山内くんと最初に話した時最初に感じたのは違和感だった。次に彼を観察していると既視感を抱き、最終的に確信に至った。
山内くんは、私と“同類”なんだと。
他人に良い子を演じて、愛想を振舞って、ストレスを抱えているもう一人の自分。私には彼がそう見えた。
私なんかよりも容姿が劣っていて、それでいて目指す場所は平田グループの一員という、高望み。それでも、彼は確かにそこにいた。
私よりも下なのに上手くやっている彼に嫉妬した。他人に媚びて、道化を演じて、私と同じくらいストレスを抱えていそうで、ざまぁ、と思った。
でも、私は山内くんの事をバカにすることだけはできなかった。
否定なんてしたら、それは私のこれまでの人生を、これからの人生を否定することと同義だったから。
だから、私は山内くんに私の裏の顔を見せることにした。やっぱり私のことには気づいていたみたいで、ムカついた。でも、山内くんが私を睨んできた時、ドロドロと淀んだ、粘っこい何かを見つけて、少しだけ嬉しくなっちゃった。
私だけじゃない。仲間を見つけた。そんな傷の舐め合いをするような、悲しい事実確認が心底嬉しかったのだ。
◇
「ああ、もう。キモイ! 男子の視線がキモ過ぎるんだけど!」
ベッドに横たわり、枕を叩きながら、私はそう吐き捨てた。
池の胸を見る視線が、外村の下卑た笑みが心底気持ち悪かった。
「おい、人の枕に八つ当たりするなよ」
そんな私の行為を椅子に座っていた山内くんが、スマホ片手に心底嫌そうに私を見ていた。
あれから度々、ストレス発散のために山内くんの部屋に通うようになった私に対して、山内くんは表情を取り繕うことをやめてくれた。
松下さんたちの前では不快にならないよう笑顔を作っているが、私はこっちの素の方が気に入っている。
やっぱりストレス溜まってるじゃん。イライラしてるのが良い証拠。
「えー、いいじゃん。別に」
「やだよ。それとも、頭良いのにそんなことも分からないのか?」
「はー? なにそれ、ウザっ」
山内くんの人を小馬鹿にするような嘲笑にムカッとして、でもそれと同じくらい心がスカッとする私は、おかしくなっちゃったのだろうか?
よく分からない心情に口がもにょもにょになるのを指で押さえて、山内くんを睨みつける。
「ちょっと、こっち来て」
「はぁ、なんで?」
「いいから来なよ」
「……はいはい」
渋々といった様子で立ち上がった山内くんをベッドに座らせ、私は彼の太ももに頭を置いた。
「寝心地、わるっ」
「おい」
「喜びなよ、美少女の膝枕ができたんだよ?」
「これを理由にセクハラしてきそうで、嫌なんだけど。痛っ!」
失礼なことを抜かしたので、拳で脇腹を殴る。ふんっ、と鼻を鳴らして、私は山内くんの腕を掴んで、頭に持っていった。
「撫でて」
「嫌だけど」
「撫でてくれないと、セクハラされたって訴えてやる」
「意味がわからん脅迫はやめてくれよな」
ため息をついた山内くんは相変わらず嫌そうな顔で、私の髪を優しく撫でつけた。
人に撫でられたのなんていつぶりだろう。そもそも異性に体を許す私は何をやっているんだろうか?
今までの私ならこんなことしない。許しても、手を握るまで。
それなのに私は、なぜ?
わからない。でも、楽しいのだけはわかる。
いくらでも裏の顔を見せてもいい。否定されないこの空間の居心地が快適すぎて、ついつい行動がおかしくなってしまう。
テンションが上がって、それが子どもみたいで、なんだかムカつく。
「撫でるの下手くそ」
「当たり前だろ。俺が人の頭を撫でたことあるように見えるか?」
「童貞なんだから、ないでしょ?」
「死ね」
「そっちが死ね」
軽口を交わしながら、山内くんの撫でる手に目を瞑る。
気持ち良くはまったくないけど、まぁ、初めてらしいので許してやる。その程度の寛容さをたまには見せてあげないと。
「ねぇ、今日の夜ご飯はなにー?」
「愚痴ついでに、飯までたかるのかこの女」
「だって今日はそういう名目で来てるんだもん」
「料理を教える名目だよ、勝手に変更すんなよ」
「えー、めんどくさいんだけど」
「わがまま過ぎる……」
呆れたような山内くんを無視して、最近流行ってる曲を鼻歌で口ずさむ。
今のところ山内くんは私のことが好きじゃない、そんな態度を貫いているけど知ってるよ私。
私のことを睨みつけた時も、恨んでいた時も、恐怖で怯えてた時ですら、変わらず。
嫌いじゃないって思いが、行動になって現れていたから。
心がキュッとなる。
ついつい、想いが口に出てしまった。
「私も山内くんのこと、嫌いじゃないよ」
「はぁ? なに、いきなり。ヤバいやつじゃん」
「ふふ、照れてる顔で言われても説得力ないんだけど。これだから童貞は扱いやすくて、楽だわ」
「やっぱり死ね」
「山内くんこそ死ね」
ああ、こんな殺伐としたやり取りに癒されている私は、やっぱり頭がおかしくなっちゃったんだろう。