リアルゲーム 作:くろばす
僕の年がキセキの世代の一つ上であることに気づいてからおよそ半年。
最近葉山と秘密の練習をしているとクラスで少し話題になり、放課後に体育館に集まる人数が増えた。ミニバスのある日は付き合えないが、特にない日はこうして一緒に楽しんでいる。
「6人いるし、
「えーっと確か3対3のことだよな。やろうぜ! 白縫から教わってだいぶうまくなったんだ」
「僕と葉山が組んだら止められないと思うし、それぞれ別れよう」
「じゃあ俺は葉山のチームに入るわ! 宿題見せてくれたし!」
「俺も俺も! 昼におかず一品くれたから今日は葉山のグループに入るぜ!」
うげっ。ここ2か月くらいずっと参加している組が固まってしまった。今日は体験入部みたいな形で来てくれた子もいたから、本当は半分ずつ別れたかったんだけどなー。
己の人望のなさを憂いていると葉山から少し勝ち誇ったような視線が注がれる。
ん? なんだそのにやけた顔は? ま、まさかてめぇ! 宿題とおかずでこいつらを買収したのか!
まったくなんて悪い子なんだろうか。おじさん悲しいよ。よよよ(´;ω;`)。
こうなったら、意地でもこの小生意気なガキどもに勝ってやる。最近調子のいい葉山に師匠(自称)として力の差を見せてやるか。本当は【経験値上昇(小)】を成長させるためにためていたポイントだが、ブチギレたので全て吐き出すことにする。
ステータスを弄った後、不安そうにしているチームメイトに顔を向ける。
「うっし、頑張ろうぜ! 福留、柳」
「う、うん。でもあの三人いつも放課後練習してるんでしょ? ぼ、僕たちでも勝てるかな…」
「こっちには白縫がいるとはいえ、あの三人はクラスでも体育の成績いいもんなー。放課後ずっとバスケやってるっぽいし、勝てると思えないよ」
「まあそういうな。確かに技術やスピードでは負けてるけど、福留は
「そ、そうかな。そんなに言ってくれるなら頑張ってみるよ!」
「うん。勝とうと思うのは大切だけど、全力をだすこともめちゃくちゃ大切だよ」
「…そうだな。やるなら全力で勝ちにいかないとだよな」
僕の言葉に感化されてやる気を出す二人。これがもう少し現実がわかってくる中学生くらいになったらこんな簡単に説得できないんだろうなー。まったく、小学生は最高だぜ!
「それじゃ、簡単な作戦会議をしよう。二人とも耳を貸してくれ」
二人に作戦を伝え終わると、談笑している葉山達に振り返る。
「そんじゃ、ルールを決めよう。オールコート…つまり体育館全体を使うとしんどいし、何よりお互い体力が持たない。だから半分のハーフコートで攻撃と防御を交互にやる形でどう?」
「いいんじゃね? いつもやってるし、ルールもわかってる。今回も5本先にとった方が勝ちでいいか?」
「いや、初心者もいるし4本にしよう。3本だとすぐに終わっちゃうから間をとって4本で」
「まーいいか。俺達が先に攻めるぜ?」
「ああ。先に葉山達が攻撃で、僕達が守る。終わったら交替しよう」
「あいよ」
葉山が正面に立ち、ボールを構える。
「今日こそ勝つよ白縫」
「僕に勝ったことあった? 気合は大事だけど、今日は完封させてもらうよ」
「完封ってなんだ?」
「一点も決めさせないってことだよ」
その言葉を聞いた瞬間、葉山は獰猛な笑みを浮かべる。
「いいね…! やっぱ
そういって葉山はいつも通り得意なドリブルで攻めてくる。いつもと同じ光景、違う点は目線のフェイクを少し入れたことだろう。一昨日僕が教えたことだけど、飲み込みの速さと相手の言ったことを素直に受け入れる潔さは中々のものだ。
「お、いつもと少し変えてきたな。それに今日はいつもより少し速い。僕が動いたら、裏をかくように動きを変えてくる。 僕がミニバスで参加してない数日で何かあったか?」
「へへっ! 気づいた? この前ストバス?ってところにいったら、お前みたいなやつにあったんだよ」
葉山はいつもより速いペースでこっちを翻弄してくる。こっちもステータスと新たなスキルを獲得したからついていけているが、前のままだったら少し面倒だったかもしれん。
「葉山! いつでもパスくれよ!」
「だ、だめだよ! パスなんかさせない」
「こっちもだ。一対一で勝てないなら、ひたすらパスをさせずに白縫と葉山を戦わせる。それが白縫の作戦だ。」
「ちっ」
よしよし。二人ともいい感じに抑えられているな。バスケットに限らず、基本的にスポーツは守備の方が疲れやすい。常に相手の動きに合わせる必要があるのもそうだが、精神的にも相手が次に何をしてくるかを予測し続けなければならないから消耗が激しい。それに守備ではミスができないというプレッシャーもかかりやすい。
まだ、バスケのことをあまり知らない二人にはとにかく相手にパスを出させるなと伝えた。経験者に1on1でボコられる初心者とか、悲しくて見てられないし。体力の差もあるから、本当は3本先取にしたかったが、葉山が拗ねそうだからやめた。
「ストバスで何か刺激でも受けた? いつもよりずっと強いね」
「簡単についてくるくせに何いってんだ! これでもあいつから一本だけとったんだぞ! でも今日のお前は抜ける気がしねぇよ!」
「あいつ? この学校のやつか?」
「いいや。確か
「はっ! マジかよ!」
あまりの衝撃につい笑みがこぼれる。才能が開花していないとはいえ、青峰は小さいころから大人に混じってバスケをするほど才能に溢れた少年だ。
何本先取か知らないし、青峰が油断しきっていたかもしれない。
だがそれでも、こうしてキセキの世代に対抗できる五人の逸材と言われた片鱗を肌で感じると、あの噂が眉唾ではなかったと感じる。
そしてこいつは、青峰から確実に何かを吸収している。天真爛漫さは変わらずだが、僕の教えた基本戦術に加え、青峰の独創性や自由を学んだ。
確信にも近い、こいつはここから急激に伸びる。あまりの成長スピードに飲み込まれてしまうほどだ。
これは…うかうかしていられないな。
「でもまだ甘いよ」
「…ッ!」
ドリブルの切り替えしで体が硬直した瞬間を捉え、ボールをスティールした。
「荒削りだけど、いい線まではいっていた。ただ、僕の裏をかくことに必死でドリブルがおざなりだったよ」
「あーあ。もう少しだと思ったんだけどな」
攻守交替。僕の前には葉山が立つ。攻撃だけじゃなく、守備も少し上達したように見える。
「じゃあ、いくよ」
「来いよ!」
いつもより2割増。普段の葉山ならついてこれないスピードで、葉山を抜きにかかる。
だが、今日の葉山は既に以前の葉山ではなかった。
「こんの! ついていくぞ!」
「ははっ! まだだよ」
ついてくる葉山に合わせてスピードを少しずつ上げていく。
それでも、葉山は野生の獣のような感覚でなんとか食らいついてきた。
「ふむ」
相手の実力を確かめるようにゆっくりスピードを上げていき、4割に届かないくらいのスピードで葉山が遅れてきた。ドリブルで揺さぶりをかけ、抜きにかかる。
しかしここまで成長した葉山には悪いが、もう少しだけ成長に拍車をかけてもらいたい。
スキルを重ね掛けし、疑似的だがこの技を見せよう。
「
雷が落ちたような轟音を響かせ、消えたと錯覚するほどのスピードで葉山を抜き去りゴールを決める。体への負担があるから連発を控えるが、いずれ連発できるまで昇華させたい。
「どうだい葉山? これが僕のできる最高のドリブルだよ」
「…」
今のドリブルを見て、他のメンバーは喜び勇んで僕を褒めてくれるが、葉山の様子がおかしい。気持ちここにあらずといった様子だ。
まさか折れてしまったか? 青峰に負けた後にあのドリブルを見せたのは早計だっただろうか。
少し緊張しながら、改めて葉山を見やる。
葉山の口角が徐々にあがり、時間をかけてゆっくり口を開ける。
「すげえ」
「え?」
「すげえすげえすげえ!! なんだ今の!? 音がでけえ! ボールが消えた! 死ぬほど速え! よくわかんねえけどめっちゃすげえ!」
キラキラした瞳でこっちを見てくる。俺もやりたい!と子犬のような表情でせがんでくる。
全く折れたと一瞬でも思ってしまった俺は失礼なやつだな。やはりきみは思った通りの男だった。
「俺にも教えてくれよ! その技! これがあればあいつにも勝てる!」
「ああ。教えてやるから、まずはこの3on3を終わらせよう」
その後、4-0で僕達白縫チームが勝った。
パスをつないで福留と柳も一本ずつゴールを決められてよかった。二人ともゴールを決めると嬉しそうだったので、少し無茶をしてパスした甲斐があったというものだ。
「よし、じゃあさっそく練習…と言いたいところだけど、これは体に負担がかかるから小学生のうちはあまり連発しないようにな」
「ああ、わかってる! だから早く教えてくれ!」
「本当に分かってるのか? まあ危なくなったら僕がちゃんと止めるけど、使用限度くらいは守ってくれよ?」
「はいはい! わかったから早く!」
あまりの熱意に少し気圧されながらも、ドリブルの強度、全身のバネの使い方、このドリブルの長所と短所をかみ砕いて教えていく。
ちなみにほかのチームメイトも一緒に練習している。だが、これはセンスがかなり必要だから葉山以外にはできないだろう。ドリブルは上手にはなるから無駄にはならないけどね。
大体一時間くらいをしたら辺りが暗くなってきた。思った以上に集中して練習していたらしい。
「よし、名残り惜しいと思うが今日はここまでだ。一通りの練習方法は教えたし、明日から自主練頑張れよー」
「えー、まだやりたいよ!」
「駄目だ。暗いのは危ないからね。僕は明日からまたミニバスの練習だけど、練習して次はもっと強い葉山を見せてよ」
「ああ! 期待して待ってろ! 完成したらお前を超えてやるからな!」
「期待して待ってるよ。あ、そうだ、きみうちのミニバスに来ないか? センスあるし、低学年の中なら既に僕の次にうまいぞ」
「あー、確かにそうすればよかったな。毎日お前とバスケできるし。帰ったらお母さんに聞いてみるよ」
「そうしてくれ。あとでパンフレットを渡すよ」
こうして、葉山の覚醒を感じた濃い一日が終了した。
一週間後
「葉山小太郎です! 目標は白縫を超えることです!」
無事に、葉山が同じミニバスに参加した。
誤字報告ありがとうございます。