ドバンにいつものように無茶振りをされてアウターリムへとやってきたシエンは、今回の無茶振りの内容にため息を吐いてしまう。
内容はアウターリムに潜伏しているハッカー集団を捕まえること。
別段それ自体は何も不思議でも無茶振りでもないのだが、エニックに相談しにいったら、そもそもハッカー集団はアーク側の通信網からハッキングしておりハッキング後に捕まらない為にアウターリムに逃げた可能性はあるが、現時点だとアークに潜伏している可能性の方が高いそうだ。
つまりは居ないとわかってるもの探せと言われているのだ、別段アウターリムは嫌いじゃないが態々来るほどの所でもない、汚い公衆便所と綺麗な公衆便所、気にはしないが両方あるなら態々汚いのを使わないと言った感覚だ。
「あぁ!?シエンだ!ねぇねぇ食べ物持ってない!?シエンに言われてからちゃんと殺人しないようにしてるんだよ!」
お、偉いなぁ殺人以外もしなくなってほしいけど、てか本当によく捕まらないね君。
シエンは早くアウターリムの警備体制整えないとと思いながらこの可愛い何でも食う女の子の為に用意していた大型犬様の味付き骨型ガムをしっかり人間用の味付けにした特別製を取り出して咥えさせてあげる。
「すごぉい!ちゃんとお肉だ!!しかも硬いからいっぱい噛める!!!ありがとう!!!!」
よしよしお礼を言えるのはいいことだぞ。
しばらく少女の頭を犬の様にガシガシと力強く撫でていると、2方向から長身のモデル体型の子とグラマラスな子が出てきてシエンにちょっかいをかけてくる。
「そいつにばっかいい物やらないでわたしにもタバコでも分けてくれ」
まだ若いからダメに決まってんだろ?………と、言っても今みたいにどっから仕入れてくるのかそんなニコチン大量発生なタバコ吸うもんな。
本当はやめてほしいのに、そう呟きながら、モデル体型の子にシエンはニコチンがかなり少ないタイプの少女好みの味がするタバコをこれもまた特別に用意し、少女の口からタバコを奪って、代わりに用意したタバコを口に挟んで火をつけてあげる。
「スゥー………フゥー………やっぱあんたにねだるとタダで良いもんが手に入っていいな」
言っとくが手伝ってもらうからな?まぁ仕事と呼べないほどにこの子達には簡単ってことかもしれないが。
「ねぇ〜わたしの分は〜?」
はいはい、あげるから自慢のボディで誘惑するのはやめようねぇ君も若いでしょうに、ハァ………早くアウターリムの有用性を証明しないとな、こんな若い子がこんな格好で………いや別にアークでもこういう格好いるなシンプルファッションか。
グラマラスな少女の露出多めなファッションにアーク全体の流行を危惧しながらも、シエンはファッション雑誌の人に無理を言って仕入れた発売前の最新ファッション雑誌、各社分を露出が気になる所を塞ぐ様に渡す。
「やった〜、これでアークの流行に乗れる〜」
3人が自分にたかりにきたのはタダで物が貰えるから、と言うのもあるがいちいち呼ばれたり探し回られたりする手間を省いてくれてるのだろう………1人は完全に物だけど。
うんじゃ、前払いも済んだし情報を貰おうか、アウターリムに潜伏してるハッカー集団について知ってることはないか?
シエンがハッカーについて尋ねると3人がそれぞれが異なるポカんとした顔でこちらを見てくる。
「あんたなら知ってんだろう?今流行ってるハッキング事件はアークの連中が中央政府に面白半分で仕掛けている愉快犯だ、アウターリムで態々そんなことしない」
「そうだよ〜、わたしでも知ってるんだからシエンなら知ってて当然だよね〜?もしかしてまた上司に無茶振りされちゃったの〜」
「アハハ!よくわかんないけどシエンも大変だね!この骨一緒に食べる?」
さっきご飯食べたからいらないかな、そして御名答〜絶賛無茶振りされてアークにいる犯人達をアウターリムで見つけろと言われてる最中なんだ。
「可哀想〜、慰めてあげよっか?」
やめてくれ、少女だが魅力的すぎるんだよ君は目の毒で耳の毒でもあるのでさっさとネットワーク関連の犯罪者を教えてくれないか?
「そいつをハッカーに仕立てあげるのか?」
いや、上司はその犯罪者をハッカーだと勘違いしたけどその犯罪者の繋がりでアークに潜伏してるハッカーを捕まえたってことにする。
「………無能な上司の為にそこまでする意味はあるのか?」
モデル体型な少女が無意味だろと軽くイラついた様子すら見せながらシエンに意味があるか尋ねる。
あるさ、波風たてずに上司をたてる、あの上司に嫌われたたら自分がアウターリム担当じゃなくなるしもっと厄介な無茶振りされてしまうだろうしな、用が無ければこないけど嫌いではないからねアウターリム。
「シエンが上司になっちゃえば良いのに〜」
案外そうでもないさ、上司には上司にしか出来ないことがあるさ、自分は武力制圧とかしたくないからどうしても対応が遅れるからね。
「まぁ、あんたがアウターリムの担当である限り問題も起きないだろうがな、とりあえず知ってる奴らを連れてくる3人でいいだろう?」
あぁピッタリだ、報酬は何が良い?
「いらない、この程度で貰ってたら他の奴らがあんたにたかる」
「そうだね〜、こんな良い物件に行列待ちなんて嫌だもんね」
「焼肉!前アークで食べさせて貰ったやつもう一回食べたい!!」
長身の少女とグラマラスな少女がさっき貰わないって話しになっただろうがという目つきで未だに骨状ガムをガチガチと噛んでいる少女を睨むが、シエンは気にせず笑いながら3人の少女全員の頭を力強く撫でる。
焼肉ぐらいなら報酬にもならんだろ、せっかく3人揃ってるなら焼肉も前払いにするか!今から行こう。
3人の少女とシエンはとても楽しそうに喋りながら焼肉屋へと向かった。
これはクロウとバイパーとジャッカルがニケになる前の話しで上手くいっていた頃の話し。
シエンが死なずにずっとアークに居れば、きっと変わらなかった景色。
―――
長身の少女から3人のネットワーク犯罪者を提供してもらってから、その3人の拠点にアークのハッカー集団の手掛かりがあったという仕込みをするためシエンはやって来たのだが拠点を見て軽く笑ってしまった。
使われていない廃棄されたトンネルその一部に白線が引いてあり、それぞれがそこが持ち場だと言わんばかりに綺麗に線を越えないように物が置いてあった。
線で区切っての居住区、かなり昔のアウターリムではそれが当たり前だったと言うのが恐ろしい、ここを拠点にしたのは偶々だろうけど、せっかく線が残っているんだから使おうとなったのがうかがえる、線だけ掠れてたり最近書いた感じがしないしな。
だがここはワイヤレスだとしてもネットワークに繋げられるとは思えないな、繋がってもそれこそガッツリ犯罪をするには少々心許ない。
一応確認するかとシエンはネットに繋いでみると、異様なまでに通信が快適なことがわかった。
不思議に思い、それぞれの犯罪者の作業スペースを確認するがとても通信を改善出来る装置の類は無かった。
構造的に奇跡のような通信環境が生まれた?それにしてはただのパイプ状の空間なのだから奇跡が起きそうには無い。
シエンは念の為調査すると、一定の範囲だけ異様に通信が良いことがわかりそこから中心地点に何かあると踏んでそこに行くと。
子供の白骨死体があった。
かなりの年月が経っているのか腐敗臭は完全に消え去っていて、いつからここに遺棄してあるか想像もつかない、僅かに残っている衣服の断片で女の子であることはわかるがそれ以外は何もわからず、この少女がどんな人物だったか表す物はなかった。
変に動かすのも可哀想だと感じながらも、中心点は確実にこの子を示しているので骨だけとなった少女を調べる。
すると頭蓋骨の後頭部内側に埋め込むように、つまり生きていれば脳と骨の間の箇所に何か装置があることがわかる。
シエンはそれを取り外しながら恐怖する、脳にダメージが行かないように丁寧に埋め込まれているがそうだとしてもこの年齢でやるのはかなりリスクのある行為のはずだ無理矢理でも自らの意思だとしても正気を持つ側ではないことは確かだ。
シエンは装置を丁寧に頭蓋骨から取り外し、よく観察してみると携帯などにある充電機差し込み口に差し込めるようになっているのがわかった。
―――
新品の携帯を購入し、少女の装置を差し込む、これで壊れてましたとかだったらこの携帯は無駄になるなとシエンは無意味にはならないことを願いながら携帯を見つめる。
しばらく放置して見守っていると新品の携帯は何も操作していないにも関わらず勝手に起動して勝手に喋り始めた。
『どうやら完全な死は免れた見たいね、礼は言うわ、褒美は無いけど』
その声と喋りは本来この携帯が起動した時の音声案内とは別の。
何処か高圧的な態度を感じる少女の声と喋りだった。
―――
自らをプリンセスと呼ぶように言ってくるこのデータはあの白骨化した少女だと言う。
もちろん本物ではなく死ぬ直前までのデータを保存して人格化したAIみたいなものだと説明してくれた。
自分をプリンセスと言うぐらいだし、もしかして凄い立場の子なのだろうか?だけど死体もデータもあったということは助けが来る予定があったかはわからないが来なかったのは確かだ。
携帯に表示された銀髪ツインテールのメガネの少女は携帯の中が狭苦しいのかデータの存在でする意味があるかわからないが携帯の画面端を軽くゲシゲシと蹴って広げようとして何も起きないことに憤りながら、軽くため息を吐く。
『せっかくのバックアップだったけど、まさか携帯にインストールされるなんて………一応聞くけどV.T.C.は知ってる?その格好、指揮官でしょ?』
V.T.C.?だいぶ昔に無くなったって聞いたな、今じゃ影も形もないよ、まさかV.T.C.のお偉いさんの娘さんとかだったの?
『娘では無いけど………そんなもんだったかもね、世間知らずで頭だけ良かったお嬢様………これからどうしようかしら、帰る所が完全になくなっちゃったわ』
寂しそうに携帯の中で体育座りで縮こまるプリンセスを見ながら、シエンは机に置いていたプリンセスの携帯を拾い上げて、プリンセスと正面から向き合えるように携帯を自分に向ける。
ならしばらく自分の手伝いでもしないか?携帯に備え付けのAIは自分の仕事の役に立たないからさ、秘書みたいなのが欲しかったんだ。
シエンがそう言うとウゲェと分かりやすいほど嫌な顔をしながらわかりやすく嫌がってきた。
『嫌よ、やっと労働から解放されたって言うのにまた労働なんて3世だって………そうよ、3世はどうしてるのかしら』
嫌がっている最中に大事な事を思い出したのか少し真面目な表情を浮かべて先程とは違い、嫌がりながらも仕事を手伝うとプリンセスは手の平を返してきた。
『仕事を手伝う代わりに報酬として必要な物を揃えて頂戴』
良いのかい?3世って言ってる子は探さなくて。
『V.T.C.が無い今3世のボディを完成させれる所なんて限られているから急ぐ必要はないわ、探すぐらいなら3世への追加の贈り物を用意してあげたいし』
よし、ならこれからよろしくプリンセス。
『嫌だけど動けない以上仕方ないわね』
ツンとした態度をとりながらもプリンセスは指先を前にグイッと出す動作をして、握手代わりの指合わせを要求してくる。
その態度にシエンは微笑ましく思いながら、指摘したらプンスカ怒りそうだから言わないようにしてシエンも指先を携帯のプリンセスの指先に合わせる。
偶然な奇妙な関係の始まりだった。
―――
シエンのアウターリムでの活動はプリンセスがいるお陰で約倍の成果へと跳ね上がった、これは前まで自分でしていた書類作業や電子関係の問題をプリンセスに任せているというのもあるが単純に2人の相性がすこぶる良かったのが強いだろう。
『これ』
「あぁ………それなんだが」
『そこ』
「ありがとう、これも頼む」
『わかったわ』
見る人が見れば嫉妬してしまいそうな熟年夫婦のやりとりをしながら1日、1日の仕事を順調にこなしていく、つまりそれはプリンセスの望む物がどんどん手に入っている証拠でもあった。
最初は携帯だけだったプリンセスの環境は、進化を続け、高性能なパソコンや3Dプリンター、弾丸の構造を事細かに書かれた資料などプリンセスの為に用意したスペースには物が溢れかえっていた。
しかしどんなに高性能なパソコンやロボットを用意しても不思議とそちらにデータを移すことはしなかった、あくまで作業をする時だけ一時的に操作するだけで基本は何故か携帯に居続けた。
ま、携帯に居てくれる方が常にサポートしてもらえるから嬉しいけどね。
『ふん、別段携帯が一番過ごしやすいだけよ、それ以上でも以下でも無いわ、むしろアンタのサポートもするからマイナスね』
そうなのか、なら最新の携帯を用意しようか?
『………この携帯が一番過ごしやすいのよ、アンタのサポートをするというマイナスを覆すほどにね』
アハハ、素直じゃないねぇ。
『アンタわかってッ!………まぁいいわ、そろそろプレゼントの本格的なテストをしたいの何処か試せる場所はない?』
試せる場所か、流石にプリンセスのプレゼントは警備が行き届かないような場所で撃っても問題になるだろうし、地上は?自分の部隊に運んでもらえば行けると思うが。
『出来ればちゃんと細かく性能チェック出来る所が良いのだけど、まぁ難しければ最悪それでいいわ』
最初の頃は絶対にそうじゃなきゃダメと言っていたプリンセスだが、今は妥協というか無理なら別にアプローチを考えてくれるようになった。
まぁその妥協案になったことは今まで無いけど。
ならインクの所へ行こうか、あそこなら最新の性能テストが可能なはずだ。
『インク、確かエニックの姉妹だったわね、そんな所へ行けるの?』
中央政府所属だと案外誰でもいけるぞ?流石に部外者はダメだけど。
『わたし部外者なんだけど、それに外部の兵器を持ち込めるもんなの?』
携帯を一々部外者扱いなんてしないさ、それに上司はこういう小狡いことが得意でねちょいちょい勉強させてもらったよ。
翌日さっそくインクのシュミレーションルームで試し撃ちさせてもらったがインクに本当にプレゼントがそれなの?とドン引きされた。
―――
M.M.R.所属のエーテルは珍しく地上に出て人と待ち合わせをしていた、そんじゃそこらの凡人では自分を地下から引っ張り出せないが、呼び出したのはそんじゃそこらじゃ無いので問題ない。
「すまない、待たせたか?」
「いえ〜、わたしも今来たところです」
エーテルの対面に座るのはミシリスの次期社長と噂されているシエンであった、もしくは次期副司令官の噂もある。
本人はどちらも考えていない事は表立って言ってはいるが本人がどう言おうが世間の評価は彼以外は考えられないとなっているのは確かだ。
特にアウターリムからの評価が異常に高いこともあって、何も無ければアウターリム担当のドバンの代わりに彼が上に行くのは時間の問題だろう。
だからこそエーテルは不思議に思う、本人は気にしないとはいえ、態々波風たてるタイプでもない彼が何故わたしに会いに来たのか。
「早速要件を聞こうか、長話は好きじゃないの」
「これを預かってほしい」
シエンがスッと差し出してきたのは最新の携帯だった。
「………まさかプレゼントなんて言わないわよね?」
「それでも良いけど違うよ」
一応断りを入れてから中身を確認させてもらうと、これといって何も変わったところがないただの携帯だ、データもアプリも変わった所はなく外カバーを外して盗聴器の類いも無いのを確認した。
「………これは?」
「ただの入れ物だから気にしないで帰るのはそこが良いと言われてね、本命はこっち」
そう言って新しく出してきたのは独特な形状の弾丸が埋め込まれた腕輪だった。
明らかに普通のアクセサリーではなさそうだけど触っただけではどういった効力があるかはわからなかった、わかるのはかなり高度な技術が使われていることと弾丸に刻まれた3の数字だけだった。
「これを『鍵』を持ってきたニケに渡してあげてほしいんだ」
「『鍵』?まさかッ!生きてるV.T.C.がいるの貴方の知り合いに!」
「やっぱりM.M.R.の深層にいるだけあって『鍵』が何か知っているんだね、自分はさっぱりだったよ」
なんなら今もよくわからない、とふざけた様子でシエンは答えるがはぐらかしているという訳でもなく本当に『鍵』がどういう物かは知らないようだ。
「………なんでわたしなの?」
「まともに渡してくれそうなのが君ぐらいしか思いつかなくてね、ジエンはまだ行くかどうかわからないし、他の人は表と変わらず自分に嫉妬する人達ばかりでね」
「マナがいるじゃない?あの子は真面目だし情もあるわよ?」
「情がありすぎるだろ、深層が合わないことわかってるだろエーテルだって」
「まぁね、でもわたしが勝手に分解しちゃうかもよ?」
「それは無理だ」
シエンが即答してきたことにエーテルは少しムッとしてしまう、確かにV.T.C.の技術はわたし達M.M.R.より遥かに上だったみたいだけど、解析不可能かどうかはやってみなければわからないはずだ。
「随分と信頼してるのね」
わたしはムカついたので皮肉気味にシエンにそう言い返すと。
シエンはニチャァと三日月な笑みを浮かべて嬉しそうに答える。
「あぁV.T.C.のトップ、聖下だからな」
シエンの一言で空気が無くなったかのような感覚にエーテルは襲われて、それでもなんとか息を吸い、そしてゆっくり吐いて、次にしてやられたことにむしゃくしゃして軽く頭を掻きながら空を見上げる。
「………余計なこと聞いたぁ………もうここからは共犯扱いってことね………知らずに受け取ればよかった!」
エーテルの落ち込み具合にシエンは笑いながら謝って、フォローに見せかけた追加爆弾を投下してくる。
「アハハごめん、だけど『鍵』の子との接触が終われば聖下から直々にV.T.C.の技術を教えてもらえるから安心してくれ」
………なんでそんな自信たっぷりにそうだと言えるよの、V.T.C.のトップが生きていることすらとんでもないことなのに、さらにV.T.C.の技術を直接教えるなんてシエンのコネがいくらあろうとも難しいはず………まって。
「まってまってまって!!あぁもう!!余計なこと気づいたぁ!絶対この腕輪にいるんでしょ!?」
「大正解、報酬はここのカフェを奢ってあげるよ」
エーテルの目の前でシエン伝票をさっと手に取って席を離れて会計を済ませて、さっさと店を出て行った。
長く接触することすらアウトってことね………の割に堂々とお茶してたけどね、その辺の嗅覚は流石としか言えないわね。
シエンが居なくなったのを見計らったかのように目の前にデザートが運ばれてくる、エーテルはフォークを手に取り思いっきりデザートであるケーキの中心にフォークを突き立てて大きく口を開けてケーキを一口で全て食べてしまう。
エーテルは大きく口をモグモグさせながら、腕輪をプレゼントする男とは絶対付き合わないと決めた。
―――
火力。
プリンセスが未来のストール3世、つまりネオンに送ろうとしたのはニケとなって火力が口癖になったのを知らないはずなのに火力に特化した武器だった。
どうして火力を求めたか、それはストール3世の時から銃弾が炸裂した際に発する光が好きだったことに起因する。
そこでプリンセスは最大の銃弾を撃てる武器を用意しようと考えた。
単純に人間が撃てる限界はレッドフードの所持するスナイパーライフルや、ベスティーが所持しているような携行型ロケットランチャーが当てはまるだろう、しかしそれは言わば人間時代から地続きでそうなっているだけで実際はもっと大型の武器を携行できるはずだ。
だがそれをしないのは?一番は専用の銃弾を用意する手間がかかりすぎるからだ、アークに人々が避難した段階で既に戦車で使われるような徹甲弾などの弾薬の製造は終わりを迎えていた。
しかもアークに撤退以降は完全にニケも量産型へと振り切り、それに合わせて態々尖った武器ではなく安価で量産可能な物へとニケ同様シフトしていった。
それでもプロジェクトメティスなどでラプラスなどの強力なニケが生まれそれに合わせた強力な武器は生まれたがどれもエネルギー兵器で実弾を利用したものではない、あったとしても既存の弾丸をレールガンで弾速に補正をかけるなどだろう。
ならどうする?
プリンセスは簡単と鼻で笑った。
武器自体が銃弾をその場で作り出せば良い。
生み出す銃弾のサイズは口径800mm、全長3.24mの徹甲弾、榴弾を基本とし、必要に応じて別種の弾丸も生産可能なポケット製弾工を内包させる。
だがそんな大きい武器、普段から持ち運べないだろう。
プリンセスはこれも鼻で笑った。
なら小さく出来るようにすれば良い。
それが可能なのがV.T.C.なのだ、人を消せるネックレスが生み出せるのだから、武器を自在に縮小などお茶の子さいさいだった。
こうして全長約32.48メートルを越えるまるで巨大砲列車を小型化したような化け物サイズすぎる武器は腕輪へと小さくなり。
今、過去の記憶と『健康』な体と共にネオンはエーテルからその腕輪を受け取り身につけた。
『どうやら、元気に過ごしていたようね3世………いやもうネオンっていう愛らしい名前があるのだったわね』
「この声、まさかプリンセス!?」
『そうよ腕輪の中に居るの、ネオンがボディや武器に適応出来なかった時の調整をするためにね』
「生きてたんだ!」
『データだけの存在を生きていると言うならね』
記憶を取り戻したことで再度失った悲しみを感じていたネオンにはたとえデータだけになってしまったとはいえ口調が3世時代に戻るほどには嬉しすぎるサプライズであった。
『この腕輪、記憶を読み取る機能もついてるのだけど、ネオン、こっちが貴方の本来の性格かわからないけど随分とはっちゃけているようね………』
「そ、そう言われると、な、なんか恥ずかしい」
ネオンはプリンセスにはっきりとそう言われると恥ずかしさで体をモジモジさせながらもこれからはずっと一緒なのか尋ねる。
『いえ、わたしは表舞台に立てる存在じゃないの、今は腕輪に居るけど状態のチェックが完了したら携帯に戻ってこのM.M.R.の深層で暮らすことになるわ』
それを聞いてネオンは分かりやすく落ち込む、プリンセスはそんなネオンを見てため息を吐きながらフォローする。
『別段会いたければここに来たら良いじゃない逃げやしないんだから』
「本当?」
『本当よ』
ならいっかと元気になったネオンは、せっかくだからとプリンセスと話し込んでいく。
プリンセスも満更ではないのか、呆れた声音をしながらもどこか嬉しそうに話しに付き合う。
あの時とは2人とも何もかもが違うけれど、顔を合わせて話すことはあの時からあまり変わってはいなかった。
少し違うのはもうお互い体の心配をしなくて良いぐらいだろう。
ネオン:トゥルーパワー
過去が良い方向へ巡ったことにより、真実とも呼べる火力へと辿り着いた。
超健康体になったネオンが超弩級武器トゥルーパワーを扱う姿、自身のコアエネルギーで稼働させ銃弾をその場で作成し放つ、本来ならグラトニーに吸収されてしまうほどの威力だが実弾であるため、コアの存在を無視して貫通し一撃で葬ることが可能。
どんな強大な敵も一撃で葬り去る、その力はまさに『火力』の象徴として後に語られる。