氷叢家の種馬(ガチ)   作:のりしー

5 / 5

『何だよこの作品種馬ってタイトルについてるのに全然主人公種馬してねえじゃねえかよ種馬詐欺かよこんにゃろう』

……と不満を抱いていた方へ朗報です。
待望の種馬回ですよー(白目)


*今後もこういう話の前にはタイトルに『種馬話』とつける予定です。本筋の物語への影響は無いので読み飛ばして頂いても大丈夫です。


種馬話〜炎髪レディは男運がすこぶる悪い〜

sideとある女性プロヒーロー

 

女にだって飲みたい夜はある。

例えそれがプロヒーローであろうとも。

 

昼の仕事のストレスにより突発的に飲みたくなった私は、高校卒業後に作ったヒーロー科同期女子のグループラインに、

 

 

 

『ねえ、今日ちょっと飲みたい気分なんだけど誰か飲まない?』

 

 

と、メッセージを送った。

 

しばらくするとポツポツと返信が来る。

『ごめん今日はいけなーい』というモノが大半ではあったが、それでも突発の誘いにも関わらず2人から『行けるよー飲も!』と返事が来た。非常にありがたい。

 

そして、少し遅れて……

 

……ヒュポッ!!

 

 

 

「……ん?マジ?あの子も来れるんだ。へぇ!!珍しー!!」

 

 

ちょっと予想外だったメンバーから『もしかしたら途中で抜けるかもだけど、久々に皆と飲みたいし私も行く!!』と返信が来たのである。

 

 

 

普段は忙しく、いつもこの手の誘いを申し訳無さそうに断る彼女。

当然だ。

何せ彼女はあのNo.2ヒーローであるエンデヴァー事務所に所属する優秀なサイドキックなのである。

しかもかなり高い評価を得ているようであり、私達と同期という若さにも関わらずエンデヴァーの片腕的なポジションになりつつあった。

 

しかも同じ女性の目から見てもかなりの美人。スタイルも良し。

 

下手をすれば女性ならではの醜い嫉妬のターゲットになりかねないような彼女ではあるのだが……

 

 

「ふふ♫今日は楽しい飲み会になりそうね!!」

 

あるのだが……そうはならない。

 

 

 

なんせ彼女は……

 

 

 

ヒーロー名・バーニンこと上路萌(かみじもえ)は……男運がすこぶる悪いのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーし皆飲み物揃ったね!!それでは〜……」

 

 

「「「「かんぱーい!!!!」」」」

 

 

 

ここは都内にあるとある居酒屋。

防音のしっかりした個室が用意されており、私達のようなヒーローが飲み会の場所に困った時に重宝する。そんなお店。

 

その個室で私とバーニン……今後は高校の時のように『萌』と呼ぶ。と他2人の計4人は久方ぶりの再会を喜びグラスを合わせていた。

 

久方ぶりとは言ったものの、基本的に女4人が集まれば話題に困る事などまず無い。

 

まあ話題の大半は仕事の愚痴が占める訳ではあるが……ヒーローコスチューム着てるとエロい目で見られてマジうざい問題だとか、最近あったムカつくセクハラ一般人野郎とか、仕事面は超尊敬しているがそれはそれとしてオッサンの脇が臭いのひたすら臭いの問題だとか……まあ楽しくゲラゲラ笑いながら話して盛り上がる。

 

……うん。それはそう。

いきなり本題に切り込むだなんてのは下策中の下策。

 

萌を除く女3人はアイコンタクトを素早く交わし……今だけは完璧なノンバーバルコミュニケーションをやってのける。

 

本日の飲み会は2時間制の飲み放題。ドリンクラストオーダーは飲み会終了30分前。つまり、

 

 

 

 

 

 

(((勝負は………飲み会開始から45分後!!!)))

 

 

 

 

そして随分と長く感じた45分が経過し……私達が待ち望んだ時間が来た。

 

 

 

 

「「「……で???最近『どう』なのよ萌???」」」

 

……私達3人の声が、揃う。

 

「『どう』って?」

 

キョトンとした様子の萌。そんな彼女に。

 

 

 

 

 

「「「惚けんな。あの『超絶イケメンやる気ない系ヒーローのセフレくん』と最近どうなのよ?って聞いてるに決まってるでしょ???」」」

 

 

 

 

「……………」

 

 

 

 

 

萌はしばらく無言……そして、無言を続け……

 

 

 

 

………ガッ!!グイッ!!ゴクゴクゴクゴク!!

 

 

 

 

……無言を続け!!無言のままに勢い良くジョッキを手に取ると!!まあまあお酒は残っていたけどそんな事気にする事も無く一気にジョッキの中の全ての酒を飲み干した!!!

 

 

……ドンッ!!

 

 

 

「あのクズとは続いてるってか続いてたけどもう終わり!!全部終わりにする!!別れる!!切る!!あんなクズバカの事なんてもう知るもんか!!!」

 

 

ジョッキをテーブルに叩きつけ叫ぶ萌!!

 

 

「「「…………」」」

……私達3人はそんな彼女に敬意を評し……

 

 

………ガッ!!グイッ!!ゴクゴクゴクゴク!!

 

 

……評し、私達3人もそれぞれグラスの中の酒を一息で飲み干し、流れるような美しい連携でスタッフを呼び、新たなお酒の注文を完了。そしてしばらくして……それぞれに新しいお酒が届き!!

 

 

 

「「「ほう……詳しく話を聞こうじゃないか……」」」

 

 

飲み会前に期待した通り。

やっぱり、面白い事になってきた!!

 

そうこの女は……萌は、優秀なのにすこぶる男運が悪いのだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうは言ってもまあいつもの事何だけどさ!!アイツ!!ラインに既読つけるだけで全然返信してこないし!!電話しても出ねーし!!どうせどっか他の女と一緒にいるに決まってんだよいつもの事だもん!!わかってたけどいい加減にもう我慢の限界!!」

 

 

萌の想い人……もとい、セフレ。

氷剣ヒーロー・アイスブレイド。

氷叢零至。

 

滅茶苦茶イケメンかつ高身長。

性格はかなり軽薄な感じと聞いている。

そんな彼に、萌はメッチャ沼っていた。

 

 

 

ああ……上路萌は、男運がすこぶる悪い!!

 

 

 

「まぁまぁ……そんなの前から言ってたじゃん?」

「そーそー……それ知ってて続けてたんでしょ?」

「今さらそれぐらいで切る必要ないんじゃない?」

 

先を促す為の『とりあえず』の相槌を打つ私達。 

それに、

 

 

「でも!!アイツあんだけ言ってもタバコ辞めないし!!もっと真面目にヒーロー活動しろ!!って言っても絶対にやらないし!!何度言っても私の言う事聞かないんだよ!!もういい加減頭に来た!!」

 

 

(((……うん。確か前もおんなじよーな事言ってた)))

 

「実力を隠してるだけで!!アイツが!!零至が本気になればもっとスゴイのに!!本当にスゴイのに!!ちょっと心を入れ替えて真面目に頑張るだけでランキング100位圏内は最低でも絶対に行ける筈なのに!!」

 

(((……それは本当かなぁ?)))

 

 

流石にそれは贔屓目が過ぎるのでは?と思うけど。

 

そんな私達の疑いの目に気づく事なく、萌は手元のジョッキを勢い良く傾け、

 

「……っぷはぁーー!!でもいいの!!もう関係ないから!!あんなクズ零至の事なんて知らねえから!!もう終わり!!アイツとはこれで終わり!!完全に終わりだから!!」

 

結構な量の酒を一気に飲み干し、そう叫ぶ萌を前にして私達3人が思ってる事は一つ。

 

 

(((まあ!!アンタ前にもおんなじような事言ってたけどね!!!)))

 

 

……という事である。

 

結局、未練たらたらなのであるこの女は。

 

だからこそ……

 

「まあでも……良かったじゃない萌。これでその『顔が良いだけのクズくん』とはおさらば何でしょ?」

 

「……(ピクッ……ピクッ……)」

 

「そーそー……アンタ美人だし性格も良いし仕事も出来るんだから……そんな『顔だけ良いクズくん』とはさっさと別れて正解だよ。良かったじゃん萌」

 

「……(ピクッ……ピクッ……)」

 

「大体萌はその『顔だけのクズくん』を本当はスゴイって言うけど、ホントにそうかだなんてわからないでしょ?俺はまだ本気を出してないだけ仕草が上手い、ただのクズ野郎の可能性もあるよ?うん!!やっぱ別れて正解だよ。良かったね萌」

 

「……(ピクッ……ピクッ……)」

 

 

 

 

(((ほーら!!『彼』の悪口を言われるとすーぐ機嫌悪くなるじゃん!!)))

 

私達が言った彼の悪口を聞いてこめかみをピクピクさせる萌……わかりやすいのよねーホント。

 

「で……でもさ、アイツ怠けてるように見えてちゃんと身体は鍛えてて……」

 

 

「「「ヒーローが身体を鍛えるのは当然でーす」」」

 

「で!!でも!あの氷系の個性も強力だし!!」

 

「「「真面目に使ってないなら宝の持ち腐れでーす」」」

 

「ああ!!でも!!……でも!!ああもう!!」

 

あんだけボロクソに言っていたのに、いざ自分以外の人間が彼の悪口を言うとすぐ庇うのである。ホントわかりやすい。

 

 

「でも……でも……ええと……でも………あ!!」

 

そして、何かを思いついたのか萌は、

 

 

 

 

 

「零至ね!!煮魚を凄い綺麗に食べるのよ!!」

 

「「「……ほう」」」

 

……お、これは新しい情報だな。

3人、ワクワクしながら萌の言葉に耳を傾ける。  

 

 

「2週間前くらいに2人で飲みいったんだけど……そん時の居酒屋で頼んだ煮魚をね、アイツ箸だけ使って凄い綺麗に、凄いお上品に食べるんだよ!!」

 

 

(((2週間前にも会ってんのかーい!!!)))

 

 

3人ともそう思ったが、それを口に出すとこの面白い流れが途切れると思ったので、心の中だけで叫び話の続きを待つ。

 

 

「だからさ……古い名家の出身って言ってたし、今は『アレ』だけど根は真面目で礼儀正しいヤツだと思うんだよ私はさ。躾とかしっかりしてる感じの。だから私が頑張ってアイツを変えてやれば……零至はもっと出来るヤツだ……って思ってる……思っています……ああ……でも思い出して来た……思い出して来ちゃった……ああ!!アイツね!!あのクズ!!その後の夜の事!!アイツどうしたと思う!?」

 

「「「どーしたのー???」」」

 

 

 

私達の相槌。彼女はそこでまたジョッキを傾け喉を潤し一拍。

そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのクズ零至!!私が『口でご奉仕』してやってる最中に!!よりにもよって寝やがったのよ!!ああマジであのクズ!!」

 

 

「「「あーそれは間違い無くクズ。思ってたよりクズ」」」

 

 

「んでムカついて起こしたらさ!!『あー悪ぃ悪ぃ。飲んで帰って来てシャワー浴びてさっぱりしてベッドに横になって、おまけになんか気持ちよくて暖かいから思わず寝ちまったわ』とか言うわけ!!ありえなくない!!マジあのクズありえねえ!!」

 

 

「「「うん完全にクズ。マジで別れた方がいいと思う」」」

 

 

 

ガーッ!!と吠える萌。無理も無い。 

皆でどうどうと萌を宥めつつ……そんなタイミングで、

 

 

……ブッブブ。

 

「ん?萌……今、萌のスマホ……」

 

……バッ!!

 

私の言葉を最後まで聞く前に、萌は凄まじいスピードでスマホを手に取ると、私達に見られないように通知の内容を確かめた。

 

「……あのクズ……今さら返信来やがった……」

 

複雑そうな萌の声と表情。

 

おおおお……

 

……そして、声に出ない私ら3人の声。

 

このタイミングで「お時間30分前でーす。ラストオーダーのお時間でーす」と店員さんが来たのでそれぞれドリンクを追加。

しばし待ち最後のドリンクが来た。

 

 

(((さあ!!ここからが本日最後のラストバトル!!!)))

 

 

「どしたん?返事来たんでしょ?何か返さないでいいの?」

「ってかもうどうせなら通話しちゃいなよ通話」

「大丈夫大丈夫……ここ個室だから多少は大丈夫でしょきっと」

 

囃し立てる私達の声。それに……

 

 

「えぇぇ……まぁ……うん……」

 

 

複雑そうな萌。だかしかし、別れると言った直後に来た彼からの連絡に、嬉しそうな気持ちを隠しきれなかった表情を私達は見てしまっている。

 

だから押す!!押すのだ!!プッシュすればきっと萌はここで連絡する!!何なら通話する!!彼と話したくて仕方ないはずなのだから!!

 

そして……しばらく逡巡してから、萌は……

 

「……ん……じゃあ皆ごめん……少しここで通話するね」

 

「「「全然!!気にしないで!!!」」」

 

マジ気にしないでいい。何故ならこれこそが最高のエンターテイメントなのだから!!

 

そして萌が彼に通話をして……

 

 

 

「……あ!!繋がった!!こら零至!!アンタなんで返事返さないのよ!!……はぁ!!寝てた!!何バカ言ってんのよアンタ72時間ぶっ続けで寝てたって訳!?んな訳無いでしょ!!……何それ『え?なんか急にキレてんじゃん。マジウケる』じゃないでしょこのクズ!!……んで『何時にウチ来んの?』じゃないわよ!!もうホントにアンタは!!もー!!」

 

(((……ははーん……)))

 

 

通話が繋がった瞬間。さっきまでのしゅん……とした様子から一変し、フルスロットとなった萌。

 

 

「何よ!!『もーめんどいからタクシー代くらい出すからはよ来いよ』じゃーないわよ!!タクシー代くらい自分で出すっての!!何ならアンタよりよっぽど稼いでるんだからねこっちは!!アンタの!!そういう!!普段はちゃんと連絡返さないのに!!こういう時だけ都合よく連絡する!!そーいう所に怒ってるんだからねコッチは!!」

 

 

……なるほど。君はわかったかねワトソン君?

つまりこれは……

 

 

「『何キレてんの?酔い過ぎじゃね?』じゃないでしょアンタ本当に……何?『そろそろなめこの味噌汁とか飲みたいでしょ?』って?まあ……確かに結構お酒飲んでるし……なめこのお味噌汁は美味しいし好きだけど……『んじゃもうコンビニ着くから買っとく』ってコラ!!私まだアンタの家行くって言ってないでしょ!!なんでアンタはいつもいつもそう自分の都合ばかりで!!……『あーあ。せっかく買うのに。なめこの味噌汁かわいそー』じゃないのよ!!『前に飲んでからウチ来た時になめこのお味噌汁おいしーって飲んでたじゃん』ってそーだけど!!もー!!……あーー!!もーー!!………ううう!!!」

 

ううう……

 

……と、少し呻いて……そして萌は……

 

 

 

 

「……じゃあ……もう……なめこのお味噌汁飲みたいし……無駄にしちゃうともったいないし……仕方ないから……これからそっち行く、ね……」

 

 

「「「…………」」」

 

 

そう言ってから二言三言言葉を交わし、萌が通話を終える。

 

「……あ」

「「「………(ひらひらひら)」」」

 

無言で仲良く3人手を振る私達。

そんな私達を見て萌は赤面し……そして、

 

「ご!!ごめんね!!皆!!この埋め合わせはまた今度!!」

 

「「「いいからはよ」」」

 

「……ホントにごめん!!」

 

そう言うと、仕事用としてはちょっと大きめのバックから財布を取り出し、ちょっと多めにお金をテーブルの上に置き、そそくさと萌は店を出て行った。

 

 

私達3人はそれを見送り……そして……

 

 

 

 

 

 

 

「本日の決まり手……なめこのお味噌汁……」

 

「……しかもインスタントの……ね……」

 

「……コンビニのインスタントお味噌汁にもったいないも何もないでしょ……保存期間いくらだと思ってんのよ……」

 

 

 

残っていた女3人ため息。そして顔を見合わせて笑う。

 

 

 

……つまり、正解はこういう事さワトソン君。

萌は多分、今日は仕事を早く上がれて、なおかつ明日が休みの日だったのだろう。

 

それが数日前からわかっていたのであのクズに事前に『会いたい』的なラインを送り……そして見事に既読スルーをされていた。  

 

気落ちした萌は、だがしかし微かな希望を抱きつつ……それがあの大きなバックだ。中には確実にお泊りセットが入っている……都合良く私が送った飲み会の誘いに食いつきここに来た。

 

ああ、確かに彼女は『もしかしたら途中で抜けるかも』と最初から言っていたのだ。私はそれを仕事関係かな?と思っていたのだが、蓋を開ければこういうことだったのである。

 

 

「……この後は完全に『仲直りックス』の流れよねコレ……」

 

「仲直り?そりゃヤルのはヤルんでしょうけど……あの感じだと男の側はケンカしてたとすら思って無さそうよね」

 

「それな」

 

 

はあ……と3人でため息をつき、そして顔を見合わせて笑う。

 

……そう。

こういう女なのだ。バーニンとは。上路萌とは。

 

ヒーローとして超優秀でさらに美人。

 

だがしかし……トコトン男運が悪い。

 

そんな素敵な、私達の愛すべき同期の女の子。

 

 

私達は彼女のそんな所を慈しみ、笑い、時には励まし、時にはネタにして……そんな良い関係を続けていた。

 

 

……さて、そろそろ飲み放題の2時間が終わる。 

夜はまだまだ長い。

だから私達は……そんな愛すべき男運の悪い彼女に献杯するべく、次の店へと繰り出すのであった……

 

 

 

 







バーニン沼ってる!!ヘイヘイヘイ!!

……こんな感じで次はデクのターンです(白目)
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