作曲家iro   作:冬良

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勝敗の行方

 2回戦はかぐやの策が嵌ったこともあり、なんとか勝利を収める。そして運命の3回戦目、かぐやと協力して帝を撃破したはいいもののーー。

「……え゛?」

「あの……あほーー!!」

 かぐやはやたらとコミカルな描写で吹き飛んでいく。

 雷の地雷トラップだろう。だが、配置場所が憎い。確かにあの瞬間、あの局面ならほぼ確実に起動する。そこまで想定して地雷トラップを配備したのだろう。

 ーー流石はプロゲーマー。

 だが、感心している暇はない。即座に状況を理解すると、温存していたウルトを使い、わたしは階段を駆け上る。

 実況から判断すると、向こうも同じ様な状況らしい。

 流石に二発目はないだろう。とは言え、油断は禁物だ。

 階段の最後の段から飛び上がる様にして、わたしは直接だるま落としを狙う。だが、こちらの武器は双剣だ。だるま落としを行うにはやや分が悪いーー。

 全身で体当たりするようにしながらだるま落としにぶつかる。うまく起動し、一直線にだるま落としは天守閣に向かう。あとは祈ることしかできないがーー。

『あーーっと!! これはーー!?』

 黒鬼の天守閣が吹き飛んだから、間に合ってはいるのだろう。だが、それにしては実況の様子がおかしい。

 息を整えながら、リザルト画面を表示する。

『LOSE』

 ーー薄々、予感はしていた。

 だが、文面はいくら眺めても透かしても、変わらない。ならば、この結果は正しいのだろう。どれほどの確率かは分からないが。

『なんとーー!? 結果はわずかに! ブラックオニキスに微笑んだーー!!』

『いやー、双方の天守閣が落ちるなんてあり得るんですねえ』

 そんな2人の実況が聞こえる中、わたしは自動転送で戻された。

「あーー! 納得できない〜〜!!」

「落ち着きなって、かぐや」

 転送されて目に入ってきたのは、床に壁に自分の頭に足にお腹に、叩けるところを全部叩いて悶えるかぐやの姿。悔しいのはわかるが、見苦しいからやめてほしい。

「だってだってだって! かぐやと彩葉なのに負けちゃったんだよ!? たくのやしかったーー!」

「いやいや、プロゲーマー相手によくやった方だよ、わたしたちは」

 慰めながらそう呟く。

 本当に、勝つのがある意味では最善だったかもしれないが、曲がりなりにもブラックオニキスは国内でも有数のトッププロだ。そんな相手に、ぽっと出の私たちが勝ってしまったら、素直に表彰されただろうか。特に、今回わたしと帝の関係が暴露してしまったわけでもあるし……。

「彩葉、かぐや、お疲れ様〜〜⭐︎ いや〜〜、惜しかったね〜〜。ヤッチョもたくのやしかった〜〜⭐︎」

「やめてください。流行んないですよ、ソレ」

 即座にかぐやの謎言語を再現できるのは、流石にAIと言ったところだろうか。

「でもね、お二人さん。落ち込んでいる暇なーんてない。今からお待ちかねの発表タイムなんだから」

 発表? あ、そう言えば、ヤチヨカップの結果はまだ発表されていない。

「そうだぞ小娘ども! ヤチヨがなんのためにお前たちに助っ人に入ったのか、忘れたのか? 投票をギリギリまで盛り上げるためだ!」

 いや、そんな裏事情あけすけに言われても……。

 FUSHIの言葉に内心そうツッコミを入れていると、いつの間にかヤチヨの姿もフシの姿も消えていた。管理者権限で転移したのだろう。いつもの大鳥居の上で、その姿は照らし出されていた。

「いと大義〜〜⭐︎ とっても楽しいKASSENだったよ〜〜。そして、たった今、ヤチヨカップの投票を締め切ったよ〜〜! FUSHI、集計お願い!」

「ほーい。…………集計完了、いつでもいいぞ」

「それでは〜〜、ヤッチョとコラボする権利を得た人を発表⭐︎」

 その言葉と共に、このヤチヨカップに参加表明したライバー全員のアイコンが表示される。そして、そのアイコンの上に棒グラフがどんどん伸びていく。

 おそらくは時系列順なのだろう。ブラックオニキスがぶっちぎりで伸びていく中、他のライバーもその背を 懸命に追いかける。

 だが、その勢いは一つ、また一つと衰えていき、止まる。

 ーーこれはやはり、ブラックオニキスだろうか。

 皆がそう思ったことだろう。なにせ、2位のテレリリ・ティートテートや3位の湯雲ぬくみも、最後まで伸びているものの、その伸び率はブラックオニキスより緩やかだ。

 誰もがそう思ったことだろう。

 だが、それと同時にわたしの目は奇跡を映し続けていた。

 最初は泡沫候補の中でもがいていた。それがグングン棒グラフを伸ばし続け、猛烈な追い上げを見せている。そのライバーのアイコンは、まごうことなきわたしたちのチャンネルだった。

「え……」

「いっけーー!!」

 わたしが呆然と呟く隣で、かぐやは拳を振り上げて祈るような視線をグラフへ向けている。

 そしてグラフは湯雲さんを捉え、テテテさんを抜かし、黒鬼へ猛追を加えていた。黒鬼もわたしたちのチャンネルも伸び率が鈍化している。あとは、集計がどうなるかーー。

 そして、双方のグラフが止まった。

 映し出されたグラフの結果はーー。

「嘘でしょ……?」

 わずかに、私たちが黒鬼を抜いていた。その差はおそらく5000人にも満たないわずかな差に違いない。だが、ヤチヨのはなまるを戴冠したチャンネルは、間違いなくわたしたちのチャンネルだった。

 ーー第1位 かぐや・いろPチャンネル

 その時、今日最大の歓声があちこちから上がった。

 何が起きているのか分からない。

 ただ、確かなことは、力が抜けてしまい、膝から崩れてしまったわたしと対照的に。

「え? 負けたのに……、勝った? いよっしゃああ!!」

 元気に打ち上がる金色ウサギがいたことだった。

 

「おめでとう、かぐやちゃん、彩葉」

 気がつけば、周りがぽっかりと空き、目の前には兄がいる。

「げっ、やばっ、結婚!」

 慌てた様子でかぐやが慌て始める。それどころか、かぐやの背後に隠れていたわたしの背後に回り込もうとする始末だ。2人して矢面に立ちたくなく、お互いの背中に回り込もうとした。

 その様子を兄はどこか微笑ましそうに眺めていたが、埒が開かないと判断したのだろう。言葉を続けた。

「これじゃあ、勝ったとは言えないな」

「ん? お? あー……」

「ま、そもそも無理やり結婚する気なんてねーし」

「だよな! かぐや知ってた!」

 嘘つきウサギめ。だったらさっきまでの戯れはなんだと言うんだ。

「つーわけで、俺らはファンのとこいくから」

 わたしたちの戸惑う顔が見られて満足したのか、雷と帝はそのままログアウトしていった。乃依の姿がないのは、おそらくは飽きて先に帰ったとか、そんなところだろう。

「2人とも〜、よ〜きかな〜〜⭐︎」

 そして、ブラックオニキスと入れ違いのようにしてやってきたのは、ヤチヨだった。結果発表を終えて、公式の仮面を外したためだろう。その表情は随分と楽しそうに見えた。それに対し、わたしは推しを前にしてうまく言葉が出ない。

「やるじゃねーか。まぐれに頼る天才だな」

「ん〜〜。でも、全然ダメだったぁ。どうやったらヤチヨみたいにシュババって動けるの?」

 そんなわたしに比べて……。かぐやは凄いな。フシを捕まえてリフティングしながら、ヤチヨと雑談してる。

「ん〜〜。そこは日々の努力の玉藻前と言いますか〜〜。気まぐれアメンボロードと言いますか〜〜」

「何それ。ヤチヨって、いつもテキトーじゃない?」

「んっん〜。ヤチヨは優柔不断で悪いやつなのです〜〜。かぐやは、かぐやだから強いんだなって、ヤッチョは思ったよ」

「なんにも言ってないな〜」

 せめて敬語使いなよ。内心でそうツッコミながら、ふとわたしは変な感覚に襲われた。

 ーーこうして2人を間近で見ると、なんか似てるな。

 雰囲気も、イメージも、歌ってる曲調から何もかも違うはずなのに、なぜかそんな印象を抱いた。

「さーて、ここからはクライマックスに向けてハードな展開が待ち受けてるかも! このお話を最後まで見届けてね? 運命の荒波に揉まれる覚悟はいいかな〜〜?」

 背後からふわりと抱きついてくると、ヤチヨはそういった。

 それにしても、ヤチヨは普段ふわふわとした物言いはするが、こんなにスピリチュアルな表現を好んだだろうか。

「あ、それから、iroにお願いがあるんだ〜」

「へ、あ、はい。なんでしょうか!?」

「そんなに畏まらなくていいよ〜〜。ただ、今回のコラボライブに、できれば何曲か作ってほしいんだ〜〜。ヤッチョも、iroの曲大好きだから! あ、もちろん、相応の対価は出すよ!」

「んなっ!?」

「あ、はい。わかりました……」

「え゛!?」

「ほんと!? ありがと〜〜⭐︎ あとで正式に書面出すから、よろしくね⭐︎ それじゃ〜ね〜〜」

 気がつけば、わたしはすんなりとヤチヨのお願いを聞いてしまっていた。隣ではかぐやがむくれているが、そんなことはどうでもいい。

 コラボライブが決まり、そしてわたしが新規に曲を書き下ろす。その目まぐるしい展開に、これは夢ではないだろうか、そう疑ってさえいた。

 そんなわたしたちを放って、ヤチヨの姿が虚空へと消えていく。その背を眺めながら、わたしはぼんやりとつぶやいた。

「…………これって、現実?」

「VRだよ」

 喧しいわ。

 

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