作曲家iro   作:冬良

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今更ですが、某掲示板に投げていたものの再掲となります。
先が読みたいという方はそちらまで
一応、かぐやが月に帰るところまでは(駆け足ですが)描写してます


配信活動の裏側で②

 人気インフルエンサー2人の後押しを受けて、かぐやの活動はますます活発になっていった。

 今までも2人に協力してもらった部分はあったが、今回のコラボはそれ以上だ。今までそれとなく関係を示していたものの、2人と公式にコラボすることはなかった。だが、今回に関しては、2人とも全面協力してくれたこともあり、今までになく派手な企画も実行していた。

 例えば芦花との配信では芦花側でかぐやのような顔立ちに対するメイクの理論編の動画をあげ、逆にかぐやいろPチャンネルでは実践編を上げると言ったことを行なった。一方で、真実とのコラボでは真実のチャンネルではかぐやと真実が食べ歩きコラボをする一方で、こちらではかぐやが買い込んだ材料をもとに様々な再現レシピやアレンジレシピをあげるといったような内容だ。

 2人とも元々10万人をこえる有名インフルエンサーだ。私のように顔出しをせず、潜在的なファン数では上回っていても話題性のない人よりは、遥かに人気の起爆剤になったことだろう。

 一方で、気まぐれわがままお姫様は止まる事を知らない。コラボでテンションが上がったこともあるのだろうが、今まで以上にハイペースで動画を回す様になった。

 大食いチャレンジ(失敗したもののスパチャでプラス)、恵方巻き一気喰い(失敗したら静かにすると言ったため全力で妨害した)、激辛料理実食動画(泣きながら食べるのがあまりに見ていられず半分以上食べた。特に辛いとは思わなかったが)、ペットボトルバズーカチャレンジ(水を炭酸水に変えたり気体を水素に変えたり……。もはや夏休みの自由研究)、クソゲー配信(15時間やってた時は流石にうるさく感じ、隣からコントローラーを奪い取った。一発でクリアした)、ドラマや映画の同時配信(視聴者に騙されて涼宮ハ◯ヒのエンドレスエイト耐久やったりまど◯ギ、fate/zer◯などのメリバ系orバッドエンド系の耐久になった)……。他の配信者と比べるともはやカオスなサムネだらけとなっている。

 とはいえ、普通に歌配信とかやらないの? と聞いてはいけない。そんな事を言えば、帰ってくる答えは一つだけだ。

「じゃあ彩葉も演奏して?」

 そう返されるに決まっている。

 勉強にバイトに作曲に動画編集(かぐやと分担)、サムネイル編集……。今の生活にそんな余裕はほとんどない。睡眠時間を削ろうにも身体が重く、長くまで起きていられない。今までなら4時睡眠5時起きとかも余裕だったのに、今では12時就寝6時起きでも結構辛い。

 でも、黙っていたら黙っていたらでかぐやは取引を持ちかけてくる。

「ねぇ彩葉、今日ビーフシチュー作ったんだ。だ・け・ど〜〜明日の歌枠配信彩葉が出てくれたら出来合いのデミグラスソースじゃなくて赤ワインからフォンを丹念にとって150時間煮込んだタンシチューにアップグレード、さらにiroとのコラボって形にしてくれるなら、同じく丸二日かけて仕込んだコンソメスープとサフランライスをつけちゃうけど……、どうする?」

 なんて人類には到底できない取引を持ちかける。150時間どころか丸二日なんて絶対間に合わないはずなのに、言われた瞬間になぜ今まで気がつかなかったか不思議に思うほど芳醇な香りが鼻腔を擽ってくるから厄介だ。

 バイト上がりの飢えた体ではもはや抗うのは不可能に等しかった。それに、わたしのファンも薄々『いろP=iro』と勘付いている様だし、別にいいだろう。

 本能的に了承して仕舞えば、あとは早い早い。気がつけばあれよあれよというまにツクヨミの中にログインしていた。

 全く、かぐや姫はこんなに陽キャじゃないだろうに。地球の、それもネット文明に馴染みすぎではないだろうか。

「みんなーー! 今日の歌配信にはいろPことiroが来てくれましたーー! バイブス高まったらワンチャン着ぐるみ脱いでくれるっていうから、みんなばっちり盛り上げよーね!」

 適当な事を言うな。絶対脱がないから。

 それに、ああ、サラッとわたしがiroである事を言うから、みんなポカーンとしてるじゃないか。下手に割を食ってしまうかもしれなかったから嫌だったのに。

 まあ、かぐやの歌に合わせて演奏するのは楽しいけどさ。わたしみたいな中途半端にはこのキラキラは似合わない。エンターテインメントの中心ではなく端っこで、裏方で眺めているのがちょうどいい。

 とは言え、せっかくかぐやがわたしの正体をバラしてしまったのだ。少しはサービスしてやらねばなるまい。

 本来の楽譜にはなかった転調を入れる。それに気づき、咄嗟にアドリブで歌詞を合わせるかぐやも流石だ。そこからさらに転調をいれ、わたしのピアノソロパートを作る。

 少し前までは想像だにできなかった、みんなの前でのソロ生演奏。だが、長々と奪い取るのも悪い。ここにいる人はかぐやのために集まってくれたのだ。1分ほどのソロパートののち、転調して元のコードにつなげる。

 ほら、油断してるとラストのサビ入り損ねるよ? 聞き惚れるのも大概にね?

 やっぱり、かぐやはラスサビの入りをミスった。でも、輝く様な笑顔で平然と続ける姿は、わたしからは眩く見えた。

 

 あとはいつの間に仲良くなったのか、芦花や真実と一緒にゲーム配信なんかをやっているようだ。もちろん、かぐやはゲームのことなど何も知らないので、芦花や真実に教えてもらいながらとなる。

 わたしに聞いてこなかったのは遠慮したのだろうか。ともかく、これ幸いとかぐやが初心者プレイの数々をやっている傍ら、わたしは落ち着いてバイトや勉強、作曲、編集に精を出していた。

 とは言え、同居しているのだ。必然、声は聞こえてくるし、チャットも見える。かぐやがどんな状況になっているかなど、自然と耳に入ってくる。

 今はKASSENをしている様だが、ズブの素人であるかぐやを抱えてでは流石に、芦花も真実も難しかったのだろう。今では生き残りはかぐやだけのようだ。

 まあ、わたしには関係ないが。

「えー? うわー! なにこれなにこれ! かぐやが1人で櫓守ってるのに三人がかりとかヒキョーじゃん! 攻撃どれ防御どれボタンどこ! あ、なんか勝てた」

「え〜〜、すご〜〜」

「かぐやちゃん筋いいね」

 いやそれで勝つんかい。

 2人とも褒めないで。調子乗るから。

 

 翌る日にはわたしがエナドリで眠気を飛ばしながら勉強している時だった。かぐやが何を思ったか配信中にとんでもないことをぶちまけたのだ。

「う〜〜ん、あ、そうだ! じゃあいろPに勝ったらいいよ!」

「ちょっと、あんたなんの勝負にわたしを巻き込んだ」

「え? なんか求婚してくる人が多かったから、つい言っちゃった。このままじゃ、かぐや結婚しなきゃいけなくなるの……。いろは、助けてぇ〜?」

 ふざけんな。どこぞの馬の骨とも知らん輩にかぐやが渡る? 確かにいなくなって清々するかもしれないが、そんな軽いノリで人生を決めようとしているのか? この悪童は。

「……かぐや。伝えといて。今からサーバーを建てる。1時間後、SETSUNAで勝負。わたしは勝ち抜き連戦でやる。エントリーは今から1時間以内にサーバーに入った人のみ。そう通知して」

「わかった! みんなも聞いてた? いろPやる気満々だから気をつけてね! もしかしたら五つの難題よりも難しいかもよ〜〜?」

 そんなに囃し立てるな。ほら、結婚に興味なくてゲームで腕を鳴らすランカー帯の人の興味も引いちゃったじゃない。ま、一時期生活費稼ぎをしていたわたしの刹那の腕なら、並大抵の人なら返り討ちに出来るだろう。

 その日、わたしは驚異の2時間半で316人抜きを達成し、『現代版五つの難題』、『開始10秒でバー2本削った狐』『84連コンボ』、『プレイヤースキルで狙撃限界を超えた者』、『後に残るは花吹雪』などの渾名を頂戴することになった。

 とは言え、わたしには関係ない。遅れた分の勉強を取り戻さねば。粉末コーヒーを粉薬のように口へ流し込んで、再びわたしはペンを握った。

 

なんてドタバタしているうちに、かぐやいろPチャンネルは着実に順位を上げていく。それに付随して集まってくるのが莫大なふじゅ〜だ。それだけかぐやが人々の心を動かしたと言う証左ではあるのだが、かぐやは明らかに調子に乗っていた。

「かぐや、計画的に使いなさいよ。こんなの所詮泡銭なんだから」

「でも、合法でございましょ〜〜?」

 そう言いながら、よくわからないものを弄る。もはや部屋の中は雑多なもので溢れかえり、足の踏み場もないほどだ。片付ける様に言っても、なかなか聞き入れてくれない。

「まったく、部屋の片付けくらいはやってよね……」

「わかってるって。あ、そろそろ時間だよ?」

 そう言われて時計を見る。

 確かに、もうすでに時間だ。今日の歌配信は今までの路上ライブや収録したものを流すものではない。わざわざツクヨミのなかでライバー向けに開放されているエリアのうちの一つを予約して行う、チケットも販売した本格的なものだ。

 チケットには一応かぐやのソロライブと刻んでいるものの、伴奏にはわたしの名前ーーiroの名前が刻まれている。着ぐるみを着ていていいと言われたし、わたしにもギャラが支払われる契約のためバイトを休んだが、本当にわたしでいいのだろうか。

 今まで中途半端であるが故に、日陰に隠れていたわたしを本格的に引っ張り出すのが、かぐやの初ソロライブで、しかもその隣なんて。

 だが、かぐやはそんなことを気にする様子もない。ライブ直前だと言うのに、緊張した様子もなく、はしゃいでいる。

「来て! 彩葉、やろ? かぐやと彩葉の仲良しのやつ!」

 そう言いながら、かぐやはチョキを繰り出す。それに合わせるようにチョキを出すと、かぐやはそれにちょんと自分の指を合わせる。そして指を絡ませると、狐の形にする。

 かぐや考案のハンドサインだ。

 なにを、と思っていたが、案外緊張がほぐれた。

 そのまま控室の様な場所で待つ。

 かぐやは一体どこまで行くつもりなんだろう。かぐやの背を見上げて、そう思う。

 幕が上がる。飛び上がるかぐやの背中に、ヤチヨの影を見た様な気がした。

 

 それから数日後、買い物に付き合って欲しいというかぐやの誘いで、わたしは街に出た。てっきり洋服か何かを買いに行くのだろうと思っていたが、かぐやのスケールはそれどころではないことを忘れていた。

「ほら、こんなとこがいいんじゃない?」

 そう言って示してきたのは、駅前のタワマン(家賃月35万)。再開発もあり、不動産屋一押しの物件なのだろう。

 とはいえ、そのあまりの金額に眩暈がする。わたしの去年の年収の三分の一が月々の家賃だ。

「こんなとこ住んでたら人間おかしくなるって……」

「え〜〜? いいじゃ〜〜ん。かぐやが出すからさ〜〜。ほら、もう足の踏み場もしまう場所も無いって彩葉言ってたし。それにこのマンション2階もあるんだよ。それに吹き抜けでシステムキッチンもあって家具家電備え付け、バルコニーもある! それに最上階!」

「こんな小娘に貸してくれるーー」

 訳ないでしょ。

 そう言おうとして、異変に気がつく。

 身体がグラグラする。

 まっすぐ立ってるはずなのに足元が覚束ない。

 真夏だと言うのに真冬のように寒い。

 かぐやの声も、喧しい蝉の声も水の中のように不明瞭だ。

 視界がどんどん狭まり、色が抜け落ちていく。

(かぐ、や……。たすけ……)

 そう思って手を伸ばそうとしても、腕どころか指先が動いている感じすらない。声を出そうとしても、今のままでは声の代わりに胃液を出してしまいそうだ。

 消えゆく視界の中で、かぐやが驚いてこちらに駆け寄ってくるような気配があった。だが、目はすでに焦点を結んでいない。そのまま崩れるようにわたしは意識を失った。

 

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