ダンジョンの外で戦技売りをするのは間違っているだろうか   作:ルンルンベア

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「まいどありー! またお願いするよ!」

 

 ロリ巨乳としか言いようのないドチャクソかわいい女の子の店員さんが働く屋台でコロッケ、いやジャガ丸くんを五個買って歩き出す。日本にいた頃もそんなに金持ちってわけじゃなかったが、流石にコロッケだけで食事を済ませるなんて悲しい食生活ではなかった。白飯、味噌汁、千切りキャベツにソース、せめてこれくらいは揃えたい。そしてそんな物が恋しくなる日が来るなんて思いもよらなんだ。

 

「ぐすっ」

 

 やばい、泣ききそう。早いところ食って次に商売が出来そうな場所を探そう。

 

 俺は田西ユウタ。日本で生活していた普通の男だった。仕事はライン作業者。運ばれてくる製品を組み立てるのが仕事。退屈な仕事で給料もそこそこだったが人とあまり関らず、定時で帰れるのが良かった。そして家に帰ればゲームを楽しむ。特にエルデンリングは何周もしたし何キャラも作って何百時間と遊んだ最高のゲームだった。

 しかし、今では俺はエルデンリングのようでエルデンリングよりマシって感じのファンタジー世界にいる。理由なんかわからない。家でくつろいでいた筈が気がついたらこの街の街道に立っていた。

 ここでは俺は何者でもない。保険証、免許証、俺を田西ユウタだと保証する物も人も何もない。だからどこで働くことも難しい。さなまじ奇妙な能力があったのでどこかで働く事は保留にしてしまっている。

 

 俺の能力は武器にエルデンリングに出てきたような戦技を付与する事だ。戦いに臨む冒険者たちに売り込める力だと思ったが、今は無許可の露天商だ。何者でもない俺の話を聞いて俺の能力を見てくれる所なんて無いと考えている。

 

(でも日々ステップアップしているんだ。今日だって噂を聞いて新規の客が来た。今は一日数人程度だけど、噂が広まり始めているんだ。きっとそのうち、大勢の冒険者が俺のところにやってくる。そうして稼いで稼いで稼ぎまくって、どこか大きい所に入って、安定した生活を手に入れてみせるぞ)

 

 そんな事を考えながら歩いていたら広場についた。中央に噴水がある所で、カップルが多い。みんな幸せそうだが、俺にはその一欠片すらない。

 

「金さえ貯まれば……金さえ……」

 

 溢れ出てきた涙でジャガ丸くんに塩味を添加しながら、もそもそと咀嚼する。そしてこの場から離れる。ここでゴザなんか敷いて座り込んでいたら居た堪れなくなりそうだったから。

 

 ◆

 

 リリルカ・アーデは小人族であり、ダンジョンに潜る冒険者を支援するサポーターという役職についている。何かと荒っぽい冒険者連中からすればサポーターは引っ付いて荷物持ちするだけで金を要求してくる矮小な奴らという評価だが、リリルカの場合は荷物持ちだけでなく冒険者が戦いやすいように倒したモンスターの死骸をそれとなく運んで邪魔にならないようにするなど工夫もしていた。

 

(まあ、冒険者なんかにそんな仕事の大変さなんて、わかるわけないですけど)

 

 しかしどれだけ献身的にサポートしたところで自分を奴隷扱いする冒険者という連中にリリルカは嫌悪感を抱いていた。なので彼女も最低限必要な仕事以外はやらないことにしている。例えばモンスターが冒険者の背後から忍び寄ったとして、注意喚起で声がけはするが愛用のクロスボウで援護射撃なんかはしない。武器は自分を守るためだけに使う、それがリリルカの決め事だった。

 

「おいチビのノロマ! さっさと来い! 日が暮れるだろーがッ!」

「アニキィ。ダンジョンじゃ日が暮れてもわかんないですぜ」

「うるせえ!」

 

 今日も荒っぽい冒険者たちにくっついて危険なダンジョン探索だ。この冒険者たちは三人パーティで全員何年も上層で燻っているような典型的な半端者。そしてそういった半端者の御多分に洩れずサポーターを奴隷扱いする。荷物はほとんどリリルカに押し付け、魔石の採集もやらせ、自分達は身軽なまま快適に冒険をする。そしてリリルカは彼らが報酬を出し渋るであろうことも予感していた。

 

(今日もくすねる必要がありそうですね)

 

 リリルカがそう企みながら歩いていると、前方から唸り声が聞こえてきた。インプとハードアーマーの混成部隊だ。空からは羽が生えた小悪魔、地上からは硬い外角を持つ四足の獣が迫り来る。

 

「出やがったなモンスターども! 野郎ども行くぞ!」

 

 先頭のリーダーが剣を構え、仲間がそれに続く。リリルカは後方に控えていつでも最低限の援護ができるように準備する。しかし彼らは何年も燻っているような半端者であり、そもそも才能も頭脳もないのだろう。碌に連携も取れず、あたふたと戦うばかりだ。

 

(無様この上ありませんね)

 

 リリルカは内心毒づきながら倒されたモンスターを退ける。何かしらケチがつくと報酬は0だと言われかねない。

 

「うわっ!」

 

 しかしそんな彼女の元へ前線を突破したハードアーマーが迫り来る。冒険者たちは見向きもしない。自分たちの戦いで手一杯なのだ。

(うそ!?)

 リリルカは慌ててクロスボウを構えようとするがハードアーマーの装甲を貫ける程の威力がない事を思い出して手を止めた。そして咄嗟に近接戦用のダガーを取り出した。あの怪しげな商人に魔剣にしてもらった物だ。

 

「ええい!」

 

 やぶれかぶれにダガーを振り上げ、商人が言ったようにマインドを注ぎ込む。すると、タガーの短い刀身に風が纏わり付いたのを感じた。何故かどう身体を動かせばいいのかわかったリリルカは、ダガーを振り下ろして風の刃を放つ。まるで嵐の突風が一塊になったようなそれはハードアーマーにぶつかって破裂し、その足を止めた。

 

「えい! ええい!」

 

 更に連続で一回、二回、三回と風を解き放つ。まず最初の一撃でハードアーマーが更に仰け反り、二回目で風の圧力に負けてたまらずひっくり返った。そして三回目で腹に直撃した風がハードアーマーの腹をズタズタに切り裂いた。

 

(す、凄い! これ、本当に魔剣になっています!)

 

 幸いな事に冒険者たちはリリルカの攻撃に気がついていない。彼女はこっそりとダガーを鞘に納め、何事もなかったかのように再び最低限の援護作業に戻るのだった。

 

 ◇

 

 リリルカは地上に上がり、魔石や素材を換金して分前を貰った。案の定、雇用主たちは報酬を出し渋ったがこっそりくすねていた幾らかの素材があるのでリリルカの利益的には問題なかった。

 今回の雇用主と別れた後、リリルカははやる気持ちを抑えきれずにリュックの紐を掴んで駆け出していた。向かう先は当然あの怪しげな商人がいた場所。

 

(あの商人は本物だった! 他にも色々と武器を魔剣化してもらいましょう! そうすれば冒険者なんかに頼らなくてもリリだけでダンジョンに挑めます!)

 

 そこまで考えてリリルカは「いや」と思考を止めた。自分だけでダンジョンに挑む、それだけで満足できるだろうか? いや違う、あの商人にはもっと利用価値がある筈だ。

 

(思い返してみたら、あの方はまるで乞食のような姿でした。もしかしたら主神にすら理解されないレアスキルで本拠地を追い出され、一人で何とかしようとしているのかもしれない。でも全然儲けられていない。そうだとしたら)

 

 あの商人を自分だけで囲ってしまおう。幸いな事に盗品売買の関係でいくつかの商業ギルドの窓口とはコネがある。オラリオで魔剣の需要は尽きないので商人は何本でも高値で買い取ってくれる筈だ。あの商人に「私を通せば幾らでも仕事を持ってきてあげます」と言えば乗ってくるかもしれない。

 

(そしてリリが仲介料を受け取る……完璧です!)

 

 ゆくゆくは稼いだ金で独立して魔剣専門店を開く。そうすれば一生金に困る事はないだろうし、なによりクソッタレな自分の派閥から抜けることができる。将来は安泰だ! リリルカは目を金貨に変えてあの商人がいた場所を探す。客は自分だけとは限らない。もしかしたら自分と同じ考えの者がいるかもしれない。急がねば。

 

(あれ?)

 

 しかし誰もいない。そこにはただ床と壁があるだけだった。場所を移したのかな? と思いつつ、バベルの一階を探して回ったが見つからなかった。

 そしてふと、彼女の耳に冒険者たちの話し声が聞こえてきた。

 

「なあ、あの乞食みたいな怪しい奴いただろ? 武器を魔剣にしますって言ってた商人みたいなの。あいつ、またエイナさんに怒られて追い出されたらしいぜ」

 リリルカは石のように固まる。

「マジかよ。俺、アイツに仕事頼んだ事あるんだけどよ、この剣を金色の刃を放つ魔剣にしてもらったんだぜ」

「バッカお前! 何でそういうの教えてくれなかったんだよ! ていうかその剣、この間使ったやつかよ! いつの間に魔剣なんて手に入れたんだって思ってたんだよな!」

「いや、いかにも怪しい奴だったから面白半分疑い半分お恵み半分で頼んだだけなんだって! 本当に効果あるなんて思わないじゃん!」

「あー勿体ねー! でもギルドに怒られたって事は、もうバベルの周りには現れないかもなー」

 

 冒険者たちはガヤガヤと言い合いながら喧騒の中へ消えていった。リリルカの目から金貨がこぼれ落ち、彼女は膝をついて落胆した。

 

「リリの……人生逆転のチャンスが……」

 

 周囲の目も気にせず、リリルカは職員に注意されるまでその場で項垂れていたのだった。

 

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