藤色の魔女と二つの魔法界   作:六原

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授業が始まります


3.魔法薬学と魔法具学

「おはよう、メイベル」

 

一足先に目を覚ましていたセレステがメイベルに声をかける。

 

「ん......。おはよう」

 

メイベルは目を薄く開いた。

朝に弱いのは、何年経っても、住む世界が変わっても変わらない。

 

「今日から授業が始まるのに、そんな調子で大丈夫?」

 

「今日は魔法具と魔法薬の授業だっけ?」

 

「そうよ。一番難しいと噂の、魔法具の授業よ」

 

と言ってセレステはメイベルの毛布をとった。

 

「寒い!!」

 

メイベルが両腕で自分を抱きしめながら叫ぶ。

 

「まだ9月なのに。これから先大丈夫?」

 

セレステが心配そうに言う。

 

「教会だと、冬場はもっと部屋を暖かくしてたから......」

 

さらっと冬と言ってしまったことにメイベルは気づかなかった。

 

「便利ね。暖房っていうのも魔法具?」

 

「そうよ。あれ、セレステって魔法が無いところ出身よね?っていうことは、セレステは暖房無しで、雪が降る夜を過ごしてたの!?」

 

暖房は魔法具ではないが、誤魔化す。暖房みたいなものはあるが、暖房と呼ばれてはいない。

 

「そんなに寒くなかったし、別に平気だったわよ?とにかく、早くベッドから降りて!」

 

一向にベッドから起き上がろうとせずに話を続けようとするメイベル。

セレステはそれに気づいて叫んだ。

 

 

朝食は大広間でとる。席は自由らしいので、2人はアリスを探すことにした。

ほどなくしてアリスを見つけ、向かいの席に座る。

 

「おはよう、メイベル、セレステ」

 

アリスが2人に声をかける。

 

「おはようアリス!」

 

「昨日はよく眠れた?」

 

「ええとっても!!」

 

とメイベルが笑顔で答えた。

 

「2人が同じ寮になれて私も嬉しいわ」

 

「「ありがとう!」」

 

「マリー?どうかしたの?」

 

と、静かに隣に座っている少女にアリスが声をかける。

 

「こんな錚々たる人たちの会話に入っていくなんて無理だよ......」

 

マリーはため息を吐いた。

 

「えっと、マリー・アッシュフォードさん?」

 

と、セレステが言った。

 

「はい。ニクスアンジェンテ1年、ヴァレニア出身の、マリー・アッシュフォードと申します」

 

「確か守護霊が猫だったわよね?」

 

とメイベルが付け加えた。

 

「よく覚えてるわね!」

 

アリスが驚く。

 

「一番最初に呼ばれてたから。そこから先の人たちはアリスとセレステのしか覚えてないわ」

 

「ヴァレニアって言うのは都市の名前?」

 

とセレステが聞く。

 

「そうよ。実は私、そこの当主家と知り合いなの」

 

とアリスが言うと、

 

「え!?アリスってそんなに凄いお嬢様だったの......!?」

 

とマリーが慌てて背筋を伸ばした。

 

「そんなに緊張しなくていいから」

 

「この国には、ヴァレニア、セリニス、エストレラ、とあと3つ都市があるのよね?」

 

とメイベルが聞く。

 

「そうね。城下町のヴェンぺスを入れたら国内に7都市あることになるわ」

 

「他3つはウェンデンブルクとミューレンとインバスティアです」

 

とマリーが説明する。

 

「実のところ、ウェンデンブルクとヴァレニアとセリニス、エストレラは友好都市なのだけれど、他2つとはあまり仲が良くないから気を付けてね」

 

アリスが小声で2人に言う。

 

「寮関係なく敵対して来ると聞きました」

 

不安そうにマリーが言う。

 

「すでにちょっと絡まれたりとかもあったから」

 

アリスがため息を吐く。例えば、廊下で見られたり。今はほんの些細なことでも、いつか大事になりそうな予感がしている。

 

「そんなにいざこざがあるなんてね」

 

「良い人だっているけどね。でも、特にミューレン出身には気を付けて。アルフェシア様をあまりよく思っていないから」

 

アルフェシアは国の誘いを断って、自ら都市をつくった。

国王こそが我らの指導者、命令は絶対、という考えのミューレンの領主から、反感を買っているのだ。

 

 

 

「今日は魔法具学からよね?」

 

朝食をとり終わって、教室へ移動する。

 

「ええ。でも、予定だと魔法薬もあるみたいね」

 

「みたいね。魔法薬学が何時まで授業なのか言われていないから不安だわ」

 

 

教室に入り、2人は目を輝かせた。

教室の壁一面に棚が備え付けてあり、無数の魔法具が置かれていた。

 

「うわあ......!見た事ないものが沢山!!」

 

「これは......凄いわね」

 

と近づいていく。

勿論、触ることはしない。

 

「貴方、勝手に触ったら魔法が発動するわよ」

 

と、メイベルは魔法具に手を伸ばしていた男子生徒に声をかけた。

男子生徒は慌てて手を引っ込め、ちらとメイベルを見た後、座席に走って行った。

 

 

教室の座席に寮生が全員座ってしばらくして、魔法使いと魔女が部屋に入ってきた。

おそらくはこの2人が教師なのだろう、と皆思った。

魔法使いの方が口を開いた。

 

「それではこれから魔法具学の授業を始める。私はヴォイド・レクラースだ。魔法具学を担当する。そして君たちゲルミナレスの寮監でもある」

 

「私はグローリア・ランベート。私はニクスアンジェンテの寮監よ」

 

紹介の後、ため息があちこちで吐かれた。いかにも優しそうなランベートと厳しそうなレクラース。ランベート先生が寮監だったら良かったのになぁ......。という皆の気持ちが息に表れている。

 

「今回は初回なので2人で進めていくが、次回の授業からはクラスが分かれる。各クラス1人ずつ我々のどちらかが担当する」

 

クラスが分かれる、と言う言葉にざわめきが広がる。

 

「全寮合同で4つのクラスに分けます。クラスごとに授業のタイミングが違うから、今後配られる時間割をよく確認しておいてね」

 

全寮合同でクラス分け、と聞いて更に困惑する生徒たち。

そんな中、メイベルは手を高く上げた。

魔法薬学初回の授業でのハーマイオニーを思い出させる手のあげっぷりだ。

 

「はい!先生、質問してもよろしいですか?」

 

「ミス・ウィステリア」

 

レクラースが名前を呼ぶ。メイベルはそれを発言許可と捉えた。

 

「クラスはどうやって分けるのですか?」

 

メイベルの言葉に、生徒たちが頷く。

 

「単刀直入に言うと、これからテストを行う。魔法具学への適性を測るものだ。良かったものから順に、優、良、並、不と分けられる」

 

「抜き打ちテストってこと!?」

 

メイベルが隣のセレステに囁く。

 

「適性を測るって言ってたから、筆記テストではないんじゃない?」

 

とセレステが答える。

 

「テストは別室で1人ずつ行います。終わった人は寮に帰ってもらって構いません。時間割は、この後の魔法薬学でもクラス分けを行いますので、明日の朝に配られます」

 

「だから今日と明日で二教科ずつに分けられているのね」

 

今日はクラス分けをする魔法具学と魔法薬学、明日は魔術学と魔法史に分かれている。

もし明日にも魔法具学もしくは魔法薬学があると、朝時間割を知ってから慌てて準備をしなければいけなくなる。

そこを考慮した結果がこの時間割なのだろう。

 

 

「ねえ、レクラースって人が今年来た先生?」

 

「そうよ。ちゃんと校長先生の話を聞きなさいよ」

 

「ごめんって」

 

 

一番最初に部屋に呼ばれたのはアテナートというファミリーネームの生徒だったので、名前順で呼ばれるのだと皆理解した。

 

「名前順なら、私が最後じゃない!早く寮室に戻りたかったのに......」

 

かつて、『恋田鈴禾』は40人中、出席番号は15番ぐらいだった。毎年のクラスによって多少変動はあったが、出席番号最後というのは新鮮に感じられた。

 

 

しばらく2人で話していると、周りからレクラースって怪しいよな、という話し声が聞こえた。

他の生徒も口々に怪しい、と言い始めた。

 

「会って2日目なのに、もうこんな言われ様なのね」

 

可哀想に、とメイベルはレクラースに同情した。

 

「確かに。決めつけるのはあまりよくないけれど、私も怪しいと思うわ」

 

「どうして?額の傷跡が痛んだの?」

 

メイベルが自分の額に指をあてながら聞く。

ハリーがスネイプに見られて傷跡が痛んだという話のことだろう。実際痛みの原因はスネイプではなく、スネイプの隣に座っていたクィレルだったのだが。

 

「額に傷なんてないわよ。何というか、雰囲気がね......」

 

雰囲気で怪しいと言われるレクラース。流石にメイベルは同情した。

私だけでもレクラース先生を最後まで信じぬいてあげようかしら、と思う。

 

「そういう人って、本当はいい人がちじゃない?」

 

「そうだといいけど」

 

 

「あの、ネアセリニさん」

 

2人で話していると、テストを受ける部屋から出てきた女子生徒が近づいて声をかけてきた。

 

「次は私?ありがとう」

 

とお礼を言って、セレステが部屋に入る。

 

部屋の中には椅子が三脚あり、そのうちの二脚にレクラースとランベートが座っていた。

 

「ネアセリニか。君たちはする必要ないだろうが、一応だ」

 

君たち、とはセレステとメイベルの事だろう。

レクラースはそう言いながらセレステに杖を渡した。

タクト的杖だ。

 

「杖を持って、軽く降り下ろしてもらえる?」

 

ランベートに言われるがままにセレステは杖を振り下ろす。

すると、杖先から白い光が飛んで行った。

 

「やはりな。次は......ニクソンか。ニクソンに声をかけるように」

 

レクラースのセレステは頷き、杖を返してから部屋を出た。

 

 

そしてメイベルの番である。

 

「ウィステリアもネアセリニと同じだろうな」

 

と言いながら同じように杖を渡し、ランベートが指示を出す。

 

(この世界にも杖はあるのね!でも、杖なしの魔法の方が主流みたいで、少し残念だわ。せっかく杖があるっていうのに使いたいとは思わないのかしら?)

とメイベルは思った。

メイベルが杖を一振りすると、白い光が鳥の形を帯びて飛んで行った。

 

「やはりな」

 

とレクラースが無表情で頷く。

メイベルは杖を返す。

部屋から出る前に、

 

「先生、外に手紙を送るにはどうすればいいですか?」

 

と聞く。

レクラースは呆れたように、

 

「フクロウに手紙を持たせればいいだろう」

 

と言った。

(やっぱりフクロウで手紙を送るのね!!)とメイベルは嬉しくなった。

これでポストを使うと答えられると、少し悲しくなっていただろう。

 

「それが、フクロウを持っていないんです」

 

レクラースはため息を吐いてしばらく黙っていたが、

 

「では、相手が送って来るのを待てばよかろう。ミス・セリニスならばすぐに手紙を送って来るだろう」

 

と言った。

 

「そうですね。寮分けの結果が気になって仕方ないでしょうから」

 

とランベートが笑う。

 

「確かにそうですね!ありがとうございます」

 

と言ってメイベルは部屋を後にした。

 

 

「おかえり」

 

部屋から出てきたメイベルにセレステが声をかける。

セレステはメイベルが先ほどまで座っていた席に座っている。

 

「待っててくれたの?」

 

「だって、寮に戻ってもすることないもの」

 

「待ってくれてありがとね。それで、次の授業まであとどれくらいあるの?」

 

「多分、そろそろ教室に向かった方がいいわね。まだ教室の場所を把握しきれていないし」

 

動く階段は流石に無いが、それでも迷いやすい。

横にも縦にも広く、同じような構造が続くので、自分が今どこにいるのか分からなくなってしまう。

 

「それじゃあ行きましょう!!」

 

メイベルの言葉に、セレステが立ち上がった。

 

 

 

「魔法薬学の教室が近いみたいね」

 

廊下を歩いていたセレステとメイベル。セレステが突然、そう口にした。

 

「なんだろう......これって、草の匂いだけじゃないわよね?」

 

「魔法薬ってこんな匂いなのかしら?」

 

と廊下に漂う匂いについて2人が話していると、

 

「おいおい、魔法薬の匂いの1つも嗅いだことがないのか?」

 

と後ろから男子生徒が笑いながら近づいてきた。快活な笑いではなく、下に見るような笑い。

目も髪も赤色で、遠くからでも目立つだろうな、とセレステは思った。あおられているのに、全く意に介していない。

対照的に、メイベルはむっ、と男子生徒を睨みつけ、

 

「悪かったわね。匂いの1つも知らない私達に、この匂いのする魔法薬の名前を教えてもらえないかしら?」

 

と言った。

メイベルの言葉に、男子は言葉を詰まらせた。

 

「そ、そんなの自分で調べろよ」

 

と焦ったように言う。

あー、これは知らないんだな、とメイベルは心の中でにやりと笑った。

 

「知らないの?」

 

とメイベルが聞けば、

 

「もちろん知ってるに決まってるさ」

 

と答える。

 

「じゃあ教えてよ」

 

とメイベルが言うと、2人から顔を逸らした。

 

「とにかく、さっさと教室に入れよ!!」

 

と、不自然に話を逸らす。

 

メイベルは男子生徒を睨みながら、教室に入る。

 

席に着くと、

 

「あの、お2人。あの人には手を出さない方が良いですよ」

 

と、1人の少女が声をかけてきた。

薄紫色の髪を2つに結んでいる。

 

「どうして?」

 

とセレステが聞くと、少女は黒い瞳を男子生徒に向けながら、

 

「あの人はミューレン領主家の一人息子の、クリーガー・ミュンスタンです。ミューレン領主ですから、私達セリニス出身者に強く当たってきます」

 

と囁いた。

 

「さっきも当たって来たものね」

 

とセレステが頷く。

 

「はい。ですから、あまり刺激しない方が......」

 

さっき完全に刺激しちゃったな、とメイベルは思った。

 

「ありがとう。貴女もセリニスからやって来たのね」

 

とセレステが言う。

 

「あ、はい。私、エリサ・グランシーと言います」

 

「貴女はゲルミナじゃないわよね?」

 

メイベルは先ほどの授業でゲルミナ寮の生徒を大体は覚えた。その中にエリサはいなかった、はずだ。

 

「はい。私はヴェーテです。......ちなみに、クリーガーもです」

 

セリニス出身者をいじめるクリーガーと同じ寮。

先ほどのようなめんどくさい絡みをもっとやられているだろう、と2人はエリサを気の毒に思った。

 

「それは大変ね。何かされたら直ぐに言ってね」

 

すぐにアルフェシア様に言いつけてやる!!と考えながらメイベルが言った。

 

「ありがとうございます」

 

と頭を下げて、エリサは2人から離れて行った。

 

 

「朝、アリスとマリーが言ってた通りね」

 

2人から言われていた、ミューレン出身者のあたりの強さを実感したわけだ。

 

「はあ~。めんどくさいわね。そういう貴族的関係性?ってやつは」

 

「確かにね。ただ仲良くするだけじゃなくて、都市の発展も考えなきゃだものね」

 

 

2人の魔法使いが部屋の前に立つ。

 

「よし。全員揃ったかな?取り敢えず自己紹介をしようか。僕はジョージ。ジョージ・ヘルモントだよ」

 

ジョージ!!フレッドもいるかな?とメイベルは思った。

 

「私はロベール・ブロイスだ」

 

「ゲルミナの子達はさっきヴォイドとグローリアにも説明されたし、実際にされたと思うけど、この授業でもクラス分けをしていくよ」

 

ヴォイドとグローリア、と言われ、一瞬教室中が、誰のこと?と首を傾げた。

セレステは少し経ってから、それがレクラースとランベートのファーストネームであることを思い出した。

 

「魔法薬学は教師が固定ではなく、交互に担当する。そしてゲルミナレスとニクスアンジェンテ、コルレウスヴェーテとフォーレットの組み合わせで分かれ、その中で3つに分ける」

 

「だから、ゲルミナとヴェーテの2クラスが揃うのは今日が最初で最後ってことだね」

 

メイベルはそっと息を吐いた。流石に関係性の悪いクリーガーと同じなのは避けたかった。

淡々と話すブロイスと対照的に、ヘルモントは楽しそうに話す。

 

「今日はみんなに魔法薬を1つ作ってもらおう。作り終わったら授業は終わりにしていいよ」

 

「魔法薬の出来栄えと速さでクラスを決めていく。黒板に書いてある3つの魔法薬の中から、好きなものを選んで作ってくれ」

 

「もちろん難しいのを成功させたら凄いけど、簡単なのを完璧に作り上げても同じぐらいの評価になる可能性もある。魔法薬選びも重要だよ」

 

「材料は各自そこの棚から取っていってくれ。では開始だ」

 

開始の合図とともに、生徒が一斉に棚へ向かう。

 

「メイベルはどれをつくるの?」

 

棚に向かう生徒を見ながら、セレステが聞く。

 

「そりゃあ一番難しいやつよ!!他の2つは作ったことあるし、どうせなら初めてのを作ってみたいな、って」

 

アルフェシアによる入学前の指導で、2人とも魔法薬の基礎は教わっている。

その中で、黒板に書かれた簡単なものと普通難易度のものはつくったことがあるのだ。

 

「私もそうするわ。それじゃあ、時間で勝負しない?」

 

「セレステから勝負を持ちかけるなんて珍しいわね!受けて立つわ!!」

 

2人一緒に、生徒が少なくなってきた棚へ向かう。材料は、勿論2人とも全く同じだ。

 

机に戻って来てからも、2人は全く同じように材料を切り始めた。

切り終わった材料を大釜に入れる。今回は初回なので、全て学校の備品だ。

次回からは入学前に買った自分のものを使うことになる。

 

「ねえ、時間で勝負っていっても、同じレシピなんだから差がつかなくない?」

 

「差を作りだせばいいのよ。『水よ 渦を成せ』」

 

セレステの大釜の中身がグルグルと回る。

 

「なるほど!時短すればいいってことね『火よ 材料に均等に火を通して』!!」

 

メイベルも魔法を使って魔法薬づくりを進めていく。

 

「『月よ 加速させよ』」

 

完成させるのに一定時間寝かせなければならない魔法薬を、セレステは魔法で時間を短縮させた。

材料の成分が混ざり合い、違う成分になるのを速くしたのである。

 

「先生、完成しました」

 

セレステが先に小瓶に魔法薬を詰めてブロイスとヘルモントの元へ持って行った。

 

「ではここに提出してくれ」

 

と、ブロイスが少し驚いたようにセレステを見ながら言った。

 

「あとちょっとだったのにー!!」

 

メイベルが魔法薬を提出したのは3分ほど後の事だった。

 

「ウィステリアだって充分速いけどね」

 

悔しがるメイベルに苦笑しながら、ヘルモントが言った。

 

 

「よし!自由時間ね!!」

 

魔法薬を1つ作り終われば授業を終えていい、と最初に言われていたので、2人は教室から出た。

因みにクリーガーは部屋から出ていく2人を睨んでいた。

 

「これからどうするの?」

 

とセレステが聞くと、

 

「探検しましょ!」

 

とメイベルは目を輝かせた。

 

「立ち入り禁止の部屋を探すつもり?」

 

セレステが呆れたように言う。

 

「今日のところは普通に探検するだけよ。他にどんな部屋があるのかも気になるじゃない!」

 

「そうね。で、どっちに進む?」

 

「右!!」

 

メイベルは即答し、右手の廊下の先を指さした。

 

 

探検することしばらく。

セレステはため息を吐いた。

 

「鍵がかかってる部屋が多すぎじゃない?」

 

大体が教室であり、授業中の為入れなかったのだが、残りの部屋も固く閉ざされていた。

巡った部屋の中に立ち入り禁止の部屋があった可能性もある。

 

「そうだね......。あ、でも、ここは開いてるみたい!」

 

ドアに手を掛けていたメイベルが言った。

 

「ここは図書室ね」

 

中を覗いてセレステが言った。天井までぎっしりと本が並んでいる。

 

「アルフェシア様の図書館ぐらい大きいわね!!」

 

「書架ごとにジャンル分けがされてるし、使いやすそうね」

 

図書室を歩きながら2人で話す。

 

 

「ねえ、ここに『禁書』って書いてあるわ?」

 

不思議そうにセレステが言った。その本棚には他の本棚よりも分厚い本ばかり入っていた。

それにタイトルも『闇の魔術』やら『神秘の魔法具』やら何やら、簡単に手を出してはいけないようなものばかりだ。

 

「読んじゃダメな本ってことじゃない?」

 

とメイベルが言うと、

 

「ダメと言うことは無い。ここにある本はとても危険なんだ」

 

と後ろから1人の生徒が近づいてきた。金髪に灰色の目、そして眼鏡をかけた男子生徒であった。

1年生の中でも身長の低いグループに入る2人との身長差は大きい。

ローブの胸元には、鷲の形をした緑色のバッジ。

後ろからかかった声に驚きながらメイベルが聞く。

 

「危険って、襲い掛かって来るとかですか?」

 

(『怪物的な怪物の本』とかかなり危険だったわよね......。そういうのもこの世界にはあるのかしら?)

メイベルは決して禁書の定義を忘れているわけではなく、この世界でもその基準と同じか分からないのである。

 

男子生徒はメイベルの言葉に笑い、

 

「そういうのもあるけど、内容が危険なんだよ。一歩間違えれば国から追放されたり、処刑されてしまったりするほどの事が書いてあるんだ」

 

と説明した。

 

「でも、読んでもいいんですよね?」

 

そんなにも内容が危険なのに読んでいいのだろうか、と2人は首を傾げた。

 

「先生の許可を得ればね。君達ならきっとすぐに許可がもらえるよ」

 

なんてったって、君たちは月の魔女の弟子と全属性の魔女だからね。と男子生徒は心の中で付け加えた。

流石に2人を知らない人はこの学校にはいないのだろうか。

 

「そうでしょうか?逆に警戒されていそうですけど」

 

「確かに。力の持ち過ぎは良くないかもね」

 

「あの、禁書を読んだこと、あるんですか?」

 

「僕がかい?勿論あるよ。これでも、先生たちからの信頼は厚いからね」

 

これでも、がどのような部分なのか2人には分からなかった。

なにせ今さっき出会ったばかりで、名前すら知らないのだから。おそらくは年上であるということしか分からない。

 

「読んでみて、どう思いましたか?」

 

「難しい質問だね。どうだったか、って言われてもなあ......」

 

しばらく悩んでいたが、

 

「まあ、入学したての君たちには必要ないだろう知識ばかりだったよ」

 

と言った。

 

「君たちは禁書を読みに来たわけではないのだろう?」

 

「はい」

 

とセレステが頷き、

 

「探検中です!」

 

とメイベルが言った。

 

男子生徒は笑い、

 

「この学校には面白い部屋が沢山ある。だがその反面、危険な部屋も多くある。探検するなら東棟を薦めるよ」

 

と言った。

 

「それは、西棟に立ち入り禁止の部屋があるからですか?」

 

メイベルの言葉に、男子生徒の瞳が険しくなる。

あ、やべ。とメイベルは思ったが、すでに手遅れである。

 

「......知っているのかい?」

 

「まあ、はい。具体的にどこかにあるのかまでは、まだ知らないですけど」

 

誰から聞いたのかは流石に言わずに済んだ。

 

「禁じられた部屋に行くには、もっと経験を積むべきだよ」

 

と男子生徒は言い、その場を去って行った。

 

 

「さっきの人、立ち入り禁止の部屋の場所を知っていたわね」

 

メイベルがセレステに耳打ちする。

 

「ええ。監督生なのかしら?」

 

「それか自分で探検したのかも」

 

セレステはメイベルが本気でそう思ってはいないことが分かった。

メイベルは冗談をよく言う。

 

「彼、どこの寮だったのかしら?」

 

ヒントになりそうなものはローブの胸元にあったバッジぐらいだ。

 

「名前も知らないし」

 

「後でアリスに聞いてみましょう!」

 

「それが良いわね」

 

今のところ一番魔法界に知識があるのがアリスなので、取り敢えず聞いてみよう、ということになった。

 

「よし、それじゃあ探検を再開しましょう!!」

 

メイベルが大きく拳を突き上げ、図書室中から視線が突き刺さった。




9/1入学式です

マリー・アッシュフォード
1年生。ニクスアンジェンテ。アリスと同寮。
出身はヴァレニア。守護霊は猫。出席番号が一番最初。

この国の都市
マリーの暮らすヴァレニア、メイベルとセレステが暮らすセリニス、アリスが暮らすエストレラ、ウェンデンブルク、あまり他国と仲が良くないミューレンとインバスティア、城下町のヴェンぺス。

ヴォイド・レクラース
魔法具学教授。今年から教師になった。ゲルミナレスの寮監。
魔法使い。黒髪に黒い目で、暗い見た目。怪しい雰囲気をしている。


グローリア・ランベート
魔法具学教授。ニクスアンジェンテの寮監。
魔女。金髪に桃色の目。


魔法具学クラス分け
杖を振る。杖は30㎝くらいのもの。


クリーガー・ミュンスタン
ミューレン領主家の一人息子。前述のとおりセリニス嫌いな国の為、メイベルとセレステに絡んでくる。赤い髪に赤い目。コルレウスヴェーテ所属。

エリサ・グランシー
コルレウスヴェーテの1年生。セリニス出身。
薄紫色の髪に黒い目。髪を二つに結んでいる。


ジョージ・ヘルモント
魔法薬学教師。面白くて生徒から慕われている。レクラースと同級生。
魔法使い。濃い栗色の髪に赤い目。

ロベール・ブロイス
魔法薬学教師。ベテランの教師。フォーレットの寮監。
魔法使い。灰色の髪に青い目。
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