退学したくない憑依山内くん   作:白黒パーカー

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3話

 

 

 

 この学校から退学しないため、様々なことに注意している俺だが、その中でもひと際気をつけていることがひとつある。

 それは“女子に不快な思いをさせない”ことだ。山内に憑依して最初に意識した注意点であり、俺が最も恐れていることでもある。

 

 これだけ聞けば何を当たり前なことを、なんて思うかもしれないが、この世界はよう実。すなわち、めちゃくちゃエロい美少女がそこら中いっぱいにいるわけだ。

 特にDクラスは主人公クラスなだけあって、容姿も整っていれば、おっぱいやお尻、太ももなど性的な魅力が詰まった女子たちが揃っている。

 

 これでも俺は男。なんなら、大好きな物語の世界に転生しているのだ。艶めかしい彼女たちの肢体に誘惑され、ついつい目がいってしまいそうになる気持ちもわかるはずだ。

 仮に、そんなことをしでかしたら、俺の学校生活は終わってしまうのだが。

 

「おはよう博士!」

「おはようでござる、池殿!」

「いやぁ、昨日は興奮し過ぎて寝れなくてよ。テンションめっちゃ高いわ」

「わかりますとも! なんたって今日は『あの日』でござるからな!」

「……なるほど。そうなるのか」

 

 目の前で発情する男子たちを見ながら思わず呟く。山内がいなくなった場合どうなるのかと気になってはいたが、外村が代わりを務めるのか。

 

「なぁ、春樹。池たちはなんであんなにテンションが高いんだ?」

「……いやー、まぁ、こんな時期からプールの授業があるからじゃないか?」

 

 清隆の純粋な疑問に曖昧に答える。女子のスク水姿が見えるから……なんて、さすがに軽井沢たちがいる前で軽々しく言えない。

 ただでさえ池たちのせいで朝から女子たちの機嫌が悪いのだ。下手なことを言って、こっちにヘイトを向けたくない。

 

「キモ」

「マジで死ねばいいのに」

 

 軽井沢と篠原が冷めた目付きでそんな暴言を吐き捨てている。松下と佐藤も言葉にこそ出していないが、大体同じことを思ってそうだ。

 触らぬ神に祟りなし。平和を重んじるあの洋介ですら苦笑いしかできないでいた。

 

「うー、あんなバカな奴らに水着姿を見られるぐらいなら仮病したいけど……」

「ポイントが減るかもしれないもんねぇ……」

 

 嫌そうな佐藤に続くように、松下がため息をつく。

 洋介がポイントの変動について説明してから、Dクラスの生活態度は比較的マシになった。本当は仮病で休みたい女子たちも、ポイントが減るとなれば、おいそれと休む選択肢を選べないのだ。

 とはいえ、須藤や池といった少数が素直に従ってくれるわけもなく、今もなお、着実にクラスポイントを減らしているだろう。

 

「まだ救いなのは、平田くんたちみたいなマトモな男子がいることだよね〜」

「ねー。他の男子も見習ってほしいよ」

 

 篠原がそう言うが、残念ながらそれは無理な話だと思う。

 俺の視線の先では、ワイワイと騒がしい男子ちがクラスの女子のおっぱいの大きさで賭けをし始めたからだ。

 

「佐倉のおっぱいが……」

「いやいや、長谷部のおっぱいのほうが……」

 

 一応、俺たちはあの集まりから距離は離れているはずなのに、下品な会話内容が聞こえてくる。そのせいで教室の空気が一段と冷えたのは気のせいじゃないはず。

 

「楽しそうだな」

 

 そんな中でも清隆は男子たちが気になるのか、マイペースに賭けのやり取りを見ていた。ウズウズと呼ばれたらすぐにでも行きそうな様子。残念ながら、池は清隆のことが嫌いなので呼んでくれることはないだろう。

 

「綾小路くん、ばっちぃからあんなの見ちゃダメだよ」

「何も見えないんだが」

「目隠ししてるからね」

 

 後ろから佐藤が両手で清隆に目隠しをするなんて羨ましいやり取りをしている傍ら、席に座っていた洋介が立ち上がった。

 

「ボクが注意してくるよ」

 

 そう言って颯爽と賭け事をしている男子たちの元に向かう洋介。

 

「心までイケメンだな」

「ねー、アイツらが平田くんと同じ男子なんて本当に信じられない」

「ほんと、よくやるよ」

 

 篠原とともに一連のやり取りを見ながら、俺はそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

「わー、プール広い!」

「高校で室内プールって珍しいよね〜」

 

 体育の時間。

 着替えを終えた俺たちが女子を待っていると、女子たちがこちらにやってきた。

 

 原作では見られないスク水姿。池たちは女子の肢体に釘付けでへっぴり腰になっていたが、もちろん俺は首から下を見ないよう、鋼の意思で堪えていた。

 

「わ、綾小路くん。筋肉凄くない? もしかして結構鍛えてる?」

「いや、そんなことないんじゃないか? 中学は帰宅部だったし」

「清隆ぁ? それは隣にいる俺を前にして言えることかぁ?」

 

 松下の言葉を否定する清隆に、若干恨みを込めながら肩を掴む。

 別に清隆は何も悪くないのだが、現実というものはあまりにも残酷過ぎた。

 

「山内くんは、うーん……」

「あれだね、ぽっちゃりじゃないだけマシって感じ」

「言うな! これでも意識改革して、高校に入ってからジョギングと筋トレは毎日やってんだよ! ……でも、さすがに半月じゃ効果でないって」

 

 佐藤たちの視線から逃れるように体を隠す。

 今後の特別試験のために当然、運動面にも力を入れてはいるが、所詮山内。初期値があまりにも低過ぎるのだ。

 

 清隆や洋介と一緒にいるとより比較されるのはわかっていた。それはそれとして、なんでこれまで何もしてこなかったのか。本当に、恥ずかしくて顔から火が出そう。

 今の俺は、きっとそんな表情をしていると思う。

 

「あはは……。でもそうやって毎日継続することは大事なことだし、偉いと思うよ」

「うん、山内は頑張ってるよ。……お腹はまったく割れてないけど」

「うぐっ。シックスパックができるよう、日々精進します……」

 

 洋介と篠原の言葉にガクッと項垂れると、女性陣たちに自然と笑みが溢れる。池たちによって下がっていたテンションも戻ってきたように見えた。

 

 ふむ。俺は表情が変わらないように気をつけながら、内心でほくそ笑む。

 平田グループの賑やかし担当。それを目指して、今日も欠かさずその役を演じてきたが、どうやら着実にその印象が根付いているみたいだ。

 

 見えない努力をコツコツ、コツコツ。彼女たちの中でも俺が欠かせないメンバーの一員であると思ってもらえてるだろうか? まだまだ不十分だろうから、これからも日々頑張っていかないと。

 

「?」

 

 ふと、視線を感じて振り返る。がそこには池たちや彼らに構う櫛田がいるだけで、特段おかしな様子はない。

 

 気のせいだろうか?

 平田グループは目立つから見られていてもおかしくないが、それにしては粘つくような俺にだけ向けられたドンヨリとした視線だった。なんとなく小骨が喉に引っかかるような、そんな違和感を感じてしまう。

 

「どうした、春樹」

「いや、なんでもない」

 

 清隆に尋ねられたけど、俺もわからないためそう返すことしかできない。

 まぁ、平田グループにおける山内は逆目立ちするんだろう。それはもう仕方ない。

 

「お前ら集合しろ」

 

 俺たちを呼ぶ体育教師。

 

「準備運動が終わったら、男女別で50mのタイム測定だ。一番速かった奴には5000プライベートポイントを支給しよう。逆に遅かった奴。泳げない奴は補習だから覚悟しろよ」

「マジすか?」

「マジだ。安心しろ、夏までには全員泳げるようにしてやる。必ず役に立つからな」

 

 んー、5000プライベートポイントは欲しいけど、俺に勝ち筋がないからなぁ。

 悩むだけ無駄な案件である。どちらかといえば補習の方を気にするべきか。

 

 まずは女子のレースが先。原作では二組しかなかったが、今回は欠席がないため男子の出番はまだまだ後だ。

 

「なぁ、春樹。聞きたいことがある」

「んぁ? どうした」

 

 女子の目線を気にしなくていいため、堀北の綺麗なクロールをぼんやり眺めていると、隣に座っていた清隆が声をかけてきた。

 

「オレはあまり泳ぎに自信がないんだが、どのくらいが平均なんだ」

「えー、まぁ、どうだろうな?」

 

 それ、俺に聞くのか? なんて答えるのが正解なのだろうか。

 大体、俺や池ぐらいの男子が平均になるんだろうけど、それを素直に伝えるときっと清隆は俺たちと同じスピードに調節してしまうはず。

 

 それは少しだけ困るかな。仮にも平田グループに所属して、女子たちからも筋肉を褒められたばかりなのに、泳ぎは俺と変わらないヘナチョコ、というのは格好がつかない。

 

 俺の手によって原作を歪めているため、物語のように堀北育成が行われるかわからない。そうなると今後の試験で苦しむことが増えるはずだ。

 清隆には全力を出さなくてもいいから、洋介の補佐として、その実力の一端を披露してもらいたい。そういった願望も含めて、俺は言葉を選ぶ。

 

「んー、あんまり平均とかわかんないけどさ。もうちょい自信持ってもいいんじゃないか? 少なくとも清隆は洋介ぐらいは泳げると思うぞ」

「何故そう思うんだ?」

「思うっつーか、そうじゃないとダサイぞお前。ただでさえ洋介より筋肉があってすごいのに、松下たちから失望の目で見られたら。……普通に学校生活終わると思うぞ」

 

 別にそんなことはないと思うけど、多少脅し気味に断言する。

 普通を目指す清隆だが、なんだかんだで今の生活を楽しんでいる。さすがの彼も、現状を壊してまで平均を目指すことはないだろう。

 

「……なるほど、参考になった。まだ自信は持てないが、頑張れるだけ頑張ってみようと思う」

「おう、頑張れ。ダメでも俺だけは味方になってやるからせ」

「春樹……っ!」

 

 感極まっているところ悪いが、表情が相変わらず変わってないぞ、清隆。

 そんな傍ら女子のレースは終盤に迫り、最終的に勝ったのは水泳部の小野寺だった。

 

 ようやく男子のレースが始まる。

 一組目は、女子たちからの黄色い歓声を浴びる洋介と、それにイラついている須藤。結果的には須藤が勝ったけど、洋介は相変わらず女子にチヤホヤされていた。

 

 次は、二組目。俺の番だ。

 

「じゃあ清隆、行ってくる」

「ああ、春樹も頑張れ」

 

 清隆の応援を背に、飛び込み台の前に並ぶ。やるだけやってみるつもりだが、俺が一番を取るのは無理だろうな。

 主に隣の男のせいで、

 

「ふむ。レディたちの歓声は耳に心地よいな」

 

 自信満々にその胸筋を張る高円寺。清隆とは違った意味で迫力がある男だ。

 ホイッスルが鳴る。水の中に飛び込んで必死にクロールをするが、当然一位は取れなかった。

 

「水に滴るいい男とは、まさしく私にこそ相応しい言葉だな」

「いや、確かに美術館の彫像みたいな筋肉してるけどよ。自信あり過ぎだろ」

 

 先に水から上がった高円寺がそんなことを言うから、思わずつぶやくと高円寺が俺に視線を寄越した。

 

「おや、山内ボーイ。男にしては私を見る目があるじゃないか」

「お、おおう。そうか?」

「そうとも。レディではないから特にこれといった嬉しさはないが、キミの目に間違いはないとも。是非ともその目を曇らせないよう研鑽したまえ」

「お、おう……」

 

 ハッハッハー! と笑いながら立ち去る高円寺に後半はおうしか言えなかった。あいつ、興味がない男でも話しかけてくるんだな……。

 原作での山内と高円寺の絡みは退学時の一悶着ぐらいしか記憶にないから、なんか新鮮な気分だ。

 

 水から這い上がって、さてどこで待機しようか。清隆は三組目でいない。それじゃあ洋介の元に行こうかとも思ったが、女子に囲まれる光景を見て、やめることにした。

 普段ならともかく、スク水姿の女子たちがいっぱいいる中に集合するのは、平田グループの一員だとしてもリスクが高過ぎる。

 かといって他に仲の良い男子もいないため、男女の中間ぐらいの静かな場所に座り込むことにした。

 

 久しぶりのぼっちタイム。平穏で平和だ。周りを気遣う必要のない今に、思わずほっとひと息つく。

 

 

「山内くん、お疲れ様」

(ひぃ……ッ!?)

 

 と思ったのもつかの間、音もなく現れた櫛田が俺を見下ろしながら声を掛けてきた。

 あざとく笑う櫛田。

 悲鳴を上げなくてよかった。

 

 美少女にドキドキ、ではなく。ホラーの怪物やオバケが現れた方のドキドキで、俺の心臓が激しくバグついていた。

 

 櫛田桔梗。

 俺が最も関わりたくないヒロインランキング、二位にランクインしている腹黒少女だ。

 ちなみに堂々の一位に輝いているのはもちろん、坂柳有栖である。

 

「隣、座ってもいいかな?」

「ど、どうぞ」

「ありがとう!」

 

 なんで隣に座るの!? とは口に出せない。

 わざわざ俺のところに来たのはなぜか。まったく理由がわからない。

 

「どうしたんだ、急に?」

「山内くんが一人なのが珍しくてつい、ね。初日以来、二人きりであんまり話せてなかったら、来ちゃった」

 

 花が咲くような笑顔でそう言う櫛田は、すごくあざとくてかわいいんだけど。俺の内心は恐怖心でいっぱい、いっぱいになっていた。

 

 確かに俺は初日に連絡先を交換して以来、二人きりにならないよう最大限気をつけてきた。

 と言っても、拒絶なんて露骨なことはせず、あくまで学校にいる時は平田グループ。最低でも清隆と洋介の三人セットでいるように気をつけてきた。

 

 でも、それは櫛田に下手なストレスを与えないため。彼女は重度の承認欲求モンスターである。その手法としてみんなから好かれる振る舞いを心掛けているが、その分ストレスが溜まる。

 そのストレス発散の矛先がもし、俺に向いたなら。俺はきっと生き残ることができないだろう。だからこそ、極力櫛田とは距離を置いていたのだが。

 

 ……もしかして目を付けられた?

 背筋に冷たい汗がつたう。

 

 いやでも、堀北と関わりも持ってないから、少なくとも櫛田の過去に触れるような、怒りを買うようなマネはしてないはず。じゃあ、なんでわざわざ人目につく場所で、こんなヘイトが向くかもしれないアプローチをしてきたんだ?

 

 実際、遠くで池たち男子からの嫉妬の視線が俺に向けられるが、櫛田は気にした様子がないのか、ニコニコと笑っている。

 

「そういえば山内くんって高円寺くんと仲が良かったんだね。ビックリしちゃった」

「高円寺? 別に仲良くはないと思うけど」

「そうなの? でも、高円寺くんが男子と楽しそうに話してるのなんて、私初めて見たよ」

 

 どうやらさっきのやり取りを聞いていたみたいだ。

 でも、なんでわざわざ高円寺の話を?

 

「私も高円寺くんとは仲良くなりたいから、山内くんがどんな風に盛り上がったのか、秘訣が知りたくてね!」

 

 ムギュっと胸を強調するように手を組み、近寄る櫛田。

 俺は絶対に首から下を見ないよう気をつけながら、彼女の目を真っ直ぐに見る。

 

 本当は視線を逸らしたいけど。人はオドオドするより、堂々としたほうが好感が持てるらしく。

 視線を逸らすってことはつまり、櫛田の体を意識していることが逆説的に伝わってしまうからだ。

 

「別に秘訣っていう程のものはないけど。高円寺は結構自分に自信を持ってるタイプだから、そこを褒めてあげれば、気分よく話してくれるんじゃないか?」

「ふむふむ、なるほど。参考になるね」

「後は純粋にお話したいって伝えればいいと思うぞ。櫛田さんは可愛いし努力家っぽそうだから、高円寺は無下にしないだろうし」

「へ?」

「え?」

 

 なんて言ったものの頭はパニック。思いつく限りのことを後先考えずに言ったら、櫛田が目をぱちくりさせながら、驚いている。

 あ、やべ。失言したかも……。

 

「ご、ごめん! 何か不快なこと言ったか? 色々考えすぎて、テキトーな答えになってたかも」

「う、ううん。そんなことないよ! むしろ嬉しいというか、ちょっと照れくさいような?」

 

 頬を染め、モジモジとする櫛田と対象に今の俺はきっと青ざめていると思う。

 やってしまったが後の祭り。すでに言葉は口から出てしまった。訂正しようにもそれはそれで角が立つ。

 

「ふふふ」

 

 気分良さそうに笑う、櫛田。

 演技力が高過ぎて、櫛田の内心はまったくわからない。

 けど、きっと愉快な気持ちではないのは確かだ。終わった……。きっとブラック桔梗のブラックリスト入りしてしまったはず。清隆が帰ってくるその時まで、俺の脳はその一言で埋まり尽くしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

「山内くん、どうしたの? そんなため息ついちゃって」

 

 料理部で部活動中。

 ため息をついた俺のことを心配するように、篠原が肩をポンと叩いた。

 

 篠原を見ると、エプロン姿の彼女が目に入った。女の子らしい可愛らしくシンプルなデザインだ。

 

「いや、人生中々上手くいかないなって思って」

「え、もしかしてプールの時のことまだ気にしてるこ? 大丈夫だよ、男子って筋肉がすべてじゃないし。山内くんには料理っていう家庭的な武器があるんだから!」

 

 何か勘違いしているみたいだけど、まぁ、別に訂正するようなことでもないし、いいだろう。

 そんなことを考えていると、チーンとオーブンのタイマーが鳴った。

 

 蓋を開けて、中の物を取り出すときつね色に焼きあがったクッキーが視界に広がった。

 

「わぁ! やっぱり料理が手馴れていると、お菓子作りも上手だね!」

「いやいや、これは篠原さんの教えが上手い証拠だよ。わかりやすくて、すんなり頭に入ったし」

「えへへ、そうかな? そう言われると自信ついちゃうな〜」

 

 篠原の褒めに褒め返しをすると、彼女は照れくさそうに頬をかいた。 

 俺の言葉でも嬉しそうに喜んでくれる様を見ると、思わず俺も笑ってしまう。

 

「せっかくだし、食べてみてくれよ。味の感想が聞きたいからさ」

「いいの? じゃあ、もらっちゃおうかなー」

 

 少し冷めるのを待ち。篠原はクッキーを一枚手に取り、あむ、と口にする。

 サクっという音。

 

「んんー! 山内くん、美味しいよ!」

「……そうか。それならよかった」

 

 笑みで顔を綻ばせながら、そう言ってくれる篠原。

 なんというか、あれだな。

 まさか篠原さつきに癒しを感じる時が来るなんて、転生するまでは思わなかったなぁ……。

 

 

 

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