作曲家iro   作:冬良

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作中の数字は色々調べてますが、最終的にはふんわりとしたイメージでまとめてます


変わり始めた日

 溜め込んでいたふじゅペイがあって助かった。

 芦花と真実に連れてこられたカフェで、パンケーキを待ちながらぼんやりとそう思った。

 息抜きと趣味を兼ねて行なっている作曲活動は、ふじゅーの性質も相まって、いつしか日々のバイトとは異なる別の収入源となっていた。

 とはいえ、所詮は1学生の息抜き程度の作品だ。そこまで高収入を見込めるとも思っておらず、一番スタンダードな方式ーーすなわち、一再生あたり0.1ふじゅーの収入を選択していた。

 だが、チリも積もればなんとやら。気がつけばふじゅペイとして使えるポイントはそれなりの額が貯まっていた。

 この別口のポイントがなければ、昨日までの三連休であの宇宙人を育てるための費用を賄うのも大変だっただろう。

(赤ん坊のための用品があんなに高いとはね……。それに、ほとんど無駄になっちゃったし)

 あの宇宙人は家で大人しくしているだろうか。そんな不安を少し抱えながらも、三連休のことを思い返す。

 最低限必要なものを揃えただけなのに、クレジットならば渋沢栄一が何人旅立つ羽目になっていたことだろうか。生活費に学費にと貯金にとギリギリの生活を送っている身としては、北里柴三郎だけでも正直ポンと出すには厳しいものがある。

 とはいえ、華の女子高生なのだ。

 友達づきあいも必要だし、そうなれば必然的にお金もそれなりに余裕がなければならない。幸いこの二人はわたしの事情を理解してくれているため、そこまでお金を使わない遊びにも誘ってくれるが、いつもおんぶに抱っこというわけにはいかない。

 かと言って、常に身銭が切れる状況とも限らない。そんな時、動画再生の収益はちょうど良いその場しのぎの決済手段に役立った。

 とはいえ、こんな収入は水物だ。あると思って浪費して仕舞えば一瞬で浪費してしまい、そして同時に人気が衰えてしまえば、あるはずという願望のもとに建てられた計画は容易く崩壊する。

 

 ーー今日の100円は明日の1000円や。明日の自分に恨まれるで。

 

 確かに、それだけは母の言う通りでもあるだろう。だから、わたしは生活費にふじゅーを含めない。

 とはいえ、こんな時くらいは多少使ったとしても良いだろう。

 そう考えていると、目の前にパンケーキが運ばれてきた。

 こう言う場にはあまり慣れていないため、二人にオススメのものを代わりに頼んでもらう形になってしまったが、なるほど確かにこれは目に見て楽しい一品だ。わたしの前に運ばれてきたのは、三段にも重なったふわふわのスフレパンケーキで、さらに季節の果物が色鮮やかに飾り立てている。

 それではさっそく、と言うところで二人がつい、と静止してきた。

「彩葉ノートで赤点回避記念〜〜」

「お礼の品でーす。ご査収くださーい」

 そんな芝居掛かった口調と共に進められる。このノリでは、おそらく奢りのつもりなのだろう。悪いとは思いつつ、それならば変に気を使う必要もあるまい。そう思って早速フォークを伸ばした時だった。

 おかしい。なぜか先ほどより一段減っている。

 そのまま視線を上げると、見知った、そしてここにいてはいけない筈の人の顔がある。

「よっ、彩葉!」

 うちにいるはずの宇宙人は軽いノリでそう言いウインクを飛ばすと、満面の笑みを浮かべてパンケーキをパクついている。

 そのあまりにもあんまりな光景に眩暈がする。だが、目の前の宇宙人は家にいる時と変わらない様子で席に入り込むと、わたしのパンケーキを強奪するに飽き足らず、あまつさえ芦花からパンケーキを分けてもらってさえいる。

 ーーああ、神様。もしも居るならば、なぜこのような目に遭わせるのでしょうか。何か悪いことでもしたでしょうか。

 普段特に意識することなどない神の存在に内心当たり散らしていると、目の前の宇宙人ーーかぐやは性懲りも無くペラペラと話をしている。これ以上話をされれば、わたしの胃に穴が空いてしまう。

「ごめん、帰る! ありがとね、ごちそうさま! あとで埋め合わせは必ずするから」

 2人にそう告げると、かぐやの腕を引きずって逃げるようにカフェを出た。

 

**************************

 

「いやー、さっきの建物の中涼しかったねぇ。あれ、彩葉の家の中でできないの?」

 背後を歩くかぐやは呑気になことを言っている。そんなかぐやを連れて人気の少ないところまで歩くと、わたしは叫んだ。

「正気!? なんでここに居んの!? なんで家から出てくんの!? 正体バレたらどうすんの!?」

 そんなわたしの正論は、「だってつまんないんだもん」

という一言で切り返された。

 その天真爛漫な様子に二の句が告げずにいると、かぐやはポケットをゴソゴソと探し始めた。

「ねぇー、彩葉。これどうやって使うの?」

 そう言って取り出されたのは、ある意味でインフラの一つと言ってもいいものーーすなわちスマコンだった。

「スマコンじゃん。わたしのやつ持ってきたの?」

「ううん。彩葉のノートPCで買った」

「は?」

 イロハノノートピーシーデカッタ?

 もしやこれは高度な月言語によるわたしの知らない意味があるのではないだろうか。

 一瞬変な方向に意識が飛びかけたが、目の前の下手人は「イエイ♪」とピースサインを作っている。

 だが、こちらとしては気にしている暇はない。

 わたしのネット通販に紐づけられているウォレットといえば、生活費とは別に爪に火を灯す思いで貯金した、ある意味でわたしの生命線といっても過言ではない口座だ。半ば半狂乱になりながら、履歴を調べる。

「……あれ?」

 スマコンを買ったならば、わたしの死ぬ気で貯めた10数万の残高は0に等しくなっているはずだ。だが、ネット口座を見る限りでは減っている形跡がない。

 かと言って、かぐやの手元にスマコンがある以上、きちんと決済処理は完了したのだろう。だが、わたしには10数万ポンと出せるような隠し講座などない。

「かぐや。あんたどうやって決済したの?」

「え? なんか、クレジットとふじゅペイと選択できる画面が表示されたから、ふじゅペイで決済したよ? そっちの方がなんだか割引とかで安くなるみたいだったし」

 ことも無げにそう言い放つ。

 その言葉に導かれるように、フラフラと震える指を操ってふじゅペイの残高を調べる。

 

『ふじゅペイ決済履歴

 本日 120000ポイント

 残高 1579ポイント』

 

 なぜだろう。自分のお金が勝手に使われた筈なのにそこまで怒りが湧いてこない。もちろん、目の前の現実を消化しきれていないのもある。だが、それと同時にどこかで『こんなものは本当の稼ぎではない』と思って、目を背けていたこともあるのだろうか。はたまた、疲れ切ったこの身体では満足に怒ることもできないのだろうか。

 とはいえ、固まってしまったわたしを見て焦ったのだろう。かぐやがとんでもないことを言った。

「そのポイント? のデータ書き換えれば増やせるっぽいよ? かぐやならお茶の子さいさいだけど、やる?」

「ダメに決まってんでしょ……。ゼッタイ、やんないでよね」

 犯罪行為を提案するかぐやの発言に頭を抱えながら、そう言うしかなかった。

 家に帰った時、かぐやがスマコンだけでなく食料を買い込んでいたことも発覚したのだが、もはや何も言う気力が湧かなかった。

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