side波動ねじれ
「♫♫♫〜〜〜♫♫♫〜〜」
「ねーねーリューキュウやっぱやめた方がいいと思うよ。あんな男の人の所なんて絶対に行かない方がいいと思う。なのに何でそんなに嬉しそうなの不思議不思議!?」
ニコニコととても上機嫌に鼻歌を歌いながら私の隣を歩く女性。
ヒーロー活動のインターン先としてとてもお世話になっている人だ。だからこそ私はこの恩人があんな酷い男の人の家に行くのが嫌で、こうして今もそれを止めようとしている。
ドラグーンヒーロー・リューキュウ
本名・竜間龍子
そんな彼女は本日のヒーロー活動を珍しく定刻でピタッと終わらせると、素早く着替え、前々から色々と準備してたのだろう様々な食材などが入った大きなバックを手に取り急ぎ足で事務所を出て行った。
「……あ〜今日はあれね〜」
「クズ男くんの家に行く日かぁ」
リューキュウ事務所のサイドキックの人達は、そんなリューキュウの様子をヤレヤレもう仕方無いなあ……と苦笑いで見送っていたけれど何で!?何で誰も止めないの不思議不思議!?
だから私は急いで事務所を出て外でタクシーをつかまえていたリューキュウに追いつき、
「ねえねえリューキュウ!!やっぱ行くのやめよ!!絶対やめた方がいいよ何であんな人の所に行くの不思議不思議!?」
「あらあら困ったわねえ……あんまり彼を待たせたく無いんだけど……運転手さんにも迷惑かけられないし……取り敢えず貴方も乗りなさいねじれ。後で最寄り駅までのタクシー代は出してあげるから」
……こうして私はリューキュウと一緒にタクシーに乗り……リューキュウは人気のヒーローだからスキャンダルはNG。車内では大人しく黙ってた私はエライよね!!で、タクシーを降りてから私はリューキュウを今からでも止める為にこうして必死に呼びかけていた。
「だってあの人評判スゴイ悪いよ!!色々な女の人をとっかえひっかえしてるって!!やっぱ考え直して今からでも帰ろうよリューキュウ!!」
「あらあら!!それは大変ねえ♫」
タクシーを降りてから、私は必死でリューキュウを考え直させる為に話しかけ続けていた。
そんな必死な私の様子をリューキュウはくすくすと上品に笑いながら見ていて、そして相槌を打っていた。
タクシーが止まったのは彼の自宅兼事務所がある雑居ビルから少し離れた所。このままちょっと歩けばすぐ彼の家だ。なんせ時間が無いので私は必死だった!!
「今日だって手料理を作ってあげるだけじゃないんでしょ!?掃除とか洗濯とかその他の家事も色々やってあげるんでしょ!?ねー不思議不思議!?何で何で!?良くないよ!!絶対に!!私は絶対に良くないと思う!!」
それは前にサイドキックの人達から聞いた話。
リューキュウは定期的にあの男の人の所に行く。そして手料理を作ってあげてさらに掃除とか洗濯とかまでしてあげてるらしい。私も女の子だから好きな人に手料理を作ってあげたい!!って気持ちはわかるよ!!でも掃除とか洗濯とかの家事まで色々とやってあげるのは違うってのもわかるもん!!しかも彼氏彼女ですらない!!色々な女の子と遊んでる人に!!絶対やめた方がいい!!
リューキュウは私のそんな言葉を聞きながら「あらあら」と笑い、でも決して足を止める事なく歩き続け、
「でもね、私がこうやってたまーにちゃんと家の事をやってあげないと……なんか心配になっちゃうじゃない?『ああ……彼は今頃ちゃんとやれてるのかしら?』って。だから、うん。これは私が私の為にやってる事だから気にしないでいいのよねじれ。うん、ただ私が安心したいからやってる事なんだから」
「違ーう!!絶対に違ーう!!ねえねえ不思議不思議!!何で何で何でなの不思議不思議不思議不思議ー!!!!」
「あらあら」
あーもう!!何で何で何で!!!不思議不思議不思議!!!
リューキュウこんなに良い人なのに!!
何で何で何で!!!
(何で彼氏でも無い男の人の為に仕事終わりに家まで行って手料理作って!!しかも掃除とか洗濯とかの家事までやってあげてるの!?ねえ絶対こんなのおかしい!!おかしいよ不思議不思議!!)
でもこんなにおかしいのに、何故かリューキュウはずっとニコニコ上機嫌で、彼の家が近づくに連れて気持ち鼻歌のテンポも速くなってすらいた。
それはホントにおかしな事なのに、何故かそのおかしさすら彼女を幸せにする為の特別なスパイスみたいで……うん!!やっぱおかしい不思議不思議!!
そう、私の大好きな尊敬するヒーロー・リューキュウ……
……竜間龍子は『尽くすの大好き尽くしんぼ』なのである。
「おーいらっしゃーい……って龍子だけじゃなくて不思議女までいるじゃん?何で?ウケるんだけど」
「こんばんは零至。遅くなってごめんなさいね。すぐご飯の準備するから」
「ぶーーいい加減名前覚えて!!ねじれ!!私はねじれ!!」
「りょ」
「絶対に覚える気がないーーー!!!!」
「あらあら♫」
……結局、リューキュウを止められないままここまで来てしまった……
とある雑居ビルの一室。Closedの看板のかかっているその個人ヒーロー事務所のインターホンを押してしばらく、とても綺麗な顔をした男性が中からあらわれた。
氷剣ヒーロー・アイスブレイド
氷叢零至さん。
インターン中に何度か会った時と全く同じ、その綺麗な顔で気怠げに笑いながら、彼は私達を中に招き入れてくれた。
彼が一人で使っている狭いヒーロー事務所。
その奥の扉を開けると、そこからは住居としてのスペースだ。
決して広くはないが、男の一人暮らしには十分な広さの1LDK。
シンプルな内装というかただ単に家具の少ないリビング。
目立つのは食事を取るダイニングテーブルのセット、3人掛けのソファ、そして壁に掛けられた大きなテレビと乱雑に散らかっているゲーム機とマンガ……なんだか大人の男の部屋っていうよりは私と同い年の男の子の部屋みたいで不思議不思議!!
「さてと……ちゃっちゃっと作っちゃうからちょっと待っててね……あ、ごめんなさいねじれ。2人分の食材しか用意してないから貴方の分は無いのよ。どうする?タクシー呼びましょうか?」
「……ぶー……これでご飯も一緒とか、流石にそこまで空気読まない訳じゃないから大丈夫……駅近いみたいだし歩いて帰る」
「……そう?ごめんなさいねねじれ」
「はは!!えー?結局この不思議女何しに来たわけ?謎すぎてマジウケるんだけど」
「ぶー!!!」
「あらあら♫零至もあんまり茶化さないの」
「へーい」
くすくすと笑うリューキュウと、へらへらと笑う零至さん。
そんな2人の楽しそうなやり取りを見て、一人だけ取り残された感じで……何か!!私は面白くない!!
「ねえねえ!!零至さんって車持ってるんでしょ!?リューキュウが料理作り終わるまでまだまだ時間あるよ!!最寄り駅まで私を送ってくれないかな?」
「うーん……確かに、それくらいならまだ時間あるけど……」
テキパキと慣れた様子で料理を始めていたリューキュウ。そんな彼女が困ったような顔になり彼を見る。そして……
「……うーん……」
悩むリューキュウ……そして、彼こと零至さんは冷蔵庫を開けて中からビールの缶を取り出すと、プシュ!!ゴクゴクゴクゴク〜………って!!
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
「……あ、わり、もう一缶ビール飲んじまったわ。いやー流石に社会の規範となるべきヒーローが飲酒運転は良くないよなーって訳だ。わりー送るのは無理」
「もぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
絶対!!この人!!私の言葉をしっかり聞いて!!聞き終わってからビール飲んでた!!
「あらあら♫これじゃ零至の車で送るのは無理ね。タクシー呼ぶからもう少しだけ待っててねねじれ」
「ねえねえ!!リューキュウも今の見てたでしょ!?見てたよね!?最低だよやっぱこの人不思議不思議不思議!!!!」
「ホントね最低よね……あ、零至……テーブルの片付けとかその辺りの掃除をお願いしてもいいかしら?」
「えーやだー……ウチの掃除はルンバ大先生のお仕事ですー俺がその仕事を奪う訳にはいかんのですー」
「もー……相変わらずおバカなこと言って……ルンバ大先生はテーブルの上を片付けて拭いたりは出来ないでしょ?せめてテーブルの上だけはお願いね」
「ちぇ……しゃーねーなーめんどーだなーもー」
「あら偉い。ありがとうね零至」
のそのそとした動きでダイニングテーブルの上を綺麗にしていく零至さん。でもねリューキュウ!!これくらいで偉い!!って褒めるのは絶対違うよ!!不思議不思議!!
「……で?そこの不思議女はぼーっと突っ立って何してんのウケる」
「そうね……やっぱり遅くなってきたしタクシー呼ぶわね。ちょっとだけ待っててねねじれ」
そう言うとスマホを取り出しアプリでタクシーを呼び出す。
「……うん。10分くらいで来れるみたいね。もうちょっとだけ待っててねねじれ」
「ウケるなー……結局、何しに来たのコイツ?」
「ぶーーー!!!」
「あんまりからかわないのもう……そうね、あんまりこの人にイジワルばかりされるのもアレでしょうし……ねじれ、ちょっとその辺の片付けだけお願い出来るかしら?タクシーが来るまででいいから」
「……ぶー……でもタクシー呼んでもらったし……まぁちょっとくらいのお手伝いなら……」
リューキュウの事だからタクシーを呼ぶ=代金も彼女が払うだろう。
ならばそんな彼女が食後に行うであろうその辺の片付けを手伝ってあげるのは……まあちょっとしたお返しと言えなくもない。
私はソファの方に移動。上にのっているマンガや携帯ゲーム機を……これ何処に置けばいいのかな?取り敢えず目の前のローテーブルに整理して置いて置けばいいか。
そんな感じで片付けをしていると、何だろコレ……3人掛けのソファのクッションとクッションの間に……何か黒いモノが挟まっていた。コレって……て!!!!ええ!!!
「ねえ!!何で何で何で!!女の子のパンツがソファに挟まってる!!もう!!何で!!最っ!!低ぃ!!!不思議不思議不思議!!」
もー何で!!触っちゃったじゃんもーヤダー!!
明らかに『誰かが』着用後の下着が、ソファのクッションの間に隠れていた!!何これ最低!!やっぱダメだよリューキュウ!!噂通りだ!!やっぱこの人他にも女の子連れ込んでるよ!!最悪!!
最低最悪の証拠だよ!!私はソレを指差してリューキュウを見る!!ねえ今からでも一緒に帰ろう!!リューキュウ!!やっぱ噂通りのクズだよこの人!!
「あー……それこの前のメスガキJDのかな?全く……人様の家にバッチィパンツ忘れてくとは躾のなってないガキンチョだなー全く……教育的指導が必要だわな。次にあったらお尻ペンペンしとくわ。次会うかわからねーけど」
「ホントねーもー……しっかりしてよね零至。あんまり変な例を見せないでよね。ねじれの教育に悪いでしょう?」
叫ぶ私!!それに対してヤレヤレ全く仕方無いなあ……って感じに穏やかな2人!!ねえ何で!!不思議不思議!!
「ねえ変だよ!!おかしいよ!!何で怒らないのリューキュウ!?それに何でこんなにフツーなのこの人は!?」
他の女の人と関係持ってた決定打な証拠だよ!!少なくともリューキュウは激怒するのが普通の反応だと思う!!
「………?」(何かおかしな事を言ってる子を見る目)
「………?」(何かおかしな事を言ってる子を見る目)
「ねえ!!絶対それは変!!おかしい!!何で私が変な事を言ってる子みたいに見られてるの!?ねえ私が間違ってるそんな訳ないよね私は普通だよね!?不思議不思議不思議!?」
「……おかしな子ねえ……どうしたのかしら急に?……それはそうとして気をつけなさいよ零至。女ってこうやってすぐ自分の痕跡を相手の男の家に残していくんだから」
「へーい」
「わかってるのかしらねえ?全くもう……あらやだ忘れる所だったわ。零至、一週間分の常備菜作ってタッパーに入れて持って来たの。いつもみたいに冷蔵庫入れておくから上から順番に食べていってね」
「ほーい」
「ねーーそれ痕跡!!メッチャ自分も痕跡残そうとしてるよリューキュウ!!3秒前の自分のセリフを思い出して!!直近の自分のセリフくらいには責任もとう!?ねえリューキュウ!!リューキュウ!!」
「……?何でコイツこんなカリカリしてんの?腹減ってんのかな?」
「そうかもしれないわね……あ、タクシーが来たみたい。玄関まで送るわ。行きましょうねじれ」
「ぶーーー!!!」
「さっきからウチにブタがいんだけど。マジウケる」
「ぶーー!!!ぶー!!!ぶー!!!」
「あらあら」
何かヘン!!全然納得いかない!!
やっぱ最低だこの人は!!
ホントは何か言い返したかったけど!!でもタクシーを待たせて迷惑かける訳にもいかないので、私はリューキュウと共に玄関に向かった。
自宅スペースを出て事務所へ、そして事務所の出入り口へ。
「じゃあ気をつけて帰るのよ」
「……うん」
私の見送りに来てくれたリューキュウは、ニコニコと穏やかな顔で。
「……あ。そうそう。言い忘れてたけど私、明日は有給取って休みにしてあるから」
「…………うん?」
……うん……うん……うん!?!?!?
ニコニコと穏やかで、とても上機嫌なリューキュウ。
あ!!これ!!彼に手料理ご馳走して家事して帰るんじゃなくてお泊りックスする気マンマンだ!!!!
「電話は……出れるかちょっとわからないけど……一応モバイルPCは持ってきてるからメールのチェックは……うん、そうね、お昼頃には出来ると思うから何かあったらメールで連絡してね」
しかも!!寝起きックスからの昼までダラダラする気までマンマンだった!!!!
そんなリューキュウはとても幸せそうな顔で笑い。
「じゃあ……またね、ねじれ」
……バタン。ガチャ。
「…………」
……そして、私の目の前にClosedの看板のかかった事務所のドアが立ち塞がった。
「ぶーーー!!!2人のっっ!!バカァァァーー!!!」
ウケる。
あらあら。
なんかそんな幻聴が聞こえた気がした!!
うん!!
私やっぱり!!あのクズ!!零至さんの事キライ!!