氷叢家の種馬(ガチ)   作:のりしー

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職場体験5

sideステイン

 

地方都市ではあるが、保須市にもソコソコ栄えている繁華街はある。

そんな繁華街の一角。

 

夜の闇を裂くように輝く華やかなネオン……ガールズバーやキャバクラといった水商売の看板が輝くとあるビル。そこから一人の男が出て来る。

 

他人の美醜に関心の無い俺から見ても、驚く程に整った顔立ちの男だった。

 

そして、その男はヒーローコスチュームを着ていた。

 

 

 

……つまり、ヒーローだ。

 

 

 

 

そのヒーローはさして夜も深くない時間からご機嫌な様子。軽薄な笑みを浮かべながらフラフラと街を散策し始める。間違いなくアルコールも入っているのだろう。

 

 

 

 

(……巫山戯た男だ)

 

 

 

俺が最も憎む存在。

堕落したヒーロー。

 

 

 

まさに、そのお手本のような男だった。

ヒーローコスチュームを着たままガールズバーやらキャバクラに行っていたのだろうが、コイツ正気か?

 

 

「……♫♫……ふんふふ〜ん♫」

 

 

その男はへらへらと笑いながらビルとビルの間……繁華街の明かりの届かない、暗い路地裏へと入って行った。

 

 

(……好都合、だな……)

 

 

今宵のターゲットはこのヒーローにしよう。

今宵はこの男を生贄とし、この腐ったヒーロー社会への警鐘を鳴らすのだ。

 

 

 

そう考えていた俺にとって実に好都合だ。

 

 

(殺す……今夜の獲物はキサマだ!!)

 

 

潜伏していたとあるビルの屋上から、俺は移動を開始する。

 

 

ビルの屋上からビルの屋上へと跳び移りヤツを先回り。

 

そしてヤツが歩く路地裏、その進む先に到着。先回り成功だ。

 

 

 

「ふんふふ〜〜ふふ〜〜ふ〜ん」

 

 

 

暗い路地裏にはヤツの軽薄な鼻歌と、少し離れた繁華街の大通りから聞こえる喧騒が反響していた。

 

 

 

 

 

「♫♫♫……声はすれども姿は見えず〜〜♫♫」

 

 

 

 

 

言語化出来ない表通りの雑多な喧騒と、明確に聞こえるヤツの軽薄な鼻歌。

 

 

暗い路地裏でもさらに暗い闇。

 

そこに隠れる俺の耳に、ヤツの鼻歌だけが明瞭に聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「♫♫♫……見えて嬉しい〜〜Tバック〜〜♫♫」

 

 

 

 

 

 

「殺す!!!!」

ブチッ!!!

 

 

 

 

 

 

いい加減!!クソみたいにくだらない鼻歌にウンザリしていたところだ!!

 

 

 

「……およ?」

 

「死ね!!」

 

 

 

路地裏の闇から飛び出す。

 

 

 

 

 

 

「死ね!!ヒーローの面汚しが!!」

 

 

 

 

 

そして懐の刀を抜き放ち、飛び出した勢いそのままこのヒーローへと斬りかかる!!

 

 

 

 

 

「……は!!なろう系に氾濫してるチョロインよりもよっぽど男の誘いに弱すぎんだろ。マジウケるんだけど」

 

 

「……何ぃ!!」

 

 

 

 

 

 

ガギン!!

 

 

 

……が、しかし!!

 

俺の刀は悠々と受け止められてしまう!!

 

 

(……コイツ!!動き出しは俺よりも確実に遅かった筈なのに!!)

 

奇襲を仕掛けた筈の俺。

……その奇襲をこの目の前のヒーローは、悠々と腰に差した刀を抜き放ち受け止めてみせた。

 

 

(……チィ!!まぐれか!?ならば!!)

 

 

初撃を防がれたとしても打つ手は幾らでもある。

利き手の逆。

腰のナイフを抜き放ちヤツを斬り刻む……そう思って……

 

 

 

 

「……縛氷剣」

 

 

……ゾクッ!!!!

 

 

 

(……いかん!!このままでは!!)

 

 

 

……思っていた所で!!愛用の刀を手放す!!

逆手で斬りつけるなどとても不可能だ!!

痛みすら伴う程に脳を焼く危機感に従い!!俺は全力で背後へ飛び退く!!

 

 

 

「アイスバインド……って、へえ……やるじゃん」

 

 

(直感に従い後退(さがった)のは……正解だったか!!)

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィィイイイインンン!!!!

 

 

 

 

 

暗い路地裏に響く、俺の刀が凍る音……

 

 

 

 

「……思ってたよりもやるじゃん。駄ウサギを想定してイメトレしてたのは正解だったかもな」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

それを為した男は、最初に見た時と同じような軽薄な笑みを浮かべながら……

 

 

(……この男……先程とは瞳に宿す意志の圧が段違いだ!!)

 

 

俺のメインウェポンである刀。

その刀を凍らせ、かつ遠方に投げ捨てながら、俺から一度も目を離さないヒーロー。

表面上は軽薄な笑みのまま。だがしかし!!瞳だけは全く笑っておらず冷酷に輝いている!!

 

「チィッ!!」

 

腰のナイフを抜き、牽制で投げつける!!

 

しかし、

 

「盾氷剣・アイスシールド」

 

「な!!」

 

こちらへヤツが向けた刀の切先。

そこから円形の氷の盾が生まれ、俺の投げたナイフを弾く!!

 

 

「……次はこっちの番、かね!!」

 

 

 

さらに!!

 

生み出した氷の盾はそのまま!!

こちらへ向かってヒーローが突進してくる!!

 

 

「ぬぅ!!」

 

マズイ!!

氷の盾に隠されて!!ヤツの身体がちゃんと確認出来ない!!

 

(しかも!!速い!!)

 

 

正面に氷の盾を構え猛スピードで突進してくるヒーロー!!

 

 

 

(さらに後退するか!?左右に避けるにはこの路地裏は狭すぎる!!)

 

 

先程の交差の瞬間にヤツがやってのけた事。

打ち合った刀ごと、俺を凍らせようとしたあの能力!!

 

 

 

(あの氷の展開速度!!この狭い空間では左右に避けても凍らされる!!)

 

だから!!俺は後ろに下がるしかなくて!!

 

 

 

 

 

 

「槍氷剣・アイスランス」

 

 

 

 

 

 

「……ぐはっ!!」

 

 

 

 

 

視界を塞ぐ氷の盾。

その盾を内側から食い破って伸びてきた氷の槍によって、後退した俺の右肩はアッサリと貫かれた!!

 

 

 

(この……男!!!!)

 

 

 

態度はあまりにも軽薄過ぎる……だが……

 

 

 

(……だが、異常なレベルで強過ぎる!!何故だ!!何故これ程の男を俺が知らない!?これ程までに強ければ!!俺の耳に入っていてもおかしくないのに!!)

 

 

 

個性抜きで俺の奇襲をアッサリと凌いだ近接戦闘での力量。

からの、近・中……さらに、その気になれば遠距離も対応出来るであろう、氷の強個性!!

 

 

(巫山戯るな!!何故!!貴様程の男が無名のままなのだ!!)

 

 

右肩を貫かれた衝撃により後方に吹き飛ばされながら、俺の脳裏にはそんな恨み言ばかりがよぎっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side爆豪

 

「悪く無い報告書だな。特に文句もつけるところが無い。面白味は欠片も無いが」

 

「……悪くねえって言ってんのに、何でそんな文句タラタラ何だよアンタ」

 

 

 

職場体験3日目。

 

身だしなみやら言葉遣いやら……職場体験らしいパトロールも多少は交えながらの3日目を終えて、俺はその日の活動報告書をベストジーニストに提出した。

 

 

 

(……んでこれだよ……何なんだよクソが……)

 

都内にあるベストジーニストのヒーロー事務所。

その個室。

 

テーブル越しに対面に座るベストジーニストは、俺の書いた報告書を一通り眺めると「やれやれ……」と、実につまらなそうに口を開いた。

 

 

「まるで『10をやれと言われたから、10の力でキッチリ10だけやってやったゼクソが』と言わんばかりの報告書だな。実につまらん。工場で大量生産されたありきたりなデニムのような味気なさだ。実に面白くない」

 

 

「んだとゴラァ!!」

 

 

がるるるる………!!と吠える俺を、本当につまらないモノを見るようにベストジーニストが一瞥し、

 

 

「……あのクズならば、私が同じ課題を出したら確実に別の回答を持ってくる」

 

「……ああん!?んだよそりゃ!!!」

 

 

あのクズヒーローを比較に出されキレる俺!!

そんな俺に、

 

 

「あのクズならば『10をやれと言われたので、なるべく楽して7の力だけ使って10の成果を出しました』……そういう事をやって報告書を持ってくる。だから爆豪……君の報告書は面白く無い。そう言っているのだ」

 

 

 

「………んだと!?」

 

「……フッ。君はなんだかんだで実に真面目だな」

 

「……アアン!?ケンカ売ってんのかよゴラァ!!」

 

「誉めてるのさ。素直に受け取りたまえよ」

 

激昂する俺の様子をくっくっくっ……と楽しそうに笑いながらベストジーニストは、

 

 

「……今も言ったが、君はなんだかんだで真面目だ。だから正面激突・正面突破……正攻法で全てを片付けようとするフシがある」

 

「…………」

 

 

「あのクズのやり口を真似しろとは言わん。だが、そういうやり口を知り、そして参考には出来るようにしておけ。それは決して無駄にはならない」

 

「……ちっ、クソが……」

 

 

「何事にも全力全開……それが出来る事は素晴らしい。だがしかし、世の中にはなるべく少ない労力で最大限の成果を出すやり方もある。君には才能がある。だからその両方の存在を知っておくべきだ。そういう道もある。それを知っているだけで君の選択肢は広がるだろう」

 

「………」

 

今の言葉には、確かに記憶に留める価値がある。

 

だから、俺は文句を言うのを辞めてその言葉を素直に聞いた。

 

そんな俺の様子を確認し、ベストジーニストがゆっくりと頷く。

 

 

 

(……面白くねえ)

 

 

 

……一体、何なんだよクソが。

 

 

(……氷剣ヒーロー・アイスブレイド。一体……何なんだよアイツはよぉ)

 

 

 

 

デクが慕い。

オールマイトが認め。

……そして、ベストジーニストがここまで評価するあの男。

 

 

 

「……一体……何なんだよあのクズは……クソが」

 

 

「……ふむ?」

 

 

俺の口からふとこぼれた言葉。

それにベストジーニストが反応する。

 

 

 

「あのクズが何なのかと聞いたな爆豪?」

 

「……ああ、何だよありゃ?」

 

 

 

反応したから、俺も仕方無く反応を返す。

気になってるからとか、そんな理由じゃねえんだ。

 

あくまで、あくまでもベストジーニストが反応したから……そう、反応しちまったから仕方無く聞いてるだけだ。

 

 

 

 

 

「……端的に言えば……あのクズは、今代のNo.2ヒーローになりそこねた男だ」

 

 

「…………………………………………は?」

 

 

今代の?No.2?

 

 

No.1は不動のオールマイトで……

 

 

 

 

 

「あのクズが真面目にヒーロー活動をやっていた場合……オールマイトを除く全てのヒーロー……その順位が一つ繰り下がる(・・・・・・・)……下がっていたかもしれない。アレはそういう類の男だ。それが我々にとって幸か不幸かはわからんがね」

 

 

 

 

 

「……は?……は?は?」

 

 

チョット。待て……

今……ベストジーニストは……何て?

 

 

 

 

 

「エンデヴァーの不幸とは上には不動のオールマイトがいて、かつ本来ならば下から自分の地位を脅かす存在であるべきクズが真面目にヒーローをやっていなかった事だろうな。だからこそ1位にもなれず、2位以下にも堕ちる事も出来ない。だから夢をいつまでも諦める事が出来ないのだろう……悲しい男だ」

 

 

 

物心ついてから、ずっとNo.1のヒーローはオールマイトで。

 

……あまり意識はしてなかった。正直、意識はしてなかったけど……No.2はエンデヴァーだった。

 

 

 

 

(……その、No.2のエンデヴァーを……)

 

不動のNo.2を。

 

 

 

脅かす程のヒーロー……

 

 

(……それが、あのクズだってのかよ……)

 

 

「……とはいえ、エンデヴァーもそう簡単には負けないだろうがね。上を目指し、下からも突き上げられ、さらに努力する事によって新たな境地に至っていた可能性もある。ifの話を掘り下げても仕方が無いが……あのクズは、本来はそういう立ち位置にいるべき男だ」

 

「……あの、クズが……かよ……」

 

 

……何となく、あのクズが強いのはわかっていた。

だけど……

 

 

(……マジでそういうレベルなのかよ、クソが……)

 

 

自分の何となくの感覚に、ベストジーニストというトップレベルの保証がついた。

 

ああ!!やっぱり!!あれは俺が超えるべき壁だ!!

……絶対に、いつか負かしたる!!

 

 

胸中で燃えるそんな激情。

 

 

 

「……だから爆豪……あのクズに目をつけた君のセンスは実に正しい」

 

 

 

……それを、後押しするようにベストジーニストがつぶやく。

 

 

「やってみせろ。あのクズを越えてみせろ。協力はしてやるさ」

 

「……いいのかよ?アンタ……あのクズとも仲良いんじゃねえのか?」

 

「……ハッハッハ!!」

 

「あん?」

 

俺の言葉を聞いて実に楽しそうに笑うベストジーニスト。

 

 

 

「……君がそんな気を遣う必要は無い。どうせあのクズの事だ。私がどうこうした所で『あれ?ぱいせん今何かしてたっすか?マジウケるっす』とでも言って終わりだろうよ!!」

 

 

「マジで言いそうだな、クソが……」

 

 

「くっくっくっ……トップヒーローを目指すならば、まずはアレを越えてみせろ」

 

「……ちっ……やってやるよクソが!!」

 

 

……俺はそう言うと、ベストジーニストが持っていた報告書を奪い取る。

 

「?」

 

 

 

 

 

「……明日、今日のを書き直したのと明日の分、2日分の報告書を提出する……文句あっかよクソが!!」

 

 

 

 

 

「……フッ!!ふはは!!文句などある筈が無い!!期待してるよ爆豪!!」

 

「……っち!!クソが!!」

 

見透かすようにこちらを見るベストジーニストに背を向けて、俺は部屋を出る。

 

やる事も、覚える事もたくさんある。きっと。

 

 

だから俺は……今日一日の活動内容を思い返し、もっと別のやり方が無かったか?を脳内で無数にシミュレーションしながら家へと帰った。

 

 

 

 

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