「脳無……ねえ……」
「ふむ……」
雄英高校の仮眠室。
仮眠室というよりはもはや俺とオールマイトの待機室になりつつあるそこに、俺含む3人の男が集まり話していた。
俺、オールマイト、そして塚ちゃんさん。
警察関係者である塚ちゃんさんから、俺たちに伝えておかなければいけない事がある、と言われて作ったこの時間。
そこで彼が語った内容は脳無と呼ばれる怪人について……4月のUSJ事件で俺が捕らえたヴィランについての話だった。
「……チンピラの死体をベースに、筋力などを超強化してオールマイトと真っ向勝負出来る怪人を作る……つっても今の衰えてるオールマイトと、って事だけどね……それでも破格の戦闘能力だ」
「加えて……やはり、複数の個性を持っていたのか……」
一通り話を聞いての俺とオールマイトの言葉。
それに塚ちゃんさんはコクリと頷く。
「…………」
「…………」
「…………」
……そして、しばしの沈黙……
黙り込む俺たち3人の脳裏にはおそらく……というかほぼほぼ間違いなく、5年前に死んだ筈のあの凶悪なヴィランの名前が浮かんでいるだろう。
「……生きていたのか、ヤツが……」
あの時、確実に仕留めた筈だ……5年前にヤツの脳天を打ち砕いた右の手をじっと見つめながら……振り絞るような声でオールマイトがそうつぶやく。
オールマイトの宿敵。
オールマイトがかつて倒した筈のヴィラン達の王。
闇の支配者。
本来は一人につき一つしか持てない筈の個性を複数所有し、個性を奪い・与えるというその恐るべき力で裏社会に君臨していた魔王。
その魔王が実は生きていた……そう俺たちが警戒するのも無理は無いだろう?複数の個性を持つ怪人ってのは、つまりはまあそういうシロモノなのだ。
さらにそれがチンピラの死体ベースで、かつオールマイトと殴り合える身体能力持ち?
いくらなんでも闇深過ぎる。
警戒し過ぎと言うなかれ。
正直、いくら警戒してもし過ぎという事は無いレベルの厄ネタだぞコレは……
「USJでその脳無?という怪人と直接対峙した零至くんからも『ひょっとしたら』とは言われていたが……」
「マジで複数個性を持ってるとはね……AFO本人か?もしくはその系譜の後継者が生きている……それはもう確定でいいだろコレ」
「……確定かどうかを判断するには時期尚早かもしれないが……
その言葉に俺とオールマイトが頷く。
コレに関してはどれだけ警戒したとしても、警戒し過ぎだって事はまず無いだろう。
まあ大山鳴動して鼠一匹ってな事も当然ありうる。もしも万が一そうなったのだとしたら、俺とオールマイトを指差して「あの2人いくらなんでもビビり過ぎだぜハッハッハ!!」って笑い飛ばしてくれればそれでいい。
それでいい。まあ多少はムカつくけどね。
そんな俺の脳内で、いざ実際にそうなった時の様子がシミュレーションされる。
その妄想の中で、俺とオールマイトの2人にそんな暴言をブチかまして来たヤツ……
ソイツが、俺の脳内で明確なイメージとして浮かび上がる。
(あ〜の悪人面ならマジで言ってきそうだよなーやれやれ……まーいーんだけどさ。そういやアイツ、どこに職場体験行ったんだろか?受け入れ先とかあんのかねー?
side爆豪
「正直に言って、君の事は好きじゃない」
「……アアン?」
俺は今、都内にあるとあるヒーロー事務所に来ている。
ヒーローランキングでNo.4のヒーロー。
ベストジーニストのヒーロー事務所だ。
「どうせココに来たのも、職場体験で指名を受けた中で私の所が一番ランキングが高いから……とかそんな理由だろう?」
「……チッ」
図星を突かれ思わず舌打ちが漏れる。
その舌打ちを聞き「やれやれ……」とため息混じりに前髪を弄る目の前の男。このヒーロー事務所の主、ベストジーニストだ。
「……まあ一応ランキングの順位をちゃんと調べた辺り、あの
「……あん?……あ?」
はあ〜〜っ……と、
俺よりも……あのクズのがマシ……だと?
俺のそんな視線に気がついたのか?ベストジーニストはゆっくりと頭を振り、
「……ああ、すまないな。いくら君でも
「……アアン!!」
その言い方、その言いぶりにムカつき、俺は思わず!!
「テメエこそふざけんじゃねえよ!!その言い方だと!!俺よりもあのクズの方が存在感がデケェみたいじゃねえかよ!!」
ああ!!そうだ!!黙って聞いてりゃあ!!
「俺はぁぁ!!
舐めんなや!!一発かましてやる!!
「……ぐっ……がっ!!」
……そう思い、一歩前に踏み出した所で!!
「……やれやれだな全く……負けん気と凶暴性が異常なレベルで強過ぎる……だからこんな粗雑な挑発にも引っかかるのだ。一応、私は誉めたのだがね。あのクズよりはマシだ……と」
踏み出した所で……俺は全身を拘束されていた。
ベストジーニスト。
ヤツが操る繊維……糸。その個性によって。
個性・ファイバーマスター
力には自信がある自分。
その自分を、こうまでアッサリと拘束する目の前のヒーロー。
国内トップのヒーロー。ベストジーニスト、
俺はそんなベストジーニストを強く睨む……地元の連中であれば即座に怯えて目を逸らすであろうその視線。
「……体育祭での、君を見たよ」
そんな俺の視線をそよ風のように受け流し、
「同年代とは一線を画す圧倒的な才能……そして、それを十全に生かす卓越したセンス……正直、今すぐそこらのヒーロー事務所にサイドキックとして採用されたとしてもおかしくない程の能力だ」
ベストジーニストが、真正面から俺の視線を睨み返す。
「……しかし、その全ての長所を帳消しにしてしまいかねない程の暴力性・凶暴性……単純な能力ではなく君のその気質が、本来であれば優れたヒーローの卵として称賛されるべきその全てを台無しにしている。あのクズと同様にね。尤も……あのクズの場合は、君と違って怠惰と女癖の悪さ故ではあるが」
「……だから辞めろやその言い草ぁ……」
「……ふん?」
「俺が……あのクズより劣ってるみてえだろうが……!!」
「……ほう?」
女癖の悪さは知らねえ!!だがな!!
「短所が怠惰って言われてるアイツと俺を同列に並べんなや!!真面目にやってる俺が負けてるみてえだろうが!!結局アンタはぁ!さっきから俺の事をアイツ以下だと見做してるんだろうがぁ!!」
全身拘束されながらの俺の叫び。
もうちょいコッチ来いや!!身体は拘束されてっけど噛み付いてやっからかよぉ!!
がるるるる………そんな俺の叫び。それを聞きベストジーニストは「ふっ……」と笑い。
「……向上心は……間違いなく、あのクズよりも遥かに勝っている……か」
「アアン!!」
微かに……何?今、コイツ何て言った?
そんな俺の思いも知らず、ベストジーニストはコホン……と一拍置いてから。
「……超一流のヒーローになる為に必要な事は個性を含む単純な能力の高さだけではない。人格、服装などの身だしなみ、言動……君が今重要視している全て、それ以外の要素も大切になってくる。だからこそ我々ヒーローは人々から尊敬され、ヴィランから畏怖される。そして子供たちはヒーローに憧れヒーローを目指す。強力な個性を持つ子供がヴィランではなくヒーローを志す。それだけでヴィラン犯罪への抑止力となる程にな」
「………だから、何だってんだよ」
俺の疑念。
それを正面からベストジーニストは受け止め。
「爆豪。君があのクズを意識する気持ちは分からないでもない」
「………」
「……実際、君の理想のあり方に近いのだろうあのクズは?」
「………!!チッ!!」
図星を突かれ、思わず目を逸らしちまう。
「大衆に迎合せず、世間からの見え方など何一つ気にしやしない」
「………」
……ああ……そうだよ……
「……だが、強い。圧倒的なまでにあのクズは強い。その実力の高さだけである種の敬意を受け、君が意識してしまう程にあのクズは強い。アレほどまでに世間受けしない言動ばかりなのにな……全く、あのクズは……」
「………チッ」
ああ!!そうだよ!!確かに意識はしてるぜあのクズの事は!!
(あんだけやりたい放題やって!!好きな事を好きにやって適当な事ばかり言いやがって!!なおかつ超強くて
なんで俺はああじゃねえんだよ!!
俺は!!何でああなってねえんだよ!!
ヘドロに囚われた時の俺。
半分野郎に負けたと思っちまった時の俺。
そしてそんな半分野郎を圧倒し、かつUSJでも大暴れしやがったあのクズ!!
(クソがぁ!!クソがぁ!!)
叫ぶ……心の奥底で叫ぶ。ただ叫ぶ。
何故なら、声に出して他人に聞かせるには……あまりにもみっともないから。
あのクズへの敗北感……声に出しては認められないそれ。それを表に出さず自覚しながら、でも!!だがよ!!
(近いじゃねえか!!俺もクズも力はあって!!かつ社会不適合者だろぉがぁ!!何が違う!!一体!!俺たちの何が違うんだよクソがぁ!!)
心の中で怒りを爆発させる俺。
そんな俺の様子をベストジーニストはじっ……と見つめて、
「……私は、あのクズを矯正出来なかった」
「……あん?」
悔やむようにして……悔やむ?あのベストジーニストが?
「……だが」
……でも、それでもベストジーニストは俺をじっと見て、
「……だがそれでも……それでも、私の矯正があのクズにとって全て無価値だったとは思ってはいない。あのクズが心の奥底に秘める闇……それを包み、表に出さない為のデニムヴェールの一幕程度には……何か意味があったのだと、私はそう思っている」
(……何だよ、デニムって?デニムヴェールって何だよ?)
思わずそれを聞いて湧いた俺の疑問。
「……私の下でヒーローとは何かを学べ、爆豪」
……そんな疑問。それを遠くに押し流す程の強い瞳。強い意志を持った言葉。
「………」
それが、俺に真っ直ぐ突き刺さる。
「さっきも言ったが、君が学ぶべき事はたくさんある」
「………」
中学までは、ガン付けで誰にも負けた事の無かった俺。
……雄英に入った途端にこれだ……
俺の……俺の心を砕くみてえに……負けたくない気持ちを砕くみたいに……それ以上に強いヤツらが、俺の周りにウジャウジャと湧いて出やがって!!
「あのクズは高校時代に、何だかんだで私の下で職場体験〜からのインターンまで一通り終えた。君が取り敢えずあのクズを超えたいと思うのであれば、まずは私の下で職場体験をやってみるのがいいのではないかな?」
「……チッ……チッ……クソが……」
俺の舌打ち。それを肯定と受け取ったのか?ベストジーニストはくっくっくっ……と笑い、
「……まあ、悪いようにはしないさ。騙されたと思って、取り敢えず一週間頑張ってついてくるといい」
「……うっす」
……こうして、俺の拘束解かれ、俺の職場体験が始まった。
……そうして、早速騙されたと知った。
「何でさっきまでの流れでデニムを履かされて髪を七三に分けられてんだよ俺はクソがぁ!!」
「……ふっ……まだまだだな爆豪。あのクズならこうも大人しく従わなかったぞ」
「クソがぁ!!マジのマジのマジでクソがぁ!!クソがぁ!!」
(え〜何々?案外素直ちゃんじゃーん悪人面くん?チョーウケるんだけど)
そんなクソなクズの声が聞こえた気がした。
それが空耳だとはわかってる!!
わかってるけどよ!!たけど!!
「クソがぁ!!軽ぃんだよあのクズ!!クソがぁ!!」
俺は思わず、そう悪態をついていた。