「へえ……タフだねぇ。まだ起きれるんだ」
「…………」
ビルとビルの間にある暗い路地裏。
俺の視線の先で、苦痛に耐えながらヒーロー殺しが立ち上がる。氷の槍で右肩を貫かれたばかりなのにご苦労さんな事だ。
(……ま、貫いたのは俺なんだけど)
「俺にはなすべき事がある……こんな所で倒れている暇など……無い!!」
「……なすべき事ねえ……それがヒーロー相手に辻斬りってワケ?随分とまあ変わった趣味だこと。悪趣味が過ぎて全くもってウケねーわ」
右肩を庇いながら左手でナイフを抜き、俺に向けて構えるヒーロー殺し。それを見て俺も刀の切先をヤツへと向けた。
「俺はこんな所で止まるワケにはいかない……ヒーロー気取りの拝金主義者共……ヒーローを名乗る薄汚い豚共をこの手で誅し!!この間違った世の中を正すまではなぁ!!」
「……拝金主義者……ねえ……」
……こちらの隙を伺う男……その挙動に意識を向けながら、
「真面目な話……ヒーローに『清貧』を求める意味ってなんかあんの?としか思わねーんだけど」
「……何だと!!」
俺の言葉に激昂したのか、ヒーロー殺しが吠える!!
「ヒーローとは見返りを求めてはならない!!自己犠牲の果てに得うる称号でなければならない!!」
「……正直『それってアナタの感想ですよね』としかならないワケなんだが」
ドーモ、ひろゆきならぬゼロゆきです。はは、ウケるね!!
いやホントに。
「ヒーローってのは、ようするに人を救う者だろ?そして救われる側の人間が、ヒーローの報酬の有無を気にするとは思えねーんだよな。結論、ヒーローに必要なモノは人を救う能力じゃね?正直、そこに金銭的な報酬の多寡は関係ねーと思うんだけど」
「……それは、世に蔓延る職業ヒーロー共の思考だ!!」
「だからそれの何が悪いの?って話なんだけど。結論……見返りを求めないけど無能なヒーローよりも、高額な報酬をもらうけどその報酬以上に人を救うヒーローがいたとしたら、人々は後者をありがたがるだろーよ。ま……高額な給料をもらいながらもあんまり活躍しないヒーローがムカつく。って話なら理解はするけどな。そう、俺みたいな……ね」
「貴様程の男が……それを言うか!!」
苦虫を噛み砕いた後に発したような渋い声。
「……ふん」
俺はそれを鼻で笑いながら、
「……ま、今の行き過ぎたヒーロー社会が良くない……って考え自体はわからなくもないがね。だからって何でヒーロー殺して回るのさ?ってな話なワケよ。それでホントに今の世の中が良くなるとか思ってるワケなんおたくは?」
「そんなモノは間違っている!!堕落した考えだ!!ヒーローは正しく!!身を削り!!自らを犠牲にして世界を守るべきだ!!」
「……だから言ってんじゃん。噛み合わねえなぁ……それぞれ報酬はもらってるけどちゃんと皆、それなりに世界を救ってんだろ?それの何が悪いの?……って、あー……もしかしてそゆこと?」
あーあーなるほど。
なるほど、なるほどね。
なるへそー。確かに、それなら合点がいく。
ヒーロー殺しとの不問な問答……そのやり取りの中で俺は確信した。
……俺がこのヒーロー殺しの……その考えの、一体何処に違和感を持っていたのか?
その、答えを。
「なあヒーロー殺しさんよ……アンタ、ヒーローが正しいだの何だの……そこだけを気にしてて……『ヒーローに救われる側の人間』の事はなーんも考えてないんだな」
「……なん……だ、と?」
俺の言葉を聞いて、怪訝な顔をするヒーロー殺し。
「さっきも言ったろ?『救われる側の人間が、救う側の報酬の多寡を気にするワケないだろ』ってな。よくわかったよ。結局、アンタは自分が大好きな『
「貴様ぁぁ!!俺を愚弄するか!!」
俺の言葉に激昂したのだろう。暗い路地裏にヒーロー殺しの叫びが響く。
「なんぼでも愚弄するさ。一応、真面目に聞いた俺がバカみてえじゃんかよこんなん。ああ……もうダメってわかってるけど一応聞いてやろーか?」
「何を!!」
「テメエが思い描く理想通りの社会になったとして……その社会は、今よりホントにマシになってんのかよ?」
「なるに決まっているだろう!!正しきヒーローが!!正しき社会の為に!!身を削り奉仕するのだ!!今より良い社会になるに決まってる!!」
「……その『正しき社会』とやらに具体的なイメージが無いって話なんだが……ま、おたくの底は知れた。これ以上の問答は時間の無駄だな」
(……ああ、つまんねえ)
「テメエの理想通りの社会になったとして、今の世の中にある様々な問題はホントに解決すんのかよ?異形差別の問題は?新しく産まれてくるガキ共の個性が年々強力になっていって、教育現場が疲弊してる問題は?他にも色々とあるけどよ。この世の中、ヒーローのあり方どうこうだけで解決出来ねえ問題のが多いだろーが」
「それは!!正しきヒーローが!!」
「……結局、どこまでも他力本願なんだなテメエは」
ヒーロー殺し・ステイン。
ヒーロー殺しという凶行に走る前は、真面目にヒーローの意識改革の活動をしていたと聞いた。
けど……
「……何でテメエの活動が、人々の支持を受けないのかよくわかったよ」
つまり、コイツは、
「オマエは、
「!!!!」
「徹頭徹尾、自分の視界内のヒーローしか見てない。ソイツが自分の理想通りのヒーローがどうかしか考えていない。だから、ヒーローじゃない一般の人々の支持を集められない。そりゃそうだ。オマエの言うとおりの世の中になったとしても、その世界が今の世の中よりも良くなってるとは思えないんだからよ」
結論、オマエは、
「本当に世の中を良くしたい……とか欠片も思ってねーんだよテメエは。だから世の中からそっぽを向かれる。んで、そっぽを向かれたからって、そっぽを向いた人々の注意を引きたくてさらに過激な凶行に走る……いい加減にしろよこのゲスが」
「ならば!!そう偉そうに語る貴様は!!一体何のためにヒーローをやっているのだ!!」
「金」
「……この、薄汚い拝金主義者が!!」
俺の言葉を聞き、こちらを睨む視線の圧をさらに強めながらヒーロー殺しが叫ぶ。
だけど、
「金のためにヒーローやって何が悪いの?ヒーローったって霞を食って生きてける訳がねーだろが。現実問題、衣食住を整えるには金はいるだろ?」
「……ヒーローが生きていく為の最低限の報酬を得ることは……認める……」
「は!!笑っちまうな。その最低限の報酬っていくらよ?この国の平均年収くらいは認めてやるぜ!!とか言っちゃうワケ?国が全ヒーローの年収を固定して管理するのかよ!!はは!!ウケるね!!まるで社会主義者・共産主義者みてーなセリフだわな。うん、ヒーロー社会主義!!ヒーロー共産主義の誕生じゃねーかマジで!!ウケるわそれは!!最終的に上手くいかないトコまで予想がつくのが最高だ!!最高に笑えるねマジで!!」
「貴様ぁ!!貴様ぁぁぁぁぁ!!」
「吠えても何も怖くね〜よ……あータバコ吸いてー」
「貴様は最悪のヒーローだ!!それほどの力を持ちながら!!あまりにも志が低過ぎる!!」
こちらを指差し叫ぶヒーロー殺し。
それに、
「志なんぞ低くて結構。俺はそういうヒーローさ。身の回りの変態連中の面倒を見て、んで報酬はちゃんと頂く。美味い酒、美味いメシ、んでタバコに……後は女か?でも女には金かけてないからなー俺は……身近な連中を助けた報酬で、そんなチンケな日々の幸せを手に入れる。それの何が悪い?」
「だから!!そんなものはヒーローではない!!ヒーローとは!!オールマイトのように見返りを求めず人々を救う存在であるべきだ!!」
「………………………………………………………………………………………………………は?……今、何つったよテメエ?ひょっとして、オールマイトの名前を出したのかよこのゲス?テメエのクソみてえな考えを正当化する言い訳に、オールマイトの名前を出したのかよ?なあ、おいコラ?そこの外道、なんか言えや」
「……ぬ!!……う!!」
…………カチン、と頭の中でスイッチが鳴った。
「オールマイトが……アイツが、どんだけ身を削りながら戦って戦って戦い抜いて……んで、その果てでようやく今の平和な社会を作ったのかも知らねえクセに……その平和な社会を作るのに何一つ協力も貢献もしてねえくせに、今の世の中が平和ボケしてるって辻斬りなんぞしでかしてんのかよテメエは?」
「……あ……う………」
たじ……っと、ヒーロー殺しが、一歩下がる。
……ずっ……と、俺は一歩前に踏み出す。
「つまりアレかテメエは?オールマイトが作り上げた平和な社会に何一つコストを払わず住んでる分際で、その平和な社会で弛んでるヒーロー共が気に入らねえ!!とかそういう事を言いたいワケか?オールマイトが今の平和な社会を作るまでにどれほど苦労をしたかも知らずに……それこそ血反吐を吐くような……それも知らずに……テメエが評する、ヒーロー達が平和ボケしていられるような社会をどんだけ望んでいたかも知らねえで……そういう事をぬかしてるワケかテメエは?そんな……そんな、クズとかカス以下のヘドロみてえな薄汚ぇ思考で……」
……そんなクズ以下のゲスな思考で、
「……
……俺はその身に秘めた冷気を解き放つ!!
「……ぬぅぅ!!」
俺の全身から放出された冷気。殺気。
その冷気に気圧され、ヒーロー殺しが一歩、二歩と後退りする。
個性・コキュートス
天に届けと望まれ、名付けられたその力。
「絶氷剣・アブソリュート ゼロ」
絶対零度。
全てを絶ち切る氷の刃。
「……俺的判決、即死刑だ」
一歩、俺は前に踏み出す。
「…………」
一歩、ヤツが下がる。
「……くたばれ。テメエはクズ以下のゲス野郎だ」
「……俺は……俺は!!こんな所で!!こんな所で死ぬ訳にはいかない!!いかないのだ!!」
近づく俺。下がるヤツ。
縮まりそうで縮まらない両者の距離。
……ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!
「!!」
「……!!」
少し離れた所から、爆発音が鳴り響く。
その音と同時、俺はヤツの懐へと飛び込んだ!!