side緑谷
日々はあっという間に過ぎ職場体験の初日となった。
受け入れ先のヒーロー事務所へと向かう為に駅へと集合した僕たち1年A組。
はしゃぐ芦戸さんが相澤先生に注意される……だなんて実に僕たちらしい一幕を挟みつつ、クラスの皆が受け入れ先のヒーロー事務所へと出発していく。
「……心配だね、飯田くん」
「……うん」
そんな中、僕は麗日さんと2人で飯田くんを見送っていた。
飯田天哉くん。
体育祭以降、明らかに様子がおかしい僕の大切な友達。
(……何事も無く無事に職場体験が終わればいいんだけど……)
不吉な予感。それが頭から離れないのだ。
「…………」
隣で不安そうな顔で立っている麗日さん。彼女もきっとそうなんだろう。
心配だ。でも……正直言ってどうしていいかわからない。
こういうのが人生経験の差なのかもしれない。なんてふと思う。
(コーチだったら……こういう時に何て言うのかなあ……?)
何て、そんな事を考えていると、スマホから『ポコン』とメッセージの到着を知らせる効果音。
スマホを取り出して見ると、
「なんだコーチか……タイミングが良いのか悪いのか?……ん?1000円分のギフト?何で?」
メッセージの到着と同時にスマホに届いたのは、コンビニやスーパーとかで使える1000円分のギフト。
『今日これから爺様の所に行くんだろ?これでたい焼き買って「俺から」って言って渡しといてくれ。それで通じっから爺様には。あ、たい焼きは冷凍でも何でもいいぞ』
「氷叢さん?」
ひょこっと隣から僕のスマホを覗き込む麗日さん。
その距離の近さに一瞬、慌ててキョドってしまいそうになるが……
「うん。何か僕がこれから行くヒーローとコーチが知り合いらしくてね。コーチの代わりに手土産渡しておいてくれって」
「そうなんや。言動クズな割に意外にそういうとこしっかりしてるんだね氷叢さんって」
「ホント不思議だよねあのクズ」
……なるが、この程度では
さて、そんなクズコーチに何て返事をしようかな?だなんて考えていると、
「……緑谷、ひょっとして今、あのクズと連絡を取っているのか?」
「……ん?ああ、そうだよ轟くん」
返事を考えている僕に、彼は彼で僕たちを……正確には飯田くんかもしれないけど?様子を見ていた轟くんが話しかけて来た。
「……やっぱりそうか。じゃあ」
轟くんはコクリと僕の言葉に頷き、そして、
「……じゃあ、俺の代わりにあのクズに伝えておいてくれ。『一分一秒でも早く、なるべく惨たらしい感じで地獄に堕ちろクソ野郎』ってな」
「轟くん!?めっちゃこの前のアレの所為でムカついてるやん轟くん!?」
「……ん、了解。えーと『轟くんからです。一分一秒でも早く、なるべく惨たらしい感じで地獄に堕ちろクソ野郎』……との事です、と」
「デクくん!?デクくんはデクくんでわりとそのまんま普通に氷叢さんにメッセージ送ってるやん!?ホンマにそれでいいのデクくん!?」
慌ててる麗日さん。
まあでも大丈夫だよ麗日さん。このくらい僕とコーチ……というか母須恵砂町だと極々普通の挨拶みたいなものだから、
「……なんか代わりに言わせちまって悪ぃな緑谷。じゃ、俺も電車の時間だから行くわ。またな」
「うん、またね。お互い職場体験頑張ろうね轟くん」
「ああ」
「またね轟くん!!」
そうして言うだけ言って去っていく轟くんを2人で見送る。
『ポコン』
「……あ、早速コーチから返事が来たみたい」
「あれやねー。氷叢さんってあんな適当な感じなのに返事とかマメに返すタイプなんやねー。なんか意外!!2、3日くらいなら平気で普通に既読スルーかますタイプかと思ってた!!勝手なイメージだけど!!」
「あはは!!わかる!!わかるよ麗日さん!!僕も最初そんなイメージだった!!でも意外にマメに返事くれるんだよねコーチってさ。えーと……何てお返事来たんだろ?」
「どれどれ?どんな感じなん?」
そう言って僕のスマホを覗き込む麗日さんと2人、コーチからの返事見たのだけど……
『……??えー……どしたん親戚くん?なんか急にキレてんじゃん?何か嫌な事でもあったのかな?チョーウケるんだけど』
「…………」
「…………」
……そのメッセージを見て2人、一瞬考え込む。
そして……
「えっと……デクくん?」
「……何かな麗日さん?」
こちらを神妙な顔で見上げて問いかけてくる麗日さん。
「ひょっとしてだけど氷叢さん……この前、滅茶苦茶に轟くんをからかいまくってた事をすでに忘れていらっしゃる?」
「……『ひょっとして』だなんて、そんな前置きはいらないよ麗日さん。確実に忘れてる。これシンプルに忘れてるからあのクズコーチ……」
「うわぁ……まじかぁ……」
うわ〜……たはは……と天を仰ぎ、それから苦笑いする麗日さん。
まあそういう反応になるよね……
やっぱヤベェなあのクズ……2人で顔を合わせそう確信を深めている僕たちに、
「あ、あの緑谷さん!!」
「……え?あ?……どうしたのかな八百万さん?」
「なんだか嫌そうな顔してますわね!!どうしてですの!?」
「たはは……」
そんな僕達に八百万さんが話しかけて来た。
彼女は続けて、
「……こ、コホン……ま、まあ良いですわ……それは良いのですけれど……あの、緑谷さん?」
コホンと調子を整えて、改めて話を切り出そうとする八百万さん。
……そして僕はそんな彼女の先手を取るようにして。
「あーごめんね。勘違いだったら大変申し訳無いんだけど。もしも『クズコーチの連絡先を教えて!!』みたいな用件だったら力になれないよ僕は。コーチから『絶対に俺が許可したヤツ以外に連絡先を教えるな』って釘を刺されてるから僕」
「な!!何でですのーーーー!!!!!」
「本人曰く『色々とめんどくさいから』らしいよ。クズらしい理由だよね。実際コーチ的にはめんどくさいらしいし。僕はめんどくさいから深くは聞かないけど」
「うーん……もう、笑うしかないやんこんなん……」
ショックを受け頭を振る八百万さん、
それを見守る僕たち。
「……ま、まあ取り敢えず……取り敢えず、目先の職場体験をお互い頑張ろうよ八百万さん。八百万さんはどのヒーロー事務所に行くんだっけ?」
「………スネークヒーロー・ウワバミのヒーロー事務所ですわ」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ふ〜ん」
「で!!デクくん!?」
「緑谷さん!?何で急に頭上を見上げてますの!?緑谷さん!?緑谷さん!?」
スネークヒーロー……ウワバミ……ねえ……
……まあ、これは僕の勘違いかもしれないし……
母須恵砂町でトレーニングをして、たまにコーチの家のシャワーを借りる時。
洗面所やら浴室でみかける様々なアイテム……
陣取り合戦なのか?存在感アピールなのかマウントなのか?
歯ブラシやらシャンプーやら化粧品やら……雑多なアイテムの所有権を示す為に貼られたシール。
(……その中に、
……正直、追求するのも悪趣味だし。
目には入っていたけれどスルーしていたアレやらコレやら……
コーチもクズだけど、自分がヤッた女をトロフィーみたいに並べて他の男に自慢するタイプじゃないし。
「だから!!うん!!きっとコレは気の所為!!僕の考え過ぎ!!間違いない!!」
「デクくん!?」
「緑谷さん!?」
突然叫ぶ僕を戸惑いながら見るクラスメイトの女の子達!!
(……うん!!まあ大体!!あのクズコーチが悪い!!間違いない!!)
……こうして僕の職場体験が始まった。
……始める前から、正直かなり苦労した気がする。
主に……あのクズの所為で。
ああ轟くん……君の言う通りだよホント……
一分一秒でも早く、なるべく惨たらしい感じで地獄に堕ちて欲しいよねあのクズは……