「あー!!零至さんだ!!ねえねえ今何してるの?もうすぐ体育祭始まっちゃうよ?不思議不思議!?」
「あー不思議女か。見ての通りに校内ぷらぷらしてんだよ」
「今日は私服なんだ!!体育祭当日はオールマイトのお手伝いはないの?役割無し?プライベートで体育祭を見に来ただけ?ねえねえ!!それなら私の応援をしに3年の会場に来て欲しいな!!零至さんが見ててくれれば私いつもよりもっともっと頑張れると思うの!!ねえねえ不思議不思議!!これ名案じゃない!?」
「へーそかーそらスゴイなー……うん。行けたら行くわー」
「ねえねえ最低!!それ絶対に来る気がない人のセリフだよ!!何でそんなことばかり言うの不思議不思議不思議!?」
「……お、参加する生徒向けになんか校内放送流れてんじゃん。不思議女もそろそろ行かねーとマズイんじゃねーの?」
「ぶー!!相変わらず!!私だけに!!何か冷たい!!」
「そかー?割と俺皆にこんな感じだと思うけど」
「ぶー!!」
「……ほれアッチで呼ばれてんぞ。そろそろ開会式だろ。さっさと行けっての」
「……うーーーー……もう時間無いから行くけど!!絶対!!絶対にちょっとは私の事も見に来てね!!約束だよ!!」
「へいー」
「もーー!!相変わらず軽いーー!!不思議不思議!!」
「じゃなーばいびー」
「ぶーーー!!!!」
ぶーぶーと鳴きながら離れて行く不思議女。豚さんかな?
それにひらひらへらへらと手を振り見送ってから、俺は校内の下見に戻る。
雄英高校の敷地は広い。
体育祭当日に一般人が入れる区画はある程度制限されてはいるけれど、それでも気軽に端から端までひとっ飛び……と気楽に言えない程度の広さはあった。
「……面倒な事を引き受けちまったかなーこりゃ……」
ちょっと前に校長から頼まれた厄介事。
その時は納得して引き受けたものの……やっぱ今になって軽く後悔する。
「……報酬の上乗せ位は期待させてもらうよー校長」
『ハッハッハ!!お安い御用なのさ!!』
青空にうっすらと浮かぶ、毛並みのいいイケメンの幻影がそんな事を言った気がする。そかー……なら要望だけでも出してみっかなー。
そんな事を考えながら、俺は数日前の出来事を思い返していた。
「『#雄英落ちた、日本死ね』ですか……?」
「そうなのさ!!」
体育祭を控えたとある日。
俺とオールマイトの2人は校長室に呼び出されていた。
呼び出したのは当然だが校長。
校長は急に俺達を呼び出した非礼を軽く詫びた後、すぐに本題に入った。
それが、
『#雄英落ちた、日本死ね』
である。
「……多少は過激なワードだとは思うけど……こんなの季節の風物詩じゃねっすか?雄英高校ヒーロー科の入試倍率は300倍だ。試験に落ちた大勢のガキ共の悲鳴。毎年この手の恨みつらみはSNSを賑わせてると思うけど」
俺の言葉にオールマイトも軽く頷く。
校長はそんな俺達2人の様子を確認してから、
「氷叢くんの言う通りなのさ!!雄英高校ヒーロー科への進学は非常に狭い門なのさ!!だからこそ倍率は300倍!!そして落ちた子供達の悲しい苦悶の声が毎年SNSを賑わせる……」
……そこで、校長は一拍。
「……だけど、その苦悶の声は例年ならば合否発表〜からの遅くとも3月中には全て消える。ただでさえ移ろいやすいSNS上の話題だ。大してバズってもいない話題が長く生き残る事はないのさ……それなのに、
「……………」
「……………」
……その校長のセリフを聞き、俺とオールマイトの心の中のスイッチが『カチッ』と入る。
「例年ならば大してバズることも無く3月中に消えている#タグ。それが
「……しかもコイツはあからさまに雄英高校をターゲットとしてる。SNS上の悪意の標的として燃やし続けている」
「……そしてこの場にいる3人は……そういう歪んだ環境を自ら作り出し、利用して悪意を撒き散らす存在……そういう男を知っているのさ」
「「……………」」
「……その前提で率直に言おう。今回の雄英高校ヒーロー科の試験に落ちた子供……その内の数人が、SNS上の過激な声に煽られてこの雄英体育祭でテロを企てているのさ。まあ……実行犯である子供は自分がテロリスト役になっているとは夢にも思っていない。ただ単に自分達を落とした雄英高校ヒーロー科に『ちょっとしたイタズラ』をして仕返ししてやろうという……そんな軽い気持ちなのさ……当然、雄英体育祭の規模を考えればそんな簡単な話ではすまないんだけどね」
雄英高校ヒーロー科の試験に落ちたガキが体育祭でテロってまじか……いや……この校長の言い方だと、本人的にはそんな意識は無いんだろうけど。
「……わざわざ校長が俺達を呼び出したって事はそれなりに確信があるんだとは思うけど……そのガキ共ホントにやると思う?どう考えてもリスクとリターンが見合わないと思うぜ?」
「私も正直疑問です。今年の雄英体育祭は通常より遥かに厳しい警備体制……というのはすでにテレビなどの各種メディアで周知されている。そんな状況でテロ……いや『ちょっとしたイタズラ』ですか?どちらにせよそんな無謀な行動に出るものでしょうか?」
俺達の疑問。校長はそれを聞きゆっくりと頷いた。そして、
「雄英高校ヒーロー科の入試倍率は300倍。推薦入学4名を除くと合格者は36名。つまり……36×300で毎年一万人を越える受験生が試験に落ちているのさ」
「「……………」」
「……わかるだろう?対象者が一万人もいるならば、その内のたったの0.05%でも5人だ。今年の試験に落ちた子供達のたったの0.05%。試験に落ちた事に強い恨みを持ち、リスクとリターン、将来への悪影響など何も考えず衝動的に『ちょっとしたイタズラ』をしてやろうと考えてしまうような甘い考えの子供達……本当にいないと思うかい君達は?そしてここにいる私達3人は、そういう人々の悪感情を利用して裏から悪事を働いて来た男の存在を知っている筈なのさ」
「「……………」」
校長の言葉に、声に出さないものの俺とオールマイトの脳裏には死んだ筈の男の幻影がよぎった。
『…………AFO』
5年前の事。
あの時オールマイトが仕留めた筈の巨悪。
……しかし、この前のUSJ襲撃事件で……俺達は影に潜んでいるヤツの息遣いを確かに感じていた。
「……校長は、マジでアイツが生きてると思ってんの?」
「……もしも生きていたするならば……今回の件は、いかにもあの男がやりそうな事だなとは考えているのさ。自分の協力者達を使ってSNS上の悪意を煽って燃え上がらせて、無関係の子供達をヒーローにけしかける。成功したら儲けもの。失敗しても自分に実害は無い。大して手間もかからない事を考えれば実に見事なローリスク・ミドルリターンの策と言えるだろうね」
「……成功したら儲けもの。失敗してもまあ別に損は無い、か……反吐が出るね、全く」
……なるほど、確かに陰険なあの男の考えそうな事だった。
「……付け加えるならば……今回の犯行に関わった子供達にはおそらく前科がつくのさ。雄英体育祭はオリンピックの代替とすら言われている一大イベントだ。テレビ等の放映権を持つ会社・スポンサー企業や広告を出している各企業は損害賠償をするだろう。さらに犯行内容によっては民間人に負傷者も出る。イタズラのレベルが小規模だったとしても社会への影響は小さくない。結果、ヒーローを志望した子供達には前科がつき……おそらく、ヒーローを目指す道を絶たれてヴィランへと堕ちる」
「……あの男からすれば、成功しても失敗してもヒーロー社会へのダメージを与えられるという事ですか……相変わらず悪辣な……」
「……最悪だな。ガキども……多分、謝ったら許してもらえるくらいの甘い気持ちだぜ絶対に」
俺とオールマイトの静かな怒り。
それに、
「……そう。だから今回の件はこの場にいる3人だけで表に出さず対処するのさ」
「校長?」
「どゆこと?」
俺達の疑問の声に校長が答える。
「『子供達のイタズラなんて最初からなかった』。3人で子供達によるテロを未然に防ぎ、公的な記録には何も残さず処理をする。正式に警備を担当しているヒーロー達に防がれてしまうと、警察などの公的な記録に残さなければいけないからね」
「……なるほど、ね」
秘密裏に全てを片付ける。校長はそう言った。
そして言外に『この3人が失敗した時は、子供達は他のヒーローに捕まり警察に記録が残る』と語っていた。
「……零至くん」
「……ちっ……めんどくせえ……が……やるしかねえじゃんこんなの……」
こめかみをぽりぽりとかく俺を、オールマイトと校長が笑いながら見ていた。全く……いいように人の事使いやがってさ……
そして俺達は体育祭当日の事について打ち合わせを行った。
個性・ハイスペック。
頭脳面で優れた校長がいると、こういう時本当に頼りになる。
そして細かな打ち合わせが終わった後……
「……しかし雄英高校ヒーロー科の受験に落ちて逆恨みか……恨みたくなる気持ちもわからんでもないけど、そこまでの事かね全く……」
「それはどちらかというと強者の理論なのさ氷叢くん」
俺のボヤキに校長が反応する。
「このヒーロー社会の日本において、雄英高校ヒーロー科は圧倒的No.1の人気と実績を誇る。事実、雄英体育祭はオリンピックの代替イベントと呼ばれる程の人気と知名度、そして絶大な注目を集める。……にも関わらず、他のヒーロー科の体育祭はそうでは無い。不思議だがこれが現実だ。国内にも他に優れたヒーロー科を有する高校はあるのにね」
「……雄英に落ちる=オリンピックの代替イベントへの参加チケットが失われるって?まあそれはわかるけどさ」
「体育祭はあくまで一例なのさ。実際はそれ以外の全てにおいてついてまわる問題なのさ。『雄英高校ヒーロー科』と『それ以外のヒーロー科』というね。……仮免試験が典型的だね。雄英潰しは恒例行事だが何故士傑高校は狙われないのだろう?実に不思議な話だ。どちらも優秀なヒーローの卵なのに。何故これほどまでに雄英とそれ以外の高校で差がつくのか?現実的に雄英とそれ以外の高校で本当にそんな差があるのかな?実に不思議な話なのさ」
「確かに……言われてみれば校長の仰る通りですね」
頷くオールマイト。校長はそれを見て満足気に頷き、
「私はこれを日本特有の現象だと考えているのさ。そう、旧時代に日本を支配していた『学歴社会』という呪い。誰もが個性を持って産まれてくる超人社会になったにも関わらず、こうして今も我々日本人は旧態依然の『学歴社会』という呪縛に囚われている……全ての人々が超人になったというタテマエなのに実に滑稽な事なのさ。本当に超人になったというのならば、学歴なんて心底どうでもいい事の筈なのにね。本当に自分の個性と能力に自信があれば学歴などどうでもいい筈なのさ。実際に、ホークスやミルコといった雄英高校ヒーロー科を卒業していないトップヒーローもいる訳だしね。にも関わらず、我々日本社会はこうして出身高校一つに揺さぶられている。超人社会というにはあまりにもお粗末だ。そう思わないかい?」
……なるほどねえ……
お茶を美味しそうに飲みながら、そんなとんでもない毒を吐いた校長。しかし……
「……まー確かに校長の言った事もわかるけど……よー言ったっすねソレ……。アンタその歪んだ学歴社会の頂点の一角でしょ?ねえ……雄英高校の校長サマ?」
「外見は美しい毛並みだけどたまにキッツイ毒も吐くのが校長なのさ!!」
朗らかに暗い笑い声をあげる校長。この人たまーにこーなるんだよなー……
……まあしかし校長の話はわからないでもない。
真に世が超人社会であり、その中でも自分が飛び抜けた超人という自信があるのならば、そもそも学歴など関係無い。
にも関わらず俺達はこうして……受験に受かっただの落ちただのの話でここまで苦労しているのだ。
歪んだ超人社会という指摘はホントに正しいのだろう。
学歴なんぞ超越した個性社会になった筈なのに、俺達は今もこうして学歴で一喜一憂している。確かに笑える話だ。
「アハハハ!!!人間に毒吐いてる瞬間!!この瞬間こそが一番自分が生きてるって実感出来るのさ!!!」
「校長おおぉぉぉ!!お茶がこぼれてる!!こぼれてますよ校長ぉぉぉぉぉぉ!!」
……まあ校長は笑い過ぎだと思うけど……めっちゃ茶がこぼれてるじゃん……
……こうして今日が終わり、そして体育祭当日……
あの悪人面による『最悪な』開会式の選手宣誓へ……