退学したくない憑依山内くん   作:白黒パーカー

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ようこそ憑依山内くんのいる教室へ

 

 

 

 普通、物語の世界に転生といえばもっと嬉しいことのはずなのに、今の俺は心底最低の気分になっていた。

 ため息を吐いて、ふて寝したいくらいには気分が悪い。

 理由は……まぁ、考えるまでもないだろう。

 

「次の人……そこの君、お願いしてもいいかな?」

「あ、あぁ。悪い」

 

 いつの間にか自分の番になっていたみたいで、自己紹介を持ちかけた彼、平田洋介に謝罪して、俺は席から立ち上がる。

 

「俺は山内春樹って言います。趣味は料理で、クラスのみんなとはぜひとも仲良くしたいなって思ってます。よろしく」

 

 山内春樹でさえなかったら。

 そんな意味もない思考が頭をぐるぐる巡りながらも、原作とは違う無難な自己紹介を終えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 もしも自分が物語におけるネタキャラに生まれ変わったら、皆はどうするだろうか?

 大体の人が最初に思いつくのは、原作知識を元に幼い頃から頭や体を鍛えまくって、強くてニューゲームを目指すことだと思う。

 

 わかる。

 できることなら俺もそうしたかった。

 が残念なことにそれはできない。なぜなら、俺が前世の記憶を取り戻したのは入学式前日の夜。つまり、昨日なのだから。

 

 はっきり言って終わっている。

 ただでさえ山内春樹という、原作でも救いようがないバカに転生してしまったのに。改善しようにも時間がまったく足りない。ブラックルーム最高傑作(笑)に何ができるのか……。

 

「はぁ……」

 

 しかし、どうにかするしかないのが現実だ。どうにかしないと俺の未来はお先真っ暗である。

 俺はあんな無様な結末、退学なんてしたくない。せっかく大好きな物語の世界に転生したんだ。三年間無事に過ごして、卒業したいと願うのは当たり前のことだと思う。

 

 そのためなら原作知識でも、前世の経験でもなんでも使って生き延びなければならない。

 

(とりあえず池や須藤とは関わらないようにしよう)

 

 原作みたいに池、須藤、山内揃えて三バカなんて一括りにされたら、退学ルートが一気に見えてくる。まだまだ入学初日だが、そうならないために学力向上を目指して勉強しないといけない。

 仮にも前世の記憶があるとはいえ、しばらく社会人として生きてきたことで、高校の時に覚えた内容はあやふやになっている。本当は誰かに教えてもらいたい気持ちもあるけど、まだこの学校の真実が隠されている現状、どこにも当てもない。しばらくは一人で勉強するしかないだろう。

 

(まずは交友関係作りからだな)

 

 入学式も既に終了し、敷地内の説明も受けたから後はもう解散。寮に帰るなり、グループを作って遊びに行くなりと自由時間となっている。

 俺は鞄を手に持ち、まだ席に座っている主人公の元に向かうことにした。

 

「オレに何か用か?」

 

 おお、無表情だけどリアルで見るとちゃんとイケメンだ。

 原作キャラとのファーストコンタクトに内心、ウキウキしながら俺は片手を挙げる。

 

「よっ、綾小路くんだったよな? 自己紹介、盛大に滑ってたな」

「うぐっ」

 

 さっきの自分の失敗を思い出したのか呻き声を上げる綾小路。生で聞いたけどあれは酷かった。

 とはいえ、別に綾小路を貶すために来たわけじゃない。

 

「なんていうかあの自己紹介聞いたら母性? って言うのか? 逆に興味湧いたんだよ」

「お、おお? それはどういうことだ」

「ようは友達になろうってことだよ。俺もまだ一人だしよ」

「おお! ぜひ友達になってくれ」

 

 俺の言葉に無表情ながら目をキラキラさせる綾小路に、思わず苦笑する。この頃の綾小路は自由を手に入れたばかりで、結構浮かれてるんだよな。 

 後々のことを考えると可哀想だけど、退学阻止に手一杯な俺にできることはあんまりなさそうだ。いや、所々でサポートしたほうが綾小路からの印象はよくなるか?

 

「とりあえずケアキモール行こうぜ」

「ああ、いいぞ」

 

 連絡先を交換して、早速提案してみると特に否定されることもなくケアキモールに行くことが決まった。

 本来なら、コンビニに行ってそこで須藤絡みのトラブルに巻き込まれるのだが、まぁ、綾小路がいてもいなくてもそんなに問題ないし、いいか。どうせDクラスのポイントはゼロなんだし。それに、俺が須藤と関わる機会を作りたくない。

 

 たわいもない雑談をしながら暫く歩くと目的地のケアキモールに到着した。

 

「人多いな」

「まぁ、敷地内で遊べるとこは、ここぐらいだもんな」

 

 学年男女問わずワイワイと楽しそうな生徒たちで賑わっており、この様子だとどこも混んでそうだ。

 別に時間はあるから気にしなくてもいいけど。

 

「とりあえずどこから回ろうかな」

「色々あって迷いそうだな……」

「あ、綾小路くんと山内くん」

 

 男二人で案内図を眺めながら行き先について話し合っていると、後ろから男子に声をかけられる。

 振り返るとそこには、ハーレム状態の平田が爽やかに手を振って、こちらに来た。おお、イケメンだ。これはどこからどう見ても爽やかイケメンだ。

 

「あれ、平田くんじゃん。どしたの?」

「二人の後ろ姿が見えて、ついね。キミたちもケアキモールに遊びに来たのかい?」

「そうそう。まぁ、みんな考えることは同じだよな」

 

 まさか声をかけられるなんて思わず、一瞬驚いたけど、社会人経験のおかげか動揺せずに会話を続けることができた。

 社会に出たら、男女、先輩後輩、立場関係なく嫌でもコミュニケーションを取らなくちゃいけないからね。今更、イケメンに話しかけられたところで会話ができないなんてことはない。

 

 むしろ、これはチャンスでもある。

 

「いや、でも平田くんと会えて嬉しいよ。友達になりたくてさっき声掛けたかったけどよ。タイミングがなくてさ」

「本当かい? 僕も男子とはまだ友達になれてなくて、ぜひとも仲良くしたいよ」

 

 俺の言葉に嬉しそうに笑う平田。

 中学時代のことを考えると後半は暗い青春を送ってただろうし、久しぶりに男友達ができるのは純粋に嬉しいのは想像にかたくない。

 俺としても平田と仲良くなることで、イケメン嫌いの池や須藤が寄り付かなくなるし。参謀とまではいかないけど、平田を挟むことで意見を通しやすくなる。不純な動機だけど、お互い幸せならそれでいいよね。

 

「それと、綾小路くんとも仲良くしてくれよ。話してると中々おもしろいやつだしさ」

 

 だから綾小路は寂しそうにこっち見ないでね。綾小路にも平田グループに所属してもらって、池たちからは距離を取ってほしいから。

 そう言うと、綾小路の目がパッと輝いた。うんうん、喜んでくれたようでなによりだ。

 

「オレで良ければ、仲良くしてくれると嬉しい」

「もちろんだよ。2人とも僕のことは洋介って気軽に呼んでくれると嬉しいな」

「おっけー、洋介。俺のことも春樹でいいよ」

「じゃあ、オレも清隆で。春樹もそう呼んでくれ」

「はいよー」

「そうだ。せっかくなら二人も僕たちと一緒に回らないかい? みんなもいいかな?」

 

 ふふふ。名前呼びの権利を獲得して内心、ほくそ笑む。

 洋介の方は楽しそうに女子たちに尋ねていた。女子たちは、俺たちを見て何人かは微妙な反応を示したけど、まぁ、こんな嬉しそうなイケメンを見たら、断れないよね。

 それにいずれは、イケメンランキング5位に入る清隆もいるんだし、嫌がるほどの損はないでしょ?

 

 俺? どう見てもマイナスだろ。言わせんなよ、悲しいなぁ……。

 そんな悲しい現実は言葉にせず、ひとまず今日は清隆たちとの交流を楽しむことに意識を向けた。

 

 

 

 

 

 

(今日は楽しかったよ。洋介も友達になってくれてありがとね、っと)

 

 俺は洋介にチャットアプリでお礼を入れた後、一息つく。

 あれから俺たちは遅い時間になるまで交友を深め、夕食をケアキモールで食べた後、寮の前で解散することとなった。

 

 自室に入ってからは先程までの賑やかさが嘘みたいに静かだ。

 スマホがポーンとなる。さっき送ったのに洋介からすぐに返信が来た。

 

「ん、しっかりしてるねー。元社会人としてはポイントが高いぞー」

 

 学生の頃は気分次第や仲の良さで既読無視なんてこともしたけど、洋介はこまめに連絡を返してくれるタイプみたいで好感が持てる。

 社会人でマトモに連絡できないのはヤバいからね。

 

「とりあえずこのまま洋介と交流を続けて、グループ入りしないとな。女子たちの反応からして毛嫌いされた様子もないし」

 

 最初は微妙な反応だった女子たちもイケメン二人と遊べることは満更でもないようで、後半は楽しそうに男子たちに絡んでいた。

 俺自身も女子たちの不興を買わないように立ち回りに気をつけながら、配慮して、会話を回していた。そのおかげか二人ほどではないにしても、まぁ、コイツがいてもいいか? ぐらいには評価を上げられたはず。

 ……しょっぺーよ。

 

 ほんと山内って存在自体がデバフでしかないな。イケメンだったらなんて欲張り過ぎかもしれないけど、顔面の差に影響がありすぎるよ。

 

「こなくそー」

 

 気苦労が多い割にその報いが少なくて、だらしなく、ベッドに倒れ込む。

 一日だけでも疲れたのに、これが毎日続くとなると精神的に参っちゃいそうになる。

 

 櫛田もこんな気持ちで立ち回ってたのかな?

 そりゃ、ストレスで爆発するわけだ。

 

「でも、やるしかないんだよなー」

 

 洋介と仲良くすることはそれだけでもメリットがある。平等な彼とはいえ、最初の男友達を無下に扱うことはないはず。

 それに女性陣と交流する機会も少なくないから、悪目立ちしなければ他の男子よりもアドバンテージがある。気苦労は多いけど、これに関しては頑張るしかない。

 

 それに清隆との関係もしっかりと深めていきたい。

 正直な話、コイツに関しては本当の意味で友達と思っているのかわからないのだ。仮に友達と思っていたとしても必要があれば、あとから俺のことを切り捨てるなんて未来も全然ある。

 

 少しでも手元に置いておきたいと思えるように色々考えていかないといけない。

 こう考えるとやることが盛りだくさんだ。手を抜いている暇はない。少しでも手を抜けば、俺は退学になってしまうかもしれないから。

 

「クラス内投票、か……」

 

 山内春樹が退学した特別試験。

 きっかけこそ坂柳が絡んでいるけど、それがなくてもきっと退学の危機を孕んでいた。

 ワースト三位を三バカが総ナメしている時点で誤差でしかない。

 

「……絶対、退学なんてしてやるもんか」

 

 改めて、決意を口にする。

 俺はこの学校に生き残る。

 最後は笑ってみんなと卒業するためにも。

 

 利用できるものは、何だって利用してやる。

 

 

 

 

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