ダンジョンの外で戦技売りをするのは間違っているだろうか   作:ルンルンベア

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サブタイは間違いではないです。



6

 アポロン派閥所属の小人族、ルアン・エスペルは急足のフリをしてオラリオを歩き回り、ため息をついた。仲間達にこき使われる日々の中、今日は貴重な非番の日でダンジョンには行かず、気になっている女の子が働いている食堂に行こうかと考えていた。

 しかし突然同僚のダフネに呼び止められ「アンタ今日ヒマ? ヒマだと言いなさい。そして手伝いなさい」と首根っこを掴まれて連行されてしまった。

 自分以外にも何人かの団員がダフネに連れ出されたようで、皆中庭に集められた。ダフネは皆の前に立ち、隣で「ねえねえダフネちゃん。夢の通りだったでしょ? ねえ」とひっつくカサンドラを無視しつつ人探しを命じてきた。

 

 曰く、乞食みたいな姿の男を探してこい。特徴は黒い髪と髭が伸びた、おそらくヒューマン。ゴザを敷いて座り込んでいて「プキ オ マケソ = シマヌ」と書いてある箱を持っているはずだ。との事。

 

 わけがわからない指示に団員たちはブーイングを飛ばしていたが、鬼気迫る表情のダフネに「いいから探してきなさい!」と追い立てられて慌てて本拠地から飛び出てきた。

 

(ったく。乞食なんてこのオラリオに何人いると思ってんだか)

 

 内心愚痴るルアン。ここオラリオには富、名声、力、様々な夢を求めてやってくる命知らずが後を立たないが、夢破れて死にきれず落ちぶれた者達も多くいる。そう言った者たちの行き着く先は飲んだくれ、債務者、乞食、いずれにせよ碌な者ではない。少し路地裏を覗き込めば乞食などいくらでもいる。それこそ石をひっくり返して見つかるダンゴムシのように。

 来月には怪物祭が行われるというにこの仕打ち。気になるあの子を誘えないかとあれこれ計画を練るはずが全てパアだ。何故乞食の中から特定の一人を見つけ出せと言う、藁山の中から針を探すような事をしなければならないのかと不満を募らせる。

 

「サボっちまえ」

 

 ルアンは乞食探しをやめる事にした。ダフネも他の仲間の姿もない。それならサボった所でバレないだろう。その辺の適当なカフェでモーニングと洒落込む事にした。思えば朝飯も食べさせてもらえずに駆り出されたのだから。

 

(確かあっちにモーニングやっていて、しかも可愛い同族の店員がいる店があったような……ん?)

 

 ふと、ある通りてルアンの目に一人の男の姿が入ってきた。壁際にゴザを敷いて座り込んだ黒髪の人物。ダフネが探している目的の男か? と思ったが、乞食には見えない。髪は伸びていないし髭は剃られていて顔はツルツル、何より服が綺麗だ。何やら看板を立てているので見てみると「研師 貴方の剣を磨きます 期間限定1,000ヴァリス(前払い)」と綺麗な字で書いてあった。ダフネの言っていた謎の呪文ではない。

 

「ん。いらっしゃいませ」

 

 覗き込んでいると男に声をかけられたルアン。「めんどくさ」と思いつつ、どれ冷かしてやろうとイタズラ心が芽生えた。看板を指で軽く叩くようにしながら、わざとらしく首を傾げて言った。

 

「なんだなんだぁ? こんな所で研師だぁ? とても腕の立つようには見えねえけどなぁ。それに道具はどこだよ? まさか素手で磨いたりしねえよな?」

 

 ルアンはそこで言葉を区切り、値踏みするように男の顔を見ながら腕を組む。

 

「1,000ヴァリスで剣がピカピカになるなら安いのかもしれねえけど……怪しいなあ? ピカピカどころかガザガサのギトギトにされるんじゃあねえの? それに期間限定ってなんだよ。明日には100万ヴァリスとかになってるわけ?」

 

 ヘラヘラと殴りたくなるようなニヤケ顔をしながら言うルアン。彼は他派閥と抗争が決まった際に相手に挑発を仕掛ける役割を与えられているので、冷やかしに際してよく舌が回るのだ。

 しかし男はルアンの冷やかしにも動じず、片手に小刀を出して見せる。

 

「お客さん。商売として研師を始めたばかりで、今は信用を得る段階なんですよ。格安で仕事をするのは多くの人に俺の仕事を見てもらうためです。薄利多売ですよ。

 大事な剣とかを預けるのは難しいかもしれませんが、どうでしょうか? 試しにダガーとかナイフとかで仕事をさせていただいても。見たことがないくらい綺麗に仕上げて見せますよ」

 

 ルアンは少し考え込む。明らかに怪しいが、折角の非番を潰されて何もなしに終わらせるにはつまらない。それならは多少は冒険してみても面白いかもしれない。そう思い始めていた。

 

「よし、いいだろう。オイラのナイフを研いでみな。ただし、オイラはあのアポロン・ファミリア所属で、しかも次期団長と目されている男だぜ。下手な仕事したら承知しないからな」

 

 そう言いながらルアンは1,000ヴァリスとナイフを男に渡す。本当は次期団長どころか他の団員に使いパシリにされる下っ端なのだが、かなり調子のいいことを宣った。どうせもう会うことのない露天商だ。好きなことを好きなだけ言ったって支障はないだろう。

 

「ははあ、それはそれは偉い人に出会えたものだ。丹精込めて仕事をするので、他の団員さんたちにも是非紹介してくださいね」

 

 男はナイフを受け取って鞘から抜き、刃の状態を改めるように様々な角度から眺める。

 

「よし」

 

 そして右手に小刀を持ち、左手から不思議な灰を溢れさせる。そしてその灰をナイフに擦り込むようにして小刀で擦る。

 

(え? 魔法? 魔法研師?)

 

 不思議な灰に目を丸くするルアン。その所作はどこか神秘的で目が離せない。小刀がナイフを撫でる度に何かを教え込まれているような、不思議な情景が目に浮かぶ。

 

「さあどうぞ」

 

 作業は数分と経たずに終わり、男はナイフを横向きに持ってルアンに返す。ルアンは仕上がった刃に目を奪われた。水に濡れているかのような仕上げであり、それは極東式の刀を思い起こさせる。明らかに1,000ヴァリスの仕事ではない。

 

「へえ………や、やるじゃんか」

 

 彼は強がって見せた。

 

「お気に召したようで何より。サービスとしてこのナイフにはお客さんの安全を願ったおまじないもしてありますからね。暫くはこの辺にいると思うので、よかったら次に会った時も仕事をさせてくださいな」

「お、おう。考えてやっても、いいぜ」

 

 ルアンは出来るだけ興味の深さを悟られないように振る舞おうとしてぎこちなく歩いて去っていく。そして男から遠ざかるにつれて速度を上げ、最後には息を切らして走り出していた。

 

(本拠地からオイラの武器を持ってこよう! あんなの滅多にいないぞ!)

 

 ダフネの言いつけも忘れてルアンは走る。これほどお買い得と言える買い物は他にはない。あの腕前なら5万ヴァリスの価値がある。それがたったの1,000ヴァリスとは奇跡のような出会いだ。こうなったら安いうちにできるだけたくさん仕事をしてもらおう。そう思いながら走った。

 

「くっ……またガセネタを掴まされました……!」

 

 巨大なリュックを背負って何やらブツブツ呟いている同じくらいの身長の犬人族の横を通り抜けルアンは本拠地へ走った。

 

 しかし途中でバッタリ遭遇したダフネに捕まり、探している乞食風の男の目撃情報があったという区画に連れて行かれてしまうのだった。あの研師の男がいる場所とは真反対の方向だった。一緒にいたカサンドラは「違うの! そっちじゃないよ!」といつものように戯言を言っていたが、皆で無視して目撃情報があったという区画に行った。

 結局夕方まで引き摺り回されて目標の男は見つからなかったのだった。ルアンは急いであの男を探したが、暗くなり始めていたこともあってかもう姿を消していた。

 踏んだり蹴ったり、と言うわけではないが、かなり損をした気分になったのだった。

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