「やほー今日も可愛いねー」
「もう……ホントにそう思ってる?それならもう少し心を込めて言って欲しいのだけれど」
彼のヒーロー事務所兼自宅の入っているビル。
その入口から出て来た男が、ヘラっとした笑みを浮かべながらそんな軽口を叩く。
氷剣ヒーロー・アイスブレイド。
氷叢零至。
「思ってる思ってるーホントホントー。いやー今日も可愛いね♡お目々がクリクリっとしててとってもキュートよ2匹とも♡」
「♡」
「♡」
恐ろしいくらいに整った顔をした男からの褒め言葉に、私の頭上の蛇2匹が嬉しそうに身をくねくねとさせる。
(……もう!!私も大概だとは思うけど、上の2匹もやっぱり面食いなのよね!!)
「……ちょっと零至?ウチの子達を褒めてくれるのは嬉しいけど、まずは私を褒めるべきじゃないのかしら?」
そう言ってその場でクルッと回ってグラビアアイドルの様にポーズを決める。
せっかく今日のデートの為に気合いを入れてオシャレをしてきたのだ!!まずは私の事をちゃんと褒めて欲しい!!
私のそんな様子を見て零至は「くっくっくっ……」と笑いながら。
「わざわざ俺が褒める必要あんの?わかりきってる事っしょ?」
「わかりきってる事を、わざわざ貴方に褒めて欲しいのよ私は」
さあ!!貴方が私を褒めるまでテコでも動かないぞ!!
そんな私の決意が伝わったのか?零至が、
「はいはい……いつも可愛いけど、今日もとびっきり可愛いよ
「ふふ♡ありがとう零至♡」
その言葉を聞くと同時、私は彼に駆け寄りその腕に抱きつくようにして腕を組む。
身長170センチと女性としては長身の私が、ヒールを履いても見上げられるくらいの長身。
細身ではあるがしっかりと筋肉のついた均整のとれた身体。
そんな彼に身体を預けて、
「……さ、行きましょう零至♫まずは貴方の服からね。いくら顔とスタイルが良いからって、いつも無地の白Tシャツっぽいのばかり着てるのは流石にどうかと思うわよ。オススメのブティックを貸し切りにしてあるの。貴方に似合う服があればいいのだけれど」
「……えー?でも昔の人も『ブランドを着るな、君がブランドになれ』って言ってるワケじゃーん?清潔感あれば服とかどーでも良くね?」
「ダメよ。可愛い女の子は可愛いく着飾るべきだし、イケメンはカッコよく着飾るべきなのよ!!少なくとも私の目の届く範囲ではね!!あ!!手配していた車が来たわね。行きましょう零至♫」
「やれやれ」
手配していた車が目の前に停まり2人で乗り込む。
その間もずっと腕は組んだまま。
……そう、忙しい日々と日々の合間を縫って何とか作ったこの時間!!出来るならずっと離れずにいたい!!
彼と腕を組み自分の身体をすりつけるようにして抱きつく私の姿。
私の個性・ヒーローネームを知る人が見れば「まるで本物の蛇みたいだ」だとでと言うだろうか?
もっとも、数多くいる私の男性ファンからすると……そんな事を思ったり口走ったりする余裕は無いのかもしれないけれど。
……でも、そんな事は関係無い。
ヒーローではあるが私も一人の女。
せっかくの貴重な貴重なデートの時間なのだ。
こんな時くらい、本能の赴くままに振る舞ってもいいじゃないの。
「……(ふう)……って、痛」
「ため息つくだなんて酷くないかしら」
「あー……んー……めんご♫」
「もう……零至ったら」
むくれて脇腹をぎゅっとつねってやる。
この私が抱きついてるのにため息ってあり得ないでしょ!!もう!!
世の多くの男性が私にこうして欲しいと願っている。
私とこうしたいと夢に見ている。
でも……現実で私がこんな事をするのは貴方だけなのに……
そう、そんな私。
スネークヒーロー・ウワバミ
本名・
今日はそんな大人気ヒーローの……特に、男性に大人気なヒーローである私の、とてもとても大切な一日の話。
そんな特別な一日のお話だ。
「あ、素敵!!やっぱり零至ってジャケットを着てのキッチリスタイルも似合うわね!!」
「うーん……動きにくいんだけどなぁ……」
「もう、それくらい慣れなさい。いい年してるんだから」
「へいー」
車に乗り辿り着いたのは私の行きつけのブティック。
今日は平日の為特別に貸し切ってもらっている、
レディース物だけでなくメンズ物もあるので、零至を着せ替え人形にして楽しんでいるのだが……
(……結局、何着ても似合うのよね零至って……基本が高身長でスタイルが良いイケメンだから)
今みたいに大人っぽくジャケットでタイトに決めても似合うし、ラフな感じにしてもカッコいいのだ。
眼福という言葉はきっとこういう時に使うべき言葉だ。
私のお願いに応えて色々着替えてくれる零至は全てカッコいいし、お店のスタッフの女の子の「こ!!こういうのとかも似合うと思います!!」っていうおねだりに応えて着替えた服でもカッコ良かった。ただし小娘……その男は私のなので、ちょっと笑いかけられたくらいで勘違いはしないように。頬を赤く染めるな。厳密には私
そんな感じで零至を主役としたファッションショーを一通り楽しんだ後に、
「……あ、美容院の予約の時間がそろそろね」
楽しい時間はあっという間に過ぎるというのは本当で、いつの間にやら次の予定の時間が迫っていた。
「ああ、貴方」
「はい。何でしょうか?」
さっきまで私と一緒に零至のファッションショーを楽しんでいたスタッフの小娘に声をかける。
「……とりあえず、今日、零至が試着した服と靴は全部買うわ」
「……え?ええ……ええええ!?ぜ!?全部!?ゼンブナンデ!?ナンデ!?」
戸惑ってナンチャラショックもどきを受けるスタッフ。
まあ無理も無い。
正直、この店の服はそんなに安く無い。
たくさん試着したうちの幾つかならまぁ……まだわかるけど、全部?全部買うの?何で?という所だろう。
だが舐めてくれるな。これでもヒーロー兼CMクイーン(自称)
決して安い出費ではないが、そこまで無理した額という程ではない。無いのよ。
「……んー……毎度といえば毎度なんだが……うーん」
ちょっと困った感じの零至。そんな彼に。
「気にしないで良いのよ零至。私が貴方に着て欲しい服を買うだけなんだから」
そう。コレは私だけの特権。
あの女とかあの女とかあの女とか女とか女とか女とか女女女女女女女女女女女女女……とのデートの時に、零至が私の買った服を着ていく。
『私の』零至を今日は貸してあげるわ!!
……そんな、ちょっとしたイタズラ。
これくらいしてもいいと思う。絶対罰は当たらないでしょ。
私が知らない所で平気で他の女とかとデートするのだこの男は。
……ならばせめて、他の女達が、自分の知らない所での
(……あーあ……どうしてこんなクズを好きになっちゃったのかしらね……)
でも結局、好きになってしまった以上、もうどうしようも無いのである。
この顔だけが良いと思われがちな男が、実は顔以外もイケメンだと知ってしまった以上、私から離れるという選択肢はもう無かった。
(まあでもとびきりのクズだけど)
「……さ、待たせてる車に行きましょ零至」
「ういー」
そして車で予約していた美容院へ向かう。
カリスマ美容師のいる美容院。
平日という事もあり、ここも特別に貸し切りにしてもらっている。
「いえーい。銀河一のイケメンになりましたー。『俺か、俺以外か?』対戦お願いしますー」
「貴方はいっつもイケメンよ零至。でも……何でヒーローのくせにこんなにもホスト構文が似合うのかしらね……?」
わりといつもは無造作に伸ばしている髪。
それをカリスマ美容師にカットしてもらう。
イケメンなのに、零至は本当に自分の外見には無頓着なのだ。
それは不思議なくらいに。
むしろ自分の整い過ぎた外見を憎んですらいるのでは?そんな事を思ってしまうくらいに……
(……なんて、考え過ぎかしらね……)
この世の中、外見が全てではない。
……それは事実だが、正直に言って、外見が優れていて損する事はそれほど無い。
だから……零至のふとした時に見せるそういう様子が私の心をざわつかせるのだけれど……
「……お?そろそろ次の時間じゃね?ねー巳美心ちゃん♡」
……そんな私の内心を知ってか知らずか?零至は私に向かってへらへらと笑い、
「次は俺の予約してた店でスペシャルディナーじゃん」
そう、とても楽しそうに……何か、ちょっとした悪巧みを隠している悪ガキみたいにへらへらと笑う。
「ふふ……そうね」
だから、私もさっきまでの疑念を他所に投げ飛ばし、
「零至が予約してくれたのよね?楽しみだわ」
「へっへっへっー貴族御用達のスペシャルなお店だぜーこうご期待ー」
「くすくす……そうね。期待してるわね」
そうして私達は美容院を出て次の店に向かい……
「……だからって、この流れで
「へっへー♫貴族のお店ですー♫仕方がないけど昔より値上げしてマジで最近は貴族のお店になりつつあるお店ですー♫」
連れて来られたのは母須恵砂町にあるチェーンの居酒屋。
そう鳥貴族。
確かに貴族のお店ではある。
名前に貴族ってついてるだけだけれど!!
イタズラ大成功ー♡
って感じで楽しそうに笑う零至。
それを見て「ぶっすー……」と膨れる私。
何となくこんな事になるのでは……とは思っていたけれど、ちょっとは期待していたのに。
彼が、本当にデートで行くようなお洒落なお店を予約していてくれている、だなんて。
「お待たせしましたー!!メガハイ2つでーす!!」
「どもー」
「……はあ……もう……」
とりあえず店員さんが持ってきてくれたメガハイボールを受け取る。
「『その辺の男と飲むドンペリより、俺と飲むハイボール!!』とりまかんぱーい」
「……かんぱーい」
こちん……とメガジョッキをぶつけ乾杯。
……た、瞬間にグビグビと飲み出す目の前のクズ……
「……あー!!うめー!!このために生きてるー!!」
「……ふう。もう」
……本当に美味しそうにお酒を飲むのよねコイツ。
そんな零至の顔を見て、しょうがないなあ……と、さっきまでの暗い気持ちが少しだけ晴れる。
そんな少し晴れた気持ちで、私もメガジョッキをグビグビと……
「……お、いー飲みっぷりだねー♫」
「……誰の所為だと思ってるの、もう!!」
「へへーん」
「……全く……もう……」
改めてゴチンとジョッキをぶつけ乾杯。
残っていたアルコールを2人とも飲み干し、流れるような動作で次のドリンクを注文。
(……ま、ここはチェーン店だけど……ある意味配慮はしてくれてるのよね。
今の時代で私達ヒーローは、旧時代のアイドルのような立ち位置となっている。
そんな私達ヒーローが外食する時は、基本的に個室のある店で……というのが鉄板なのだが……
『『『『『我々はちゃんと配慮の出来るモブです。空気と思ってどうぞ!!!!』』』』』
私と零至が店に入ると同時、店内にいた客も店員も関係なく全ての人が、無言でそんなプラカードを掲げて見せた。何処からそのプラカードを取り出したのか?そんな事を聞くのは野暮なのだろう。だってこの町のモブだし。
ある意味変な店の個室で飲むよりも安心……いや、正直おかしいのだが……まあこの町だし……そんな奇跡の様な町、母須恵砂町。
ある意味プライバシーに関しては守られているとも言える。
週刊誌の記者とかが来ると平然と焼き討ちにするしねこの町の人達………
「……ま、いいか」
グビグビー……
「おーのむねーいいねー」
グビグビー……
高級店で気取って飲むのもいいけれど、こういうお店で気楽に飲むのも楽しい。
基本的に私はお酒が好きだし。零至もお酒が好きなのだ。
だから……
「零至」
「ん?」
「かーんぱい♡」
むにゅ、
零至のほっべたにメガジョッキを押し付け、そう言ってやる。
零至も笑い、
「へへ……」
むにゅ、
「かーんぱーい♡」
私のほっべたにメガジョッキを押し付け、そう言った。
例え高級なお店でなくても、好きな人と好きにお酒が飲めるならそれだけで楽しい。
こうして私達は心ゆくまで貴族のお店で飲んで食べて……そして……
「…………」
「おーし頑張ったぞ巳美心ちゃん。俺ん家着いたぞー」
大量のアルコールを摂取した事によりフラフラ……と、ぼんやり……と、とにかくそんなふわふわとした状態の私をおんぶし、零至が自宅へと到着。
「…………」
「♡」「♡」
私は彼にぎゅっと抱きつき、2匹の蛇もぎゅっと絡みついている。
そんな私達を零至は冷静にあしらう。
事務所スペースを通り過ぎ自宅へ。リビングのソファーに私を寝かせ、
「大丈夫かー?喉渇いてる?水飲むか?」
「……ん……ほしい」
「おけー」
ウォーターサーバーからコップに水を注ぎ、私の元に来る零至。
「ほれ。こぼすなよ」
「……んー」
私が寝るソファーの空いたスペースに腰掛け、そう言ってくれた零至。そんな彼に。
「………(ボソッ)」
「……ん?何て?」
ああもう聞こえてないのね。
身体が熱い。
脳みそは多分ぽかぽかしてる。
だから、私は、
「……おい、こら」
「んふふ♡」
蛇みたいに、身体を彼にこすりつける。
ソファーに座る彼。その彼の身体に絡みつくようにして、まとわりつくようにして抱きつき、身体を持ち上げる。
「おー……ん……」
「ん……」
……そしてようやくにして目の前まで近づいた彼の顔。
その整った顔。
その唇に、自分の唇をぶつける。
「………」
「………」
……無言の室内に、湿った音だけが響く。
喉が渇いていた。
そう、私はさっきそう言った。
だから、潤すのだ。
呑み干したいのだ。
合わせた唇と唇。
彼の口腔内を、私の細くて長い舌で貪るようにして舐め回す。
口噛み酒。
私にとって、世界で一番美味しいお酒。
そう、私は喉が渇いてるんだ。
「んふ♡」
だから、一番美味しい飲み物で渇きを癒やしたい。
この男を呑み干したい。
私にとって、一番愛しいこの人で。
そうして私の渇きを癒したいのだ。
でも………
「……ぷはっ」
「……あ♡」
でも、私と彼の唇は離れてしまい……
品定めするようにして私をじっとみる彼の目に、私は恥ずかしくなり彼に抱きつき顔を隠す。
呑み干したいのに。
私が、呑み干したいのに。
「……あ、……ん」
……でも……今度は、私が抱きしめられて、そして、顔を起こされて唇を……口腔内を貪られた……
私が……零至を呑み干したいのに……
今日も、私が呑まれていく……
ウワバミの本名は色々調べたけど無かったのでオリジナルです。
正解があったら後日訂正予定。
沼った女の子にブランド物の服とか靴を奢らせて、なおかつカリスマ美容師に髪まで切らせるホスト系ヒーロー!!
そのお礼がチェーン店の居酒屋奢り!!このクズめ!!