その高校生は平和を求めている   作:夢見いるか

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第一話 仕事

 学校から帰ろうと思ったら、校門にリムジンが止まっていた。

「はぁ……」

 僕はため息をついて素通りしようとした。

 しかしリムジンのそばにいた老紳士が僕を呼び止めた。

「お待ちしておりました、日向尊さま」

 

「なんのようだ」

 車はゆっくりと走らされている。

 窓の外を見ると僕の家に向かっているのがわかる。話し合いに時間はかからないだろう。

「ヒュウガミコトさまに対しては平和な学園生活を送られているようで……」

「それで?」

「日向家の当主としての仕事、責任を果たしていないと批判が殺到しています」

「そんなことはどうでもいい。僕は普通の学園生活が送れればそれでいい」

「しかしですね……」

「政府と契約した事実を忘れたか?一切僕に干渉しないこと、仕事を持ち掛けないこと、と」

「それは前総理との契約です。今の総理はそう思ってないようで」

「はぁ……」

 僕はため息をついた。

「それでお前らはどこのものだ」

「門田家のものです。政府からの依頼で仕事の依頼を持ちかけろ、と」

「却下だ。僕は仕事をするつもりはない」

「そう言われましても、平和な日常を過ごせなくなりますよ?」

「脅しか?」

「力あるものはその責任を果たすもの。今の政府には圧倒的な力が足りておりません」

「……」

「日向尊さま、利口になりなされ。いくら最強のあなたでも私たちが束になれば敵うことはありますまい」

「じゃあ」

 僕は手をピストルのようにして老紳士に向かって掲げた。

「試してみるか?」

 

 じわ……と老紳士が汗ばんだ。車の中には嫌な雰囲気が流れる。

 

「冗談だよ」

 僕は腕を下げた。

「けど学校卒業までは待ってほしいな、そのあとだったら仕事、してやるよ、そう伝えてくれ」

「わかりました。良い回答ができるといいのですが」

「頼むよ、それじゃここで降ろしてくれ」

「良いのですか?まだ家に着いておりませんが」

「歩きたい気分なんだよ」

「かしこまりました」

 

 リムジンを見送ってため息をついた。

 僕は普通に暮らしたい。

 切実に、そう思った。

 

 この世界は普通の世界だ。

 ただ一つ異常なのは、魔法というものがあった。

 僕はヒュウガ家に生まれ、幼い頃から人体実験と訓練を受けていた。

 実家でのその虐待はひどかった。母から罵声を浴びせられ、父からは物のように扱われる。

 その憎悪は次第に募っていき、同じ訓練を受けていた妹が死んだ時、タガが外れた。

 

 家中のものを殺し、親を殺し、訓練の先生を殺した。

 唯一殺さなかったのは使用人だけだ。

 

 妹の亡骸を燃やし遠い山の中に埋めたあと、石を立てた。

 実家から離れて休めるように、と。

 

 僕はそれからは平和な生活を送っていた。魔法に関係のない学校に進学し、総理の自室に押し入り無理やり契約させたあと、平和を謳歌していた。

 復讐は終わった。あとはエンディング後の世界だ。

 

 一番重要なこととしては、その平和に慣れないことだった。

 些細なことでサバイバルモードになったり、ゆったりした時間を過ごしていても意味を感じられない。

 訓練していた時は徐々に強くなる喜びがあった。でも今はそれがない。

 平和というものに憧れながらも、それを甘受することができなかった。

 

 家に帰り本を読む。ゲームや音楽を聴くこともあるが、あまりのめり込めなかった。

 自分の人生を救ってくれるような作品にはついぞ出会わなかった。そんな作品は世の中どこ探してもないだろう。

 親殺しの僕を誰が救おうとして作品を作ろうとするんだ?そんなことは誰もしないだろう。

 コーヒーを淹れ、ゆったりとした時間を過ごしながら夕飯を何にしようか考える。

 料理は好きだ、何も考えなくて済むから。

 でも結局デリバリーにした。さっきの出来事が歯に挟まった骨のように気になっていたからだ。

 

 学校もくだらない檻の中だ。

 よくわからない流行りのバンドやアイドルの話をする。ゲームの話をするオタク。無言で本を読む文学少女。休憩時間も勉強をするガリ勉。メイクをするギャル。

 学校に憧れていたが、実際は冷たいものだった。

 勉強を教える先生は人にもよるが成績で人を判断する。問題児は無視する。

 ここにどこに救いがあるっていうんだ?

 クラスはカースト制で下のものは冷遇される。

 こんなとこに通ってて意味があるのかな……。

 高校生になって初めて学校に通ったが、そこがいいものとは思えなかった。

 しかし僕は毎日登校して勉強をする。勉強はわりかし楽しかった。何も考えなくて済むからだ。

 考えることは苦痛だった。特に今の僕には。

 

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