その高校生は平和を求めている   作:夢見いるか

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第4話 殺戮と再会

 2日後、僕は井上家の本家に来ていた。時刻は夜中、もうすぐ0時になる。

 情報員から知らされたのは午前0時に決行というシンプルな報告だった。

 意識を集中する。そして僕の魔法を使う。

 

「『この家の中にいる人たちは今すぐ自殺する』」

 その声と共に火の手が上がった。金切り声と悲鳴が鳴り響く。そしてあっという間に静かになる。

(何割削れたかな……)

 僕の魔法は魔法抵抗力の高い人には効き目が悪い。もちろんやりようはある、が、人を強制的に動かす場合、所持してる魔法によっては防がれる場合もある。

 腐っても魔法長家か。

「さて……」

 皆殺しの時間だ。

 

 身を守るため魔法をかける。

「『この身に魔法は通用しない』」

「『この身は刃物と銃弾を弾く』」

 そう言った途端銃弾が飛んできた。僕がいるのは正門の前、銃弾は音もなくどこかへ飛んで行った。

 正門の上を見ると驚いた顔の男が見える。

 その男をよく見ると左腕が折れていた。おそらく彼は左利きで、拳銃で自殺しようとした時左腕を折って阻止したのだろう。

(しかしこのスピード……)

 おそらく瞬間移動魔法を使える奴だ。敵を探知する魔法も使えるのだろう。探知し、死角に瞬間移動し、拳銃で殺す。井上家のボディーガードだ。

 

 井上家は海外とのつながりが深い魔法長家だ。海外から血を取り込み、海外の魔法を取り入れる。日本はどちらかというとオールマイティ、つまり『どの魔法もある程度使える』魔法士が多い。しかし海外は特化した魔法士が多い。何かに特化した魔法士の血を取り込み、学び、生かしてきたのが井上家だ。

 井上家の持ち味は暗殺。割と武闘派だ。どの魔法が使えるのかは秘匿されている。

 しかし魔法を無効化できる僕とは相性が悪いと言わざるを得ない。

(なるほど、ボディガードに拳銃を持たせているということは、攻撃魔法はそこまででもないということか)

 不意打ちを狙うなら、魔法よりも拳銃の方が素早いもいう魔法士もいる。ということは……。

(僕の場所は割れた、スナイパーライフルの危険があるな)

 

「『その男は拳銃で自殺した』」

 パァン、という乾いた音を立てて男が脳漿をぶちまけながら門の下に落ちた。

 そして二の句を告げる。

「『この正門は開いている』」

 かんぬきが音を立てて下に落ちた。そしておそらく正門にかけられていた魔法が消えた。門を開けて中に入る。

 その瞬間音速を超えた氷の矢と銃弾が飛んでくる、が、氷の矢は当たる瞬間に消え、銃弾は明後日の方向に飛んでいく。

「『さきほど飛んできた氷の矢は三つに複製され発動した魔法士に飛んでいく』」

 しかし氷の矢はガード魔法によって弾かれる。

「『そしてその氷の矢は魔法によって弾かれなかった』」

 弾かれた氷の矢は瞬時に男の頭と胸、腹に刺さり男はその場に崩れ去る。

 遠くの方で僅かな乾いた音がする。スナイパーライフルだ。

 当たらない、が、好都合だ。

「『スナイパーライフルの弾はこの家にいる自分以外の人数分に複製され、頭に直撃する』」

 明後日の方向に飛んで行ったスナイパーライフルの弾は向きを変え飛んでいく、壁にぶち当たることはなく、家の中に侵入し命を奪っていく。

 

「おまええええええ」

「井上家の当主だな」

「殺す!息子と娘と妻の仇!」

「国を裏切るんじゃ無かったね、そして死ね」

 

 当主はガード魔法に身を包み、巨大な岩を頭上に生み出した。

 また、刀を抜き、こちらに突進してくる。

 

「『その男は魔法が使えない』」

 ガード魔法のシールドと岩が消え、その場に転がり落ちる。

「なっ!?」

「『その男の魔法抵抗力は下がる』」

 

「これで終わりだ」

 

「『その男は刀を使って自害した』」

「う」

 

 心臓のあたりに刀を突き刺し、その場に崩れ落ちた。

 音がしない。僅かに火のパチパチという木を焼く音が聞こえる。それ以外に人の音はしない。

「『そこの地面はこの家の中にいる生きている人の数を表している』」

 目の前の地面に小石でこう書かれた。

 1、と。

 

「終わった……」

 その場で伸びをし、ため息を吐いた。

 魔力まだだいぶ残っている。大体が低燃費なのだ、僕は。

 後ろから足音がする。連絡員だろう。

「お見事です、日向尊さま」

「終わったよ、約束通り妹の場所を教えてもらおうか」

「はい、場所は……」

 

「真希ッ!」

 僕の妹、日向真希は全身を管に繋がれて、虚な目をしていた。

 あたりに人はいなく、もう重要書類を持って撤収した後みたいだった。

「真希……死んではいないか、しかし……」

 管を一つ一つ外して、魔法を使う。

「『その女の体の傷は癒えている』」

 体の傷が音もなく癒えて、まっさらな肌になる。

 しかし心が壊れているのか、こっちをチラッと見るだけでしゃべらない。

「井上家の奴らッ殺してやる!!!……いや、ほとんど死んだか」

 父と井上家の間でどのような密約が交わされたのかは知らないが、こんなことをするとは……。

「『その女の心の傷は癒えている』」

 そう言うと、真希の目に光が戻った。

「兄上……?」

「あ、ああ、そうだよ、尊だ、兄ちゃんだよ」

「ここは……実験は終わったの?」

「なんの実験をされていたかは知らないが、もう大丈夫だ。もうお前を傷つけさせない」

「もういいの……?」

「ああ、いいんだ、これからは自由だ」

「自由……」

 真希は起き上がって服を着た。

「父上と母上は……殺したよ、もういない。お前を傷つける人はもういない」

「そうなんだ……なんか心がウキウキする感じ、こんなの初めて」

「ああ、もう大丈夫だ、二人でゆっくりと平和に暮らそう」

「うん、兄上、そうする……」

 長年の虐待で自我が薄いのか、従順だ。もしくはトラウマを無理やり癒したせいで、反抗心や憎しみまで消えてしまったのかもしれない。

 これでよかったのか?しかし……。

「もう、みんないないんだね」

「ああ、もういない」

「これからは自由なんだね」

「ああ、美味しいものをたくさん食べよう」

「もう訓練しなくてもいいんだよね」

「ああ、あんな苦労はもうしなくていい」

「そっか……」

 そして真希は倒れる。心が疲れ切っているのだろう。休ませよう。

 体を横たわせ、情報員を呼ぶ。車で家まで連れて行ってもらおう。

 ……これから、二人の平和な日々が始まる、はずだ。

 

 しかし、世界がそれを許すかはわからなかった。

 

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