【完結】Alice.dat -ハッカーの彼女と公安の彼の騙し合い恋愛 嘘で始めた恋は本物になれますか?-   作:稀葉

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File.33 ウサギはたすけにきたそうです

 失敗した、と思う。

 廊下で膝を突く姿に動揺した。触れた体があまりに熱くて、医者に連れて行かなくてはと咄嗟にそれしか考えられなくなった。

 

 RFT(あいつら)を利用すればよかったんじゃないかと冷静に考えられるようになったのは、診察室を出た後のことだ。

 

 正直、脱兎を飼いたがっているRFT(あいつら)に、彼女を保護していることを知られるのは得策ではないように思えた。

 それでも、あの子を外に出す危険と天秤にかければ、組織を利用してやるほうが遥かに安全なのは間違いない。

 

 なにしろ、あいつらは、あの子が脱兎であることを知らない。知りようがない。

 

 組織の手配してきた医者は、小鳥の揺り籠(アヴィクラーナ)の観客リストに名を連ねるひとりらしい。

 医者があんなショーを愉しむなんて世も末だよね。

 

「まあ、いっか」

 

 死ぬのはボクでもあの子でもない。

 

 ボクは痛くないし、彼女の血も流れない。だから好きにすればいい。

 

 それにしても。

 獣医に薬を処方させる小心にはウケたけど、彼女の反応にはもっとウケた。

 

 嫌そうな顔で、『うさこちゃん』のための薬を飲む姿を思い出すだけで笑いがこみ上げてくる。

 

 あの子も、もっと楽しめばいいのに。

 モノレールが空を飛べなかったことよりも、偽物の命がなくなったことに泣いちゃうなんて、彼女は少しもわかっていない。

 

「でも、しょうがないよねぇ」

 

 あの子はこっちの世界の犬どもに囚われていたんだから。

 

 だから、ボクが来た。呼ばれた。

 彼女を助けるために、そのためだけに、ここに来た。

 

 そうに決まってる。

 そうでないと──辻褄が合わなくなる。

 

 だから、あの子にはボクだけでいい。

 

 この世界の奴らにも釘を刺しておかないとね。

 

『うさぎちゃんは諦めて。というか、元々ボクのだから。うさぎ狩りを続けるなら、また電車ごっこして遊んじゃうよ』

 

 ま、電車ごっこはまたするかもしれないし、あの子と一緒なら、もっと楽しいアソビができそうだよね。

 

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

 

 三月ウサギが潜伏する可能性が高い建物を絞り込んではみたものの、今のところ空振り続きだ。

 千秋と行動を共にする狗塚は、庁舎へと車を走らせながら訊き返した。

 

「学校のデータセンター?」

 

「そ。あの子が卒業した通信制高校、あそこを借りたのよ」

 

 通信制高校のデータセンター。サーバー力を考えれば妥当だ。

 つまりは、それほどのものが、モノレール暴走の阻止には必要だったとも言える。

 

 ならば犯人側はどうなのか。

 

 これまで、三月ウサギはあちこちのボットネット──ウイルスに感染した不特定多数、第三者のPCを利用していると考えられていた。

 IPを偽装し、尻尾を掴ませない。

 だからこそ、当初透子に疑いがかかった時も、その偽装に巻き込まれた善良な一般人という可能性を排除できなかった。

 

 けれど、仮に三月ウサギが同等の施設を利用できるのだとしたら。

 

「電力……、モノレールを暴走させた時間帯、異様に電力の消費量を跳ね上げさせた施設があったとしたら……?」

 

「……なるほど。面白いわね」

 

「電力会社に捜査事項照会(イチキューナナ)をかけます」

 

「そうね。──待って。もしも一致する不審な先があれば、遡れるだけ遡って。5年はイケるでしょ」

 

 千秋はそう言うと、「あの、吐き気がするライブショー。もしかしたら、あの裏も取れるかもしれないわ」と嫌悪露わな眼差しで続けた。

 

「繋がっている、と?」

 

「可能性の話よ。二度手間は面倒じゃない?」

 

「──わかりました」

 

 急ぐ必要がある。

 もしも、小鳥の揺り籠(アヴィクラーナ)と三月ウサギが繋がっていたら、透子がただで済むとは思えない。

 

 脱兎としての実力を買われたとしても、もしも彼女がNOを突きつけたら──。

 

 瞼の裏に、あの時、潜入していた先で目にした残忍な光景が蘇る。

 宗教を隠れ蓑に、人の痛みを、命の灯火が消えていく様を、娯楽にしていた集まりだ。 

 彼女を、あんな目には遭わせるわけにはいかない。

 

 逸る心のままに踏み込みそうになるアクセルを精一杯自制しながら、ハンドルを握る手に力を込めた。

 

 

 

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