーラルが転倒してマシロを投げ出した。

 女の子らしい悲鳴をあげながらマシロは地面を転がった。

 

「チビ人間にしてはすばしっこいな! だが捕まえたぞ!」

 

「あああああ!」

 

 追いついてきたドリーがコーラルを掴み上げ、しめつけた。

 

「コーラル!」

 

「バカ……逃げろよ……」

 

「ゲギャギャギャ! まだ戦意を喪失していないとはな! 大したチビ人間だ!」

 

 コーラルはドリーの手の中で放電して注意を引きつけた。

 ダメージとしては大したことがなくても、瀕死の状態でなおも戦闘継続の意思を見せたコーラルにドリーは戦士として真剣に向き合うことを決め、マシロを意識から外した。

 今ならばマシロは逃げられるかもしれなかった。

 しかしマシロは逃げず、転んだ拍子に落としてしまった帽子をかぶり直し、チュウのボールを手に取ってドリーを見た。

 

「ありがとうコーラル。君の覚悟に……俺も応えるよ!」

 

 これまでずっと安全圏から指示を出すだけだったマシロは今回初めて命の危機に晒され、その恐怖を乗り越えた。

 それがきっかけとなって、今、この瞬間にマシロの能力は進化した。

 

「いくぞチュウ! ダイマックス!」

 

 マシロが力を送り込んだチュウのボールが巨大化した。

 それをマシロが両手で放り投げ、中からドリーと同じ大きさにまで巨大化したチュウが出てきた。

 

「なんだぁ!? 巨人……いやウォータンか!?」

 

「……え……何だよそれ……」

 

 巨大な魚人が突然出てきたことにドリーが驚き、初めて見るマシロの能力にコーラルも同じくらい驚いた。

 

「チュッ♡ 力が溢れてきやがる……」

 

 キス音に力が戻ったチュウが自信に満ちた顔でドリーを見据えた。

 

「敵は巨人って話だったが……なんだ! 単なる下等な人間じゃねえか!」

 

「チュウ! みずでっぽうだ!」

 

 海から水を吸い上げたチュウがドリーにみずでっぽうを放った。

 巨大化した状態で放たれたそれは、もはや鉄砲でもなければ大砲すらも超越し、氾濫した川のようになってドリーを押し流した。

 

「うおおおおお!」

 

「がぼぼぼぼぼ!」

 

 十字に交差させた腕を正面で構えて盾としながら足に力を入れたドリーは少し後退させられはしたものの転ぶことすらなく耐えきった。

 むしろ弱点の海水をかけられて一瞬溺れたコーラルの方が被害は大きかった。

 

「ゲギャギャギャギャ……驚かされはしたが、その程度でエルバフの戦士が倒れるものかぁ!」

 

「だと思ったよ! でも水浸しにはなっただろ!?」

 

 チュウが吐き出した水量は尋常ではなく、飛び散った水が雨のようになって降り注いですらいる。

 そんな環境下に立っているドリーは全身がみずびたし状態で、非常に電気が通りやすくなっていた。

 

「コーラル! 電気ショックだ!」

 

「死ねやこのデカブツがあああああ!」

 

「ぐわああああああああああ!」

 

 威力が増幅した電撃を受けたドリーは確かなダメージを受けて膝をついた。

 ドリーの手の力も弱まり、電気に変化したコーラルはしめつける攻撃から脱出してマシロの隣に戻った。

 

「やったなマシロ!」

 

「ああ! やっぱコーラルはすごいぜ!」

 

 マシロとコーラルがハイタッチをした。

 

「あいつも捕まえんだろ?」

 

「もちろん! チュウ、そいつを死ぬ寸前まで痛めつけろ!」

 

「あははは! ロズロズのおっちゃんに自慢できちまうな!」

 

 勝利を確信したマシロとコーラルはドリーを捕獲可能な瀕死状態に追い込むべく追撃中のチュウを悠然と眺めていた。

 そして次の瞬間、何者かの拳がチュウの顔面に突き刺さった。

 

「ガババババババ! 邪な覇気の源は貴様か〜〜〜〜〜!」

 

「……え?」

 

「……は?」

 

 それは二体目の巨人であった。

 

「ぬおっ!? どうしたドリー!? 何があった!?」

 

 どうやらその巨人はドリーの仲間らしく、動けなくなったドリーを心配する素振りを見せた。

 

「コーラル!」

 

「おう!」

 

「逃げるぞ!」

 

「おう!」

 

 マシロとコーラルは即座に逃げ出した。

 チュウが倒された今となってはドリーに有効だったみずびたし作戦は使えない。

 もはや二体目の巨人と戦っても勝ち目は皆無だった。

 

「あの巨人海賊は惜しいけど!」

 

「命あっての物種だかんな!」

 

 ラプラス号に乗り込み、二人は後ろを気にせず全速力で島から離れた。

 遠距離攻撃の手段がなかったのか、それともドリーの治療を優先したのか、幸いにも新手の巨人が追撃してくることはなかった。

 こうしてマッサラ島を旅立ってから初めての敗走を経験することになったマシロは、いつか小細工無しで巨人を倒せるだけの戦力を揃えて戻ってくることを心に決めて、今はとにかくラプラス号を前進させた。

 この海で稀によくある圧倒的にレベルが上の敵との遭遇戦を命からがら切り抜けたマシロとコーラル、二人の旅はまだまだ続く!




懸賞金1億(18億)ベリー。
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