「校内の下見終わったよー。校長の方はどんな感じ?」
校内の下見が終わり仮眠室に戻ると、室内には複数のモニターが設置されていた。
「良い感じなのさ!!氷叢くんも見てみるといい。イタズラ小僧達の姿もこの通りバッチリなのさ!!」
そのモニターの前には校長とオールマイト。2人に近づき俺もモニターを覗き込む。
「……はは、いいね」
画面の中には3人のガキンチョ。
複数のモニターがそれぞれ違った角度から3人のガキ共の姿を映し出していた。校内の防犯カメラの映像を上手く集めてんのかな?流石は校長。
「今年の受験生の中から、過去のSNSの投稿を元に実行犯の子供達を特定するのは骨が折れたのさ!!」
「……本当にお見事でした校長」
個性・ハイスペック。
校長の個性だ。
簡単に言うと滅茶苦茶頭が良くなる個性。
滅茶苦茶ってのは控え目に言っても異常ってくらいのレベル。
校長はその理不尽レベルの優れた頭脳をフルに使い、過去のSNSの投稿からガキンチョ共の正体を特定してのけた。
ぶっちゃけスゲエ大変だったとは思う。でもそういう苦労をおくびにも出さないのが校長の良いところである。
流石、俺が尊敬する数少ない大人の一人であった。
「……しっかし、雄英体育祭でテロもどきをやらかそうとするだけあって血の気の多そうなナリしてやがんなーコイツら」
モニターに映る3人のガキ共。
3人は自分たちを大きく見せようとでもいうのか?ヤンキー風というかチンピラ風とでもいうべきか……まあとにかくそんな感じ。品のよろしく無い歩き方で周囲を軽く威圧しながら一年ステージへと向かっていった。
そんな3人……さぞかし攻撃的なツラをしてんだろーなー……今にも俺達3人暴れ出すぜー……みたいな顔をしているのだろう……そう思っていたのだが?
「……校長?」
「……ふむ」
今も周囲を威圧するように歩く3人組。
「……顔が、少し引きつっているね」
だが……そんな首から下の攻撃的な振る舞いとは全く逆。
オールマイトの言ったとおり。3人の顔は少し引きつっていた。正確には会場が近づくにつれて少しづつ少しづつ引きつっていく。モニター越しにもその様子がハッキリとわかった。
「……こりゃ……ビビったかなガキども?」
……うん。そうだ。その可能性は十分にある。
事はオリンピックの代替イベントとすら呼ばれる雄英体育祭。
立派な競技場。満員で埋まるその観客席。
校内には様々な屋台が立ち並び、お祭りムードに拍車をかける。
マジでオリンピック並に人々が熱狂する大イベント。それが雄英体育祭だ、
……そんなビッグイベント中に、下手すれば洒落では済まないようなイタズラをするって?
SNS上で煽られて短絡的に『やってやるぜ!!』ってなっちゃったけど………これ……この規模……下手すると洒落にならないのでは?……謝ったくらいでは俺達許してもらえないのでは?
単語としてだけの雄英体育祭ではなく、直接現地に足を踏み入れた事でその規模の大きさにビビり……腰が引けてしまった。十分考えられる事だった。
「……十分に考えられるのさ。現地に来たことで改めて雄英体育祭の規模の大きさに驚き、そして『これは子供のイタズラではすまないのでは?』と気づいてしまった。もしも本当にそうであるならば、こちらからすれば悪い事は何もない。このまま彼らの監視は続けつつ、何事もなく体育祭が終わるまで待てばいいのさ」
何かが起こるのでは?と警戒して俺達は備えている。
何も起こらないのであればその方が良いに決まってる。
ガキ共が直前で怖気づいてテロを止めた?そら最高だね。
一番良い終わり方だ。間違い無い。
校長のその言葉に俺とオールマイトは頷く。
いやまあホントに……何もトラブルが起こらないならそれに越したことはない。マジで。
そうして俺達はモニターに映るガキンチョ共……最初に見た時から大分顔色の悪くなったガキ共を仮眠室で監視していた。
そしてガキ共は一年ステージの会場に入り、3人横並びで席につく。この辺も正直怪しい。何か裏で大きな力が働いたのではないか?そんな誰かしらの意図を感じる席の並び。SNS上で知り合っただけの血の気の多いガキ共。その3人がこの雄英体育祭の一年ステージで横並びに座るのだ。気持ちの悪さが喉元から離れない。何度も言うがオリンピックの代替イベントだぞコレ。
こういう所にAFOの影響力を感じる。タチが悪い野郎だぜ全く。
「……ぼちぼち開会式だ。このまま何事もなく終わってくれればいいけど……」
別にそんなオールマイトの言葉に合わせた訳ではないのだろうけど、時間となり開会式が始まった。
マジで頼むから何事も無く無難に終わってくれ……
……そんな俺達3人の祈り。
だがしかし……
『選手宣誓!!一年A組爆豪勝己!!』
「「「……………あああぁぁぁ〜〜〜〜」」」
……俺達3人が見守る画面の向こう。
……よりにもよってあの悪人面が選手宣誓……だと?
壇上に上がる悪人面。
(((頼むから余計な事を言うなよ……)))
そんな俺達の心の底からの願い……
だが……しかし……
『宣誓。俺が一位になる』
「「「……〜〜〜っちゃー……………」」」
ぺち
ぺち
ぺち
……上から順にオールマイト、俺、校長が自分の額を叩いた音。
横並びに3人並び、俺達はそれぞれの額に手を当てて思わず天を仰いだ。
『せめて跳ねの良い踏み台になってくれ』
「……あーの悪人面……やると思ったけど、ホントに口を開くとロクな事を言わねえな……最悪過ぎてマジでウケるんだけど……」
一年ステージの会場。
大ブーイング。大ブーイングだ。
凄まじいレベルのブーイングが最悪な選手宣誓をやってのけた悪人面へと向かう。
そして……
「……困ったものだね。イタズラ小僧3人組も……今のを聞いてすっかりヤル気を思い出してしまったみたいなのさ……」
「……あんなムカつく事を言うような奴が体育祭で活躍するなんて許せない!!こんな体育祭は滅茶苦茶にしてやれ!!……って所かな。爆豪少年……わかっててやった訳じゃないだろうけどタイミング的に最悪だぞコレは……」
未だにブーイングが鳴り止まない会場。ふてぶてしい顔で壇上から降りる悪人面。
……そして、俺達の目の前のモニターに映る3人のガキ共。
……さっきまでのションボリ顔から一転……瞬間湯沸かし器で沸かしたてみたいな安直な怒りに顔を赤く染め上げる3人の少年達。
……ああ、最悪だ、確定だわこれで。
あーの悪人面……最後の最後に余計なダメ押しをしやがった……
想像以上だった雄英体育祭の規模のデカさにビビって怖気づいてたガキ共……そんなガキ共の折れかけの心に、悪人面が燃料をぶち撒けやがった……
……多分、もうガキ共は止まらない。
止まれない。
ただでさえSNS上で安直に煽られて凶行に走ったガキ共だ。
目の前でこうもド派手に煽られた以上、その感情を止める事は出来ないだろう。
「零至くん……」
「……わかってるよ。もうガキ共ヤル気満々だろコレ……当初の予定通りでいいの校長?」
「……そうだね。感情が多少ブレた所で、彼らが出来る事に大きな違いは無いのさ。氷叢くん。君は当初予定していたポイントで待機していてくれ。情報は逐一共有するのさ」
「……へいー。ま、とりま頑張りまっしょいー」
「軽いねー君はホントに」
……そして、俺は仮眠室を出た。
何も起こらないならそれが一番良かった。
でも、そうはならない。
……ならば、真面目に体育祭を頑張ってるガキ共の為に、大人も多少は頑張るべきだろう。
……つまりこれはそういう話だ。
side冬美
「ああ!!もう開会式が終わっちゃう!!ゴメンねお父さん!!私の準備が遅れた所為で開会式に間に合わなかった!!」
「……ふん。かまわん。開会式など茶番だ。そして開会式直後の第一種目ごときで焦凍が苦戦する訳が無い。多少の遅れ程度なら問題はない」
「あはは!!そっか!!なら良かった!!」
「……ふん」
そっぽを向くお父さん。それが照れ隠しだとわかる程度には私達の仲は良好だと思う。
私達家族の事を大切に思っていない訳では無いのだ。ただその表現が不器用なだけで。
だからこそお父さんは今もこうして……本来ならヒーロー活動で忙しい筈なのに、末の息子の晴れ舞台を見るために雄英高校まで来ていた。
雄英体育祭。
オリンピックの代替とすら言われる一大イベント。
その体育祭に参加する末の弟……轟焦凍を応援する為、私とお父さんはこうして雄英高校まで来ていた。
家を出るまでに私が時間をかけてしまった所為で開会式には間に合わなかったけれど……今日は2人で焦凍を応援するのだ!!そう決めて私達2人は雄英高校に来た。
お父さんは基本早足で……でも途中で私との歩幅の違いに気が付き少しゆっくりと歩き……焦凍の事が気になり過ぎてまた気付けば早足になってしまう……そんな不器用なお父さんに遅れないように私も出来る限りの早足で歩く。
そんな、会場に向かう途中で……
「……と!!燈矢!!」
「……え?……あ……あっちゃー…………ま、マジか……このタイミングでかよ……」
……お父さんが……急に足を止めた。
……そして、私がこれまで聞いたことの無いような……そんな不思議な声で私達の目の前を横切ろうとした男性に呼びかけた。
「……嘘……嘘でしょ……燈矢……兄ぃ?」
……昔、死んだ筈の兄。
記憶の片隅におぼろげに残る兄の顔。
その兄がもしも生きていたとしたら……多分、きっと……こんな……
「……うーん……人違い……って事でここは一つスルーしてもろて……って、ダメ?」
へらへら……と、死んだ筈の兄がそのまま成長したような顔で、絶対に兄が言わないであろう事を言う不思議な男性。
そんな人を見て私は固まり、そしてお父さんは……
「……あ……す、すまない……失礼した……ああ……その……うん。本当に失礼な事をした。すまない氷叢くん……」
……何故?
何故だろう?
本来は口下手な筈のお父さん。
必要の無いことは何も話したく無い……そんなお父さんが……
「ええと……その……う、うむ。げ……元気だったかな、氷叢くん?」
「あ……はい……」
(……お父さん?)
……無理やりに口を開いていた。
無理やりに会話を続けようとしていた。
口下手なお父さん。
家族とすら満足に会話を続けられないお父さん。
……そんな、お父さんが……
「……ま、前に会った時よりも痩せたんじゃないかな?ちゃ、ちゃんとご飯は食べているのかな?ああ、君を侮辱するつもりは無いんだ。しっかりとトレーニングを続けているのは君の身体を見ればわかる……ただ……うん、それでも痩せて見えるので心配になってね……す、すまない……」
「……お、父さん?……あ………え?」
彼と話したい。
彼と話したくない。
彼と話が出来て嬉しい。
でも彼と話すと辛い。
彼と一緒に過ごしたい。
でも彼の隣にいるのが辛い
そんな、本当は話すのも辛いけれど……口を閉じた瞬間に彼か自分のどちらかがこの世界から永遠に消えてしまうのではないか?そんな強迫観念に追い立てられるかのように話し続けているお父さん。
(……まるで、呪いみたい……)
辛い。
本当に、辛そうだった。
……お父さんのこんな必死な顔を見たのは多分初めてだ。
オールマイトに続くNo.2ヒーロー。
エンデヴァー。
……そんな立派なお父さんの、こんな顔を……
「………………」
「………………」
……話す度に顔は歪み。
本当はもっと上手く話したいのに……伝えたい事がある筈なのに……心と顔だけが歪んでいく……
本当に辛いのに……でも……それでも……燈矢兄の面影を……ああ、お父さん……
晴れの日。
末の弟の晴れ舞台。
天気は良くて、周囲もまるでお祭りみたいな陽気な世界。
……でも、なのに……何故かお父さんの顔だけが……どうしようもない程に曇っていた……
体育祭だよ!!
出場してない筈なのに色々と忙しい主人公!!