藤色の魔女と二つの魔法界   作:六原

6 / 6
順番は、ファミリーネームのアルファベット順です


2.組み分け

 

「ネアセリニ・セレステ!!」

 

うつむき加減で待っていたセレステが顔をあげる。

 

「じゃあ、セレステも行ってらっしゃい」

 

と、メイベルが軽く手を振る。

 

「ウィステリアはWだから、メイベルは当分先ね」

 

と笑ってから、

 

「私の事を追いかけて、来てね」

 

と耳元に顔を寄せ、小声で言った。

 

「勿論、どこまでも追いかけるから!私、意地でも同じ寮にしてやるわ!!」

 

とメイベルはセレステの手を握って強く言い切った。

 

セレステは、

 

「約束よ」

 

と言って手を離して、校長の元へ行った。

 

 

「私とメイベルの順番が逆なら良かったのに」

 

メイベルはスペンシアの元へ歩きながらそう考えていた。

 

メイベルはどの寮にもなれる。一方でセレステには3つしか選択肢が無い。

もしメイベルがヴェーテになれば、セレステはすぐに緊張することを止められただろう。

自分がそこに選ばれはしないので、2人が同じ寮になる可能性が無くなるから。残念なことに。

けれど、セレステが先に決まる。自分の寮が決まった後も緊張し続けることになる。

そしてセレステはメイベルの寮の選択肢を、可能性を潰すことになる。

 

きっと、メイベルはそんなこと思わないだろうけれど。と、セレステは思った。

自分の可能性が無くなることなんか、気にしないだろう。

いや、これはただの私の願望で、本当は気にしているのかもしれない。でも、気にしないでいることを願う。

 

私はどの寮になったって、そんなことはどうでもいい。

ただ、メイベル。貴女の銀色の髪が、藤色の瞳が、そこにあればいい。

 

 

 

魔法具を持ったセレステを皆が見つめる。

果たして月の魔女の弟子はどの寮に行くのか。

自分の寮に来て欲しいとすべての寮が望みながら見つめる。

 

魔法具から1羽のフクロウが現れる。フクロウは優雅に大広間を飛ぶ。

そして、新入生たちの方へ翼を広げて飛んできた。生徒たちが次々にフクロウを避けるために横へ動き、真ん中にメイベルが1人、ポツンと残された。

メイベルが腕を前に出すと、フクロウが腕にとまった。皆の視線が集まる。スペンシアも驚いたように見つめる。

寮分けを待つセレステの青みがかった白い瞳が、心配そうにフクロウとメイベルを見つめる。

メイベルは笑って、

 

「貴女がどこへ行ったって私は必ず同じ寮に行くんだから、心配しなくていいのよ」

 

とフクロウに言った。

フクロウは一鳴きしてからセレステの元へ帰って行った。

 

フクロウは、黄色に輝いて消えた。

 

 

一瞬の沈黙の後、ゲルミナのテーブルから歓声が上がる。

皆この今まで見た事のない現象に言葉を失ってしまっていた。

 

セレステは席に着いて上級生や同級生に囲まれ、話しかけられていたが、それでも瞳はメイベルを見つめていた。

 

(私が無茶を言っていることは分かっている。けれど、これでメイベルが違う寮になった時、私はこの寮で5年間も過ごしていけるだろうか。きっとこれから、皆が私を月の魔女の弟子として見てくるようになる。私を私として、セレステ・ネアセリニとして見てくれるのはメイベルだけ)

 

 

そして、ついにメイベルの番になった。

 

セレステはテーブルの下でローブの裾を両手で握りしめた。

 

(不思議なものね。アルフェシア様が私の前に来た時ではなく、私が全てを失ったあの時でもなく、きっと、この瞬間が私の運命の分かれ道になる。そんな気がしているわ)

 

そう思いながら、セレステは笑顔で立っているメイベルを見つめる。

 

 

「ウィステリア・メイベル!!」

 

不安げに瞳を揺らすセレステとは対照的に、メイベルは笑っていた。

スリザリンは嫌だってハリーが思ったらスリザリンじゃなくなったのだから、私がゲルミナが良いって思えば、いけるはず!と思いながら、魔法具を受け取る。

 

メイベルが魔法具を受け取った途端に魔法具が眩い光を放ち、ドラゴンが現れる。

馬車を牽いていたドラゴンとほとんど変わらない大きさのドラゴンであった。

 

「なんと......」

 

というスペンシアの呟きがメイベルに聞こえた。

 

と、不意に、

 

「ああ。これは難しい生徒だ」

 

という低い声がメイベルの頭の中に響いた。

 

(やっぱり頭の中を見るのね。組み分け帽子みたい)とメイベルが思うと、

 

「ほう。その反応をした生徒は2人目だ」

 

と声が返事をした。

 

(!?組み分け帽子を知っているってことは、)

 

転生してこの地に生まれたものしかありえない。

組み分け帽子だなんて、この世界にはないのだから。

転生したのは私一人だと思っていたのに、ここに私と同じで転生した人がいるなんて......!!とメイベルが驚いていると、

 

「今は寮決めだ」

 

と声が呆れたように言った。

 

(そうだった!私、セレステと同じ寮が良いです!!同じ寮にしてください!!)

 

と心の中で叫びながら目を閉じる。

目を開けると、生徒たちの視線が気になってしまうからだ。

 

「セレステ......。火属性以外の全ての属性を持っていた魔女か」

 

(はい。お願いですから、私の頼みを聞いてください!!)

 

「ふむ......。彼女も随分と悩ましかったが、君も悩ましい」

 

(セレステの守護霊に私が話しかけたら寮が決まったように見えましたけど、実際にはどうだったんですか?)

 

守護霊のフクロウは腕にとまっていたが、メイベルが声をかけると飛び立ち、輝いて消えた。

 

「それも決定理由ではある。だが、君をゲルミナレスに置くには惜しいものだ......」

 

魔法具は未だ、メイベルの寮を決めかねているようだ。

 

(私には無限の可能性がありますから!!それとも、ゲルミナに行くと、世界が滅びるとでも?)

 

「そんなことは無いんだが、君の成長に繋がるのは、別の寮だということは言える」

 

(成長してもセレステとの縁が切れることは無いの?)

 

「彼女が一番幸せになるのは君が同じ寮になった場合だろうが、君にとって良い結果をもたらすのは、別の寮になることだ」

 

魔法具がきっぱりと言う。

セレステが幸せになるか、メイベルが将来、更に幸せになるか、というわけだ。

 

(それなら私は、私達2人が幸せになる選択肢を選ぶわ)

 

「そういう所が、君がヴェーテにふさわしいと思う所なんだがな......」

 

声が止んだ。

メイベルは閉じていた目を開けた。大広間を守護霊であるドラゴンが飛び回っている。

生徒たちがドラゴンを、メイベルを見つめる。

 

「さあ、答えは既に決まっているんだから」

 

近づいてきたドラゴンに呟くと、ドラゴンが黄色に光って、姿を消した。

 

 

ゲルミナのテーブルから、今日一番の歓声が上がる。

 

「おまたせ、セレステ!!」

 

メイベルは満面の笑みを湛えて、セレステの元へ駆けた。

 

「メイベル、ようこそ」

 

セレステも笑顔でメイベルを受け止めた。

 

 

 

「それでは改めて、新入生の皆さん、ようこそ我が魔法学校へ」

 

と言ってスペンシアが壇上で話し始める。

 

「ねえ、メイベル。寮が決まるまで長かったけど、何かあったの?」

 

当たり前のように隣に座ったメイベルに、セレステが聞く。

寮分けでは生徒の平均時間が1分以内であったのに対して、セレステは2分ほど、メイベルは5分ほどかかっていた。

 

「魔法具と話してたの」

 

セレステはその言葉を聞いても驚きはしなかった。

 

「私も声が聞こえたの。あれってやっぱり、魔法具が話してたのね」

 

「でね、別の寮を進められたりしてたの。あと、セレステも寮を決めるのが難しかったって言ってた」

 

「確かに悩まれた感じはあったかも」

 

と、寮分けを思い出しながら、セレステが言った。

 

「まあ、取り敢えずは同じ寮になれたことを喜ばなきゃ!!」

 

メイベルはそう言って、机の上に置かれたグラスを手に取った。

 

「流石に校長先生が話し終わってからの方が良いんじゃないかしら......」

 

と、壇上をちらと見てセレステが言った。

 

メイベルは慌てて壇上のスペンシアを見た。

メイベルはスペンシアと目が合い、微笑まれる。

 

「話し終わりが待ちきれず、祝杯をあげたいという人もいるみたいですから、私の話は終わりましょう」

 

と、メイベルに微笑みかけて言った。

 

「よし、じゃあ早速!!」

 

「これからもよろしくね」

 

2人のグラスがカラン、と音を立てた。

 

 

「で、校長先生の話は聞いてたの?」

 

「勿論!!」

 

メイベルは笑顔で大きく頷いた。メイベルの勿論、は鵜呑みにしてはいけないとセレステはよく知っている。

なので試してみることにした。

 

「じゃあ、どんなことを話してた?」

 

「それは......えっと......」

 

メイベルの目が泳ぐ。

セレステは呆れたようにため息を吐いた。

 

「先生が1人新しく来た、授業内容が今年から変わる部分がある、入っちゃダメな部屋があること、夜に外出しないこと、この大広間から出るときには上級生が寮ごとの部屋を案内してくれるから付いて行くこと、他には......」

 

「そんなに言ってたっけ?」

 

と、怒涛の勢いで話すセレステにメイベルが驚く。

 

「言ってたのよ。あと、ポイント制度の話もしてたわ。テストは毎年度末にあるってことも」

 

「じゃあ、取り敢えずは、入っちゃダメな部屋に入りましょうか!!」

 

メイベルは目を輝かせ、気合を入れるように両手を握りしめる。

 

「早速校則を破って、寮の得点をマイナスにするつもり?」

 

とはいえ得点がマイナスになったことなんてあるのかしら、とセレステは思った。

ホグワーツでは0点が最低点だった気がする、とメイベルは思った。

 

「ダメって言われたら、行きたくなっちゃうじゃない?」

 

「ならないわよ......」

 

「本当に、少しも、興味が無いの??」

 

メイベルがセレステに詰め寄る。

 

「そう言われたら......」

 

セレステがメイベルから目を逸らす。

 

「興味はあるけど」

 

セレステの言葉にまた目を輝かせるメイベル。

というかメイベルはずっと冒険に胸を高鳴らせて目を輝かせている。

 

「!!なら早速......」

 

「行くとしても、部屋が何処にあるのか、どうして入っちゃダメなのかを知ってからじゃないと」

 

「しばらくはお預けかぁ......。賢者の石を見てみたいのにな」

 

肩を落としてメイベルが言う。

 

「賢者の石だなんて、どこでだって見られるのに?」

 

賢者の石は店で売られているほどに希少価値が高くないものだ。しかも高価でも無い。

勿論教会にだってあるし、アルフェシアの屋敷にもある。

 

「立ち入り禁止の部屋の中には賢者の石が置かれているものなの!」

 

と、メイベルは断言した。

 

 

 

「ゲルミナレスの寮に案内するから、皆はぐれずに付いてくるように!!」

 

と栗色の髪の上級生が先頭に立って歩き出す。その後を、メイベルたち新入生が付いて行く。

 

「ここが寮の入り口だ。この扉に手のひらを当てると扉が開いて中に入れる。扉がゲルミナの生徒かそうでないかを識別してくれるんだ」

 

この説明は紺色の髪の上級生がしてくれた。

新入生が1人づつ扉に手をかざして、中に入って行く。

 

「右側が男子部屋で、左側が女子部屋だ。部屋の前に荷物が置いてあるから、自分の荷物が置かれてる部屋を探してね。部屋は一部屋に複数人いるから、仲良く使うように。じゃあ、いい夜を過ごしてね」

 

新入生はそれぞれ左右の階段を昇っていく。

 

「荷物なんて持ってきたっけ?」

 

2人で階段を昇りながら、メイベルが言う。

 

「いいえ。アルフェシア様に預けたわよね?」

 

アルフェシア様に預けた、という言葉に周りにいた生徒たちが驚いて2人を見た。

伝説級の魔女に荷物を預けるなど、普通では考えられない。

因みに普通は馬車から降りた後に学校に荷物を渡すようになっている。

 

「私に任せておきなさい、って言って預けさせられたけど、大丈夫なのかな?」

 

「......部屋の前に置いてあることを祈りましょう」

 

こんな所でロストバゲージはしたくないな、とメイベルが考えながら歩いていると、

 

「2人とも」

 

と、後ろから声をかけられた。

2人が振り向くと、そこには寮へ案内してくれた魔女が立っていた。

魔女の黒色の目が2人を見る。

 

「ごめんなさい、先生に2人を校長室に連れてくるように頼まれてたのを忘れてて......今から校長室に来て欲しいのだけど......」

 

「分かりました。早速行きましょう!」

 

メイベルの言葉にセレステが頷く。

 

 

「本当は寮に行く前に連れて行かなくちゃいけなかったんだけど......」

 

手間をかけさせてごめんね、と2人を見た。

 

「いえいえ!!気にしないでください!」

 

「ありがとう。私、今年から寮の監督生になったから、あんまり慣れてなくて」

 

「寮の監督生、ですか?」

 

と、セレステが聞く。

 

「そう。寮の生徒をまとめる人が各寮2人ずついるの。私はゲルミナレス監督生の4年生、グラーネ・ブラックウェルよ。気軽に呼んでくれると嬉しいわ。セレステ、メイベル」

 

「よろしくお願いします、グラーネ」

 

「よろしくね。で、2人は校長室に呼ばれることに心当たりは?」

 

セレステは少し考えた後、

 

「立ち入り禁止の部屋に行きたいとメイベルが言ったのを聞いていたとか?」

 

と言った。

 

「立ち入り禁止の部屋に行きたいの!?ダメよ、行ったら最悪退学処分になるのよ!うちの寮から遠いんだし、絶対に行っちゃダメだからね!!」

 

2人が驚いたようにグラーネを見る。

 

「あ......」

 

と、グラーネが慌てて口を手で覆う。

 

「なるほど。学校の東側には無いんですね!!」

 

ゲルミナレスとニクスアンジェンテは東棟、コルレウスヴェーテとフォーレットは西棟、というように寮の部屋が分かれている。ゲルミナの寮から遠いということは、立ち入り禁止の部屋は西棟にあるということだ。

 

「行っちゃダメだからね!!」

 

とグラーネが慌てて言う。

 

「どうして部屋の場所を知ってるんですか?」

 

「あ、ええと、それはちょっと言えないかな......」

 

セレステの質問に目を逸らす。セレステの質問はどうやらいいところをついたみたいだ。

 

「多分監督生だからよ!そうですよね?」

 

グラーネは答える代わりに、

 

「他の監督生に聞いても、誰も話さないからね?私と違ってちゃんと秘密にできるから......」

 

と言って項垂れた。

 

「でもまあ、立ち入り禁止の部屋に行こうとしていることを注意するためだとしたら、校長先生は私達のことをずっと盗聴してるってことになるから、立ち入り禁止の部屋に行こうとしてるのを注意するわけじゃないんじゃない?」

 

「もっと早く言ってよ」

 

とグラーネがメイベルに文句を言う。

 

「私が言う前に自分で口を滑らせたんですよ」

 

「そうだった......。で、なんでだと思う?」

 

「おそらくは寮分けの事でしょうね」

 

セレステも最初から予想がついてたならそっちを言ってよ......とグラーネはため息を吐いた。

セレステは部屋の情報を得るために、あえて部屋の話を持ち出したのである。部屋に興味がなさそうに見えて、興味深々なのだ。

 

「寮分けにかかる時間が長かったからってこと?」

 

「それもあるし、守護霊が腕に乗るなんて信じられないことだし、ドラゴンも大きかったし......」

 

とグラーネが言う。

 

「え、それって珍しいことだったんですか?」

 

「詳しくは校長先生にお聞きして。2人がイレギュラーだってことを説明してくれると思うから」

 

と言ってグラーネが目の前の扉をノックした。

 

「スペンシア校長。2人を連れてきました」

 

「ありがとう。ミス・ブラックウェルも部屋に入ってちょうだい」

 

グラーネに続いてセレステとメイベルも部屋へ入る。

 

「2人は前の椅子に座ってくれる?ミス・ブラックウェルは悪いのだけど、私の書斎で待っていてもらえる?」

 

「書斎に入れるなんて嬉しいです!!」

 

と言ってグラーネが書斎へ続く扉を開いた。

 

 

「ミス・ネアセリニ、ミス・ウィステリア、まずは入学おめでとうございます」

 

「「ありがとうございます」」

 

「今から話すことは外に聞こえてはならないから、これを持ってちょうだい」

 

と言ってスペンシアは小さな宝石を渡した。

 

「これを持っている人にしか声が聞こえなくなるのよ。それで、私が聞きたいことは寮分けについてです」

 

やっぱり、と2人は思った。

 

「まずはミス・ネアセリニから。フクロウがミス・ウィステリアの元へ飛んで行ったことについて、心当たりはありますか?」

 

守護霊が生徒の元へ向かっていくのは前代未聞のことである。

 

「寮分けの時に、声が聞こえたんです。それで、その声に希望することを思い浮かべる様に、と言われて。私、メイベルと同じ寮になりたかったので、それを考えていたからかもしれません」

 

「なるほど。ミス・ウィステリア、」

 

「あの、ミス・ウィステリアって長いので、名前で呼んでください」

 

とメイベルが口をはさんで提案する。

 

「では、メイベル。貴女が守護霊に対して腕を出したのはなぜですか?」

 

「フクロウなら腕にとまると思ったからです」

 

メイベルは即答した。メイベルはあの時、フクロウを守護霊ではなく、動物のフクロウだとセレステの守護霊を認識していた。

 

「なるほど......。守護霊は実体を持っていませんから、腕にとまれるはずが無いのです」

 

「でも、ちゃんと足の感覚がありましたよ?」

 

「そうですか。不思議なこともある、としか言いようがありませんね」

 

「あの、グラーネに寮分けまでの時間と、ドラゴンの大きさも普通ではなかったと言われたのですが」

 

セレステが言う。

 

「そうですね。寮分けにあれほど時間がかかる生徒は久しぶりに見ましたが、1分以上かかる生徒は毎年1人は必ずいます。ですが、あの大きさの守護霊は初めて見ました」

 

「大きさって何で決まるんですか?」

 

大きなドラゴンの守護霊を出したメイベルが聞く。

 

「実は守護霊については不明な点が多くあるのです。その人の動物がどのようにして決まるのかすらも分かっていないのですよ」

 

「そうなんですか」

 

スペンシアは少し考え込んだのち、

 

「ミス・ブラックウェルも時間がかかっていました。貴方たち以上に」

 

と言った。

 

「そうだったんですか!」

 

とメイベルが驚いて言う。

 

「ええ。ミス・ブラックウェルは、何というか、詰めが甘いと言いますか、抜けていると言いますか......。そういう感じですけれど、魔法の腕は確かです。多くの可能性を持っているがゆえに、寮が中々決まらなかったんでしょうね」

 

「確かにさっきも立ち入り禁止の部屋の場所を言っていましたし」と言いかけて、メイベルは慌てて口を閉じた。

流石に言わない方が良い。言えばこちらの監視の目が強まるし、グラーネがとても怒られることになる。

きっとグラーネがメイベルの立場だった場合、言ってしまっていたであろう。

 

「夜も遅いですし、これで終わりにしましょう」

 

とスペンシアが言い、2人は持っていた魔法具を渡した。

 

 

「ミス・ブラックウェル、お待たせしました」

 

「全然待っていません。むしろ時間が足りなかったぐらいです」

 

「では明日から授業が始まりますから、部屋に着いたらすぐに寝るのですよ」

 

と校長に言われ、3人は部屋を後にした。

 

「で、どんなことを話したの?」

 

「言いませんよ」

 

「予想通りのことでした」

 

「やっぱり寮分けのことだったかー」

 

「グラーネも時間がかかったということも聞きました」

 

「多分2人もそうだったと思うんだけど、頭の中に声が響いてきて。どの寮か悩ましいって何度も言われて。で、しかも私、特に寮の希望とかなかったしで、時間がかかっちゃったの」

 

「どの寮かって、4寮で悩まれたんですか?」

 

とセレステが聞く。

 

「ううん。2つ。土と風と光しか持ってないから」

 

4つの寮で悩まれたメイベルよりも、2つの寮で悩まれたグラーネの方が時間が長かった。

2人は驚いてグラーネを見た。

 

「私の守護霊はウサギなんだけどね。ずっと跳ねてて、このままずっと跳ね続けて寮が決まらないんじゃないかとひやひやしたわ。3属性しか持ってないブラックウェル、ってことで注目を集めてたのに更に注目を集めちゃう、ってね」

 

「3属性って充分じゃないですか?しかも希少属性の光を持ってますし」

 

とメイベルが言う。そもそも貴族であっても魔法学校に入学できないものもいる。入学したものは選ばれし人たちなのだ。

 

「うちの家は別に属性がなんだっていいって感じだったんだけど、分家がそんなんじゃ勘当すべきだって言ってきたのよね。これまでのブラックウェル家は、全員4属性以上は持っていたから」

 

「1つ少ないだけじゃないですか」

 

「全属性持ちと、5属性持ちだと注目度は大きく変わるでしょう?全属性持ちは50年に1人ぐらいに対して、5属性持ちは毎年いるし。それに、ブラックウェル家が4属性以上なことは昔から変わらないことだったから、当然のように4属性はあるだろうって思われてたのもあるわね」

 

「それは大変ですね」

 

とセレステが言った。

 

「でも当主は私じゃないし、属性の事について気にしなくてよくなったから良かったわ。まあ、バルトルトには悪いけど......」

 

「お兄さんですか?」

 

とメイベルが言う。

 

「いいえ。私の5歳年下の弟。再来年入学だから、ちょうど私と入れ違いになっちゃうのよね」

 

「もう当主が決まっているんですね」

 

セレステが驚いたように言う。5歳年下なら今11歳で、属性がもうすでに分かっていることになる。

 

「この前鑑定式があって、水以外の5属性だったの。だから鑑定式の時に当主が決まったわ」

 

鑑定式は都市によって行われるタイミングが異なるのだということを2人は思い出し、納得した。

 

「じゃあ、グラーネはどうするの?」

 

「私は他所の都市に嫁ぐの。でも、円満な婚約だから。バルトルトが入学してきたら、その時はよろしくね!」

 

とグラーネに言われ、

 

「分かりました!!」

 

とメイベルは敬礼した。

 

「そのポーズは?」

 

「あ、これは、了解した時にするポーズです!」

 

また癖でこの世界にはないことをやっちゃった......とメイベルは焦ったが、何とか切り抜けた。

 

「はい、到着。じゃ、手をかざしてね」

 

3人は扉に手をかざして寮へ入った。

 

「自分の荷物が置いてある部屋を見つけてね。多分もうみんな荷物を部屋に入れてるから、荷物が外にあるのが2人の部屋ってことになると思うけどね」

 

と言ってグラーネは去って行った。グラーネを見送って、2人も階段を昇り、廊下を歩いた。

が、階段を昇って廊下を歩いて......を繰り返しても荷物が見当たらない。

 

「ほんとにロストバゲージしちゃった......??」

 

メイベルが呆然と立ち尽くす。荷物には明日からの授業の教科書とか筆記用具とか着替えとかその他色々を詰め込んだ。

 

「ロストバゲージ??まあ、まだあと一階あるから、上に行きましょう?」

 

セレステに促されて階段を昇る。

廊下を歩くがやはり見つからない。

アルフェシア様がどこか別のところに送っちゃったのかな?とメイベルがセレステに言おうと思ったその時、

 

「私達の荷物、あれじゃない?」

 

とセレステが廊下の先を指さした。

そこには2つのトランクが置かれていた。

 

「やっと見つかったー!!」

 

とメイベルが駆け出す。

 

「ここが私達の部屋みたいね」

 

と、後から来たセレステが言った。

 

「そうみたい!早速入ろう!!」

 

メイベルが扉を開けると、そこにはベッドが二台とクローゼットが二つある他には何も置かれていなかった。

 

「おおー。これは改造(リフォーム)しがいがある部屋ね!!」

 

模様替え(カスタマイズ)って言ってよ。そんなに大掛かりなことは出来なさそうだし」

 

「うーん、確かに。アルフェシア様にカーテンとかテーブルとか椅子とか頼もっか!」

 

と、ワクワクした様子のメイベル。

 

「そうね。でも問題が一つ」

 

「え?何?」

 

「どうやってアルフェシア様と連絡を取るの?」

 

一瞬の沈黙。

 

「そりゃあ、手紙を出して......」

 

「届けてくれるのは誰?」

 

メイベルはそこでやっと外と連絡を取る手段がないということに気が付いた。

 

「......魔法具とか、無いの?」

 

「明日にでも先生に聞いてみましょうか。とりあえず、今日は寝ましょう」

 

とセレステが提案して、今日を終えることにした。

 

「そうね!!じゃあ私は左側のベッドにするわ!いい?」

 

メイベルは向かって左側のベッドを指さした。因みにどっちのベッドも全く同じものである。

ベッドは二つとも壁にピッタリと寄せられている。

 

「左右どっちでもよかったからいいわよ。じゃあおやすみ」

 

と言ってセレステは部屋の電気を消そうとしたが、

 

「シャワー浴びるの忘れてた......」

 

とすでにベッドに横になっていたメイベルが起き上がった。

 

「そうだったわね。先にどうぞ。私は荷物を整えてるから」

 

「ありがとう!この扉の先よね?」

 

と言ってメイベルは部屋の奥の扉を開いた。

 

「ここがシャワールームだ!じゃあね」

 

セレステはメイベルに手を振り返し、バッグの中からもう一枚のローブを取り出した。




ドラゴンって浪漫がある。
メイベルがシャワー大好きと言う訳ではなくて、生まれ育ちから、しないで寝るなんて考えられない!と思っているだけです。

2人はゲルミナレスになりました。
ハリポタ的に表現するならば、ゲルミナレスがグリフィンドールとハッフルパフ、ニクスアンジェンテがレイブンクローとハッフルパフ、フォーレットがレイブンクロー、コルレウスヴェーテがスリザリンとグリフィンドール、です。

グラーネ・ブラックウェル
ゲルミナレスの監督生。栗色の髪に黒色の目。属性は、土・風・光。
4年生。組み分けの最長記録を持っている。守護霊はウサギ。
家は継がず、都市に嫁ぐことが決まっている。

ブラックウェル家
名家の1つ。4属性以上が基本の家。グラーネの弟のバルトルトが当主になる予定。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。