氷叢家の種馬(ガチ)   作:のりしー

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クズとデク

「うわぁぁぁん!!俺のバイクが盗まれたぁぁぁ!!盗まれたよぉぉぉん!!!盗まれ盗まれ盗まれマクリマクリスティだよぉぉぉ〜ん!!」

 

「……か〜ら〜の!!……キャイ~ン!!ひったくりよぉぉーんー!!……おんおんおん!!その盗んだバイクで走り出したバイク泥棒に私のバックをひったくられたわーん!!んんん!!」

 

「……さあて現れました勇敢なるニューチャレンジャー!!果たしてこの勇敢なるバイク泥棒兼ひったくり犯は無事にこの街から逃げ切る事が出来るのでしょうか!!」

 

「は〜い賭けるならここアルよー。お金賭けるとヒーローが煩いアルから、ソレ以外でなんかオモロイものを賭けるがヨロシ」

 

「うっす!!自分この春に高校入学したてのピチピチJKギャル1年っす!!即オチ2コマでやられる!!に私の脱ぎたてパンツ!!パンツ賭けるっすよ!!誰か!!誰か勝負!!勝負っすー!!」

 

「ふっ……なかなか見所があるわねあのJKギャル……」

 

「ああ……初手から脱ぎたてパンツカードを切れる胆力はただ者じゃないわね……」

 

「……この春に1人卒業し、欠員が出てしまった我らがJKギャルズ四天王……あのギャルならば……もしや……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わ〜お、なんかメッチャ楽しそうに囀ってるじゃんこのモブ共は……相変わらず母須恵砂町(もすえさちょう)のモブ共は濃いよなぁホントに……」

 

めんどいから俺のパトロール中だけは自重してくんね?いやマジで。

 

……まあ大体上記の説明通り。

ここは俺がヒーロー事務所を構える母須恵砂町(もすえさちょう)。時刻は昼過ぎくらいかな。空は青く晴れていてお日様はぽかぽか。白い雲が適度なアクセント。そんな素晴らしい日。

 

この街のメインストリートであるこの大通り。このまま何事も無く終われば素晴らしい一日だった筈なのに……空気を読まないヴィランがバイク泥棒をし、そしてひったくりまでして……この街の濃いモブ共を活性化させてしまっていた。最悪だなこのヴィラン。

 

つーか気づけよアホヴィラン。

あのモブ共……ああやって楽しそうにやんややんやと騒ぎながらも……メインストリートの片側をキッチリと塞ぎ、俺のいる方向へとテメエを誘導しているのだが?

 

 

 

「うわぁぁぁ!!何だよ何だよ何だよ!!何?何なのこのノリ!?おかしいだろ!!どう考えてもおかしいだろ!!一体何なんだよこの街はぁぁぁ!!!」

 

 

そしてようやくこの街の連中のイカれ具合に気がつき、戸惑い叫ぶヴィラン……だけど……

 

 

 

 

 

 

「「「「「「さあて!!君の出番だ氷剣ヒーロー・アイスブレイド!!やっておしまい!!!」」」」」」

 

「へーい」

 

「「「「「「()っる!!!!!!」」」」」」

 

 

 

もう……遅い。

 

 

壁氷剣(へきひょうけん)・アイスウォール」

 

「………うぉぉおお!!!!!」

 

 

 

 

 

鞘から刀を抜き放ち切っ先を地面にコツン……そして一気に切り上げる!!

 

 

俺の個性……氷の個性・コキュートス。

 

 

 

 

刀の切っ先から直線上に放たれた猛烈な冷気は地面を走る巨大な氷壁となり!!猛スピードで進むバイクの行く手を塞いだ!!

 

キキキィィィ!!!

当然バイクは急ブレーキ!!不快な音が周囲に鳴り響く!!

 

「……あ!!危ねえ!!テメエ何しやがっ!!……って!!ヒーロー!!テメエヒーローかよちくしょう!!」

 

バイクを゙止められ逃げ場を失った事を悟ったヴィランがバイクから降りて、

 

「しかもなんかめちゃくちゃイケメンじゃねえかマジムカつくわ!!ああ!!もうこうなったらテメエをブチのめしてから悠々とここから逃げてやんよ!!」

 

そう言ってから、ヴィランは自分の両手を『ジャキーン!!』みたいにクロスして構え!!

 

「俺の個性は両腕硬化だぁぁ!!この両手を鋼よりも遥かに硬く硬化する!!接近戦で超強力な個性だぜぇ!!この力でテメエをブチのめしたる!!」

 

「えーなんかつまんねー。アンタこの街のモブ連中よりも遥かにキャラが薄過ぎな訳だが?いいんかそれで……まぁ、もう俺もめんどいからさっさと終わらせるか……」

 

「……へ?」

 

「行くぞ」

 

「……あ?」

 

咄嗟にヴィランが構えようとするが……もう、遅い、

 

硬化させた両手が強みといったヴィラン。

その両手が届かない程に体勢を低く、地を這うようにして俺は身体を倒し、一気に前方へ飛び込む!!

 

 

 

 

縛氷剣(ばくひょうけん)・アイスバインド」

 

「ギャァァァ!!」

 

ヒーローが使う為に刃を潰した刀。その刀で飛び込んだ勢いそのままに思いっきり脛をぶっ叩き!!そして同時に冷気を解放!!薙ぎ払った両足を氷で固める!!

 

 

両足を凍らされて地面にバタンと倒れるヴィラン。

 

「ギャァァァ!!クソぉ!!クソ!!」

 

 

喚くヴィラン。俺はそれを見下ろしながら胸元をごそごそ。タバコを取り出しライターで火をつけて吸って一息。

 

 

「……ふぅぅ……ま、アンタも運が無かったね。よりにもよってこの街でトラブル起こすだなんてさ」

 

 

 

……いやホント。マジで運が無い。

もしくは知識がないだけか?

 

 

 

東京近辺に住み働く人々は皆、口を揃えてこう言う。

 

『都内にも関わらず異常に家賃が安いエリアが2つある』

『いくら家賃が安かろうが、貴方が余程クレイジーでもない限り、決してその2つの街には住まないように』

 

と。

 

 

 

一つは何故かやたらと凶悪ヴィランによる犯罪発生率が高い鳴羽田(なるはた)。そしてもう一つが……

 

 

 

「この街……魔境・母須恵砂町(もすえさちょう)ってね……はは……家賃の安さにつられてろくに調べずここに事務所抱えたのは失敗だったかなーいやマジで」

 

 

 

まあそんな感じ。

そんな街に俺は今住んでいて……そしてヒーローをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……これは即オチ2コマと言うには微妙アルネ」

「判定の難しいところよねー」

「賭けが成立しない……こういう時は胴元が儲けるのが普通なのだけれど……」

「金賭けて無いのに胴元もクソも無いアルネ」

「そうよねー」

「と……なると……」

 

 

 

 

 

遅れてやって来た警察に、とっ捕まえたさっきのヴィランを引き渡す。

その間もワイワイガヤガヤ円陣組んで話してるあのモブ連中。仲良くていいことねホント……

 

 

……そして、何かよくわからん感じで話がまとまったらしく「うっす!!うっすうっす!!」と覚悟を決めたらしき1人のJKが俺に近づいて来て、そして……

 

 

 

 

「じゃあ……パンツ脱ぐっすね……」

 

 

 

 

そう言ったその瞬間に、その短いスカートの中に両手を突っ込んだもんだから、

 

 

「いらねーよ。てかパンツもらって俺にどーしろっての?コンビニのゴミ箱にでも捨てればいーわけ?」

 

 

「わークズっす!!すっごいクズ!!流石!!安心!!安心したっす!!」

 

 

わーい!!と言ってモブの群れに戻るJK。

それを何故かハイタッチで迎えるモブ共。

 

ぷか〜……煙を吐きながらホント仲いいなアイツラ……とそれをぼんやりと見ていると、

 

「や!!零至くん」

「オール……じゃダメか、どもー八木さん」

 

こちらにひらひらと手を振りながらガイコツモードのオールマイトもとい八木さんがやって来た。人前だしオールマイトとは呼べないもんね。

 

「相変わらず愉快な町だねここは!!」

 

「ねー……この街は住んでるモブ連中のキャラが濃すぎるんだよねホント」

 

「おいおい零至くん……いくら何でも町の皆をモブ扱いするのはちょっと良くないんじゃ……」

 

「えー?でも皆気にしてないからなー……ねー?」

 

俺がそう問いかけると、楽しそうにハイタッチしていた連中が一斉に振り向き、

 

 

 

 

「「「「「どーもモブ連中でーす!!いえーいピースピース!!」」」」」

 

 

 

 

……と実に楽しそうに、実に濃い目に返事を返してくれた。

 

 

「あ……いいんだそれで……」

 

「ね?」

 

「うん……じゃあ……まあ……いいか……」

 

 

相変わらず凄いなあ母須恵砂町は……とオールマイトは遠い目をして呟いた。

 

 

 

「……ん、あれは……」

「うい。ちょい取ってくるわ」

 

 

 

そんな時、ふと同時に同じ出来事に気づく。

夫婦らしき若い男女。そしてその少し前を歩く小さな女の子。その子の手から風船が離れ空へと舞い上がった。

 

 

俺は両足の裏に力を込めて個性を発動。刀と同じ、俺の個性と相性が良い素材を使っている靴から猛烈な冷気が迸る。

 

靴裏から放たれた冷気が瞬時に氷となり、地面から俺の身体を持ち上げる。

そして放たれ続ける氷はさらに巨大化。俺を天辺に乗せたまま空へと伸びていく氷の塔を作り出した。

 

 

「よっと……ほれガキンチョ。もう離すなよ」

 

 

空をプカプカと舞い上がる風船に追いつき捕まえ、俺は氷の塔から飛び降り女の子へと風船を渡してやった。

 

 

「ありがとうちょうぜついけめんひーろーのおにいちゃん!!」

 

「おー」

 

「はっはっは!!こりゃなかなかおませなお嬢さんだね!!一体何処でそんな言葉を覚えたんだい?」

 

「うん!!おかあさんだよ!!『ぐえっへっへっ……やべえあのちょうぜついけめんひーろー……いっかいくらいだかれてぇだいてほしい』ってよくひとりでぶつぶついってるの!!」

 

「こ!!コラ!!ち!!違う!!違うのよあなた!!」

 

「お、おまえ!!昔は確かに男遊び酷かったけど!!俺と結婚してこの子が産まれてからはそんな事無いって信じてたのに!!」

 

「誤解よ!!この子の聞き間違いだわ!!」

 

「ねーみてみてー!!ぱぱとままはきょうもなかよしさんなのー」

 

「うんそーだねーじゃあ超絶イケメンのおにーさんたちは巻き込まれたくないから行くねーばいばいー」

 

「ばいばいー」

 

「……いいのかなぁ?」

 

「まあいんじゃね?」

 

「まあいいか……濃いなぁ……」

 

無邪気に笑うガキンチョの後ろで揉めあう若夫婦を放置し、俺とオールマイトはこの場から離れていく。

 

 

「どしたん?事務所じゃなくてわざわざパトロールしてる俺を探しに来たって事は何か急ぎ?」

 

「はは!!察しがよくて助かるよ!!実は君に頼み事があるんだ。今日私は車で来てるから、詳しい話は車内で説明するよ」

 

「えー……でも面倒なのは嫌よ俺」

 

「なぁに!!そこまで面倒ではないと約束しよう!!後私のポケットマネーからバイト代も出すぞ」

 

「わーい」

 

「軽いよねーほんと君は」

 

 

こうして俺はオールマイトの運転する車に乗り、

 

 

 

「君に紹介したい少年がいるんだ」

 

 

 

車の向かう先で、とある1人の少年と出会う。

 

 

……緑谷出久という少年と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

sideデク

 

「やあ今日も頑張ってるね緑谷少年!!」

「オールマイト!!……っと?誰だろう?もう一人?」

 

 

オールマイトとの出会いから約2週間後。

今日もこうして彼の後継者となるべく身体を鍛える為に海辺の掃除をしていた僕の元に、オールマイトと1人の青年がやって来た。

 

……あ!!あれは!!

 

「……どーもはじめましてー俺は……」

 

 

 

「氷剣ヒーロー・アイスブレイド!!アイスブレイドだ!!ヒーローランキングは常に中堅よりちょい下くらいなんだけどイケメンだから女性からの人気は中堅以上と言われているヒーロー!!『土日休みだけじゃ足りないから水曜日も休みますー』っていう理不尽かましながら中堅ポジション維持出来てるのは女性人気が高い!!って安直な理由で語られがちだけど!!実は僕はそれだけじゃないと思ってて!!一見するとやる気ないヒーローの極みっぽいんだけどたまにやる気出した時の動きとか凄くて!!実はもっと上を目指せるヒーロー何じゃないかって僕は前から注目していたんだけどぶつぶつぶつぶつ…………」

 

 

「……え?何これ?俺より俺のヒーロー活動に詳しい風味?なにそれ……え……怖……」

 

 

「はっはっは!!いやすまないね零至くん!!緑谷少年は《ちょおおぉぉぉっと!!》ばかりヒーローオタク過剰風味でね!!悪気は無いんだけどたまにこうなってしまうのさ!!おーい!!君もそろそろ戻って来たまえ緑谷少年!!」

 

 

「ぶつぶつ……はっ!!」

 

「……(控え目に見てもドン引きしてる目)」

 

「あわわわ!!」

 

いけない!!またやってしまった!!

 

ドン引きしてる青年と、あわあわと慌ててばかりの僕……

 

 

「……うーん!!まあとりあえず……どうやら零至くんの紹介は必要無いみたいだね!!実は彼も私の秘密を知っている数少ない味方の一人でね!!私も毎回緑谷少年のトレーニングに立ち会う事は出来ないからさ!!私が来れない日とかに、零至くんに代理として立ち会ってもらおうと考えているんだ!!まあ彼の事は臨時コーチみたいなものだと考えてくれ!!」

 

「どもー臨時のコーチですー。ガキのトレーニング見守り隊をするだけでバイト代出ると聞いて来ましたー」

 

 

「「()っる!!」」

 

その僕の集めていた情報以上に軽い様子に面くらいながら、

 

「……さ、次は君の番だ。緑谷少年……零至くんに自己紹介を」

 

「あ……はい……」

 

オールマイトに促され、僕はアイスブレイドの前に立ち、

 

「はじめまして……緑谷出久と言います。オールマイトに自分の後継者として選んでもらって、今色々と頑張ってます。これからよろしくお願いします」

 

「ういーよろー」

 

()っる!!」

 

僕の真面目な自己紹介をアイスブレイドは軽く受け流し、

 

 

 

「ねーねー俺さー男の名前とか覚えんのマジ苦手なのよねー……だからあだ名で呼んでいい?なんかお前丁稚っぽいからあだ名『デッチ』とかどーよ?」

 

 

「オールマイト!!最悪ですよこの人!!初対面なのにいきなり人のあだ名『デッチ』にしようとしてますよこの人!!」

 

 

「えーまじか……ダメだったかぁ……じゃあ、お前なんか今あだ名ないの?学校とかで普通に呼ばれてるあだ名とかさ。何かあるっしょ?俺もしゃーなしでそれで呼ぶわ」

 

 

「え……僕の……あだ、名……?」

 

え……ウソでしょ……

まさか……この流れで……言わなきゃいけないの?

 

しかし現実はそのまさかで、アイスブレイドは彼のトレードマークとも言える軽薄な笑みをにやにやと浮かべながら、じっと僕を見ていた。だから僕は観念して……

 

「……えっと……その……『デク』です……」

 

「……え?……ん?え……今、なんて?」

 

「だからその……『デク』です」

 

「……え?」

 

「だから!!僕のあだ名は『デク』です!!『デク』なんです!!」

 

「……へいへいちょっと青少年……マジで大丈夫?真面目に学校でイジメられてたりしない?心配何だが……大丈夫そ?」

 

 

 

「人の事を初見でデッチ呼ばわりしようと人にイジメの心配をされた!!!!」

 

 

 

 

なんかちょっと本気で僕を心配そうに見ていて……何かそれでさらに腹が立つ!!

 

がるるるる……と睨む僕をへらへらと笑いながら見返し彼は、

 

 

「やー悪ぃ悪ぃ……んな興奮すんなよー青少年……飴ちゃんあげるから機嫌直せよ」

 

「……飴ちゃん?まあ……飴に罪は無いし……もらえるならもらいますけど……」

 

「うい」

 

そしてアイスブレイドは懐から2本のチュッパチャプスを゙取り出した。

 

 

 

『チェリー味』

『コーラ味』

 

 

にやにやと笑いながらアイスブレイドが口を開く。 

 

「2本あるから好きな方を選んでいーぞー」

「えー……っと?」

 

 

2本のチュッパチャプス。

好きな方を選んでいい。

 

 

『チェリー味』

『コーラ味』

 

どちらか……選ぶ?

 

「…………………………………………あ!!!!」

「はっはっはっー」

 

 

 

 

この『2択』で中学生男子にどちらかを選べ!!だとぉ!!  

 

 

 

 

「最悪だ!!最悪だよオールマイト!!調べて知ってはいたけど完全にクズ!!最悪のクズですよこの人!!」

 

 

 

 

「えーなんか急にテンション上がってんじゃんマジウケる」

 

「最悪だぁ!!やっぱこの人最悪だぁ!!!」

 

「あーはっはっは!!いやー流石零至くん!!これぞアイスブレイドのアイスブレイクってね!!いやぁ見事なもんだね!!」

 

「何故か何でかオールマイトの評価も謎に高い!!やっぱ最悪だぞこの人ー!!!」

 

「えーそーゆーのいいから……で?どっち?」

 

「ああああ!!!もーー!!!!あーーー!!!!」

 

 

⇒『チェリー味』

 

 

「ははははー」

「はーっはっはっは!!!」

「あー!!もー!!」

 

 

 

夕焼けが浜辺を汚すゴミを明るく照らす。

 

 

そんな不思議な時間。

 

それぞれ意味合いの異なる3人の叫びが浜辺で揺れる。

 

 

 

これが僕とクズ……氷叢零至さんとの初めての出会いだった。

 

 

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