部隊を指揮する指揮官が1番頭を悩ませるのは何だろう、きっと各々答えは違うだろうヨハンなら自分の指揮に従わないことだったり、カウンターズの指揮官なら逆に指揮通りにしか動かないなんてのが困りごとになるだろう、より多くの指揮官に聞けばそれだけ多くの悩みがあるのは確かだ。
シエンは士官学校時代から情報伝達のタイムラグを酷く嫌っていた、だからこそ遠くから指示することは基本せず、部隊と共に行動することが常だった。
しかしそれでも遅延は発生する、自分が危ないと認識したタイミングで全員にハイドを指示してもニケの運動性能で誤魔化しているだけで人間なら手遅れだったなどがざらにあり、そのたびに肝を冷やしていた。
だがその悩みはシエンの体を流れるダークマターが解決した。
あの子を前にレヴィは指揮官の背中に手を置いて、指揮官の内部のダークマターを操作する。
操作されたダークマターは指揮官のそれぞれの指先の皮膚を突き破り、細い糸状になって、ベヒモス、ジズ、バハムート、レヴィにそれぞれ繋がり、繋がった瞬間指揮官の視界は画面を分割したように分断され皆んなの視界が映し出された。
意識が繋がったことを確認してレヴィはそっと指揮官の背中から手を離して、心配そうに指揮官の手を触ってからベヒモス達同様に自分もあの子の前へと向かう、ダークマターによる意識の共有、問題無いとわかってはいるがレヴィは指揮官の負担になるこれがあまり好きではない、だからこそ手早く片付けようと本気であの子を止めに行く。
戦いの始まりを告げる何かはなかった、あの子とフォービーストはお互いに近づいていき、それぞれが有効射程に入ったとわかった瞬間に動きだす。
最初に動いたのは、バハムートだった、細かい針状のダークマターを飛ばしてあの子を攻撃する、その威力は過去にネオンに見せた貫通する雨と同威力、銃弾のように放つ分には溜めるというタイムラグは存在しない。
しかしあの子を構成する巨大な物質は同じダークマターでありそれを操っているのもあの子だ、攻撃はダークマターに触れた瞬間無効化され元のダークマターになって吸収された。
仕返しと言わんばかりに今度はあの子が巨大な腕を生み出してフォービースト全員をまとめて叩き潰そうとしてくる。
だけど先ほどの理屈はフォービースト側にも適応される、レヴィがダークマターの壁を生み出して巨大な腕の攻撃を受け止めると、そのまま巨大な腕は勢いを完全に無くして壁と一体化して泥状になって無力化した。
「ダークマターが効かねぇならこれはどうだ」
ベヒモスが背中のアームで地面を弾くようにして一気に加速してあの子のダークマターに触れる。
触れた箇所からクリスタルが広がっていき、どんどんあの子のダークマターを包み込むようにして無力化していくが負けじとあの子は無力化された部分を切り離し、接近してきたベヒモスを取り込もうとダークマターを扇状に広げ襲いかかる。
(マズッ!?)
ベヒモスが取り込まれる寸前に指揮官が指先のダークマターの糸を引っ張る、すると連動するように本来人間では持ち上げるのも一苦労なニケのボディであるベヒモスを軽々と後方へと勢いよく引っ張り、あの子の攻撃範囲外へと放り出す。
「あっぶねぇ!あんがとよ指揮官!」
指揮官のダークマターの糸は意識の共有だけでなく、行動を制御することも可能であり、これによりフォービーストに対する不意打ちは後方に位置する指揮官のお陰でほぼ無意味になる。
ガオォンッ!
空間を削り取る独特な音を鳴らしながら、ジズがあの子の一部を羽のダークマターで消しゴムで消したように綺麗に抉りとってレヴィの横に降り立つ。
「わ、わたしの攻撃も効くみたいだね」
ジズの持つダークマターの羽は青い猫型ロボットが持つポケット同様の収納機能しか本来は存在しない、しかし機能のオンオフを切り替えることで羽に入り込んだ箇所からガオンと切り取ることが可能になり唯一無二の攻撃性を手に入れていた。
グシャァ!
今度は巨大な鉄球に形成されたダークマターがあの子にぶつかりあの子の纏うダークマターを一部吹っ飛ばす、それを上出来と眺めながらレヴィの横にスタスタとバハムートが歩いてやってくる。
「賢いわたしは、既に攻略法を見つけたようだ、さすが賢いわたしだ」
針のように鋭い攻撃が無効化されたのならどうする?硬く巨大にすれば良いとなったであろうバハムートの攻撃はあの子がダークマターで吸収出来ない所を見ると確かに有効なようだ。
『どうやら、一切攻撃が効かないなんてことは無さそうでよかった』
指揮官の声が直接頭に響く。
指揮官のダークマターに繋がっている間はタイムラグ無しで指揮官の意思が伝わってくる、もちろんレヴィ達から指揮官へも同様だ。
「攻撃効くならこっからは一方的になっちまうな」
「う、うん、可哀想だし早く終わらせてあげよう」
「賢いわたしも賛同しよう、ここからは全力で素早くといこうじゃないか」
レヴィはあの子から溢れ出すダークマターに触れて、発生源、つまりあの子の位置を特定した、これで万が一攻撃を当ててしまうなんてこともなくなっただろう。
「………一方的に倒して嫌われないかな?」
『ハハハその時はその時だろう、手抜きの方が嫌だって言う子もいるし、あの子はどっちだろうな』
少し落ち込みながらレヴィは地面に手をついて、ダークマターを広げていく、先ほどまでのが個人個人のこて調べ、ここからは見せるのは。
フォービーストが最強たる理由の一つだ。
―――
マリアンは遠く離れた場所から戦闘を眺めながら心配な表情を浮かべる。
それは他の皆んなも一緒で大丈夫だと信頼しているが、それはそれとして心配なのも事実で何処か皆んな落ち着かない様子でフォービーストの戦闘を眺めていた。
インディビリアを除いて。
「インディビリアは心配じゃないのだ?」
そう尋ねるチャイムにインディビリアは凄く苦々しい顔を浮かべながら答える。
「指揮官達に勝った試しが無いのだから心配する要素がないわよ」
チャイム、というかこの場にいる皆んなが疑問符を浮かべる、インディビリアが負け続けていた、という話しはちょくちょく耳にしていたが、それとあの子に勝てるかどうかは別ではないかと。
その様子を見て、軽くため息を吐きながら喋りたくなさそうに話しだす、自分が勝てない理由を話すのだから当たり前だ。
「貴方達そう言えば誰も本気のフォービーストを見たことないのね………まず今の戦い方を見てどう思う?」
そう言われて皆んなよーく観察するといつも訓練という名の遊びの時に仲間との連携を大事にと口が酸っぱくなるほどに言っている割に個人個人で好きに戦っているように見える。
「………全然一緒に戦っていませんね?普段あんなに連携をと仰ってますのに」
「正解、だけどもう一つ、おサボりさんがいるでしょ?」
おサボりさん?指揮官を除外するとあの中で1番動いて居ないのはレヴィであることがわかる、そして言われて皆んな気付いたが1番ダークマターの技術に秀でてるレヴィが後方で支援に徹している。
「レヴィであることは分かりましたが何故後方に?」
「後方なのは指揮官を守れるようにと、後方が1番適しているからよ、遠隔でダークマターを操れるのはレヴィとバハムートだけでしょ?」
そう言えばそうだなと揃って思う、ダークマターをベヒモスは自身に筋肉のように纏って身体強化として使うし、ジズは収納と飛行を兼ねた特殊な羽に使っている、バハムートは多少射程があるが硬度を変化させれるせいかレヴィほど遠隔に正確には操れない。
「で、でも結局なんでぇ個人で戦っているんですかぁ?」
フラジャイルに聞かれて、インディビリアは言いたくないと顔にありありと表しながら答える。
「こて調べ………ようは手抜きね」
手抜き段階でやられたことあるからこんな言うの嫌そうなんだと口にはしないが皆んな思った。
そんな皆んなの思考を知らず、インディビリアは負けてきた恨みを込めてフォービーストの戦いを見ていたが、動きが変わったことで久しぶりに本気のフォービーストが見れるとわかり、先ほどまでの恨みはどこかえいき、ワクワクで尻尾が自然と揺れていた。
「ラッキーね、見れるみたいよ」
―――
レヴィはダークマターの技術に秀でているが、ベヒモス、ジズ、バハムートと違い、ダークマターそのものに特異性を発揮することは無かった。
持って生まれた才能、それをありありと見せつけられた当時のレヴィは指揮官が居なければきっと卑屈に拍車をかけていただろうと思う。
精神干渉は3人には出来ない特異性ではあるが、これはセイレーンの水泡も出来る、ようは技術の延長線で修得出来るものであった。
レヴィ自身の特異性、レヴィ自身の才能はまったくのゼロだったのか?
いいや、ゼロではなかった、ゼロではなくした。
もしかしたらこれも技術の延長線上かもしれないがそれでもこれはベヒモスもジズもバハムートもセイレーンすらも真似出来ないレヴィが一生懸命覚えたレヴィだけの能力であった。
レヴィが床に手をついて広げたダークマターはジズに触れる。
そのままジズに触れたダークマターは広がり続けてあの子のダークマターにも触れる。
触れた瞬間、山ほどのサイズがあるあの子の体が半分以上垂直に沈み。
ガオォンッ!
沈んだ部分を全て失った。
あの子はクラウン王国を丸々ダークマターで飲み込んでいた、つまり国一つ分、レヴィは容易に消し去ることが出来るということだ。
続けてベヒモスにレヴィのダークマターが触れる。
するとクリスタルが爆発的に発生し、電気を飲み込みながら成長し拡大するはずのクリスタルの条件を無視してダークマターがある箇所全てから一瞬でクリスタルが生まれ、まるで瞬間冷凍したかのようにあの子は氷漬けならぬクリスタル漬けになって身動きが取れなくなる。
最後にバハムートにレヴィのダークマターが触れる。
触れた後しばらくしても何も起きないため見ていたマリアン達は?を浮かべるが変化は空から降ってきた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ。
空気を押し広げながら何かが落下する音が聞こえてくる。
音が聞こえた時には既に雲を切り裂き、巨大な物質が空から落ちてくるのがわかった。
黒い鉄球、しかしサイズはエデンがすっぽり入って、それでもまだ余裕があるほどの超特大サイズ、それがあの子に向かって落ちていく。
着弾。
激しい衝突の衝撃が砂埃を巻き上げて全員の視界を奪う。
しばらくすると、砂埃は再び地面に積り視界が戻る。
フォービーストの視界の先にはダークマター特有の黒が無くなり、ラピが子供になったらこんな見た目だろうなと思える。
先ほどのスケールとは打って変わって小さな子供が立っていた。
―――
レヴィはゆっくりと歩いてあの子、少女に近づいていく、それを少女はいまいち何を考えているかわからない表情で眺めている。
(怖がっては………ないよね?)
もしかして何処か怪我させたとかで怖くても動けないだけなのではとも考えるがパッと見の外傷はなさそうだから多分違うと思い込むことにしてレヴィは少女の正面までやってきた。
少女はジッとレヴィを見つめる、それに対してレヴィは何か言って安心させてあげなきゃとか、まずはしゃがんで目線を合わせるんだっけかとか色々と頭の中で考えてはどれも正解でどれもハズレな気がして結局見つめ合うことしか出来なかった。
「だっこ」
少女はジッと見つめたことで何かを理解したのか単に飽きたのか突然腕をバッとレヴィに向けて突き出してだっこのおねだりをする。
レヴィはドギマギしながらも慎重に少女の言う通りに屈んで少女を包んで持ち上げる。
(軽い)
レヴィが少女を抱っこして最初に抱いた感想はそれだった、ニケのボディを使用しているはずなのにこの少女の持つ重さは人間の少女と変わらない見た目通りの重さであった。
自分達で生み出したはずだがその神秘にレヴィは驚いていると少女が尋ねてきた。
「お姉ちゃん、強い?」
どういう意味だろうかレヴィはよくわからなかった、実力ならさっき見せたが実はあの巨大状態だと記憶無いんだろうか?と思いもしたがそれなら強いなんて聞かないだろうしとも思う。
難しく考えても仕方ないのでレヴィは素直に答えることにした。
「お姉ちゃん1人だと、弱いかな、でもベヒモスやジズ、バハムートそして指揮官がいれば、強いよ」
「どれぐらい?」
その質問なら簡単だ。
「世界一」
世界一という答えを聞いた少女は目をキラキラと輝かせてわたしとわたしの背後からやってくる皆んなを交互に見てはワクワクを全身で表していた。
その姿を見て、抱っこして生命の温もりを感じて。
あぁ、この子は子供なんだなと当たり前を、幸せをレヴィは噛み締めた。
―――
フォービーストの戦いを途中までだが観戦したいたクラウンの国民とは別の存在がいた。
第二のヘレティック、リバーレリオ。
リバーレリオはチャンスを伺っていた、トーカティブによるクラウン王国襲撃もチャンスではあったがフォービーストが確実に足止めを受けていたわけではなさそうだったため念の為スルーした。
クイーンを生み出すという奇跡を目の当たりにして少々行動が遅れてしまったが、それでもリバーレリオはお母様であるクイーンに地上に降りきてもらうためエデンに向かう。
エデンはこの時間訓練でエデンを空にしていること、それでも本来はいるはずのドロシーとレッドフードはアークの防衛に駆り出されていることをリバーレリオは把握していた。
だからこそ急ぐ、この僅かな隙で目的を達成するために。
―――
ヨハンが外で訓練している際もエデンに唯一残るセシルは自分の貧乏クジを引く運の強さに舌打ちしたくなった。
リバーレリオの襲撃、何故襲撃に来たかはわからないが、少なからずこっちが隙だらけなこのタイミングでの襲撃は意図したものではあるのだろう。
「いったい何をするつもりですか?」
余計なことをしたら殺すと脅され、ヨハンほどの運動神経無く防衛ロボットもあっけなく壊されたセシルはせめて目的だけ聞き出そうと話しかける。
「うるさいわね人間、お母様に降りきてもらうため邪魔な膜を破壊するのよ」
目的を端的に伝えられて、今度はうるさくしても殺すと脅されながらエデンの槍の準備をさせられる。
クイーンの降下、セシルはその状況はどうにかして避けるべきだと唯一邪魔されない頭の中で打開策を考える。
しかし頭が良いからこそ完璧なタイミングでやってきたリバーレリオに自分はなす術がないことがわかり。
(ヨハン、クイーン降下に一役買わされたこと、恨みますよ)
訓練でどこかに行っているヨハン達に心の中で唾を吐きながら。
巨大レーザー兵器、エデンの槍は空に浮かぶ膜目掛けて照射された。
膜は破壊され。
地上を黒い影が覆った。
―――
リバーレリオは遂にお母様が降りてくることに歓喜した。
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………?
リバーレリオは理解不能だった。
何故膜を壊したのにお母様は降りてくる所か近づいてくる気配すらないのだと。
そもそも降りてきていないのにこの黒い影はいったい。
空を見上げ膜のあった場所を確認する。
そこには黒い膜、ダークマターで出来た膜が何事もなかったかのように透明な膜の代わりに鎮座していた。
―――
「セイレーンの膜が破られたみたい」
少女が皆んなと遊んでいるのを遠目に見ながらレヴィは指揮官の隣に立ってなんてことは無いように言う。
そうか、やっぱりやっといてよかったな!
ドヤ顔をする自分にレヴィは軽く小突いて、もうと軽く笑う。
昔、セイレーンが膜を張ると言ってきた時にレヴィのダークマターを混ぜることで破壊された際に第二のダークマターの膜を形成するように念の為仕掛けておこうとなったがしといて正解だった。
「とりあえずセイレーンが膜を張り直すまではわたしが維持しておくけど、何かある?」
何かってなんだ?
「セイレーンの膜じゃもちろん何も出来なかったけどわたしの膜なら規模が大きいから何でもは出来ないけどメッセージぐらいならクイーンに見せれるよ」
レヴィは面白いイタズラを思いついてさっそく仕掛けたくてウズウズしている子供みたいに、というか子供ではない以外はそのままに何を書こうかと聞いてくる。
なら、事後報告だがこう書こうか。
―――
クイーンの眼下に浮かぶ地上を見えないようにしている膜、その膜が消えたと思ったらすぐに別の膜へと切り替わり、さらにしばらくすると文字が刻まれた。
『地上は獣が頂いた!』