退学したくない憑依山内くん   作:白黒パーカー

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4話

 

 

 

 櫛田桔梗がなぜ俺に声をかけたのか? 

 結局、プールでの一件は分からずじまいで終わってしまった。そして追い討ちのように俺の日常に変化があった。それは俺が平田グループにいる時でも、関係なく櫛田が臆さず俺にのみ話しかける機会が増えたことだろう。

 前までは回避策として機能していたそれは、現在効果なし。むしろ、佐藤たちという周りの目があるせいで余計に悪目立ちしている状況だ。

 

 早急な対策が必要だ。

 とはいえ、似たような策では効果がない。回避ではなく、櫛田自体を受け止めるような、それでいて彼女の好感度を上げるような方法ではないと、ヘイトだけが高まってしまう。

 こうなったらいっそ、櫛田を褒めて褒めまくる褒め褒め作戦しかないのかもしれない。

 どういった考えで櫛田が俺に交流を持ちかけてくるのかはわからないが、少なくとも褒められて嫌がるような人間じゃないはずだ。承認欲求モンスターの彼女をどれだけ満足させられるか、それが今の俺に求められている対応だと思う。

 

 だが問題はそれだけではない。

 あらかた、櫛田への対策を決めて数日が経ち。Dクラスは五月を迎えた。

 教室の空気は控えめに言って、地獄絵図に成り果てていた。

 その原因は茶柱先生によるこの学校についての説明だろう。

 

 

 Aクラス:950cp

 Bクラス:720cp

 Cクラス:500cp

 Dクラス:250cp

 

 

 Dクラスのポイントは0ではなかったものの、まぁ、酷いものだった。仮にも三日目で対策をしたのに残ったポイントがこれだけとは……。

 それにDクラス以外のポイントが上がっているのも興味深い。おそらく、平田が言ったことを他のクラスに言った人間が何人かいることが原因だろう。なんなら、平田自身が言っている可能性もある。サッカー部に所属する彼には他クラスの友人も多い。

 まぁ、今日までクラス間競争について知らない彼らにとって、それらの行動は仕方ない行為だと言える。

 

 俺はAクラスにまったくの興味がないため、他クラスのポイントが増えようが気にしない。Dクラスが不良品だとしても、退学さえしないのであれば問題はないのだ。

 しかし、先生が去った後のクラスは荒れに荒れていた。

 

「ポイントがこんだけしかないって、これからどうすればいいんだよ!」

「ふざけんなよ。なんで俺がDクラスなんだ……!」

「みんな混乱する気持ちは分かるけど、いったん落ち着こう」

「落ち着く? 落ち着けるわけないだろ! 落ちこぼれだってバカにされたんだぞ!!」

「池くん、幸村くんも落ち着いてよ。ね?」

 

 ポイントが少なくて嘆く池や、不良品のレッテルを貼られ憤慨する幸村たちをなんとか宥めようとする洋介と櫛田。

 それを傍目に俺は返却された答案用紙を見下ろす。点数は60点。今回の試験の平均点が67点前後だと考えると、よろしくない点数だ。

 

 徐々に学力を取り戻しているとはいえ、あまり芳しくない。とはいえ、高校生活を始めて、一ヶ月。時間はまだある。

 それに今回に関してだけ言えば、過去問もあるため退学自体は回避できるだろう。

 だけど……。

 

「やっぱり一人だとキツイな……」

 

 転生者とはいえ、元一般人。人生経験が他のみんなよりあるだけで特筆した才能はない。このまま個人でやっていっても、非効率的だ。

 そうなるとやっぱり誰かに勉強を見てもらった方がいいのだろうが。しかし、そうなると誰に教えてもらうべきか? 洋介に時間を作ってもらうのは難しそうだし、幸村はあの様子じゃとても協力を得られそうにない。かといって清隆に頼もうにも現在実力を隠している彼には断られてしまう。

 

 他にも候補はあるが現状だと無条件に頼ることはできない。さて、どうするか?

 

「?」

 

 ふと、覚えのある視線を感じた。

 答案用紙から顔をあげると、さっきまで諍いを止めていたはずの櫛田が俺を真っ直ぐに見ていた。

 

「……」

 

 息が止まる。俺は今、どんな表情をしているのだろうか?

 

 櫛田と目が合い、彼女は困ったように眉をひそめると苦笑した。ようやく幸村たちを落ち着かせることに成功したのだろう。ホッとするように笑みを浮かべていた。

 ああ、それなのに櫛田の目が笑っていないことに気づいた。どこか粘ついた息苦しい視線がまた俺のことを射抜いている。

 根拠はない。ただ、なんとなくだが、そんな気がしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 俺は洋介が開いた対策会議に参加していた。クラスのメンバーは全員揃っていない。堀北や須藤といった、性格に難のある生徒は早々に教室を後にしたからだ。

 原作では清隆もその一人だったが、平田グループが全員残っているのを見て、同じく残る選択をしたみたいだ。

 

「春樹くんも参加してくれてありがとう。すごく助かるよ」

「いいよいいよ、クラスの問題なわけだしさ。俺なんかより洋介の方が大変だろ? 無理とかしてないか? ……正直、俺なんかいても頼りないかもしれないけどさ、とりあえず書記ぐらいはやらせてくれよ」

「……ううん。そんなことはないよ。君がいてくれるととても心強いから」

 

 俺の言葉を聞いて、どこかホッとしたように笑う洋介。隠しているようだが、彼もまた今回の件で参っているのだろう。仕方ないことだ。

 矢面に立つ以上、クラスのみんなのため弱みを見せられない洋介。そんな場面で心を支えてくれる人間は非常にありがたいはずだ。

 

 嬉しいことにこのクラスはひどく利己的な生徒が多い。Bクラスのような協調性もなく、我の強い面を持ち合わせている。

 もちろん女性陣は洋介の味方をするだろう。しかし、それはあくまで頼りになるイケメン、理想的な男子、平田洋介だから。彼もそれをわかっているからこそ、女子たちに弱音を吐くことはない。

 すなわち洋介にとって心の底から安心できる味方は一人もいないということになる。

 

 都合が良くて助かる。

 

 俺だけは洋介の味方でいよう。彼が同情ではなく、俺を本当の意味で切り捨てられないようにするために。

 俺に依存してくれたって構わない。そのためなら俺はいくらでも洋介に優しくするし、協力だって惜しまないのだから。

 

 そんな内心を口にせず俺は黒板の前に立ち、チョークを手に取った。

 振り返ると洋介が頷く。

 

「まずはみんな、対策会議に参加してくれてありがとう。朝話した通り、ボクたちDクラスが今後どうしていくべきか、みんなの意見が欲しいんだ」

 

 堂々とした洋介の発言にポツポツと手が挙がり、思い思いに発言をするクラスのみんな。

 主に挙げられた意見としては、生活態度の改善、赤点の阻止、そのためのテスト勉強だった。

 

 概ねその通りであり、俺は黒板にカツカツと意見を書き込んでいく。が、今回集まっているメンバーだとこの辺りで意見は打ち止めだろう。

 実際、最初の方は挙がっていた手も、少ししたらなくなっていた。

 

 すぐに訪れる沈黙。

 他人任せとまでは言わないけど、人はよっぽど自信がない限り、この空気感で意見を出すことができない。

 集団心理にそんなものがあった気がする。

 

「春樹くんは何か意見はあるかい?」

 

 そんな空気を察して、俺を頼る洋介。

 頼られること自体は別に問題ないが、はて何を言うべきだろうか? 

 

 腕を組み、黒板を見るふりをしながら頭の中で原作知識を思い返す。

 

「そうだな。対策というか、気になることがあるとすれば退学にペナルティがありそうってことじゃないか?」

「ペナルティかい?」

「ああ。なんたって欠席や私語だけで10万のプライベートポイントが減少したんだ。その程度の問題でマイナスになるなら、退学とかだと、とんでもないペナルティが用意されてそうじゃね?」

 

 確かクラスポイントのマイナスや、単純に戦力の低下が退学のペナルティだったか。回避措置は用意されているけど、今のDクラスのポイント事情を考えるとあまり意味はない。

 退学自体を事前に阻止することが賢明な判断だろう。

 

「そうかもしれないね。元々、退学者を出すつもりはなかったけど、山内くんの話を聞いて、より明確な根拠が出来たよ」

「となると、赤点組をどうにかして勉強会に参加させた方がいいんだろうな。だけど……」

「須藤くん辺りをどうするかだよね……」

 

 二人で頭を悩ませるように考え込んでいると、ふと、違和感。クラスがあまりにも静か過ぎたのだ。

 洋介から視線をみんなに移すと、何人かの生徒が俺たちを見て、ポカンと口を開けていた。

 いや、俺たちというより、俺か?

 

「な、なんだよ、みんな。そんな黙り込んでよぉ?」

「いや、なんというか。山内くんって意外と頭良かったんだね」

 

 軽井沢が代表してそんなことを言ったが、山内の評価があまりにも酷過ぎる件について。

 何人かの生徒が軽井沢の言葉に頷いていた。泣きそうだ。

 

「い、意外って、酷くね? 一応クラスのために頑張って意見を言ったのによぉ……」

 

 ヨヨヨ、と教卓に泣き崩れるとクラスに久しぶりの笑いが起こった。

 

「大丈夫だよ、春樹くん。ボクは君がすごいことをずっと前から知っているからね」

「洋介ぇ……」

 

 隣では洋介が苦笑しながらも、フォローするように肩を優しく叩いてくれた。

 起き上がると、軽井沢が片手を挙げて笑みを浮かべていた。

 

「ごめんごめん。でも、頼りになる生徒がいてくれて、私は嬉しいよ!」

「気にしちゃダメだよ、山内くん」

「おう、軽井沢さんと篠原さん、フォローありがとうな。まぁ、俺なんかの頭の良さはともかく、このまま退学なんて真っ平ごめんなんだからさ。みんなで協力して、勉強会をしようぜ!」

「賛成! 赤点阻止頑張るぞー」

「おー!」

 

 俺の発言に続くように、軽井沢たちが賛成を示してくれた。クラスカーストトップの女子たちが乗ってくれたなら、他の生徒たちも些細な理由で断るなんてマネはできない。

 それに俺の道化っぷりでクラスの雰囲気は明るくなった。少なくとも朝のような仄暗い雰囲気は払拭できただろう。

 

 俺はしっかりと恥をかいたが、それに見合うだけの成果を手に入れた。なにより、俺がただ平田グループにごまをするだけの腰巾着というイメージも払拭できたはずだ。

 隣の洋介を見る。彼と目が合うと、満足そうな笑みを浮かべて頷いてくれた。

 

 これ以上の案は出ないだろうと結論付けた洋介は、今後取り組む勉強会の日程や方法を考えておくと伝えたのち、今日のところは解散となった。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、疲れた」

 

 会議が終わり、その後いつも通り平田グループで集まり、勉強会についての話し合いが始まった。

 俺はさっきのやり取りで疲弊したため、洋介に断りをいれて、まだ人気の少ない食堂に訪れていた。

 

 給水器で水を確保して、空いた席にだらしなく座る。

 今は人目がないし、この程度でポイントがマイナスになることはないだろう。気にすることなく脱力した。

 

 頬に当たる机がひんやりして気持ち良い。

 なんか、もう、色々と疲れたなぁ。

 

 ふと、顔に影が落ちる。

 目線だけを上にあげたら、俺を見下ろす松下と目が合った。

 はい?

 

「お疲れ様、山内くん」

「……松下さん? なんでここに? 洋介たちと勉強会について、話し合ってたんじゃないのか」

「山内くんのことが気になって、後を付けてきちゃった」

 

 言葉だけを聞いたら、すごい嬉しいんだけど。

 山内がモテるわけがないので、何か別の意図があって来たのだろう。

 

「何か用件でもある感じか?」

「なんだ。思ったより、動揺しないんだね」

「いや、すっごい動揺はしてるぞ? 松下さんに、なんか不快なことでもしたんじゃないかって」

 

 つまんなそうな顔をする松下には悪いが、違う意味で俺の心臓はバクついている。

 ただでさえ櫛田に目をつけられているのに、これ以上は勘弁だ。

 

「別にそんなことはないけど。あっ、隣座るね」

 

 特に気にした様子もなく、松下が隣に座った。

 

「実は山内くんに聞きたいことがあったんだよね」

「それは二人きりじゃないと聞けない系?」

「うーん、私は気にしないけど。山内くんは聞かれたくないかもしれないから、一応配慮した感じかな」

 

 何の話をされるのだろうか。ひとまず聞く体勢に入ると、松下は改まった様子で口を開いた。

 

「山内くんって自分の実力を隠してるのかなって」

「……え?」

 

 一瞬、何を聞かれたのか理解できなくてぽかんとする。

 え、実力隠してるってなに? 隠すも何も山内の実力なんて見てわかる程度しかないんだけど。

 

 こういうのって、清隆が言われるやつじゃないのか?

 

「いや? 割と出せる実力は出してる感じだけど」

「でも、クラスポイントの減少について最初に指摘したのは山内くんなんでしょ?」

「……洋介に聞いたのか?」

「うん。クラスに呼び掛けた件について平田くんをベタ褒めしたら、最初に気づいて共有してくれたのは山内くんだって教えてくれたの」

 

 なるほど。

 する必要はないと思って、洋介には口止めはしなかったが言ったのか。おおかた、洋介だけの手柄になるのは我慢ならなかったのだろう。自己の利益より他者の利益を優先する、彼らしい判断だ。

 

 そして、松下はこの学校の真実を知ったことで俺にアクションをを起こすことを決めたのか。松下はできることならAクラスの恩恵を受けたい派閥。

 本来の実力を隠す、頭の良い彼女だ。少しでもAクラスに上がるきっかけを俺に見出したのだろう。

 

 ちょうど良い。

 それなら、俺もこの状況を利用させてもらおう。俺は姿勢を正すと真面目な顔で口を開いた。

 

「そういう松下さんの方こそ実力隠してるんじゃないの?」

「……なんでそう思ったのかな?」

 

 松下は一瞬、目を見開くものの、なぜ俺がそう言ったのか探るように目を細めた。

 

「松下さん、前に数学の時間に出たプリントで分かんないところ、洋介に質問したことあったろ」

「そんなこともあったね。でも、それが何?」

「その時、たまたま松下さんのプリントを見ちゃったんだけどさ。俺が頭捻っても解けない問題は計算式も書かずに解けてたのに、逆に俺でも解ける簡単な問題で質問してたのに気づいちゃってさ」

 

  クラス間競争が始まっていたら、決してしないであろう小さなミス。

 しかし、今日のホームルームまで普通の学校だと思っていた松下にとって、そこまで気にするようなことではなかったはずだ。軽井沢たちにさえ見られなければ問題ない。その程度の認識。

 

 たまたま平田に質問した時、俺が見ていたというイレギュラーがあったからこそ、形になったミスである。

 しかし、俺は少しでも自分に得があることを求めて日々観察して、把握することに務めていた。そういう意味でいえば、俺の努力の成果ともいえるだう。

 

「……私も後から気づいたんだよね。一応、修正したつもりだったんだけど、先に見られちゃってたか」

 

 松下も俺の話を聞いて、やっちゃったなー、とため息をつく。

 否定しないところを見ると、実力を隠していることを認めたのだろう。

 

 それはら、もう少しだけ踏み込んで、俺の価値を上げても良さそうだ。

 

「実力を隠してたのはあれだろ。軽井沢さんたちと一緒に生活する上で、ヘイト管理、まぁ悪目立ちしないようにするためだな」

「へー、そこまで気づいちゃうんだ」

「まぁな。軽井沢さんたちはお世辞にも学力は高くないが彼女が実質のリーダー。なら、松下の立場だとそういうのも気をつけちゃいけないだろうからな」

 

 男子とは違い、女子はよりカーストを気にしなくちゃいけない。あの集団のトップが軽井沢である時点で、松下には配慮が求められる。

 

「ふーん」

 

 頬杖をつきながら、俺に流し目を送る松下。

 

「本当に優秀なんだね……ちょっと、見直しちゃったかも」

 

 おや? 若干湿度が変わったかな?

 あれ、ちょっとやらかしたかも? これ、思ったより上に実力を見られてないだろうか。すごい不安になるんだけど。

 

「ところで、山内くんはAクラスに興味ある?」

「ど、どうだろうな? 俺はあんまり進学とか考えてないからなぁ」

「じゃあさ、私に協力してよ」

 

 ズイっと顔が近付き、囁くようにそう言われた。間近に迫った美少女の顔。が、顔面偏差値が高い、高過ぎる……!

 

「私はできるならAクラスに上がりたいの。最初はうちのクラスのボロボロ具合に絶望しちゃったけどさ。……山内くんの協力があったなら、それも夢じゃないと思うんだ」

 

 体にこそ触れてないが、松下が囁く度に吐息が頬に掛かって、心臓がありえないぐらいにバクバクする。

 こいつ、わかってやってるな……ッ!?

 

 こんなの断れるわけないじゃないか。美少女ってなんでこんな仕草だけで可愛く見えるの? ズルすぎるだろ。

 

 

 …………なんて心の中で馬鹿みたいなことを考えながら、熱くなった体が冷めていく感覚に陥る。

 

 そう、別に松下は俺に好意を持ってこんなことをしているわけじゃない。あくまでハニートラップ。自分の目的を達成する手段として、これを選んだわけだ。

 俺は知っている。松下千秋という人間は理想が高く、信念の強い現実主義者であることを。

 

 彼女が恋愛対象として見るのは、洋介や清隆。もしくは歳上の男性。ルックスと能力を兼ね備えたスペックの高い人間を求めているし、その要求が傲慢と言わせないだけの容姿と能力を持ち合わせている。

 山内程度の人間に心惹かれるなんてバカなことは断じて、ありえない。

 

 良いだろう。 

 甘んじて彼女のハニートラップに引っかかってあげよう。それだけで松下は油断して、満足して、彼女自身の判断に慢心してくれるはずだから。

 その方が、都合のいい展開に誘導しやすくて助かる。

 

「わ、わかった。協力する、協力するから近いって!」

「ふふ。今度は動揺してくれた。おもしろい反応してくれるね」

 

 テンパる俺が仰け反りながらそう答えると、松下は口元に手を添え、上品にクスクスとおかしそうに笑う。

 俺はコホンと咳をして、松下に顔を向ける。若干照れくさそうに、斜めを向きながら。童貞らしいリアクションをわざとする。

 

「……とはいえ、一方的なのはナシだぞ」

「わかってるよ。私にできることなら、何でも協力するからさ」

 

 言ったな? 言質取ったぞ。

 

「じゃあ、俺に勉強を教えてくれよ」

「え、勉強? 山内くん勉強できないの?」

 

 怪訝な顔をする松下だか、言い訳はもちろん考えてある。

 

「勉強ってようはさ、どれだけそれに時間を費やしたかで成績に出るものだろ? 俺は中学時代、勉強よりも料理に興味があったからさ。そこまで勉強にリソースを割いてないんだよ」

「んー、まぁ、言ってることはわかるけど。本当に大丈夫そう?」

「松下さんが教えてくれるからすぐに問題なくなるよ。……それによ、この学校。たぶん勉強だけが全てじゃないと思うぜ?」

 

 どうせ俺の評価は上に見られてるんだ。多少原作知識を披露しても問題ないはずだ。

 判断を誤ったかと不安になっているであろう松下にそう言うと、無言で言葉の続きを促してくる。

 

「Dクラスは落ちこぼれ、不良品って言ってたけどさ。おかしいと思わないか?」

「んん? 具体的に何がおかしいのかな」

「だってさ。茶柱先生の言う通り、Dクラスが一番下のクラスなら、今回の小テストで高得点を取るような生徒はうちにいるわけないだろ?」

「あっ」

 

 そこまで言えば俺が何を言いたいのか伝わったのだろう。松下が俺に驚きの目を向けている。

 

「最低でも高得点を取ってるのは、高円寺、幸村、堀北さんの三人。それに続くように洋介や櫛田さんも高い点を取ってるわけだ」

 

 思い返すように腕を組み、松下を見る。

 

「それにさ、洋介や櫛田さんが不良品に見えるか? あの社交性の高さは、少なくとも俺の中では上澄み中の上澄みだと思うぜ」

「……じゃあ、もしかしてこの学校の実力の測り方は学力だけじゃなくて、運動とか協調性とか色んな観点、総合力で見られてるってこと?」

 

 頭の回転が速い松下は俺の言葉の意味を噛み砕いて、すぐにそう結論を出した。

 女版綾小路と言われるだけあって、さすがの実力者である。

 

「そう。つまり、総合力で実力を評価されてるなら、勉強が微妙な俺にもまだ存在意義はあるってことだ」

「なるほど、ね」

「……ただ勉強ができないってのはやっぱりマイナスだとは思う。他に強みがあるってのは美点だけど、放置したら退学のリスクもあるからな。一応、個人で勉強はしてるんだけどさ、人にマンツーマンで教えてもらった方が効率がいいだろ?」

 

 俺がそこまで言い切ると、松下も納得してくれたのか頷いてくれた。

 

「わかった。そもそも私から山内くんに持ちかけた話なんだし、それぐらいなら、いいよ。私が勉強を教えてあげる」

「ありがとう松下さん。助かるよ」

「こっちこそ。Aクラス目指して、お互い頑張ろうね」

 

 笑顔で松下から差し出された手を掴み、握手する。

 唐突な松下襲来に最初は驚かされたものの、勉強を教えてくれる人間を無事確保できたのは幸いだろう。

 

 ひとまず、松下のお眼鏡にかなうよう今回の試験は頑張らないとな。

 

 




Dクラスメンバーの心の声
軽井沢(山内くんって、バカじゃないんだ……っ!?)
佐藤(山内くんって、バカじゃないんだ……っ!?)
篠原(放課後に勉強会ってことは、当分は部活お休みしないとかな……)→最近、お菓子作りを教えるのが楽しかったから、ちょっとショック。
平田(山内くんのおかげでクラスの空気が明るくなった。ボクも頑張らないとっ!)
綾小路(なるほど。ああやってわざと道化を演じることで、クラスの雰囲気を良くしたんだな。ホワイトルームでは学べないおもしろい選択だ)
松下(思ってた以上に優秀だったな。案外悪くないかも?)→異性としてではないが、好感度高め。
櫛田(へー、篠原さんだけじゃなくて、松下さんとも個人的に仲がいいんだ)→食堂の入り口でこっそり見ている。
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