sideオールマイト
緑谷少年に零至くんを紹介した、その帰り道。
私が運転する車の中で、
「どうだった零至くん。君には緑谷少年がどう見えたかな?」
「どうもこうも……おもしろそーなヤツだとは思ったけど……現状、ありゃただのフツーの子供でしょ」
気怠げな表情で助手席に座っている彼は、どうでもよさそうな顔でそう言った。
でも……奇妙な縁から始まった彼との友人関係もそろそろ約5年程となり……だから私にはわかってしまう。
どうでもよく、なんかないのだろう。
零至くんは今、ちょっと不機嫌だった。
「俺は前に『私の後継者になるのはどういう人が良いと思う?』って聞かれた時にこう言ったよねオールマイト。『アンタが自分の意思で選んだのなら、例えソイツどんなヤツだったとしても俺は良いと思う。でも、出来れば
「……そして私はそれにこう応えた『君の思いはわかったよ。でも申し訳無いがおそらくそれは叶わない。活動期間をより長く確保する為に、私の後継者は未成年から選ぶ事になるだろう。私は近々雄英高校に教師として着任し、ヒーロー科の生徒の中から後継者を選ぶ事になると思う』ってね」
「それに対して俺はこう言った。『そう決まってんならしょうがないね。まあ雄英ならセキュリティとかもしっかりしてるから安心だ。出来ればさっさと全寮制にしてより安全確保してちゃんと守ってやって欲しいけど』ってそう言ったね……だから、ちょっとこれは話が違うんじゃないの?」
ジロリ……と横目で私を睨みながら。
「
いつもの軽薄な笑みを引っ込めて零至くんはそう言った。
彼の言う事もよくわかる。
国内最高峰のヒーロー養成校である雄英高校は、その教育の質の高さはモチロンの事、生徒の安全確保の為の各種セキュリティの質も国内最高水準に高い。
だから彼は『雄英の中から選ぶなら……まあ……』と渋々納得していた。本来ならば守られるべき存在である未成年。その未成年に対する彼の配慮。
そう……この氷叢零至という男は、未成年に対しては過剰な程に優しい。いや、甘いとすら言ってもいいだろう。彼の気質の大部分を占める怠惰ですら瞬間溶けて無くなる程に。
彼は自らをクズだと自認している。
「あー俺クズだからさー」と声に出す事にも躊躇は無い。
そんなクズな彼ではあるが、事が未成年の危険に関わる事になると、周囲が驚く程に真面目な一面を見せる。
『俺は確かにクズではあるけれど……クズ以下の
前にその事を彼に聞いた時、彼はそう答えた。
彼はすでに『クズ以下と見做している具体的な唾棄すべき何か』を知っていて……例え自分はクズであったとしても、絶対にソイツらと同じ存在にはなるもんか、と静かに全身で語っていた。
そして彼はその具体的な何かを自分から語る事は絶対に無いだろうし、私も自分から聞くことはしない。彼が自分から話してくれるというなら喜んで聞くだろうけど。
もしも私が本気で調べる気になればその『何か』もわかるかもしれない。だがそれはきっと彼との決別を意味する。だから私は自分からそれを暴くつもりはない。何だかんだで私はこの年の離れた友人の事を気に入っているのだから。クズだけど。
「君の心配は尤もだ。だから私もその辺りには十分以上に配慮しているつもりだ。機密の保持、彼の安全の確保……私が動けない万一の時に備え君へ協力依頼したのもその為さ」
「…………」
「だからまあ……安心してくれ……と言っても君は納得しないかな?だから君も協力して欲しい。大丈夫!!その分バイト代は弾むからさ!!」
「……はあ……ったく……わかったよ。バイト代分くらいは力になるよ」
「はっはっは!!よろしく頼む!!とりあえずは……まあ……雄英高校ヒーロー科への入学だね、うん」
「……落ちたら最悪じゃんこれ……」
「はっはっは……」
「……あ、落ちた時の事はノープランだなコレ……」
「はっはっは……」
うん!!頑張ってくれたまえ緑谷少年!!
全ては君にかかっている!!
大丈夫!!私も全面協力するし!!零至くんもいる!!
何だかんだで未成年に甘い彼の事だ、グダグダとやる気のないフリをしながらもキッチリ面倒は見てくれる事だろう。
それに……
緑谷少年と接する中で、零至くんにも何かいい影響があればいいな、と。年長者としてはそんな事も考える。
私が緑谷少年の中に見出した光……その光が零至くんをどう照らすのか?それはまだわからないけれど。
どちらにとっても良い出会いであったならいいと思う。
(……ま!!何だかんだでいい方向に向かうんじゃないかと思ってるんだけどね!!)
今日の初顔合わせの時の2人の様子を見て、私は確信した。
(零至くんと緑谷少年……この2人はきっと相性が良い!!)
side緑谷
(あああ!!僕!!絶対に!!この人と相性が悪い!!!)
あっれー?おかしいなー?
……何故かそんなオールマイトの声が聞こえた気がする。空耳かな?
何せ。
「ざぁこ♡ざぁこ♡あっれーおかしいなー?ねえ出久きゅん?その冷蔵庫さっきから全然動いてないぞ♡零至はもうちょっと出久きゅんなら頑張れると思ってるのになー?頑張れ♡頑張れ♡ざぁこ♡ざぁこ♡弱々だけど出久きゅんならもう少し出来ると思うよ♡ざぁこ♡頑張れ♡頑張れ♡ざぁこ♡」
「気が散るからちょっと黙っててくれませんか!!うおおぉぉぉ!!」
「……あっれーおかしいな?こっちじゃない感じ?じゃあ……フフン!!なかなかやりますわね出久さん!!さっきよりもちょっと冷蔵庫が進んでます!!素晴らしいですわ!!でも貴方ならばもっと出来る筈ですわ!!この調子で頑張って……ちっ違いますわ!!べ!!別に私は貴方の事なんて本当はどうでもいいのですわ!!か、勘違いなさらないで!!ほら!!私の事なんかお気になさらず頑張ってくださいまし!!」
「心の底から気にしたく無いんだけど!!勝手に耳に入れてくるのはそっちでしょ!!だから黙ってて!!おおおぉぉぉ!!」
「……えーこれも違うの?わがままだなぁ出久きゅんは……じゃあ俺にどう応援してほしーのよ?」
「黙って!!大人しく!!してくれてるのが!!一番!!いい!!」
オールマイトとの出会いから数ヶ月。
季節は夏に変わっていた。
以前よりちょっとだけ綺麗になった海辺。以前よりちょっとだけ筋肉のついた身体で、僕は今日も清掃活動に取り組んでいた。
……んで大型の冷蔵庫を引っ張って動かそうとしていたらコレだよ!!
へらへらと笑いながらコーチは……ヒーロー名・アイスブレイド。零至さんはアイス片手に今日も今日とて
「……あーあ、せっかくウチの町のJKギャルズ四天王と『中3男子が喜びそうな応援』を頑張って考えてきたのにダメだったかぁ……メスガキ系もダメ。高飛車お嬢様ツンデレ風味もダメ。出久きゅんは童貞のクセに女の好みにはうるさいタイプなのね」
「四天王を名乗るJKギャルズって時点で絶対に相談相手が間違ってる!!後童貞関係ない!!」
「はは。それなー……いや俺も正直コイツラでいーのかな?とは一瞬だけ悩んだのよ。ねーねー聞いてよ出久きゅん」
「嫌だ!!絶対に!!聞きたくない!!」
「まあ話すんだけど。あのJK共いきなり横一列に並んでさ『我ら新生JKギャルズ四天王!!』って4人で叫ぶのよ。んで急に端から順番にスカートまくり上げて『玄武!!』『青龍!!』『朱雀!!』『白虎!!』とか順番に名乗り出すわけ。しかもパンツには漢字で玄武とか朱雀とか書いてるし……漢字だぜ?そこはせめて絵じゃねえのかよ?と」
「なんでそんな人たちに僕の応援の事を相談をしたんですか!!後それ四天王じゃなくて四聖獣!!」
「それなー俺も思った。相変わらずツッコミがキレキレだねー出久きゅんは」
「そこを褒められてもあんまり嬉しくない!!うぉぉぉ!!」
思わずツッコミを入れてしまいながら!!僕は頑張って冷蔵庫を引きずって移動させていく。
そんな、僕とコーチ……零至さんのいつも通りと言えばいつものやり取り。
基本的にはオールマイトが僕を見てくれる事が多いんだけど、そうじゃない時はコーチとして零至さんが僕を見る。そんな役割分担らしい。
そして、夏になってからは零至さんが僕を見る機会が増えていた。それは……ピピピピピピピピピ!!
「……ん?おーアラーム鳴ったってことはもう1時間か。ほれ休憩だ出久。ちゃんと水分補給しろよ」
そう言ってヒョイッと僕にスポーツドリンクを投げる。適温に調整されたそれを受け取り、
「はい。ありがとうございます」
「うい」
蓋を開けて一気に飲む。彼の氷の個性で温度を調整され適温となったドリンクが僕の身体を潤していく。
氷剣ヒーロー・アイスブレイド
個性・コキュートス
その個性により僕が運動しているこの海辺の一部エリアだけは、夏にも関わらず春や秋くらいの運動するのが気持ち良い温度に調整されていた。
微弱な冷気をこの辺りに放ち、コーチが温度を下げているのだ。それも
涼しい顔でそんな離れ業をやってのけているコーチ。
(……やっぱこの人……真面目にやってたら凄いヒーローなんじゃないかなぁ?)
まあ絶対にやらないだろうけど。短い付き合いだけどそのくらいはわかる。
コーチの近くの砂浜に座り、そして身体を休める。
「……ん。ちゃんと休んどけよ。俺はこの間にSNSから来たDMでもチェックしておくか」
「……なんか以外だ……SNSとかやってるんだ……」
「おわかり頂いてるよーに真面目にはやってねーよ。だけど『ヒーローにとってSNSは名刺みたいなもんだから!!マメに更新とかはしないで良いから取り敢えずアカウントだけ作っておきなさい』ってうるさく言われてなあ……実際更新はサボってるけどDMは来るしめんどいんだよなぁ作っただけでもよ」
「そんなもんですか?」
「そんなもんだよ。でも真面目なタレコミとかもたまにあるから一応チェックしなきゃいけないし、何々……『アイスブレイドの所為で浮気が夫にバレてストレスが溜まってます。埋め合わせに抱いてくださいってか抱け』ってコレあのビッチ系若妻か。ったくクソがよぉ……ブロック、と」
「僕の知らないSNSの話だ!!」
マジか……こういうのオフパコ?って言うんだっけ?まさかこんな事本当に現実でありえるんだ!?
「次は……『多分そろそろウチのビッチ妻からオフパコの誘いがDMで届いてる頃かと思います。本文不要なのでDMの画面をスクショして送ってもらえないでしょうか?それを元にゴン攻めします』……ああこれはあの旦那さんね……はいさっきの画面スクショしてDM返信……と」
「僕の知らないSNSの話だ!!!!」
ヤバいな!!母須恵砂町!!
さっきのJKギャルズ四天王だけじゃなくて!!SNSの中ですらイカれてる!!
ああ!!なんか休んでる筈なのにあまり休めてる気がしないんだけど!!
こんな感じでDMをチェックし捌いていくコーチにツッコミ入れたり何だりしていると。
「……ん?なんか珍しー人から着信来たな」
「……え?」
思わずスマホの画面を覗き込んでしまった僕。その画面には、
『デニムぱいせん』
と表示されていた。
「……デニムぱいせん!!つまりアイスブレイドの先輩!!デニムといえばあの人で!!そして2人ともに雄英高校のOB!!つまりこれはベストジーニストからの着信!!」
「……名探偵ごくろーさんな訳だが……毎度思うけど何でお前俺より俺の事詳しい風味なのひくわー……まぁ正解なんだけど」
興奮する僕にちょっとひいた感じのコーチ。
「……珍しーな……何だろ?『おう後輩。奢ってやるからちょっと今夜キャバクラでも行こうぜ』みたいなお誘いかなあ?」
「絶対に違うでしょ!!」
「だよなー。しゃあない、取り敢えず出るか」
そうして渋々といった様子でコーチは電話に出る。
「どもーこんにちデニムー……え?ちゃうすよ全然バカにしてないっすから。俺コレでもデニムぱいせんの事は尊敬してますし……え?チームアップのお誘い?それはめんどいから嫌なんすけど……」
「うーんこのクズ」
……ほんと、何でこんな不真面目な人がヒーローなんてやってるんだろう。
多分仕事に関わる真面目な連絡を、へらへらと軽薄な顔で雑な感じ相手するコーチ。
そんな彼を見て。
(やっぱり僕はこの人と……零至さんと相性、悪いと思う)
真面目な僕と、不真面目な彼。
相性が良い訳が、無い。
そう、僕は強く確信していた。