月の魔女の弟子と転生少女   作:六原

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最初は一次創作を書いていたんですが、途中から二次創作になりました

おもむろに書き始め、溜まって来たので投稿をば。


序章
00.教会と月の魔女


教会はもはや原形を留めてはいなかった。

そこはすでに廃墟との境界にあった。

少女はそんな中で、祈ることしかできなかった。

自分には祈ることしかできないのだと、彼女は分かっていた。

 

いつものように女神像の前に両膝を着き、両手を握った。

女神像も被害を受けてはいたが、その美しさはそこに在り続けていた。

天井は壊されてしまい、そこから満月がくっきりと見えた。

 

教会を罵る声と、何かが壊れる声。誰かの悲鳴。誰かの叫び声。何かが燃え、爆ぜる音。

少女はその全てに耳を塞いだ。

 

さあ、祈ろう。祈ることで現実から逃避するのだ。

祈れば全て救われる、と教えてくれた人も、きっともういない。

少女はそこでふと、今の私は何を祈ればいいのだろう、と思った。

いつものように、私達をどうか見守ってください、と祈る?

もうここには私しか居ないと言うのに。

どうかご加護を?

私は生き続けたいのだろうか。

 

……ああ。どうか、私に、道をお示しください。

 

 

その時、魔女は一条の光と共に降り立った。

女神像に祈りをささげていた少女は瞳を開き、顔をあげた。

彼女の視界には魔女だけが映っていた。

まるで少女が魔女に祈りを捧げている様であった。

それがおかしいと思われないほどに、魔女は光を纏い、その姿は女神であった。

魔女の長く、美しい金色の髪が月の光を反射して輝く。

夜風に髪とローブの裾が靡く。

夜空を閉じ込めた瞳に、足元で祈りを捧げる少女が映る。

 

「貴女、こんなところで何をしているの」

 

魔女の声が美しく教会の壁に反射した。その時、少女に聞こえた音は魔女の声だけであった。

 

全てが幻想であった。

 

一般に、魔女は黒いローブを着ているのだ。

しかし、教会に降り立った魔女は、白いローブを着ていた。

金・紺・白。夜空の全ての美しさが魔女にはあった。

 

「……祈っているのです」

 

少女は魔女の美しさに飲み込まれそうになりながら、やっとのことで答えた。少女の声は夜風に溶けてしまいそうなほど、小さく、そして細かった。

 

「女神様に?」

 

「はい。私にはそうすることしかできませんから」

 

何か危機に陥った時に女神に祈るというのは至って普通の事である。

教会に住まう者なら尚更、当然の行いだろう。

しかし魔女は少女の言葉に笑った。笑い声をあげて笑ったのではなく、美しく、少しだけ笑った。

 

「もし私が貴女だったとして、私は祈りの代わりに何をするのか、貴女に教えてあげるわ」

 

魔女はそう言って、手のひらを壁の向こうに向けた。

その先に教会を襲ってきた者たちがいるということは、少女も気づいていた。

どうして彼ら―聞こえてきた怒声が男の声だけであったので、おそらく彼ら、と言うべきであろうと少女は思ったのだ―は今日この日に、この教会を襲ったのだろうか。

魔女は日付については何も考えなかった。

人を傷つけたから、建物を壊したから、そして、運悪く私に遭遇してしまったから。

理由はそれだけで充分だった。

魔女の澄んだ声が月夜に響く。

 

「さあ、『水よ包め 全てを包み込め 全ての敵を掌中に』」

 

ああ。やはり魔女は魔女であった。

人知を超えた力を操り、人間が対抗するなど到底かなわない存在。

 

魔女の手のひらに魔法陣が浮かび上がり、そこから水が止め処なく溢れ出る。水は壁など無いかのように真っすぐに放出された。そして壁を壊した。

その姿は少女に恐怖を与えた。

けれど、それ以上に魔女は美しかった。

水が月の光を反射して輝いているのも美しかった。

そして幽雅に魔法を放ち、コントロールする姿も美しかった。

 

「道と言うものはこうやってつくるのよ。どう?参考になったかしら」

 

壁の向こうから叫び声がしなくなった時、魔女は自らの後ろで祈りの姿勢を崩さない少女を振り返った。

その時、魔女は笑っていた。晴れやかな笑顔であった。

その笑顔で魔女が恐れられているということを少女が知るのは、まだ先の話であった。

 

「女神様に祈る時間があるのならば、原因を排除してしまえばいい。それが魔女と言う生き物の性」

 

少女はこの白き魔女を一般の魔女と同列に纏めることはできないと思った。

一般の魔女は魔法の使えないものを下に見、魔法だって基本炎しか扱わないものだからだ。

腰まであった少女の髪がやっと肩に届くぐらいにまで短くなってしまったのも、魔女の炎に焼かれてしまったからであった。

 

「貴女、どうしてここが襲われたのか知っているかしら」

 

「知りません......。でも、ここ最近、教会から人が少なくなっているというのは感じていました」

 

一月ほど前から、教会から人が消えていった。引き取られたという者もいたし、姿を消したという者もいた。

じわりじわりと魔の手が自分に近づいてきているような気がしていた。

魔女が瞳に哀しさを含ませた。

 

「そう。ここはね、町長にとって目障りだったから襲撃されたのよ」

 

魔女の答えは、少女が予想だにしなかったものであった。

 

「この教会は町長が作ったのに?」

 

「町長は自分の手駒を育てる為にこの教会を作ったの。でも段々とコントロールが効かなくなっていった。だから…」

 

「…町の騎士団に命じて襲わせた、と」

 

「ええ。具体的にはこの教会で人々に魔力を持たせて、その人々を国に渡していたのよ。私はそれに気が付いてこの町にやって来たのだけれど……。ちょっと、遅かったかもね。でもまあ、貴女は無事だったのだし、間に合ったってことにしちゃいましょう」

 

魔女は場違いなほど明るく話した。

それが少女に再び恐怖を与えた。

町長が敵であった。

この教会から去って行ったものは全員国に売られていた。

私達は町長の手のひらの上で生きていただけだった。

その事実が彼女の心に復讐という感情を燃え上がらせた。

けれど、少女は魔力を与えられる儀式をまだ行っていなかったので、戦う手段など一切持っていなかった。

それでも、復讐の気持ちが少女の心の奥深くから止め処なく溢れ出てくる。

 

「ああ、駄目よ。そんなに復讐に身を任せちゃ」

 

少女の瞳に宿った炎に気づいたのか、魔女が宥める様に言った。

 

「復讐しかやることがなくなったのに」

 

「さっきまでは祈るしかなかったのにね」

 

面白そうに魔女は笑った。

やっぱりこの人は魔女だ、と少女は警戒を強めた。

魔女に心を許してはいけない。どこか遠くへ連れられて研究材料になってしまう。

幼いころから童話で何度も聞いた話だ。

 

「貴女はこれからどうしたいの?」

 

それは勿論、復讐...。と少女は思ったが、

 

「ああ、復讐は駄目よ。それ以外でね」

 

と魔女に言われてしまった。

考え込む少女の様子を魔女は楽しそうに眺めていた。

 

「どうすればいいんでしょう。何も、思い浮かびません」

 

結局少女は質問に答えるのを諦めた。

少女の答えに、魔女は嬉しそうに瞳を輝かせた。

 

「そう。じゃあ、私が決めるわね」

 

夜空に星が浮かんだ。

 

「貴女、私と一緒にいらっしゃい」

 

そう言って魔女は少女に手を差し出した。その姿は少女を遊びに誘う様であった。

 

「はい?」

 

「する事が無いんでしょう?だったら、私と一緒に来てよ。退屈はさせないから」

 

どうしてする事が無いと魔女と共に行くのか、少女はよく分からなかった。無論、魔女以外の誰も理解できないであろうけれども。

 

差し伸べられた手を取りかけて、少女は手を引っ込めた。

魔女には騙されるな、着いていくなと散々言われてきたではないか。

けれど、彼女は魔女の手をとってみたいと思った。

何故だろうか。

魔女が美しかったからであろうか。

魔女が思ったよりも明るかったからであろうか。

少女は自分の気持ちに答えを出すことが出来なかった。

きっと女神様のお導きである。そう思うことにした。

 

「貴女の名前を聞かせてください」

 

ずっと下を向いて考えこんでいた少女が急に顔をあげて、目を合わせてきたことに魔女は驚いた。

少女の瞳は魔女がやって来た時よりも光り輝いていた。

 

「私は月の魔女 アルフェシア。魔女のものになる覚悟はできた?」

 

「はい。私は貴女に付いていくことにします」

 

少女は立ち上がり、微笑みかける魔女の手をとりながら、力強く頷いた。

 

「そんなに即決していいの?」

 

「貴女に付いていった人生の方が幸せになれそうなので」

 

「そう?ありがとう、嬉しいわ。じゃあ早速だけど、私の家に帰るわね。私の家までは一瞬で行けるのよ。便利でしょう?」

 

と、魔女―アルフェシアが言った瞬間、少女の視界が歪んだ。

少女は思わず目を瞑る。

 

 

 

 

「ほら、着いたわよ」

 

アルフェシアの言葉に少女が瞳を開くと、そこには一面の本棚が広がっていた。

天井までびっしり本棚になっており、そこには大きさも色も様々な本が並んでいた。

 

「うわぁ…」

 

少女は天井まで続いている本棚を見上げた。

 

「いいでしょう?あらゆる魔導書を集めたの」

 

アルフェシアが本棚に向かって歩き出し、少女は慌てて後を追った。

 

「魔女には魔導書が必要なんですか?」

 

「まあ、そうね。魔導書には多くの魔法が載っているから。それを読んで、練習して習得するの」

 

少女は魔法とは生まれ持ったものだと思っていたので、アルフェシアの話を聞いてとても驚いた。

が、表情を見せることにはまだ恐れがあったので、驚きは心の内に留めた。

 

「ここにいると本が読みたくなってしまうから、私の書斎に行きましょうか」

 

別にどこでもいい、と思ったが少女は頷いて、またアルフェシアの後を着いていった。

 

 

書斎は本で埋め尽くされた部屋からかなり離れた場所にあった。

書斎までの道のりで、2人は多くの扉を通り過ぎた。

 

 

「着いたわ。ここが私の書斎」

 

とアルフェシアが止まった扉は、これまで通り過ぎたどの扉よりも豪華だった。

白い扉に金色の木が描かれている扉に少女は息を吞んだ。

 

「図書館が近いとすぐに行っちゃうから、あえて一番遠い場所に書斎を作ったのよ」

 

書斎の扉を開きながらアルフェシアが言った。

 

「別に、行けばいいのではないですか?」

 

「それがねえ、駄目なの。仕事を放りだすといろんな人から怒られちゃうからね」

 

「仕事…?」

 

魔女に仕事なんてあるだろうか。魔女は国のお抱えで、自分の研究に没頭しているものだと少女は思っていた。

実際、町の人々からはそう言われていた。

 

「そう。私は仕事を持っているの。魔女なんて、悠々自適に生きてるものだと思っていたでしょう?」

 

アルフェシアは魔女についての人々の認識については良く知っている様で、仕事と言う言葉に首を傾げた少女を不思議がりはしなかった。

 

「少し...」

 

やっぱりね、とアルフェシアは笑って、部屋の奥へ向かい出した。

 

 

魔女の書斎には来客とお茶を飲むためのテーブルと椅子―椅子は四脚あった―、仕事をしていると思われる机と椅子、ティーセットばかりが入った食器棚があった。

 

「そこの椅子に座っておいて」

 

と言われ、少女は一番入り口から近いところに置いてある椅子に座った。

アルフェシアは仕事机の引き出しを開けて、何かを探している様だった。

魔女は片付けが苦手だった。なので、机の上には無数の書類が積み上げられていた。

 

しばらく経って、アルフェシアは手に宝石を持って少女の正面の椅子に座った。

 

「どこに仕舞ったか忘れちゃってて…」

 

そう苦笑いする彼女と月の光を纏った魔女が同一人物のようには見えなかった。

 

宝石が机の上にそっと置かれた。美しい透明な輝きに、少女は目を奪われた。

 

「……それで、貴女は魔女についてどう思っているの?」

 

少女は宝石に夢中になっていて、一瞬魔女が何と言っているのか理解できなかった。

 

「どう、とは」

 

唐突な話の切り出しに、少女は動揺した。

答え方を間違えればひどい目に遭うのでは、とも思った。

 

「ああ。私がただ気になっただけだから、思ったことをそのまま言ってくれればいいの。そうねえ、例えば、恐ろしいとか」

 

「では、端的に言うと、私の敵です」

 

「敵ねえ…。それには何かきっかけがあって?」

 

「幼いころに魔女に髪を焼かれました。私の生まれた町も、焼き尽くされました」

 

その時の情景が少女の脳裏によみがえった。

真っ赤な髪の魔女が次々に家に火をつけていく。そして逃げ遅れた少女に火の手が迫って来たのだ。

その時少女は間一髪で魔女を捕まえにやって来た魔法使い達によって救助され、隣町の教会に入ったのだった。

その時に少女は全てを失った、とも言えるだろう。

 

「火属性の魔女?珍しいわね」

 

アルフェシアが驚いたように言ったが、少女はアルフェシアが驚いたことに驚きを示した。

 

「私は魔女と言うものは皆炎を扱うものだと思っていたので、貴女が水を使ったのを見て驚きました」

 

火の魔女を捕まえにやって来た魔法使い達は皆水を使っていたので、魔法使いが水を使うとばかり思っていたのだ。

 

「火属性は基本的に魔法使いに多いの。あ、魔女は女性で、魔法使いは男性ってことは知ってるわよね?」

 

「はい」

 

「逆に魔女に多いのは風属性ね」

 

風属性と言われてピンと来ていない様子の少女を見て、アルフェシアが口を開く。

 

「じゃあ、属性について説明しましょうか。まずは火属性。魔法使いが持っていがちで、攻撃力がとても強くて全属性でトップなのが特徴ね」

 

「次に水属性。私がさっき使ったやつね。水魔法は技巧式。技巧式って……分かるかしら?」

 

少女は少し考えて、

 

「正面からやり合わないってことでしょうか」

 

と言った。

アルフェシアはその答えに満足そうに頷いた。

 

「そうそう、そういうのに長けているのが水属性」

 

「その次は風属性。風魔法は守りに長けた属性で、一応遠距離攻撃にも向いているけれど、火や水よりは攻撃力が低いわね。多くの魔女は風属性を持っているわね。勿論私もだけど」

 

「次は土属性。土魔法は味方の強化を得意とするわ。あと風魔法よりは劣るけど、守りとしても使われるわ。今言った火・水・風・土の4つが基本属性で、これから言う2つは希少属性と呼ばれるわ」

 

「まず月属性」

 

と言って、アルフェシアは人差し指を立てた。

 

「相手を弱化させるのに向いた属性ね。あと回復も得意とするわ。まあ、月の魔女って私は呼ばれているのだけど、月属性との関係は無いわ」

 

「で、もう一つが光属性」

 

アルフェシアが人差し指に加えて中指を立てる。

 

「……今、月だって光ってるって思ったでしょ?」

 

少女はギクっとした。アルフェシアが言ったことはまさに少女が思っていたことだったからだ。

 

「光属性って言うけど、太陽属性とも呼ばれたりするわ。光属性は回復。月魔法よりも強い回復力を持っているわ。あと、基本属性を組み合わせると強化させることが出来るわ。それと…」

 

と言ってアルフェシアは不意に、話すのを止めた。少女には意図的に話を止めたように見えた。

少女は次の言葉を待ったが、アルフェシアはそれきり口を噤んでしまった。

 

「…まあ、これが属性よ。あと、私、得意とするとか向いてるって表現をしたでしょう?別に強化に向いてる土属性で攻撃することだってできるのよ。でも、それなら火や水で攻撃した方が効率的だって結局みんな気づくのよね」

 

「言い忘れてたけど、一人が持てる属性の数に上限は無いの。まあ適正はあるから、どうしても得られない属性はあるけどね。生まれつきの属性もあるし、途中で身に着く属性もあるわ。まあ、大体の人は生まれつきの属性だけを伸ばすけどね」

 

「では、自分が持った属性の魔法しか使えないってことでしょうか」

 

「いい質問ね。持っていない属性の魔法を使おうとすると、上手く使えないのよね。だから、自分の属性だけって言っていいかもね」

 

「じゃあ……アルフェシア、さんは、何属性ですか」

 

少女の問いかけにアルフェシアは笑顔を見せた。

 

「私は全属性。生まれつきの全属性なのよ」

 

そこで少女はこの魔女がただの魔女ではないことに気が付いた。

生まれつきの全属性。詳しいことは知らなくても相当珍しいということは察せられる。

そんな魔女についていくという判断は正しかったのだろうかと不安になってきていた。

 

「まあでも、一番使うのは水魔法かしら。で、本題は別にあるの!」

 

アルフェシアが目を輝かせる。

夜空の色を閉じ込めた瞳が輝いている様子は、やはりとても美しかった。

 

「貴女、これを持ってみて」

 

そう言ってアルフェシアが指し示したのは机の上にある透明な宝石だった。

 

「これを……ですか?」

 

「そう。両手で包み込むように持って欲しいの」

 

言われるがままに少女は宝石を手に取り、両手で包み込んだ。

宝石は少女の両手で包み隠されてしまった。

と、少女が包み込んでいる宝石が光を放った。驚く少女の顔を光が照らした。

 

「やっぱり、思った通りだったわ」

 

「え、えっと、私には何が何だかさっぱり......」

 

「この宝石はね、魔力に反応して光る性質を持っているの」

 

「と、いうことはつまり……」

 

「貴女には魔力があるってことね」

 

「でも私、魔法使いの家に生まれてませんし、その、教会で魔力が与えられる儀式もしていません」

 

「ご先祖様のどこかに魔法使いか魔女がいると、魔力を持った子が生まれることがあるの」

 

少女は今も手のひらの中で光り輝く宝石を見つめた。

この魔女と出会ってから驚いてばかりだ。

 

「つまり、私は魔女ってことですか?」

 

「まだ魔女と呼ぶには早いの。魔女になるには式に出なくちゃいけなくて。貴女、今何歳?」

 

「明日で13歳です」

 

「そう!!じゃあ、今年の式に間に合うわね!」

 

アルフェシアが嬉しそうに笑った。

 

「ちなみに、私は100歳超えよ」

 

そんなことは無い、と少女は思った。魔女は確かに自分よりは年上だろうけれど、せいぜい20歳ぐらいにしか見えない。

 

「嘘だと思うでしょう?魔法界で100歳超えなんて珍しいことじゃないからね」

 

「よし、今年の式に出ると決まれば早速準備を始めたいけど、今日は遅いから明日にしましょうか。この屋敷は広いから、1人ぐらい増えても大丈夫だし、ちゃんと個人部屋だから安心してね」

 

地下室に連れていかれるかもしれないと少し考えていた少女はほっと胸をなでおろした。

少女は自分が魔力を持っていたことに驚いたが、ここまでに驚くべきことが多すぎて慣れてきてしまっていた。

まあ、別に特別珍しくは無いのかな、程度に思っていた。

 

 

「リゼッテーーー!」

 

アルフェシアが部屋の扉に向かって叫んだ。リゼッテ、と言うのは人の名前だろうか。

この屋敷にはアルフェシアが1人で住んでいるとばかり少女は思っていた。

 

呼びかけてからすぐに書斎の扉が開かれた。

 

「はーい。何でしょうか?…そちらの方は?」

 

扉の先にはアルフェシアと同じ金色の髪を1つにまとめたメイド服の女性が立っていた。

女性の水色の瞳が不思議そうに少女を見た。

 

「私が町から連れて帰って来たの。弟子にしようと思って」

 

「そうですか!!やっと弟子をとる気になったんですね」

 

アルフェシアと同じように喜びのリアクションが分かりやすい。心からの笑顔であるとすぐに分かる。

 

「それで、空き部屋があるでしょう?その部屋をあげようと思うから、取り敢えずベッドだけでも整えて欲しいの」

 

「それには及びませんよ。毎日綺麗に整えていますから」

 

女性が誇らしげに言う。

 

「じゃあ、部屋に連れて行って貰える?」

 

「分かりました!では私の後についてきて下さいね」

 

特に詳しい説明を求めないで指示に従うことに少女は驚いた。

急に人を連れて帰って来たのに何も聞かないなんて。

取り敢えず、少女は席を立った。

 

「おやすみなさい。いい夢を」

 

アルフェシアに笑いかけられながら、2人は部屋を後にした。

 

 

「紹介が遅れましたが私、アルフェシア様のメイドをしております、リゼッテ・オーントゥーレクと言います。リゼッテと呼んでくださいね」

 

部屋に向かう途中、女性が自己紹介をした。少女も自己紹介をしようとして

 

「私は、」

 

と名前を言おうとしたが、

 

「名乗らなくて結構です。結局明後日には違う名前になりますから」

 

と止められてしまった。

 

リゼッテはさらっと言ったが、少女がそれをすんなり受け入れるわけはなく、

 

「名前が変わるんですか!?」

 

と思わず叫んだ。少女は自分の声の大きさに驚いた。

 

「あれ、まだ言ってなかった?じゃあ多分明日詳しいことを教えてもらえるはずだから」

 

と言って、リゼッテはそれ以上このことについて話すつもりはないようで、

 

「にしてもアルフェシア様が弟子をとる日が来るなんて!!」

 

と話を変えた。

 

「そんなに驚くことなんですか」

 

リゼッテは部屋にやって来た時も弟子をとるということに特に驚きを示していた。

 

「私はずっと弟子をとることを進めてきたんですが、ずぅーーっと首を縦に振らなくて。なのに急に連れて帰って来るなんて!!」

 

「あの、リゼッテさんは弟子ではないんですか?」

 

リゼッテは少女の質問に目を丸くした。

 

「私は弟子ではなくメイド、従者ですから。大きな違いの一つとして、 “与えられるものの違い”と言うものがあります。弟子は名前を師から与えられて、従者は主から名字を与えられる、と言うのが魔法界の決まり事としてありまして。私は、『優しい風』という意味で与えていただきました」

 

「ということは風属性ですか?」

 

確か風属性は魔女に多くて、守りに向いていると話していたな、と少女は思った。

 

「属性については教えてもらったんですね。そうです。他にも水と月を持っています。貴女は何属性なのか楽しみですね!!」

 

「私、まだ自分に魔力があるということを信じられなくて」

 

「町から来たということは、魔法使いの家系じゃないんでしょう?私の周りにも、そういう魔法使いや魔女はいますから、きっと同士に出会えますよ。っと、ここがお部屋になります」

 

リゼッテが立ち止まった扉は書斎ほどではないが、凝った作りになっていた。

 

「お部屋の紹介もしたいですけどお疲れでしょうから、それはまた明日にしますね。では、『風よ この者に柔らかな眠りを』。おやすみなさい。いい夢が見られますよ」

 




少女の話でした。

これまでよりも話の句切りをしないようにしているので、長めかも?
あと、この話が一番抽象的に書いてるので、何言ってるか分からないところがあるかもしれません

アルフェシア
時間が空くと、図書館に籠る。
『月の魔女』と呼ばれている。パワー系。
金髪に紺色の目。全ての属性を持っている。

リゼッテ・オーントゥーレク
アルフェシアの従者。弟子ではない。弟子を取ることを喜んでいる。
属性は風と水と月。
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