見習い神官兼陰陽師、式神失格としてリリースされた型落ち倉庫番のフィギュアと共に一人前の階段を駆け上がります 作:クワ
清一は自室を出、居間を通り過ぎ風呂へ向かう。
(洗濯機の上にでも置いておけばいいか)
浴室の隣にある脱衣室にドンと居座る洗濯機を頭の中で描いてトビラを開けた。
「せんたく――えっ!?」
「キャ―――――」
そこには……
「――ゴ、ゴメン」
慌ててシャツを投げ入れトビラを閉めた。
(アイツ、女だったのか)
心臓の鼓動が高鳴り続ける。
ドドドドドド
足音が接近して来る。
「この足音――やべぇ、姉貴だ」
(やばい、逃げるか)
「清一! アンタ、何やってんの!」
姉が眉間にしわを寄せて仁王立ちで行く手を阻む。
世の中では美人と言われる顔が吊り上がった目で台無しになっていた。
「遅かった」
「なーにが遅かったよ。女性の声が聞こえたからアンタにやっと甲斐性ついたかと思って部屋に籠って出るの我慢していたのに!」
「覗きなんかしやがって。サカりのついた犬じゃあるまいに! 恥だと思わないの! 私が恥ずかしいよ!」
後ろで結んだ長い髪が動くたびに振り子のように左右に揺れる。
姉の放つ迫力に押されっぱなしの清一が反論を試みる。
「ちょっと待ってくれよ! 俺の話も聞いてくれ」
「覗き魔の話を?」
「それは誤解だって! アイツがお茶をこぼしたからTシャツを持ってきたんだよ」
「アイツ? お前さ、家に招いた女性に対してアイツは無いんじゃない!」
「何でそうなるんだよ!」
「当たり前でしょうが! 何言ってんの!」
「とりあえず、事情を説明してくれない」
「……はい」
居間
居間に連れて来られ、
「それで、何でそうなってるの? それにその子、人間じゃないよね? 何があったの」
姉は流石陰陽師だけあり、ジュヌヴィエーヴの正体にうすうす感づいたようでそのように聞いてきた。
「これには深い訳がありまして……」
「どういう訳? 言ってみなよ、聞くから」
それは数時間前
某都心のグッズ販売店
「ここがそうなのか?」
恐る恐る店舗に入ると、賑やかな音楽が耳に入り込んでくる。
店の至る所に、色々なアニメやゲームのコーナーが海に浮かぶ島のように浮かんでおり、その島には山脈のように色とりどりのフィギュアの箱が積み上げられている。
「スゲェーな。これ全部フィギュアなのか?」
目を見張る清一は、取りあえず隅から隅へと歩くことにした。
清一がフィギュアを見に来たのは訳がある。
「オヤジと姉貴の会話で、フィギュアが式神として使えると言っていたからな。妖怪よりかわいい女の子の方がいいに決まってる!」
清一の知るもの知らぬもの、メジャーな物マイナーな物、色々あり目移りしてすぐにこれと決められない。
「このアニメは知ってる」
「あ、幻塩だ。ゲームの!」
「うわ、エロイ。目のやりどころに困る」
目を白黒させながらフロアを放浪していると不意に詰問調の声が聞こえた。
「店員さんか? 雰囲気悪くなるから店の中で叱るのやめて欲しいんだけどな」
清一は心の中で愚痴をこぼす。
「ここの通路の奥から声が聞こえる」
声の主をひょいと首を伸ばして確認する。
通路の先には三人組に追及され首をうなだれる一人の人間がいた。
「いい加減にしろ! これ以上足を引っ張るな。しばらく出番はない。新しく獲得した娘にやってもらう」
「ちょっと待っておくれよ。いきなりは無理だよ。もういち……」
「実戦にもう一度は無い。失敗は死に繋がる。装備品交換するぞ」
男は、何かしら訴えている者の言葉を遮り切り捨てる。
(何があったんだろう?)
「そこの子、どうしたんだい? 不快にさせたとしたらゴメンね」
声を掛けようかと躊躇していたその時、三人組の温和そうな男が声をかけてきた。
驚いた清一だったが、声を掛けられた以上何かしら反応をしようと、通路に数歩踏み出し、声を返した。
「何か、あったんですか? 何かその一人をみんなで注意しているみたいですが」
三人は顔を見合わせ、先ほど声を荒げていた男が清一の方へ向き直り声をかけてきた。
「お前、コイツが見えるのか?」
「は、はい、まあ」
意図の分からない質問に対し、曖昧に返答を返す。
(この人、どこかで見たことがあるような――まさか)
「あの、あなた、ラストファンタジー14のランカーの太田さんですか?」
「俺を知っているヤツがいるなんてな」
少し得意そうに笑いながら鼻を掻いた。
「かなり有名ですから」
かつてはプレ通やら電波ステーションなどの雑誌にて顔出しで攻略記事を載せて居た人だ。
「ところで、君は?」
大人びた女性が微笑をたたえながら聞いて来た。
「中条 清一と言います。高校生です」
清一はドギマギしながら答えた。
「中条君……。ああ、紹介遅れたね。僕は
隣の温和そうな男が会話を引き取り自己紹介を始めた。
「
清一はその名に聞き覚えがあったので話を振ってみた。
「vチューバーさんですか?」
「よく知ってたわね。お姉さん嬉しいわ」
「たまたまだろ」
「失礼ね!」
喜ぶ氷上に太田が茶々をいれ、冗談のやりとりに清一は立ち入れずにその場で立ち尽くす。
「で、何の用?」
「まあ、そう言わないの」
「だね、なにしに来たの」
(とりあえず、式神の事は伏せた方がいいな)
「フィギュアを買いに来ました」
「式神にするんだろ?」
「えっ!」
「何驚いてるんだよ。お前陰陽師だろ」
(俺、今日普通のカッコで来たよな)
清一は心を見抜かれたように感じ、魂が抜けるような驚きに包まれた。