作曲家iro   作:冬良

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配信活動の裏側で①

 かぐやの快進撃は続く。

 そもそも、半ば衝動的にライバーを始めたこともあるし、なによりかぐやは宇宙人だ。配信のことなど何ひとつわからない。

 彼女の原動力は一つ。即ち、それが自分にとって『楽しいかどうか』の一点に尽きる。

 故に、企画の重複、二番煎じ、後追い、気後れ、照れなどそういったものは路傍の石のように無視し、自分のやりたいと思ったものに対してはガンガン挑戦していく。

 故に、このような事態が多発する。

「ねえ彩葉見て! このダンスすごくない!? かぐやもやってみよ〜っと」

 そして思いついたら即行動だ。こちらが制止する間もなく行動に移す。

 それにかぐやの観察眼によるものか、見て真似するというものであれば、大抵のダンスだったり曲芸だったりは一発録りで出来てしまう。たまに失敗してもご愛嬌。かぐやは躊躇うことなく『失敗しちゃったver』なんてタイトルをつけて配信する。

 その頃になると、かぐやも最低限の常識を理解するようになり、わたしが口やかましく注意をしたり動画の編集で不味い部分を修正したりといった作業がほとんど必要なくなってしまった。

 それは生配信でも変わらない。当初はネットリテラシー皆無なかぐやのため、地名やわたしの名前などに対して、スマコンで脳波を読み取り自動で制限をかけるAIを活用していた。流石はツクヨミ。そう言った細やかなライバーに対するサポートも充実している。それも、今では滅多に反応することもなくなっていた。

 今では、かぐやが日中撮り溜めた動画を確認し、予約投稿枠に放り込むことがわたしの主な仕事になっていた。

 となると、ますますかぐやは止まらない。

「やっば! 芦花に教えてもらったメイク、その通りにやったらめっちゃ自撮り盛れるんだが!? 早速アップしちゃお〜」

 いつの間に友好を深めたのか、芦花にメイクを教えてもらったり。

「真実おすすめのお店のお取り寄せきたから、緊急で動画回してま〜す。早速食レポ行ってみよ〜! あ、いろhーーじゃなかった。いろPも食べる?」

 真実からおすすめの食レポを試してみたり。

「そんなのどうでもいい! きっちり片をつけて忘れる! 忘れるって人生で一番大事な能力だしね! あ、でも調子のいいことだけ言って責任取らない奴にはならないよ! 最低限責任を取る! それがかぐやの優しさ!」

 ヤチヨがよくやるようなお悩み配信にも。

 いろんなことに挑戦する。やりたいことは躊躇しない。それがかぐやの流儀だった。

 母の言葉が耳に蘇る。夢を阻む最大の障害は、積極性の欠如だと。

 その言葉は今のかぐやを見ている限り、あながち間違っていないように感じられた。

「よ〜〜し! 今日はツクヨミでゲリラライブ! 昨日彩葉からもらった曲、歌詞もダンスも考えてないけど即興で最後までやっちゃおっと!」

 少なくとも、今のかぐやには目の前に壁などないように見える。

 とはいえ、だ。

「ねぇいろは〜、一緒にツクヨミで伴奏して〜〜?」

 快進撃を続けるのは結構だが、わたしを巻き込むのはやめて欲しい。頷いて仕舞えば、際限なく時間が取られる。

「いろは! バトルと演奏両方同時にできるキーボード作った! これなら歌配信しながらゲーム配信もできるよ? 一緒にやろ?」

 やらない。バイトがあるから。

「いろは、いろは! 今日はお料理配信するんだ! 一口でいいから一緒に配信しよ?」

 だめ、勉強の邪魔しないで。

「彩葉、一緒にセッションしよ? かぐやもべんきょーしたし、今ならちゃんと弾けるはずだから!」

 無理、作曲溜まってるから。

「いろはーー! ダンスのショート撮るから手伝って!」

 手伝わない。バイトに遅れちゃう。

「えーー? いいじゃん! 1分くらいだよ? 芦花も舞真実もやるって言ってるよ? ねぇ、芦花、真実?」

「うん、面白そうじゃん。真実は?」

「やるやる〜〜。こう言うときじゃないとやんないしね〜。彩葉はどうする?」

 ほら、こうなる。

 こうなるだろうと思っていたから、頷きたくなかったんだ。いつかは断りきれなくなるのがわかってたから。かぐやの回りを引っ張る力はブラックホールよりも強いのだ。

 ただでさえ、この頃は寝過ごすことも増えてきた。普段ならば1時間も横になれれば十分だったのに、最近では3時間程度横になってもスッキリしない。

 深夜配信をやめろと怒鳴ったこともあったが、かぐやも日付を超えるまで配信することは滅多にない。ただの八つ当たりなのはわかっていた。

 それでもおねだりされれば頷いてしまうのは、なぜなのだろうか。

「と〜れたっと! 早速アップーー」

「絶対ダメ」

 かぐやだけでなくわたしや芦花、真実も映っているのだ。いくら2人が許可してるといえども、断固として上げさせるわけにはいかなかった。

 

 こうして勉強にバイト、作曲活動を繰り返す鉄壁の予定表に、いつの間にか『かぐや・いろP』の配信活動はぐいぐいと食い込んでいた。

 最初はわたしの少しはある知名度を足がかりにしていたとはいえ、今ではそんな雰囲気は一切感じられないほどかぐやの実力によってグイグイとそのファン数を増やしていた。

 ヤチヨカップが始まって半分くらいの期間が経過した段階で、かぐやの順位は160位ほどまで上げていた。正直

無名のライバーからすれば大躍進もいいところだろう。とはいえ、だ。

「あ〜〜! ぜんぜんたりない〜〜〜〜!」

 欲張りなお姫様は全く満足していない。砂浜に広げたレジャーシートの上を転げ回り、その不満を露わにしている。とはいえ、流石に目に余るためそれとなく制止する。

「でも、この前の歌配信めっちゃよかったけどね」

「ね。かぐやちゃんゲームも歌も上手いよね」

 そう言って2人はかぐやを甘やかす。そんなことを言えば、当然のことながらかぐやは調子に乗る。

「ま、天っ才、歌姫ですから」

 ほら、言わんこっちゃない。

「オリジナル曲も毎日のように出してるしさ」

「作詞はかぐやちゃんでも、作曲は彩葉でしょ?」

「彩葉かわいい上に天才すぎ〜」

「そ、そうかな……」

 その称賛にどこかむず痒さを感じながら、そう答える。

「でも、彩葉大丈夫? 無理してない?」

「大丈夫だよ。それにアレのほとんどは昔作ってた奴だから」

 嘘だ。本当は、ストックなどとうの昔に尽きている。

 そもそも、手直し程度で済むはずがないのだ。

 それに、わたしの作った曲はほとんどがヤチヨをイメージして作っている。だが、その曲はかぐやのイメージとは違う。

 ヤチヨが中秋の名月ならば、かぐやは真夏の太陽だ。それぞれ違った趣があるが、それゆえにイメージがケンカする。

 手直しと言いつつ、1から作り直したり、新規に書き下ろした曲の方が今では多かった。

「ぐあ〜〜。でも、やっぱり優勝したい〜〜! 全然足りない〜〜」

 騒ぐかぐやを放っていると、いつの間にか2人のところまで移動していた。かぐやは甘えていい人間を見極めるのが上手い。

「ねぇ、2人はどうしたらいいと思う?」

「とはいえ、結構やってるしねぇ」

「あ、私いい考えあるよ! いろP初登場&iroコラボ! 今まで正体を隠してたいろPの秘密のヴェールを脱ぐことでーー」

「却下」

 言い終わらないうちに真実の手を抑え、ついでとばかりに焼きそばを強奪する。みんなで買ってきたのに1人ですでに三皿目に手を伸ばしているのだ。いくら他に食べているのがかぐやくらいしかいないとは言え、流石に1人で抱え込みすぎだ。

「えーー? なんでーー?」

「なんでじゃないの。絶対出ないから」

「でも、これ、このキツネの着ぐるみ彩葉だよね」

「ぐっ」

 痛いところを突かれる。

 事実、ライブする時はわたしが後ろで弾いている。録音した音源が悪いと言うわけではないが、やはりライブ感というべきかその場に合わせた細かな機微を調整するためにはわたしが演奏する方が早いのだ。

 でも、あくまで主役はかぐやだし、わたしはiroという名前を出していないし、喋ってもいないし、キツネの着ぐるみを着ている。セーフだと言ってもいいだろう。

「とにかくっ! わたしは出ないから!」

 そう大声で宣言するも、目の前のお姫様には通じるはずもない。

「ねえいろは、このままじゃ優勝できない……」

 上目遣いをやめろ。嘘泣きで涙を溜めるな。

「かぐやのこと、たすけて……?」

 哀れな少女のようにか細い声を出すな。

「一緒に、出よ?」

 さあわたし、はっきり言うんだ。

「ーーーー時間が、あいてたらね」

「いよっしゃあああ! もっともっと配信するぞー!」

 なぜ断れないんだろう。

「チョロ葉」

「チョロ葉だね〜」

 項垂れるわたしの背後で、2人の声が響く。みれば、2人は花のような笑顔を咲かせている。こちとら笑い事ではないのだが。

「でも、彩葉、明るくなったよね」

「ね、前はふっといなくなっちゃいそうだったのに、今はなんていうか、地に足がついてる感じがする」

 突然、そんなことを言われる。え? ふたりともそんなふうに思ってたの?

「かぐやちゃん、どんな魔法使ったんだろ。ちょっと嫉妬しちゃうなぁ」

「でもほんと、無茶は禁物だよ? 彩葉、いまめっちゃ楽しそうだけど、なんか疲れてそうな感じするから。手伝えそうなら私たちも手伝うからさ。たとえば……」

 そう言いながら、2人は波打ち際で遊ぶかぐやに目を向ける。

「コラボとか?」

「いいねぇ〜」

 インフルエンサーとして著名な2人とかぐやが?

 この話を聞けば調子に乗るんだろうなぁ。

 そんなことを思われているとは知らないかぐやは、波打ち際で無邪気に遊んでいた。

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