退学したくない憑依山内くん   作:白黒パーカー

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2話

 

 

 

 大人になると他人に対しての興味が薄れていく傾向にあるが、その逆に子どもたちは好奇心旺盛である。クラスの誰と誰が仲良くしているかだけで騒ぎ立てる。そんな光景も珍しいものではない。

 まぁ、つまり何が言いたいかといえば、翌日のクラスのリアクションは中々に面白かったということだ。

 

「清隆、堀北さんのリアクション見た?」

「ああ、あんな風に驚くこともあるんだな」

 

 隣に立つ清隆と、今日見た光景について会話をする。

 二日目にして、カーストトップに立つ洋介の存在はクラスの中では共通の認識。そんな中、教室で冴えない男子二人が洋介を下の名前で呼び、楽しそうに談笑している光景は大層目立っていたと思う。他人には興味がないと断言する堀北でさえ、綾小路を驚きの目で見ていた。

 

「『彼と友達になるためにいくらポイントを渡したの?』、なんて言われたぞ」

「酷い言われようだな」

 

 どこか悲しそうな顔をする清隆に苦笑する。

 清隆には悪いが、これは仕方ないことだと思う。少なくとも初日の綾小路と会話をしている堀北からすれば、今日見たものは信じ難いものでしかない。それがホワイトルーム出身ゆえの常識のズレが原因だとしても、堀北はその前提を知ることはない。それでも、酷い発言だとは思ったけども。

 

「ていうか、それ堀北さんのモノマネか? 全然似てないな」

「オレもやってみて、そう思った」

「なんでやったんだよ。それ本人に聞かれたら怒られるぞ」

「怖いから秘密にしておいてくれ」

「どーしよーかなー」

「おい」

 

 そんなバカみたいなやり取りをしていると、軽井沢と共に前にいた洋介が振り返った。

 

「そういえば、二人は何か部活に入るのかい?」

 

 今は放課後。お昼の放送でも告知されていたが、現在平田グループのみんなで部活動説明会を聞き終えたばかりである。

 

「オレは今のところ興味ないな」

「俺は料理部かな?」

「あ、私も料理部に入ろうかと思ってたんだー」

 

 俺の言葉に篠原が横から参加する。

 

「篠原も?」

「うん。正直、一人で入るのもどうかと思ってたけど、山内くんがいるなら入っちゃってもいいかも」

 

 篠原はホッとしたように料理部への入部を決めたようだが、もちろん篠原が入ることをわかった上で、俺は入部することを伝えた。

 彼女は物語において度々池と対立しては、クラスを掻き回す。その癖、物語が進むといい感じになって後々池と付き合い出すのだ。別に二人の相性が良かろうが良くなかろうが俺からしたらどっちでもいい。

 

 が、篠原と池の交流が増えるのはいただけない。この二人が仲良くなるということは必然的に俺が池と交流する機会が増えるということ。それだけならまだいい。最悪の場合、俺と池のどちらかを切り捨てなくてはいけない場面が来た時、“恋人”という差で、俺が選ばれない可能性だってあるのだ。

 

 それは見過ごせない。池と篠原が仲良くなる未来は徹底的に排除する。その方法として俺が選んだのは、篠原と一緒にいる機会を増やし、好感度を稼ぐことだった。

 

 今日一日観察してわかったことだが、池が洋介と一緒にいる俺に対してヘイトを向けているのは把握している。なら、篠原と仲良くなればなるほど、池は篠原に近づいてこないし、カップルルートも阻止できる。交流さえ生まれなければ、池がクラス内投票で守られる可能性も低くなるはずだ。

 

「でも、男子で料理部って珍しいね」

「両親が共働きで俺が代わりに家族の分も作ってたから、料理自体には慣れてるんだよ。中学の時はそもそも料理部がなかったから入らなかったけど」

「わー、偉っ。家庭的だね」

 

 俺の話を聞いて、目を丸くして驚く篠原。

 

「そういう篠原さんも料理部に入るってことは、作れるんだろ?」

「まぁね。お母さんの手伝いとかしてたし、お菓子作りもほどほどにはできるよ」

「すごいな。お菓子は俺も作ってこなかったから、入部したら篠原先生にご教授願わないと」

「いやいや、そんな大したものなんて作れないから。それで言ったら家族のために料理を作れる山内くんの方がすごいって」

 

 照れくさそうに手を振り、謙遜する篠原。あまりこういった内容で褒められる機会がなかったのだろう。口角が上がっていて、満更でもなさそうだ。

 この手の話題の褒めは今後も使えるな。純粋に喜んでいる篠原には悪いが、好感度稼ぎに利用させてもらおう。

 

 

 

「お茶しかなくて、ごめんな」

「ううん、ありがたく貰うよ」

「オレも大丈夫だ」

 

 夜、俺の部屋に洋介と清隆の男三人が集まる。

 俺が声をかけて、わざわざ来てもらったのだ。洋介は人気者だ。放課後だと女子との付き合いもあるため、集まるのは夜遅くになった。

 

「それで大切な話って何かな?」

「ああ、実はこの学校のことで気になることがあってな」

 カーペットの敷かれた床に座る洋介が今回の議題に触れてくれたので、さっそく本題に入る。

 

「10万ポイントって毎月支払われると思うか?」

「……っ!? それを聞くってことは春樹くんは支払われないと思うのかい?」

「ああ。絶対にそうだってわけじゃないけど、ちょっと違和感がな……」

 

 驚きの表情に目を見開く洋介。清隆は相変わらずの無表情だが、無言で話しの続きを待っていた。

 

「最初は10万なんて貰えて舞い上がってたけど、普通に考えておかしいよな。だって、全学年一人一人に10万ポイント渡してたら、ひと月だけで……えっと」

「480万ポイントだな」

 

 俺の言葉をベッドに腰掛けていた綾小路が引き継ぐように合計金額をつぶやいた。

 

「そう。大金だろ? 国が運営してるから資金があるのかもしれないけどさ。それにしたってやり過ぎじゃねーか? その割に授業は居眠りしてても誰にも怒られない。正直、怒鳴られるよりも怖くねぇか?」

「……そうだね。改めて考えてみると違和感だらけだ」

 

 須藤の居眠りを認知している洋介も考え込むように腕を組む。

 仮にも未来を支える人材を育成する全国屈指の国立の名門高。冷静に考えてみれば、現状に疑問は尽きないだろう。

 

「俺の予想なんだが、普段の生活態度次第でポイントが増えたり減ったりするんじゃないか? だから、先生たちは見逃しているんだと思う」

 

 実際は減るだけなんだけどね。それを言ってしまうとなんでお前が知っているんだ問題になってしまうので、そこまでは言わないけど。

 

「そうなると、何かしらの方法で俺らの様子を精確に観察してると思うんだが」

「でも、どうやって……」

「……そういえば、教室に異常なほど監視カメラがあったな」

 

 洋俺の言葉に洋介が頭を悩ませていると、綾小路が思い出したかのように言った。

 

「本当かい、清隆くん?」

「ああ、暇な時に天井を見上げたら見つけてな。気になるなら、明日見てみるといいぞ」

 

 ふむ。やけに協力的だな。

 まぁ、まだこの学校の真実は分かっていないしな。それに茶柱にも脅されていなければ、男三人の会話で目立つわけでもない。

 俺としてはありがたいことである。

 

「そうなると何か対策が必要だね」

「ひとまずクラスの皆には生活態度を改めるように言わないといけないかもな」

 

 正直、素直に聞いてくれるとは思わないけども。特に池や須藤あたり。

 とはいえ、俺としては多少残ってくれたら御の字。原作通りポイントがゼロになっても問題ない。

 

 ここで大事なのは、俺がSシステムについて疑問を示し、二人に謎があると共有したこと。後日正解が分かれば、清隆と洋介からクラスになくてはならない存在として、認めてくれるだろう。

 

「時間も遅くなったし、そろそろ帰ろうかな」

「そうだな」

 

 洋介の言葉に、清隆が頷く。

 話し合いの結果、明日の朝に洋介から今回の件について話してくれることとなった。

 同じ寮とはいえ、俺はドアを開けて、二人を見送ることにした。先に洋介が出て、清隆がそれに続く。途端、清隆が振り返った。

 

「なぁ、春樹」

「どうした?」

「今回の話し合い、——なんでオレを呼んだんだ?」 

「ッ!?」

 

 無機質に質問してくる清隆。いつも通り何ともないように見える、が。しかし、俺の背中に は冷や汗が流れた。

 俺は知っている。この無機質な男が今、俺の何かを探ろうと注意深く観察していることに。

 

「なんでって、そんな疑問に思うことか?」

「今回の話し合い、洋介さえいれば十分だったように見える。正直、オレは洋介みたいに冴えているわけじゃないからな。……それなのにオレがいる意味はあったのか?」

 

 感情の籠らない声でそう語る清隆。

 

「……ああ。そんなことか」

 

 大丈夫、落ち着け。別に清隆は気になって質問してるだけだ。ようは、本来の実力を見せてないのになんで清隆まで呼び出したのか? そこに疑問を感じただけのこと。

 なら、問題ない。

 俺は声がヒクつかないよう気をつけながら、今考えたことを口にする。

 

「何言ってんだよ。洋介を呼んで清隆は呼ばないとか、普通おかしいだろ?」

「……おかしいのか?」

「そりゃそうだろ。洋介も清隆も“大事な友達”なんだぜ? 大事な話の時に片方だけをハブるようなことするわけないだろ」

 

 俺がそう言い切ると、清隆が目を見開く。と言っても表情はあんまり変わらないけど。

 清隆にこの言葉がどれだけ刺さるかはわからない。ただ今の彼は自由に、普通に生きたいと考えている。

 

 物語後半の機械に戻った清隆ならともかく、現在の浮かれ小路清隆なら、今までに体験したことのない価値観として納得してくれるはずだ。

 

「……そうか。そういえば友達だったな」

 

 数秒、噛み締めるように黙り込むと清隆はそう言葉を零した。

 

「どうしたんだよ? おかしなやつだな」

「悪い、変なこと聞いたな」

「んぁ? まぁ、いいぜ。明日も学校あるんだし、また明日な」

「ああ、また明日」

 

 惚けたフリをしながら手を振ると、清隆も手を振って、エレベーター前で待っていた洋介と共にこの階を後にした。

 それを最後まで見届けて、ドアを閉める。そのまま俺はドアを背にズルズルと座り込んだ。

 

 いつの間にか息を止めていたのか、呼吸が荒くなる。

 

「マジ、怖かった……。吐きそ……」

 

 少し探りを入れられただけでこの疲労度。もし清隆に敵と認定されたその時。それは今、あまり考えたくないことだった。

 落ち着いて立ち上がるその時まで、俺の心臓はバクバクと激しく鼓動していた。

 

 

 

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