「いや〜〜。彩葉の稼ぎ、バイトだけじゃないとは薄々思ってたけど」
「まさか、iroだったとはねぇ」
「何故それを!?」
「だって、iroの新作アップされたと思ったら、普段と毛色違うし」
「それに、一昨日会ったかぐやちゃんが映れば、ねぇ……」
「別に、隠そうと思ってたわけじゃないけど……」
芦花や真実の言葉に、自分でもどこか弁明がましいとは思いつつもそう答える。
昨日のかぐやのライバーデビューから、それに伴うアカウントの整理、収益化の振込口座の開設、ライバーとしての基本的な設定等等、結局いつものように徹夜に等しい状態となってしまった。
夏期講習はいくら午前中で終わるとはいえ、それでも万年寝不足気味なこの身体では少々堪える。そんな重い身体を引きずって完璧女子高生を演じた帰り道でのことだ。
かぐやを知っている2人からしてみれば、アカウントからおおよその推測はついたのだろう。
「でも、これで納得するところも多かったからさ」
「そうそう。彩葉、遊ぶときには基本的に現金だけど、時々ふじゅペイを躊躇いもなく切ってたしね。いくらKASSENで彩葉が稼いでるとはいえ、それもそんなに多いわけじゃないし」
「だから少しは安心したんだ。無茶してバイトいくつも掛け持ちしてるんじゃないかとか、夜通しKASSENに潜って交際費稼いでるんじゃないかって心配した時もあったから」
「はは……」
言えない。それこそ上京当初は一人暮らしの金の要り用に驚き、Bamboo cafe以外にもバイトを掛け持ちしてたなんて。それに、不眠症で夜通しKASSENに入り浸り、稼いでいた時期もあったことなんて。
「それにしても、彩葉ってこんな曲も作れたんだね。普段のBGMとは印象全く違うけど」
「それは、その、昔作ってたやつの手直しと言いますか……」
「だとしても、だよ。ホント、彩葉なんでも出来るよね」
そう言われながら、差し出された画面を見る。
映し出されたかぐやチャンネルには、すでにあの放送事故となっている初投稿を含めて、3本もの動画が上がっている。
一つはわたしが作曲中静かにしてもらうために行ってもらった、かぐやの作詞配信だ。さすがにかぐやと言えども、いきなり曲だけ10曲も渡されれば即座に歌詞を作ることはできまいと考えていた。
だが、侮っていたのはわたしのかぐやに対する印象のようだったらしい。
かぐやは感覚派であるため、考える時は散々頭を悩ませているが、一度「降ってきた!」と叫んだかと思うと、ノートにさらさらと歌詞を書き始める。そして、その筆は止まることなく一曲分書き上げていた。
世の中の作詞家が見れば頭を抱えるような光景だろう。
そんなことを思いながら、ふと思いついたのだ。
世の中のライバーには、作業配信というものをやっている人もいるという。
今はまだかぐやの存在は世間的に認知されているとは言い難い。ならば、数の暴力で配信を繰り返し、まずは人目につくことがファン獲得に繋がるだろう。
そして、今かぐやは『ライバーになって優勝する』という目標はあるものの、その中間目標ーーもしくは小目標となりうる、プロデュースや動画の企画など全くない。ならば、このような配信があってもいいだろう。
幸い、かぐやが買い込んだガラクタの中には、ブルーバックに使えそうな大きめのレジャーシートもあった。それを使って、早速かぐやに配信を行わせる。
そして、かぐやが3曲分ほど歌詞を書き上げた段階でその配信を止め、一曲目の収録を行った。
それが最新のところに上がっている曲ーー『私は、わたしのことが好き。』だ。
かぐやは普通にダンスも行ったため、演奏も相まってボロアパートには音が大きく響いてしまったことだろう。
いくらそこまで遅くない時間だったとはいえ、壁ドンされたり部屋に乗り込まれたりしてもおかしくない暴挙ではあった。
「さっき聴いてみたけど、いい曲じゃん」
「うん。かぐやちゃんの元気一杯な感じが伝わってくるよ」
「ありがと。かぐやにも伝えとくよ」
そう伝えた時、2人から同時にツッコミを受けた。
「何言ってんの。彩葉の曲ありきでしょ」
「そうそう。歌と歌詞、どっちが欠けても曲は成り立たないよ?」
「……うん、そうだね。ありがと」
2人にそう返す。
そこに何かを感じたのか、話題を変えるように2人は話し始めた。
「ところで、彩葉も動画には出るの?」
「ううん。わたしはかぐやのプロデュースをするだけ。勉強とバイトでそれ以上手伝えないって言ってるし」
「大丈夫? 身体壊したりしない?」
「大丈夫だって。ちゃんと考えてるから」
そう言いながら歩いていた時だった。
ピロン、と通知が入る。かぐやからだった。
『彩葉、雑談配信してもいい!? なんか、お悩み相談とか鉄板らしいよ? あと、歌ってみたとか踊ってみたとか撮ったから、上げるね!』
そのコメントと共に、複数のファイルが添付される。中身を見るまでもなく、かぐやが流行りを追っかけて挑戦した結果だろう。
一応かぐやもわたしの学校が終わる時間までは連絡を我慢したらしい。もしくは、午前中は単に収録を頑張っていただけか。
中身をざっと確認するが、特に身バレにつながりそうな内容もないし、許可を出す。
と言うか、昨日は勢い任せで言ってしまったものの、いちいち確認するのも面倒だ。いっそタブレットを一時的にかぐや専用に明け渡して、アカウントを分けた方がーー。
なんて思っていると、両サイドから視線を感じた。
ふと両隣を見ると、芦花と真実がニコニコしながらこちらを覗き込んでいる。
「すっかり、敏腕プロデューサーだね」
「次の動画も期待してるよ〜〜」
「も〜〜、そんなんじゃ無いってば」
そう言いながら、バイトのために別れる。
何はともあれ、ライバー活動は始まったばかりだ。考えることは山積み。何から手をつけるべきか。
時間が取られるはずなのに、なぜか自然とわたしは笑みを浮かべていた。