ダンジョンの外で戦技売りをするのは間違っているだろうか 作:ルンルンベア
ご期待に添えるように書いていこうと思います。
取り敢えず、表通りから外れた半裏通りみたいな所の壁際にゴザを広げた。人でごった返しているわけではないが、まばらにそこそこ人がいるのでワンチャン期待している。
座り込んで料金箱兼看板である木箱の文字が書いてある面を外に向ける。この世界の言葉は何故か理解できるが文字がさっぱりで困っていたが、客の冒険者に簡単に単語を教えてもらったので、最低限俺がどんなサービスを行っておるのか木箱に書いてある。そのおかげで興味本位で覗いてくる人がいて、客になってくれたりする時がある。
早速二人組の女の人が来た。一人は赤毛のショートヘアで、もう一人は顔の半分が隠れた黒髪ロングだ。
「プキ オ マケソ = シマヌ? 何これ?」
「………すいません、スペルミスなんです。『武器を魔剣にします』って書きたかったんです」
恥ずかしくなって顔を伏せる。どうやらまだまだ勉強が必要らしい。しかしお客さんになるかもしれない人が来たからずっと顔を伏せておくわけにもいかない。
さあ営業するぞと顔を上げると黒髪ロングの人が赤髪ショートの人の袖と肩を掴んで揺らしていた。
「ねえ言った通りだったでしょ? ここにやつしの魔剣職人がいるって。私の見た夢の通りだよ」
「いつもの妄想がたまたま当たっただけでしょ? それに、見なさいよこの人を。魔剣を作れる程卓越した鍛治師とか魔法使いに見えるの? どこからどう見ても乞食じゃない。あんまりにもうるさいから寄り道に付き合ってあげたのに、その結果がこれ?」
何だか失礼な事を言われているが、黒髪の人の方は俺のことを知っていて来てくれたのか。夢? とかはよくわからないけど、多分噂を聞いて探しに来てくれたのかな。
「お姉さん達は冒険者さんですか? 俺に仕事をさせてください。絶対に損はさせませんから」
「ほら、変な事言い始めた。……いくら?」
「5,000ヴァリスです。それだけで貴女の武器を魔剣にします」
この機会を逃すまいと営業をかけたが、赤髪の人はため息をついた。そして懐から100ヴァリス硬貨を取り出すと、それを木箱の中に落とした。
「くだらない。物乞いなら変な嘘つかないでお恵みくださいだけ言っていればいいのよ。行くよカサンドラ。時間とお金の無駄」
そう言って赤髪の人は黒髪の人を引っ張って去ろうとする。
「ま、待ってよダフネちゃん。絶対に間違いないんだって。夢で見たもん。この人が小さい刀で何かをやったダフネちゃんの武器からいくつもの青い刃が出て来てモンスターを刺し貫く所を」
「ンモー! しつっこいわね! そんなに言うならアンタの杖に何かやってもらったらいいでしょ!」
まずい。このままだと新しい場所での幸先が悪くなってしまう。杖には碌な戦技がつけられないから戦士っぽいお姉さんに客になってほしい。あまりやりたくはないが、食い下がる事にする。
「お、お姉さん。俺は乞食じゃありません。本当に武器に特殊効果を付与できるんです。お願いします。絶対に損はさせませんから。そ、そうだ。今なら5,000ヴァリスのところ初回サービスという事で半額の2,500……いや1,000ヴァリスで仕事させていただきます」
足元に土下座する勢いで縋り付く。みっともないとは思うが、今晩屋根がある場所で寝られるかどうかが、今後もご贔屓にしてくれるかどうかがかかっている。プライドなんて気にしていられない。
「あーもう! 100じゃ足りない!? じゃあ500あげるから離しなさいよ!」
「わ、わかりました! 先ほどの100ヴァリスが料金という事で仕事をさせてください! 98%オフ! 98%オフですから!」
これ以上仕事しないで金をもらったら本当に乞食と思われる。そうなったら二度と客としては来てくれないだろう。もうなりふり構っていられない。
「わかった! わかったから! 仕事とやらをさせてあげるから離しなさいよ!」
「ふごっ」
顎を蹴られた。痛え。
「ったく………じゃあえーと、このダガーに何かやってみなさいよ」
赤毛の人は腰ベルトからダガーを取り出して渡して来た。またダガーか。まあ疑わしい段階で適当に何かやらせるには丁度いいんだろう。しかし選り好みはしない。仕事をさせてもらえるだけでありがたいのだから。
「ありがとうございます! ありがとうございます! それでは、早速取り掛からせていただきます! と、その前に、このダガーにどんな効果を付与したいですか?」
赤毛の人に質問すると、黒髪の人が食い入るように割って入って来た。
「青い剣をたくさん出す効果ってありませんか!? 夢で見たんです! それがいいです」
いや、お客さんは赤毛の人、と言いかけたが、そのお客さん本人が「何でもいいわ」と適当に手をひらひらさせていた。じゃたこの黒髪の人のリクエストに沿うとしよう。
「は、はい。そういう効果はありますよ。えーと、それじゃあ戦技【輝剣の円陣】で……属性派生は」「もうさっさと済ませてちょうだい」「……わかりました。じゃあまた鋭利派生で」
内容が決まったので小刀と戦灰を出して、灰をダガーに擦り込むように小刀で研ぐ。出来上がったそれを赤毛の人に渡す。すると彼女はダガーをマジマジと眺め、感心したような顔になる。
「へえ。綺麗に研ぎ上げてくれたじゃない。何? 貴方、研師だったの? だったらそう言えばよかったのに」
そう言われて衝撃を受ける。研師! そういうのもあるのか。確かに武器を魔剣にするなんて胡散臭いとよく思われていたし、だったらまず武器を綺麗にする研師として下積みをするほうがよかったのではないだろうか? ちょっと商売スタイル、変えてみようかしら?
「それじゃあ、はい」
赤毛の人は徐に5,000ヴァリス分のお金を木箱に入れて来た。割引したのに?
「この仕上がりで5,000は安いわね。でも最初に5,000って言ってたのは貴方なんだから問題ないわね?」
「あ、ありがとうございます」
神的に良い人だ。この人が女神様に見えて来た。オラリオには神様が大勢いるけど俺にとって真に神様は気前の良いお客さんだけだ。
「んんっ! えーと、柄を握って精神力を注ぎ込めば戦技【輝剣の円陣】が使えます。普通の魔剣と違って使用回数で壊れたりしませんが、マインドダウンにはくれぐれもご注意ください」
「はいはい。ま、気が向いたら試してあげるわよ」
気を取り直して注意事項を説明するが、赤毛の人はダガーを鞘に納めて適当な返事をしてくる。今は本気にしていないんだろうが、きっと明日か明後日には俺のところに慌ててやってくるに違いない。
「それじゃあ、私も……」
黒髪の人がこっちに向いた途端、赤毛の人が肩をがっしり掴んだ。
「アンタのダガーは昨日ゴブニュ・ファミリアのお店でピカピカに磨いてもらったばかりでしょ。これに、いつまでも道草食っていられないでしょーが。早いところお使い済ませないとヒュアキントスの奴に嫌味言われるよ」
「あ! ま、待ってよダフネちゃん。ちょっとだけ、ちょっとだけだって〜〜〜〜〜!」
二人目のお客さんになりそうだった黒髪の人は連れて行かれてしまう。くっ、追加の5,000ヴァリスが。だがまあ、あの二人は雰囲気的にいつも一緒にいそうだし、あの赤毛の人が戦技の事を知ってくれれば黒髪の人も連れてこられるだろう。次回に期待だ。
「おいお前。俺の家の前で乞食するんじゃあねえ。水をぶっかけられたくなかったらさっさと失せろ」
「ごめんなさい」
しかし何もかも上手くいくとは限らないようで、俺はせっかく見つけた場所を離れる事となった。
「あれ? 俺【輝剣の円陣】売ったことあったっけ? 何であの人知ってーーーー」
「さっさと消えろ!」
「ひいっ」
怒鳴り声が怖くて思考を止め、逃げる事に集中した。