リアルゲーム 作:くろばす
葉山がミニバスに参加するようになって更に半年が過ぎた。
僕たちは二年生になり、今年から新一年生が入学してくると同時にキセキの世代も小学生になる年齢だ。
残念ながら僕たちの小学校にはキセキの世代は入学してこなかったが、目ぼしいタレントは何人か入学したようだ。
これから葉山と一緒に下級生の教室に行って、話しかけに行こうと思う。
「なあ白縫、お前がそんなに注目するやつってどんなやつだ?」
廊下を歩きながら、葉山が話しかけてくる。
「直接会ったことはないけど、人から聞く話では天賦の才能と言わしめるほど身体能力が高いらしい。才能だけならきみ以上かもね」
「そりゃすげえ! 俺会うのめっちゃわくわくしてきた!」
強いやつが大好きな葉山は目をキラキラさせながらついてくる。天真爛漫な葉山とは、彼も気が合うだろう。
気づいたら小学一年生の教室の前まできた。
入学して彼の姿を見て本当はすぐにでも話しかけたかったが、一年生も新しい学校生活で戸惑っているだろうから時間を空けたのだ。
そして今は放課後。声をかけてもいい頃合いだろう。
教室の扉を開けると、知らない人物が入ってきたと不思議そうな顔をしている一年生を横目に、黙々と帰り支度をしている赤黒い髪色の少年に話しかける。
「こんにちは、きみが
見知らぬ上級生に名前を当てられた少年は、少し戸惑いながらもやってきた二人に問い返す。
「あ、ああ。そうどけど、君たちは?」
「僕は白縫彦禰で、隣が葉山小太郎。きみの1つ上の二年生だ」
「え、二年生!? ごめん気づかなかった」
まだアメリカに行ってないせいか、年齢による上下関係は小学生といえどあるらしい。
「そんなに怯えなくていいよ。こっちが急に来たんだから、自然体でいてくれていい」
「そうだな。敬語もゆっくり覚えていけばいいさ」
敬語に苦戦していた葉山は、今でも先輩に注意されたことを昨日のことのように覚えているようだ。当時は面倒だなんだと反発したものの、あの指摘がどれほど正しかったかが、二年生になった彼にはだんだんわかってきたんだろう。
僕達の言葉が嘘でないとわかったようで、安心したようにホッと胸を撫でおろしている。
「それで、さっそくなんだけど本題だ。火神大我、きみバスケに興味はないかい?」
「え、バスケ?」
流れが読めないのか目をパチクリさせる火神。
「そうだ。きみ運動神経がいいそうじゃないか。君ならいずれ僕達に並ぶくすごい選手になるんじゃないかと思ったんだ。どうだろう?」
「まあ、運動は嫌いじゃねぇけど…」
「ま、急にこんなこと言われてもよくわかんないよな。俺もこいつに言われてバスケを始めた口だし」
そういえば葉山を誘ったのは僕だったな。この一年間があまりにも濃くてそんなことすら忘れていた。
「明日はミニバスもないから、放課後体育館でバスケの練習をするんだ。よかったら来てみないか?」
葉山のアシストのおかげでかなり揺れているように見える。これはもう一押しだな。
「無理強いするつもりじゃない。ただ、僕たちは君と一緒に遊びたいんだ」
「…ッ!」
「他の誰でもなく、きみと遊びたいんだ。明日の放課後、体育館で待ってるからね」
そういって僕たちは一年生の教室から退散した。帰り際、彼の顔はとてもうれしそうな表情だったし、きっと来てくれると思う。まあダメだったらまた勧誘しにいこう。こっちが諦める必要なないんだし。
翌日
「よく来てくれたね。火神くん」
「待ってたぜ火神!」
火神の背中をバシバシと叩きながら喜びを露わにする葉山。
「は、はい! 今日はよろしくお願いします!」
体育館にはこの3人と、3on3をやって以降ずっと参加している福留と柳を含めた二年生5人。計8人が集まった。
「今日は初参加の火神くんもいるし、僕がマンツーマンで教えようと思う。ある程度形になったらみんなで一緒にやろう」
「わ、わかりました!」
緊張した面持ちでドリブルを始める火神。初々しくてかわいい~。
確か原作だと3年になったら親の転勤でアメリカに行っちゃうんだったか。火神と一緒に過ごせる時間は短いが、それまでは一緒に練習して経験値を蓄えよう。
上位存在からもらった僕の能力は、練習相手や対戦相手が強ければボーナスがつくし、相手の特筆した能力や技術が習得しやすくなる。
葉山であれば、ドリブルや俊敏性。火神は跳躍力と潜在能力といったところか。まだ解明できてないところはあるが、とにかく強いやつと練習すれば、僕も強くなるということだ。
それが僕が原作のメンバーと会いたい理由だ。彼らの能力と技術を少しずつ吸収すれば、いずれ世界一の選手になれる。簡単に言えば絶対に怪我をしないパワプロ君だろうか。ちょっとチートじみてるけど、ここまでしないと原作相手に勝てないのは君たちが人間離れするほど強いのが悪い。
「お! だいぶ動けるようになってきたぜ!」
気が付くと火神が安定したドリブルができるようになってきた。僕のスキルの影響もあるだろうけど、たった数十分でここまで動けるようになるのは素直に舌を巻く。やはりキセキの世代と並ぶ男は違うなー。
「ドリブルは大体それくらいにして、次はシュートをしよう」
「う、うす!」
体育会系の血が騒ぎ始めたのか、返事が変わった。まあこっちの方が馴染みがあっていいか。
火神にシュートとレイアップのコツを教えて、間違っているところを都度指摘して直す。火神は自分が信じられないスピードで成長していることに気づいているのか、楽しそうに笑みを浮かべてシュートを練習している。
練習の合間にチラッと葉山達を見ると、チラチラと火神の練習を見ていることに気づく。彼らも驚くほどに成長が早いんだろう。いつもより集中してないように見える。まあ自分たちが数日かけて歩いた道のりをものの数十分で超えられたらいい気はしないか。
僕の目的は葉山だけだったが、連日こうして一緒にバスケをする仲間ができたのは、能力的な意味を含めてもいい影響を与えてくれている。
結果として才能の差を見せつける形になったのは申し訳ないので、後で詫びとして技術指導しよう。
「よし、火神も少し動けるようになったし、簡単に試合をしよう」
「もうやるんですか! 楽しみだなー!」
「おいおい火神、まだまだ甘ちゃんなお前には負けねえぞ!」
「葉山先輩こそ、吠え面かかせてやります!」
視界の端で睨みあっている二人は放っておいて、福留と柳に今回の試合形式を話す。
「今回はハーフコートで4対4だ。火神がばてたら僕が抜けるから、あとは好きにやってくれ」
「何本先取にするんだ? 火神に才能があるとはいえ、体力の差は覆らない。俺は4本先取でいいと思うが」
「う、うん。僕もそれくらいがいいと思う」
「火神が抜けるまではそれでいいかな。僕たちが抜けたら、体育館がつかえるまで好きにしてくれ」
「わかった。それでいこう」
チームも決まった。僕のチームは火神。葉山のチームは福留と柳に分かれた。
試合のまえにこっそりとステータスを更新させる。いちいち手を動かさなくても視線でポイントがふれるのは楽でいいな。
筋力 C‐
守備力 C
速さ B
パス D
シュート C⁺
ドリブル B
P:0
アクティブスキル
【
スキル
【経験値上昇(中)】【P獲得上昇(中) 】【学習】【集中】【メンタル安定】【肉体回復上昇(小) 】【怪我しにくい】【シュート成功確率上昇(小)】【瞬発(小)】【滞空(小)】
能力値は幼児から小学生に上がったタイミングで大きく下がってしまった。一年から二年にあがるタイミングでの変動はなかったことから、進学をするタイミングで基準が変更されるものと思われる。
僕のミニバスのレギュラーは体感ではB以上の選手が多い。監督からも早く試合に出させてやりたいと言われているが、4年にならないと公式試合に出せないルールなら仕方ない。
しかし、能力値はSS⁺に近づく程要求される経験値が必要なため、ここからが時間がかかるし、スキルにもある程度振り分けたから、またポイントが貯まるまでたくさん練習しないとだね。
そしてスキルから新たにアクティブスキルが派生した。パッシブスキルは派生しなかったが、わかりやすくなってよかった。
最初の頃からかなりスキルも増えたし、軽く紹介しよう。
【経験値上昇(中)】【P獲得上昇(中) 】は獲得した値に2倍のボーナスをかける。
【学習】は相手の技術を自分の能力値内で再現することができる。黄瀬涼太のコピー能力と似たようなものだとおもってくれればいい。ただ僕は彼ほどの器用さはまだないから、完全なコピーというより自分なりに作り変えるといった方が正しいかもしれん。そういう意味では灰崎祥吾の強奪の方が少し近いかも。
【集中】は文字通り試合に集中し、全力を出しやすくなる。ゾーンにも入りやすくなると思う。入ったことないからまだわからないけども。
【メンタル安定】は大きなミスや不安な出来事が起きても、気持ちが落ち着くようになる。一定ラインを越えたら強制的に発動して安定するものではなく、体内時間が加速したように徐々に落ち着きを取り戻すものだ。
他の上昇系はそのまま能力値や成功率にボーナスをかけるものだ。
さて、ステータス紹介も終わったところで、そろそろ試合がはじまるころだ。
葉山とはミニバスに参加して以来、ほぼ毎日のように手合わせをしているが、福留と柳は久しぶりに試合をする気がする。どのくらい成長したか見せてもらおうか。
今回はこっちがオフェンスで、葉山たちがディフェンス。
僕の前には以外にも柳が立つ。
「君とやるのは随分久しぶりだね。葉山じゃなくていいの?」
「ああ。葉山からお前との勝負は聞かされている。なら少し作戦を変えねばならない」
柳の身体能力は福留より少し低いが、技術的な飲み込みの速さは葉山にも引けをとらない。加えて柳はオフェンスよりディフェンスが得意なタイプだ。
「何か考えているようだ。パスを回して点をとるのもいいけど、君たちがどんな罠を仕掛けたのか気になるし、その誘いに乗ってあげよう」
「こい! 白縫!」
上げた身体能力をもって左右にドリブルで仕掛けていく。目線のフェイクやドリブルテクニックを駆使して抜きにかかるも、柳はかろうじてついてくる。
いや、これは完全に止めることを放棄して左方向だけに抜かせるようにしているのか。
「考えたね。柳」
「お前を完全に止めるのは無理だからな。だが右方向にだけ抜かせないようにならかろうじてできる!」
「ならば、罠もろとも全力でうち砕くのみ!」
右方向に抜くことはできるが、あえて左方向に抜きにかかる。
「ナイス柳! 挟み撃ちだー!」
抜いた瞬間、葉山がヘルプで合わせる。左右から挟まれた状態になる。前には福留が鎮座していることからシュートもブロックされる可能性が高い。
ここはパスをだすのが賢明な判断だ。火神が初心者なのもあって一番マークが薄い。ここで火神にパスを出せば点が取れる。
しかしきっと彼らはパスを望んでいない。数の暴力という最もシンプルで最も対応が難しい攻撃を躱してゴールを決めてこそ、僕は彼らの師匠(自称)として存在できる。
「やるか」
退路はない。挟まれた状況で今できることは福留を躱してゴールを決めることだ。
決める手段はあるが一度もやったこともないし、決める技術も多分ない。成功率は3割くらい。
しかし、十分。
つのどりるを当てるくらいの確率なら、やってみせる!
白縫は福留の2歩手前でジャンプシュートを試みる。
「させるか! 止めろ福留!」
「うん!」
長身な福留は僕らの二歩を一歩で潰す。
スキルを重ね掛けし、高いジャンプ力を得た白縫でも身長までは規格外ではない。福留の方が少し高い。
「行ける! そのまま止めてくれ!」
「行けえええええ!」
「え、あれ?」
最初に気が付いたのは正面に立つ福留だった。いつもより高い白縫に対しては驚きはない、ただのジャンプシュートなら叩きおとせたはずだ。だが、白縫の手には既にボールが離れていた。
「フック…いやティアドロップか!」
長身の福留を躱すために今思いついた芸当。前世でみた花宮真の得意技を無理やり【学習】で捻りだし3人を出し抜くことに成功した。気づいたときには既にゴールにボールがすり抜け、白縫達のゴールが決定した。
その光景を後ろから見ていた火神は、白縫に対し静かに憧憬を抱いた。