あの日に戻った俺は、同じ選択をしない   作:kujira_works

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虎杖悠仁が指を20本飲み込み、五条に処刑された世界からの逆行です。
第一章を読んでからお読みください!

・無断転載、無断利用はやめてください

・AI学習も受け付けません

*************************

⚠️注意書き

※原作捏造

※転生逆行

※解釈不一致

※不満は受け付けません

→それでも大丈夫な人は、本編へ!


あの日に戻った俺は、同じ選択をしない 第二章

第二章

 

1

 

「夏油さーん、味噌汁できたー、持ってってー」

 

「はーい」

 

夏油さんと過ごす日々は今年で10年目になる。俺は今、高校一年生だ。

 

「どうよ? 結構美味しくない? 今日はちゃんと煮干しから出汁とったんだー」

 

口に入れて味を確かめる夏油さんは、「へー」と生返事をする。

 

「わかってないでしょ、夏油さん。出汁入れるのと入れないのとじゃ全然違うから。普段は出汁のもととか入れてんだよ」

 

「すごいね。自炊なんかまともにしてこなかったから」

 

“前回”の記憶があるので家事は何かと得意。

掃除や洗濯は夏油さんも手伝ってくれるが、食事はほとんど俺が担当している。

 

それに、俺が用事で家を空ける時も、出前や外食をしているだろうし。

 

「高級取りだもんね、夏油さん」

 

「褒めても何も出ないよ」

 

軽口を交わして、時計を見た。

 

「ミミナナ起こしてこよっか?」

 

「いや。まだ少し寝かせててくれるかい?

昨日ずいぶん夜更かししてしまったみたいでね」

 

「何やってたの?」

 

「麻雀」

 

「女の子がやるもんじゃないから!!」

 

予想外な展開につい声が大きくなってしまう。

 

「え? おかしいな。硝子はよくやってたんだが」

 

「それは家入さんがおかしいの! あの人、未成年なのにタバコ吸ってたし」

 

自然に目が覚めたのか、オレの声で起きたのか定かではないが、美々子と菜々子が居間に入ってくる。

 

「傑さーん、悠仁ー、おはよー」

 

「傑さん、悠仁。おはよう」

 

「おはよう、美々子、菜々子」

 

「おはよー! ミミナナ。ごめん、起こしちゃった? ご飯よそっておくから、先に顔洗ってきちゃいな」

 

「「はーい」」

 

眠たそうに返事をする双子の姿を見送る。

 

朝ごはんを食べ終わった俺と夏油さんは、各々の自由時間に入った。

 

「おっ!」

 

「どうかしたかい?」

 

「今日、卵が安いなって。驚異の40%オフ」

 

見ていたのはスーパーのチラシ。

 

「私も買いたいものあるから一緒に行こうか。学校いつ終わる?」

 

「おっ! マジ? 15時半!」

 

「そんな早かったっけ? いつも16時くらいじゃなかった?」

 

「今日、職員会議で5分短なんだよねー」

 

夏油さんは納得したように頷いた。

 

「なるほど。じゃあ、その時間に迎えに行くよ」

 

「ありがと」

 

*

 

学校が終わり、夏油さんの車に乗り込んだ。

 

十分ほど経ったところだろうか。目的地に着いた。

 

車から降り、ドアを閉め、スーパーに入る。

 

時刻は16時50分。タイムセールまであと10分になった。

 

店内に入ると、活気の溢れた音楽が鳴る。

 

入ってすぐ見えるのはタケノコだ。これを見ると春を感じられる。一個買っちゃお。

 

「夏油さん、卵こっちね」

 

後ろを向き、夏油さんに手招きをする。

 

前列に並んでいたため、スムーズに卵を手に入れることができた。

 

ふと忘れていたことを思い出し、夏油さんに声をかけた。

 

「夏油さん、欲しいものあるって言ってたけどいいの?」

 

どうやら夏油さんも忘れていたらしく、「あ!」と声を出した。

 

「単四の電池が欲しかったんだよね。どこにあるかわかる?」

 

「こっちだよ! ついてきてー」

 

この時は目の前の幸せばかりに目を向けて、気づかなかったのである。誰かに見られていることなど。

 

会計を終え帰ろうとした時、夏油さんがトイレに行きたいと言ったので、近くの椅子に座った。

 

なかなか良い買い物ができて大満足である。

 

今日は何を作ろうか。タケノコご飯もいいなー。新玉ねぎの味噌汁も作ろうか。今日は白味噌の気分だから、白味噌で味噌汁を作ろう。

 

今晩の献立を考えながら、一人ホクホクとしている。

 

______突然、肩を掴まれた。

 

びっくりしてすぐに振り返る。

 

後ろにいたのは、アイマスクをした白髪の男だった。身長は2メートルにほぼ近い。服装は黒一色である。

 

顔を一気に近づけて、じっくりと見つめられる。

 

「お前、何? なんで傑と一緒にいんの?

てか、なんか色々混ざってんだけど、呪霊だよな? どういうこと?」

 

知っている。知っているのだ、この男を。この姿はまさしく生前の時の_____

 

「聞いてんの?」

 

、、、まずい。これはまずい。どうしたものか。

 

今度は肩をがっしりと掴まれ、力を入れられた。痛い。

 

「ご、ごめん。一旦離して、痛い。

ちゃんと話す、から」

 

答えが気に入らないのか、さらに力を込められた。

 

___痛い!

 

「今答えろ。お前は傑の何? そんだけ混ざってて呪術界に入ってないとか言わねーよな?」

 

怖い。明らかに敵対視されている。今にも殺さんとばかりに。

 

どうにかしなければと思えば思うほど、考えがまとまらない。

 

「悟、悠仁を離してくれ」

 

体の硬直が取れたのは、その声によってだった。

 

「、、、傑」

 

夏油さんは見るからに怒った顔だった。

 

肩はいまだに掴まれたまま。痛みに顔を歪める。

 

「離せって言ってるだろう!!」

 

夏油さんの怒鳴り声は店内に響いた。あたりはすっかり静まり返り、ポップなBGMだけが辺りを支配する。

 

お客も店員も俺たちを不審に見つめた。

 

その視線に少しは冷静になったのか、夏油さんは怒りながらも「うちにこい、話はそれからだ」と五条さんに向かって言葉を発した。

 

*

 

五条さんは後部座席に乗り、俺は助手席に乗った。どちらも険しい顔をしている。

 

誰も話す気など起きず、張り詰めた空気が車内を支配した。

 

「、、、どうしてここに」

 

気まずい雰囲気の中、口を開いたのは夏油さんだった。

 

「、、、元々、広島の方で任務があったんだよ。任務のついでに中国地方でも回ってこうと空飛んでたら、傑の呪力を見つけて、、、」

 

「なるほど」

 

もう一度、冷たい沈黙が続いた。

 

「、、、ねぇ、僕も聞いていい?」

 

次に口を開いたのは五条さんだった。

 

夏油さんは目を細め、返事をする。

 

「何を?」

 

「、、、どうして、呪術界を裏切ったんだ?

どうして、今ここで暮らしている?

そのガキは、なんなんだ、、、」

 

五条さんは苦しそうに口にした。

 

「呪術界を裏切ったのは、私が未熟だっただけだ。君は悪くない。この子は虎杖悠仁。覚えているかい? 私達が高専に通ってた頃、迷子の少年がいただろう? その子だよ」

 

対して夏油さんは、何でもないかのように話すのだった。

 

五条さんは沈んだ表情を見せる。

 

「俺にはなんも話してくれねーんだな」

 

「、、、」

 

再び静まり返った車内。

 

家まで残り5分。

 

*

 

五条さんを居間へ案内し、ミミナナは無理矢理部屋に押し込んだ。

 

客人にお茶と茶菓子を出す。

 

「座ってくれ、悟。聞きたいことがあるんだろう? 何も答えもしないほど薄情じゃない」

 

五条さんの視線が下に向かう。

 

「、、、俺の元を離れたのは何で?」

 

聞こえた声は、何かに耐えるように震えていた。

 

「、、、私が未熟だっただけだ。本当にそれだけなんだ。君は何も悪くない」

 

「それで納得できるかよ、、!」

 

返ってくる返事に、五条さんはカッとなる。

夏油さんは悲しそうに顔を歪める。

 

「、、、悟。君は今、現代最強だろ。私はそうじゃなかっただけだ」

 

その言葉がトリガーとなり、五条さんは激しく感情を表す。

 

「は!? ちっげーだろ!! 俺と! お前で! 最強なんじゃねぇーか!!」

 

「だから、そういうのが嫌なんだよ。君は私のことなんて全く分かってない」

 

対する夏油さんは、怒りながらも冷たくそう言い放った。

 

「夏油さん」

 

夏油さんを諫めて、五条さんを見た。

 

「お前は? お前は何なの?」

 

五条さんは今、半狂乱になっている。

俺が落ち着かせなくては。

 

「夏油さんの家族だよ。

あっちの部屋にはミミナナがいてね。二人と同じ、夏油さんの養子なんだ。血は繋がってないけど、俺たちは家族で____」

 

____ダンッ

 

五条さんが机を叩き、立ち上がった。

 

「じゃあ! お前の混じってるもんは何だよ!? 禍々しいその呪力は!! 何が夏油さんの家族だ!! ふざけんのもいい加減にしろ!!

お前が! 傑を騙してんだろ!!」

 

____ダンッ

 

次に机を叩いたのは夏油さんだった。

 

「やめないか悟! 悠仁が私を騙しているだと?

笑わせてくれる。この子のことを何も知らないくせに、勝手なことを言うのはやめてもらおうか!!」

 

「、、!! だったら! だったら、、、。その混じってるもんはいったい何なんだよ。なんで、傑は、そんなに、、そいつのことを、信用してんだよ、、、!!」

 

五条さんは萎れ方が、まさしく青菜に塩だった。

 

「、、、五条さん、そのことについてはまた説明する。ごめんけど、今日は帰ってもらってもいいかな? お互い冷静になれないだろうし、夏油さんにも話さなきゃいけないことがあるんだよね」

 

「、、、呪霊が、何を、、!」

 

当たり前だ。宿儺を取り込み、人生を逆行している。五条さんの目にはいったい、俺がどう映っているのだろうか。

 

「五条さん。俺は絶対に夏油さんを不幸にしない。なんなら縛りを結んだっていい。俺だって五条さんと同じように、夏油さんのことを大切に思ってるから」

 

その言葉を聞いた五条さんは、一瞬ハッとした表情をする。

 

そして、

 

「傑。連絡先教えて」

 

何を思ったのか、急にそう言い出した。

 

夏油さんも戸惑いながら、言われた通りに差し出す。満足したのか、五条さんは荷物を持ち、再び立ち上がった。

 

「一カ月後にまた来る、待ってろよクソガキ」

 

そう言い残して。

 

2

 

ミミナナが寝静まったのを確認して、俺と夏油さんは外に出た。

 

田んぼだらけの景色が広がる。横にあるのは、木でできた無人販売の台。春野菜が無造作に並べてあった。

 

田舎の景色を静かに眺めながら20分ぐらいしたところ。近所の公園に着いた。

 

思いで深い場所だ。俺と夏油さんは、公園から始まったのだから。

 

はじめに目に映るのはブランコだ。幼児期を思い出す。立ち乗りや二人乗り、横乗りなど、楽しみ方は多種多様だ。

 

俺はより高く乗ることをリスペクトしていたため、ブランコの横のチェーンを台座に巻き付け、高さを出して遊んでいた。

 

そのまま立ち乗りをして、前から思い切り転げ落ちたのも、今となっては良い思い出だ。

 

気づいたら自然とブランコに座っていた。

 

夏油さんは隣に座った。緊張からなのか、気恥ずかしさからくるのか、まともに顔を見られない。

 

「、、、夏油さん、ごめん。俺、ずっと隠してたことあって」

 

夏油さんの顔なんてまともに映すこともなく、そうポツリと言葉を溢す。

横にいる夏油さんは俺の肩に優しく手を置いてゆっくりと口を動かした。

 

「悠仁。そんな顔しなくていい。言いたくないなら無理に言わなくていいんだ。私は無理矢理聞き出したいわけじゃない。悠仁が少しでも楽になって欲しいんだよ」

 

夏油さんは優しいな。

 

「、、、どうせ言わなきゃいけないことだったから。時期が早まっただけだよ」

 

「悠____」

 

「俺が! 俺が言いたいの!

だから夏油さん、、、聞いてくれる?」

 

「、、、もちろんだとも」

 

夏油さんに話したのは、

俺が人生を逆行していること。

宿儺の指を取り込んでいること。

“お兄ちゃん”から教えてもらった赤血操術が使えること。

そして、俺の世界では夏油さんが呪詛師となったこと。

 

つまりは、俺が経験してきた全てを夏油さんに向けてぶつけた。夏油さんには隠し事をしたくなかったから。

 

夏油さんの顔なんてまともに見れない。

 

しかし俺の予想に反して夏油さんは軽く受け流すように言葉にした。

 

「、、、そうか、なるほどね。あの時、妙に大人びた子だとは思っていたが、まさかこんなことになるとはね」

 

その様子に思わず顔を上げ夏油さんを見つめる。

 

「えっ?信じてくれるんだね。夢みたいな話でしょ?」

 

「いや、別に全て信じてるわけじゃないよ?」

 

「えっ?」

 

「悠仁が言うから、悠仁を信じてるから信じるんだよ。確かに、信じられなくて夢物語だと言った方が近い話なのかもしれない。でも、私は悠仁だから信じたいんだ」

 

どうしてそんなに軽く受け止められるのか。

 

「、、、怒んないの?」

 

「どうしてだい?」

 

不思議そうに尋ねてくる。

 

逆にどうしてわからないのだろう? 夏油さんには俺を怒る権利があるのに。

 

「だって、夏油さんが呪詛師になるのも知ってたのに、結局防げないままで。天内さんの件も俺がもっとちゃんと動けてたら、、、」

 

「、、、それは君だけに言えることじゃないだろう? 私だって、理子ちゃんに対して後悔の念を抱いてばかりだよ」

 

「で、でも! 俺が、俺がもっとちゃんとできてたら。灰原さんだって死ぬことなかったし、五条さんも、夏油さんだって本当は俺がなんとかしなきゃいけなくて」

 

「悠仁。それは違うよ。本来であれば私達が解決すべき問題なんだ。それに悠仁がそう思っている時点で、働きかけてくれた証拠だろ?

事実として理子ちゃんの同化に成功した。それに私だって、あの時君に救われたんだよ」

 

夏油さんは続ける。

 

「君が罪悪感に押しつぶされる必要はない。

2度目の人生だからと言って、完璧人間になれるわけじゃないのだから。

二週目だろうが一週目だろうが、君は確かに虎杖悠仁なんだ。同じ君であることには変わらない。そして、そんな虎杖悠仁のことが私は大好きなんだ」

 

そう言って優しく手を握ってくれたのだ。

 

不思議と視界がぼやけてくる。

 

「、、、へー、、俺のこと、大好きなんだ?

夏油さん」

 

「、、、おや、バレてしまったか」

 

夏油さん、俺だってね、意地悪く笑うこの笑顔が大好きなんだよ。

 

「さて、疲れただろう? これでもいかがかな?」

 

夏油さんの手に持たれていたのはビンコーラ。

 

あの時のビンコーラだ。

 

「、、、ずるいよ、夏油さん。ほんとずるい」

 

夏油さんは何も言わず、背中を撫でてくれた。

 

満月の月明かりの下、背中に当たる体温が酷く心地よく感じた。

 

*

 

次の日になり、顔を洗いに行く。

泣いたせいか目元が赤く腫れていた。

冷水で流すことで腫れを引かせる。

 

現在時刻は5時半。

 

夏油さんに隠し事を話せて、ぐっすり眠れたのだ。健康! 睡眠! 一番大事!

 

それにしても、うー。

人に弱みを見せるとは恥ずかしい。最後の方なんか泣いちゃったし、うわー、、、

 

「、、、夏油さんを前にしても自然にいられるかな?」

 

「私がどうかしたかい?」

 

噂をすればなんとやら、まさかのご本人登場だ。

 

「べ、別に」

 

「そうかい?

朝ごはんは何を作るの? 私も手伝うよ」

 

何もなかったかのように自然と接してくれる。

ほんとに優しいよな、夏油さん。

 

「ありがとう。じゃあ夏油さんは具材を切ってくれる?」

 

「わかった」

 

夏油さんがじゃがいもやにんじんを切ってくれている間に、魚を焼く。昨日特売で買った魚の切り身だ。

 

俺は真鯛をチョイスさせてもらおう。

 

魚焼きグリルに真鯛を乗せ、焼いている間に次の作業に入る。

味噌汁だ。今日はミックス味噌の気分なので混ぜよう。

夏油さんが切ってくれた、新玉ねぎ、豆腐や大根、にんじん、じゃがいもを入れる。虎杖家の味噌汁は具沢山なのだ。

 

うーん。我ながら上手くできた。ちょっと味見しちゃお。味噌汁美味しー。真鯛もいいなあー。やはり季節の品は素晴らしい。

夏油さんも気になっているようでこちらを見てくる。ご要望に応え、口に放り込んだ。

 

「おいしいね」

 

「ねー! 我ながら上手くできた!」

 

「私も手伝ったんですけどー?」

 

子供みたいなことを言う夏油さんに呆れて笑う。

 

「はいはい、夏油さんありがとう」

 

真鯛と味噌汁を食卓に並べ、ご飯をよそい始めると、階段を降りる音がした。

 

「おはよー」「おはよう」

 

降りてきたのはミミナナだ。

 

「おっ! 真鯛だー! やるじゃん悠仁」

 

「美味しそうだね、悠仁」

 

この双子は嬉しいことを言ってくれる。

 

「ミミナナもおいでー! あとご飯よそうだけだから」

 

双子は遅れて座り、みんなで手を合わせた。

 

「「「「頂きます」」」」

 

3

 

五条さんと苛烈な再会をしてから約三週間。

 

夏油さんの携帯に、今月の第三水曜日にうちを訪ねると連絡が来た。

わかっていたのだが、少し怖い。

夏油さんは呪詛師として指名手配をされているし、五条さんは俺の中に混じってる物が見えるのだ。

 

今まで通りの平穏な生活が崩れていくような感覚がする。

 

「悠仁。きっと大丈夫だから。私が保証するよ」

 

「う、うん。ありがと、、、」

 

心に残る不安を拭えぬまま、そう言葉にする。

 

「不安な顔をしてちゃダメだ。こちらもドーンと構えていないと、足元掬われるよ」

 

「そうだよね、、、」

 

五条さんがくるまであと一週間。

 

「、、、夏油さんは五条さんにどこまで話すつもり?」

 

「うーん、君の中の宿儺については気づいてそうだからね。そこは正直に言うべきじゃないかな。逆行していることに関しては、まだ言わない方がいいかも」

 

「うん、、、てかさ、俺のことじゃなくて、夏油さんも話さなきゃいけないと思うよ?」

 

「もう十分話したじゃないか」

 

「いや、『君は悪くない、私が未熟だった』って、五条さんは一番言われたくなかったと思うよ? 五条さんにとって夏油さんは本当に大切な親友なんだから。」

 

学生時代の二人を思い浮かべる。

 

「、、、親友だからこそ腹割って、感じたこと、嫌だったこと、全て話すべきだよ」

 

少し考えたような顔をする夏油さんは、いつしか苦々しい表情に変化した。

 

「、、、私も悟に会うの嫌になってきたな」

 

「こら、逃げない」

 

とは言っても、俺も五条さんに会うの嫌だなー。

来たる最強に構え、二人は心の準備をするのだった。

 

*

 

ガラガラ

 

「おじゃましまーす」

 

もちろん入ってくるのは、現代最強の五条悟である。

 

オフの日を取っているためか、目隠しはサングラスに、服装はオシャレな格好をしていた。

靴を脱ぎ、こちらに袋を渡す。

 

「これ、お土産」

 

手渡された袋には、墨絵の模様がついていた。

 

「中身は苺大福。賞味期限は明日までだから。緑茶と一緒に食べるとおいしいよ。四人家族だったよね? 四つ入ってるから」

 

社会人を思わせる気遣いに、思わず驚いてしまう。

 

「、、、あの悟が!? あの悟がこんな立派になって、、、君、本当に悟かい?」

 

隣にいた夏油さんがそう言葉に出す。全くもって同じ感想だ。

 

「、、、なんだよ。気に入らなかった?」

 

「いや、、、嬉しいよ。ありがたく頂くね」

 

、、、そう言えば、五条さんもいいとこのお坊ちゃんだもんな。

居間に案内すると、五条さんは正座をして上着を脱いだ。

 

正座!?

 

「さ、悟?」

 

「えっ? なに?」

 

「、、、すごいね五条さん。さすが五条家当主だわ」

 

「は? なに? 喧嘩売ってる?」

 

まさかの振る舞いに、緊張が取れていくのを感じた。

 

「ま、いいや。一か月ぶりだね、傑」

 

「ああ」

 

「俺、色々考えたんだよ、傑のこと」

 

五条さんは視線を下に下ろす。

 

「、、、あの時、何で何も言わずに村の住人を殺して、高専を去ったのか」

 

五条さんは夏油さんを見る。

 

「でも、考えても考えても分かんねーんだよ。俺、傑になんか嫌なことした?」

 

夏油さんが隣で言葉に迷っていたのを感じた。

 

「、、、俺、一旦出るよ。話終わったら教えて」

 

部外者の俺がいると話しづらいだろう。

 

「五条さん、夏油さんは五条さんのこと嫌いになってないよ。夏油さんだって色々考えての行動だったんだよ、、、お互い腹割って話な」

 

そう言い残し、部屋を後にした。

 

*

 

悠仁が空気を読んで部屋を出ていった。

 

残された私たちはお互い無言のまま。私自身も何を言おうか迷っている。

先に沈黙を破ったのは悟だった。

 

「、、、傑はなんか言うことねぇーの?」

 

ここは腹を割って話すべきなのだろう。

 

「、、、悟は本当に何も悪くないんだよ」

 

私の一言に一気に落ち込む悟が見えた。

あの時の「何も言ってくれない」という言葉が胸を突く。

 

「、、、そう落ち込まないで、ちゃんと話すから。今のは事実を並べただけ。何から話すべきか迷っていたんだ」

 

悟にもう一度向き直る。

彼の目は僅かに揺れ、何かを懇願するような輝きを見せる。

あの青春時代に言えなかった本音をぶつけなければ、私はきっと後悔するだろう。

 

「、、、理子ちゃんがどうかした後、君は常時発動の無下限術式を身につけ、以前よりグッと強くなった」

 

悟をチラリと見ると、私を見つめて静かに聞いていた。

片唾を飲み込み声が震えそうになるのを抑えながらもう一度口を開いた。

 

「、、、君の隣に立つには、それ相応の力がいる。けれど私には秀でた才能はない」

 

周りの評価も君にばかり。

 

「、、、嫉妬深い男だよね。

灰原が亡くなった時があっただろう。その時、七海と一緒にいてね。彼に『もうあの人一人だけで良くないですか?』って言われてしまって。私も、その通りだなって納得してしまったんだよ」

 

その日から結局何も上手くいかなくて、任務に行ってもミスばかり。

 

、、、村の件では全てにむしゃくしゃしてしまってね。気づいたら村全体を滅ぼしてしまった。

 

言い訳ではないのだが、呪霊が見える幼い子供が村の住人に虐げられていたんだ。それで一気にダメになってしまったんだよ。私は私でいられなくなった。

 

幼い子供が呪霊が見えるというだけで虐待などおかしいと思う。

 

けど、きっとそれだけじゃない。私自身も腐っていたんだよ、悟。

 

「悟。私が今こうしていられるのも悠仁がいるからなんだよ。こんな私でも生きたいと、そう言ってくれたんだ。あの子がいなかったら本当にダメだったろうね」

 

話し終える頃には、悟は視線を下に向け、右手で左肘を掴んでいた。

 

何か言おうとはしているらしく、口をもごもごさせる。

 

「、、、俺は傑が最強じゃないとか思ったことない」

 

やっとの思いで出てきた言葉は、小さく弱々しくもありながら、私の神経を逆撫でさせる。

 

「まだ言うかい? さっき話したばかりだろう? 私は君にそんな評価を受けるような人間じゃない」

 

反射的に詰め寄るようにしまった。

 

この期に及んで皮肉か? 腹が立つ。

相手の意図を探るが、嘘は言っていないようで極めて真剣である。

 

「、、、違う。呪霊操術ってすげー術式なんだし」

 

「君にだけは言われたくないね」

 

「、、、そんなことねーし。汎用性高いし、俺みたいに規模がでかいだけじゃなくて小回りが効く。術式の解釈を広げたら、今度は俺が追いかける番になるくらいだ」

 

何を馬鹿なことを。

瞼がピクピクと揺れた。

 

「、、、術式だけじゃねえ。人を安心させることができるし、努力だってできる、他人のために怒れて、固い信念だって持ってる。

何より、俺は傑のそばにいて嬉しかったし、楽しかった。だから、その、俺にとって傑は最強なんだよ」

 

「それに、お前が隣にいなくなってからずっと、違和感しかなかったし、、、お前も、なんも、話して、くんないし」

 

少しづつ涙ぐみながらも私の目を見て、しっかりと訴えてくる。

 

「、、、ちゃんと言って欲しかった!! 親友、なんだから、、!」

 

悟の涙を見た瞬間、胸の奥で何かが崩れた。

 

私は何年も、この男は自分を置いて先へ行ったのだと思っていた。

でも、違った。置いていかれたと思っていたのは、悟も同じだったのだ。

 

思えば悟に何も話せていなかったんだと思う。

悟は、私のことなんて興味がないと思っていたから。

 

しかし、悟は今もなお、顔を擦り涙を流している。

 

、、、ああ、この男がこんなに小さく見えるだなんて。

 

もっと早く気づくべきだった。

ずっと背中しか見えていなかったのだから。

 

「、、、君にちゃんと言っていたら、こんなことにならなかっただろうに」

 

顔が赤くなった悟が見える。

私も視界がぼやけてきた。

誤魔化すように悟の頭をガシガシと撫でる。

 

「ごめんね、悟」

 

そうだ、私だって悟を大切に思っているのだから。

 

4

 

「悟、落ち着いたかい?」

 

目の前でえぐえぐと泣く私の親友の背中をさする。

 

そろそろ悠仁を連れてきたいのだが、手を止めると「なんで、、! 止めんだよ!!」と怒られてしまったので、悟様のご要望に応える。

 

しばらくして不規則だった呼吸が止まり、落ち着いてきたみたいだ。

 

「、、、ごめん」

 

悟は顔を赤くしてそう言った。

 

「構わないよ。顔洗ってくるかい?」

 

そう尋ねると、無言で首を縦に振る。

 

「ふふ、この部屋を出てまっすぐ進み、右手にあるよ。行ってきな」

 

顔を見せたくないのか下を向き、部屋を出ていった。

 

*

 

「あっ! 五条さん、、、」

 

五条さんを見かけ、つい声をかけてしまった。

 

「、、、お前」

 

綺麗に整った顔は、目元だけが異様に赤くなっている。

 

「、、、ちゃんと話せた?」

 

そう尋ねると、返ってくるのは首を縦に振る仕草だった。

 

「もう帰るの?」

 

「、、、いや、顔を洗いたくて」

 

なるほど。

 

「ついてきて、案内するよ」

 

泣いた姿を構う趣味はないので、気づかないふりをする。

 

良かった、仲直りできて。

 

後ろからついてくるのを確認してから前へと進む。

 

無事に案内でき、五条さんは顔を洗っていた。

 

もう一度居間に戻るか聞くと、「あぁ」と言われたので一緒に歩いた。

 

なんとなく心が躍ったような気分になり、無駄話を始めてしまう。

 

「あそこの時計見える? ミミナナが作ったんだよ。なんでも夏油さんのために一生懸命になってさ、その結果、蕎麦に囲われた時計になったんだよ。頭いいのにちょっとしたところが抜けてんだよね、ミミナナってさ。夏油さんも思わず笑ってたよ。なんでやねんってね!」

 

返事が返ってくることはなかったが、続ける。

 

おもてなし精神だ。

 

「あそこに見えるのは俺のマグカップだよ!

筋肉もりもりのフォルムが面白くない?

この間ネットで見かけたんだよね。夏油さんはしっぶい顔してたよ! 本当に買うのとか言われちゃってさ。もちろん買いましたけどね。

即買いのお気に入りマグ!」

 

「、、ハハッ」

 

笑った、笑った! 五条さんが笑った!

 

その笑顔でまた嬉しくなってしまった。

 

*

 

居間につくと、夏油さんが座っていた。

 

一人で出ていったはずの五条さんが俺と一緒に戻ってきたのだから、少し驚いていた顔をする。

 

夏油さんの隣に座り、俺の番を待つ。

 

俺の断罪が今から始まるのだろう。

 

不安な気持ちに蓋をして、五条さんに向き直った。

 

「そんな死にに行くような顔しなくていい、何も取って食うわけじゃねーよ」

 

五条さんは俺に向かってそう言う。

 

「別に、そんなこと、、」

 

「少なくとも悪い奴じゃないのは分かってるつもり」

 

「聞きたいことはだいたいわかってんだろ?

お前の中に混じってるそれは何?」

 

続けてそう言った。

 

隠す理由もないし、隠したとしてもどうせバレるだろうから、開き直ることにした。

 

「宿儺だよ」

 

「は?」

 

「宿儺の指、食べたの」

 

「、、、は?」

 

五条さんは固まってしまった。

 

「嘘だと思うなら確認して来なよ。

高専にあるでしょ? 比較すればすぐわかると思う」

 

「、、、ずいぶんアッサリしてんだな」

 

感心しているようで、五条さんはそう言った。

 

「隠しても意味ないかなって」

 

俺は今、どんな顔をしているだろう。

 

多分、情けない顔だと思う。

 

「、、、俺、宿儺の器として作られたんだよ。母親がイカれた人でさ。誤解しないで欲しいけど、指を飲み込んだのは俺の意思だよ。利用されたままでたまるかって。少しでも抵抗する術が欲しかったんだ」

 

夏油さんがぴくりと反応するのがわかる。

 

これを聞いた五条さんもしばらく黙っていた。

 

あたりに沈黙が走る。

 

考えがまとまったのか、五条さんは口を開いた。

 

「、、、確かに呪力の器が馬鹿みたいにでかいな」

 

「呪力の器?」

 

「体内に呪力を溜め込める量のことだよ。言わばグラスみたいなもんだな。溢れると暴走するし、無くなると動けなくなる。お前はグラスの強度も大きさもでかい。

俺を超えるくらいには、、、

宿儺のために作られた、ね。あながち間違いでもないのかな」

 

「悠仁と私をどうするつもりだい? 殺すかい?」

 

夏油さんはそう尋ねる。

 

緊張した面持ちで五条さんを見つめた。

 

「そんなことしねーよ。上には黙っといてやる」

 

案外アッサリと返されてしまう。

 

「ありがとう、助かるよ悟」

 

夏油さんも、分かっていたように返事をした。

 

五条さんは続ける。

 

「と言っても、呪力がまだ安定してるとは言い難いんだよな。コントロールできるようにして損はないと思う。

、、、お前、うちくるか?」

 

「えっ?」

 

流石の夏油さんもこれは予想してなかったのか、目を丸くする。

 

「、、、悠仁にとってのメリットは?」

 

五条さんは自信満々に答えた。

 

「まずは呪力を安定させること。これが出来ないと、いずれ暴走してもおかしくねーぞ。宿儺ともなると特にな。そこが深いグラスだが、中に入った水が暴れまくってる感じがする。

もう一個は俺の保護下に入ること。上の奴らもそうそう文句つけられねー状況になるしな。

お前は建前として一年生として入学してもらう。同級生は二人いるよ」

 

また、あの高専に、、、

 

「悠仁はどうしたい?」

 

「俺?」

 

「嫌なら断って構わないよ」

 

行きたいかと言われたら、そうではない。

 

過去のトラウマが蘇るだけだ。

 

「、、、五条さん、俺の同級生になる人ってどんな人?」

 

「一人は伏黒恵。一年にして二級を取得している天才。もう一人は釘崎野薔薇。この子はなかなか面白い術式だな。藁人形って知ってるだろ? それを使った戦い方をする」

 

やはりか。

 

今回の同級生も変わらず伏黒と釘崎。

 

会いたいと思う気持ちはあるが、まだ勇気が出ない。正直、怖い。

 

「、、、悟。今はまだ難しいみたいなんだ。悠仁は高専にいけない」

 

見かねた夏油さんは、そう言葉にした。

 

「そ、んじゃあ夜蛾先生の人形を持ってくるよ。家で訓練しな。傑も見てやれよ」

 

「分かっているよ」

 

五条さんは荷物を持って立ち上がった。

 

「また暇な時に来るわ。訓練頑張れよ」

 

頭をガシガシ撫でられ、五条さんは外へ出ていった。

 

「、、、悠仁は高専行くの怖い?」

 

夏油さんがそう問いかけてくる。

 

「まだ、ちょっとね」

 

出てきたのは、情けない自分の声だった。

 

5

 

数週間後。

 

学校が終わり家に帰ると、玄関の前に段ボールが置いてあった。

 

頼んだ記憶のない段ボールを家の中に運び、観察する。

 

宛名には夏油傑様、差出人には五条悟と書かれていた。

 

中身は予想がつくが、人の荷物を許可なく開くわけにもいかないので、段ボールを家に入れ、夏油さんの帰りを待つことにした。

 

「たっだいまー」

 

初めに帰ってきたのは菜々子だった。

 

「あれ? 美々子は? 一緒じゃねーんだな」

 

「なんか二者懇談あるんだってさ」

 

そう言う菜々子はサブバッグを下ろし、ソファーに座った。

 

「制服脱げよ、皺になるぞ」

 

「えー、でもさ、今日の制服姿超可愛くない?」

 

「うんうん、可愛い可愛い」

 

お決まりの「私可愛い自慢」をしてきたので、容赦なくぶった斬った。

 

しかし、菜々子、それだけでやられるタマではないのだ。

 

「聞いてないし! それだから彼女ができないんだよ!」

 

「うるせぇよ! それは関係ねーだろーが!」

 

こうして俺たちの喧嘩が始まるのだ。

 

しばらく言い合いをしていたが、菜々子が何かに気づき、口を止めた。

 

「それ段ボールだよね? なんか頼んでたっけ?」

 

うわー、五条さんのやつじゃん。

 

「えっ? あー、夏油さんが頼んでたやつらしいよ」

 

「へー、傑さんがね。珍しいね、ネット通販よりお店で買う方が好きなのに」

 

なかなか鋭いじゃないか、小娘。

 

「まー、夏油さんだってネット使わないことはないしさ、ね?」

 

苦しいと思うが、これで耐えてくれ。俺はあまり嘘をつくのが得意じゃないんだ。

 

「ふーん」

 

含みのある声を出されて緊張してしまう。

 

「な、なに?」

 

何を言われるのだろうか。

 

ドキドキしながらそう言うと、

 

「悠仁と傑さん、私たちに隠してることあるでしょ」

 

痛いところをストレートに刺してきた。

 

「えっ? いや、えっと」

 

流石にこれ以上続けるのは野暮か?

 

「、、、言えないなら言えないって言って。下手に誤魔化されたり嘘つかれることの方がよっぽど嫌」

 

「、、、っ」

 

「この間、白髪の男の人が家に来た時あったじゃん。その時、悠仁さ、私と美々子を無理やり部屋に押し込んだよね。下から怒鳴り声だって聞こえたし、美々子も不安がってた。

結局聞けずじまいだったし、下手に何か言われるのも嫌かなって思って何も言わなかったけどさ、その荷物もあの男が関係してんでしょ?」

 

全くもってその通りである。

 

「、、、それについては正直どうでもいいよ。大事なのは、美々子と悠仁と傑さんが、私から離れないことだから。、、、家族なんだもん」

 

隠し事は嫌だよな、“家族”なんだから。

 

「、、、菜々子が不安になることなんか一つもねーよ。事情はまだ言えねーけど、俺たちが家族だってことは絶対変わらない。それだけは命懸けたっていい。

、、、ごめんな。不安にさせちまって。色々片付いたら、菜々子にも美々子にも、ちゃんと話すよ」

 

納得はいってないが、理解はできたようで菜々子は大人しく引き下がった。

 

「、、、わかった。待っててあげる」

 

「ん、ありがとう」

 

俺も、まだまだだな。

 

*

 

「映画でも見ようか」

 

このまましんみりした雰囲気で終わりたくはない。

 

先ほど店で買ってきたDVDを取り出した。

 

買ってきたのはミミズ人間ファイブ。

 

前作に登場したミミズ人間の子供が主人公となる物語なのだ!

 

この映画のテーマは、前作とは打って変わり「孤独」である。

 

ミミズ人間シリーズがようやく生まれ、続きが見たいとずっと待っていたのだ。

 

さっそくポテチとコーラを用意して菜々子と見る。

 

展開が進むにつれ菜々子が顔を顰め始め、最後には「つまんない!」と言って部屋に戻ってしまったのだ。

 

続けて帰ってきた美々子も、テレビの画面を見ると同時に嫌な顔をして二階に上がった。

 

女の子って難しい。

 

2本目のちょこちょこちょびすけの終わりがけ、車の音が聞こえた。

 

居間への扉が開き、

 

「おかえりー!」

 

と顔だけ夏油さんに向け、映画の続きを見る。

 

夏油さんは「また変なの見てるの?」と渋い顔をしていた。

 

エンドロールまでしっかり眺め、余韻に浸る。

 

牛乳を飲みながら、しばらくぼーっとしていた。

 

頭の中の世界から戻ってきたのは、夏油さんの「この段ボールなに?」と言う声だった。

 

「五条さんから送られてきたやつっぽいよー」

 

「あ、ほんとだ。差出人に名前書いてある」

 

カッターを取り出し段ボールを開く姿を見つめる。

 

中から出てきたのは予想通り、独特のデザインが施された人形だった。

 

正直嬉しくはなかったが、

 

「これ絶対夜蛾先生のでしょ、、、」

 

と言う夏油さんが面白かったのでよしとする。

 

「それじゃあ、一回試してみるかい?」

 

夏油さんの声かけに得意げに返事をした。

 

*

 

____ボコッ

 

あれ?

 

____ボコッボコッ

 

あれれ?

 

____ボコッボコッボコッ

 

あれれれれ?

 

「夏油さん! 全然できない!」

 

「ハハハ、コツがいるからねー。私も苦戦したよ」

 

それにしてもおかしいな。前回はちゃんとできてたはずなんだが。

 

でも、ここ10年間まともに呪力使ってないしな。呪霊もあまり見ない場所だし、納得できるかと言われればできないこともないか。

 

「えー、なんでー?」

 

「ちなみに悠仁は今、宿儺の技や赤血操術は使えるかい?」

 

「どうだろ。一旦外出てもいい?」

 

「あぁ」

 

家から5分ほど歩き、人がいなさそうな開けた場所に来た。

 

的を用意し、赤血操術を使おうとするのだが、左に思いっきりズレた。

 

もう一度打とうとしたが、今度は右に大きくズレる。

 

なんとか当てようと躍起になり力を込めると、夏油さんの呪霊が目の前に出て威力を緩和した。

 

しかし、それで収まることもなく、半径五メートル間の木が次々と倒れたのだ。

 

肩を叩かれ、ゆっくりと振り返る。

 

そこにあるのは、笑顔だけど笑顔じゃない夏油さんの顔だった。

 

「、、、山を破壊するつもりかい?」

 

、、、いや、、ごめんじゃん。

 

解も一応試してみたのだが、上手くいったとは言えなかった。

 

思い返せばオッサン(甚爾)に攻撃が避けられまくったのって、これが関係してるのかと思ったが、あれは人外なのでという結論におさまった。

 

参考材料が悪すぎる。

 

呪力のコントロールなど既にできているものだと思い、訓練などやってこなかったが、ここにきて弱点になるとは考えもしなかった。

 

どうりで黒閃を一度も打ててないわけだ。

 

そのため、宿儺の指の摂取量を増やして補っていたのだ。

 

赤血操術と宿儺の術式が使えるのはわかっていたので、あとは過去の記憶と感覚を頼りに頑張るだけ。

 

もっとも、幼児である自分と高専に入ってた自分じゃ感覚などまるで違うと思うが。

 

数時間たち、夏油さんが「今日はここまでにしようか」と終わりを告げた。

 

「だねー。あーもう全然できんかったわー。悔し〜」

 

なんでできないんだろうか。

 

うーん、何が足りないんだ?

 

「ふふ、まずは基礎からだね。

悠仁は数学の途中式ができないのに答えを丸暗記してる状態なんだ。莫大な呪力でのゴリ押しがメインになってるしね。体を壊さないためにも基礎から学んだほうがいい。わかったかい? 悠仁くん」

 

だよなー、基礎を怠るのはダメだよなー。

 

あの時もほとんどゴリ押しだったし、体への負荷ヤバかったしな。

 

、、、それにしても悠仁くん。

 

「、、、悠仁くん呼びやめてよ、夏油先生」

 

夏油さんをジロリと睨みつけた。

 

「ふふふ、反抗期かな?」

 

「夏油さん!! そういうのが一番嫌われるんだよ!!」

 

「ごめんごめん、アイス買ってあげるから許してよ」

 

こちらのご機嫌をとるようにそう言われる。

 

ムカつくな、この大人。

 

「ハーゲンダッツ!!」

 

「はいはい」

 

膨れた俺のほっぺを触ろうとした指を引っ叩き、近くのスーパーに寄った。

 

ハーゲンダッツの他に食材も買った方がいいと思い、お互い片手に一つずつビニール袋を持って帰って行くのだった。

 

6

 

ピンポーン

 

チャイムが鳴った。

 

「悠仁」

 

真っ先に俺の名前を呼ぶのは美々子だ。

 

「悠仁ー、出てきてー」

 

そして追撃を入れるのが菜々子。

 

「えー、やだよー」

 

「いいから出てきてよー!」

 

「えー」

 

今日は土日で学校が休みのため、子供組は家でまったりしてるのだ。

 

夏油さんはと言うと、仕事が入ったらしく外出中だ。

 

不服ではあるが、相手を待たせるのも良くないと思い、扉を開く。

 

「すいませーん、遅くなっちゃいま、し、、、」

 

「なんすか?」

 

目の前にいるのは黒髪のツンツン頭の少年。

 

高専の人間だとわかる渦巻き模様のボタンが付いている。

 

理由はわからないが、なぜか不機嫌そうだ。

 

「マジで何? 、、、大丈夫すか?」

 

「い、いや、、ごめん、、ははは、、、」

 

笑えない、本当に笑えない。

 

なんて冗談だ。

 

「、、、なんでもいいすけど」

 

少年は”影”からものを出し、俺に突き出した。

 

「これ、届け物です」

 

手渡されたものは黒い巾着と手紙だった。

 

「え? なにこれ」

 

「文句は五条先生に言ってください」

 

「え? 五条さん? なんで?」

 

「俺は知らない」

 

「はあ」

 

疑問は残るが、とりあえず巾着の中身を確認してみた。

 

中には手錠が、、、

 

顔を引き攣らせながら伏黒を見る。

 

彼は可哀想なものを見る目をしていた。

 

伏黒はよく五条さんに振り回されてたし、同情でもしてるのだろう。

 

中身をゆっくりと持ち上げ、伏黒にも見せる。

 

「手錠入ってんだけど、、、?」

 

「あの人マジか!?」

 

驚きとドン引きが勝った伏黒は、苦々しい顔をした。

 

*

 

せっかく東京から来たのだ、長旅で疲れたことだろう。

 

せっかくだし中に入れ、もてなすことにした。

 

「これ、お茶と、茶菓子なー」

 

「、、、ありがとう」

 

客人を入れると聞いたミミナナは「白髪?」と聞いてきたので「黒髪」と答えたら、部屋に戻ることを選択した。

 

五条さんが危険対象になったらしい。

 

わからなくもないが。

 

「本当にいいのか? 邪魔になるだろ?」

 

「いいんだよ。ここら辺じゃ人だって全然いないし、こうして訪ねてくれる方が嬉しいの」

 

伏黒と出会った瞬間は、本当に驚いた。

 

会ってはいけないと思っていたくらいなのだし。

 

それもこれも、あの手錠が持っていってしまったので、結果オーライと言えば結果オーライなのだろう。

 

まずは二回目の自己紹介をする。

 

「名前何? 俺は虎杖悠仁」

 

「伏黒恵だ」

 

短く返ってきた名に、形として「へえ」と頷いた。

 

「ん、伏黒ね。五条さんとは付き合い長いん?」

 

「俺が小学生の頃からずっとだ」

 

即答だった。

 

その声音にはうんざりしたものが混じっている。

 

「長いね。大変だったでしょ?」

 

「大変なんてもんじゃねーよ。もう最悪だ」

 

伏黒は心底嫌そうに眉をひそめる。

 

虎杖は思わず笑った。

 

「溜まってんね」

 

「、、、虎杖は呪術師なのか?」

 

話題を変えるように伏黒が尋ねる。

 

「いや、違う」

 

「じゃあ、なんであの人と交流持ってんだよ」

 

「あー」

 

俺は後頭部を掻いた。

 

「俺、まだ呪力のコントロールができなくてさ。今は訓練中なんだよ」

 

「高専には行かないのか?」

 

「、、、俺だって人並みに死ぬのは怖いし」

 

少しだけ視線を落とす。

 

「それに、ここには俺の帰りを待つ家族がいるからな」

 

伏黒は一瞬だけ黙った。

それから小さく頷く。

 

「そうか。それが一番いいと思う」

 

少しはにかんだような優しい顔だった。

 

「、、、伏黒はなんでここ来たんだよ」

 

今度は俺が聞き返す。

すると伏黒は露骨に顔をしかめた。

 

「全部五条先生のせいだ。ここは京都高の領分だってのに」

 

「なるほど。さすが五条さんだわな」

 

苦笑してしまう。

 

「五条さん、そういうの気にしなさそうだもん」

 

「気にしてたらもっと平和だ」

 

ぼそりと返ってきた。

 

「てことは、さっきの届けるためだけにここまで来たん?」

 

「いや。呪霊の討伐もしっかり入ってやがった」

 

伏黒は深いため息をつく。

 

「帰ったら一発殴ってやる」

 

「当たるといいね」

 

「本当にな」

 

そう言った伏黒の表情は真剣そのもので、俺はつい吹き出してしまった。

 

「そろそろ行くわ」

 

時計を見ると、すでに40分ほど経っていた。

 

「ごめんな。長い間引き留めちまって」

 

「構わねーよ。ありがとな」

 

初めて来た無愛想な客人、そして仲の良かった前世の友人はこちらを振り返ることなく高専へ戻って行った。

 

7

 

「悠仁、おはよう」

 

朝のリビングに美々子の声が響く。

俺はソファから顔を上げた。

 

「おはよう、美々子。菜々子はどうしたんだよ」

 

「まだ寝たいって」

 

「不健康だなー。まー、休みだしいいのか」

 

俺は呆れたように笑いながら、テレビのリモコンを手に取る。

 

「何みるの?」

 

「え? ミミズ人間」

 

一瞬、部屋に微妙な沈黙が落ちた。

 

「、、、私、見たいのあるから貸して」

 

美々子が無言で手を差し出す。

 

「何見んだよ」

 

「普通に地上波のやつ」

 

「負けたわ」

 

DVDと地上波の番組では勝ち負けは明らかなので、素直にリモコンを渡した。

美々子が見ているのは、最近話題の恋愛ドラマなのだとか。CMで見たことのある俳優が次々と登場していた。

 

気がつくと菜々子も居間に来ており、隣に座ってポップコーンの袋を掴んだ。

力を込め開けようとするが、なかなか開けられないらしく、ハサミに移行した。

 

「痛っ」

 

テレビを見ながら袋を切っていたため、手元が狂ったのだろう。

 

「グッサリいったな」

 

「菜々子大丈夫?」

 

痛みに菜々子が顔を歪める。

 

「マジ痛いんだけど、絆創膏あったっけ?」

 

「俺、持ってくるわ」

 

救急箱を探しに席を立つ。

 

救急箱とビニール袋を持ち戻ってくると、美々子が菜々子の指をティッシュで押さえていた。

 

「悠仁、結構深く切ってるみたい」

 

美々子が心配そうに言う。

 

「美々子、変わってみ。血がついてるから先に手洗ってきな」

 

美々子はすぐに従い、手洗い場に向かう。

双子とは言え、人の血液に触るのは良くないだろう。

菜々子の止血にあたるため、手にビニール袋をはめて傷口を圧迫した。

 

菜々子が顔を歪めるのがわかる。

 

美々子も戻ってきて、菜々子の顔を見てオロオロとしていた。

傷の状態が思ったより悪い。

 

傷口に当たる部分に僅かに反転術式を使ってみる。

 

普段使うのとは違い、極力呪力が見えないよう最小限の出力に抑えて。

患部に当てているが、なかなか状態が良くなる気配はなく、呪力の出力を上げた。

自然と腕に力がこもる。

 

「痛い!!」

 

菜々子の悲鳴が上がった。

動揺して思わず力んでしまう。

 

その時だった。

 

抑えていた呪力が制御を失い、周囲に影響を及ぼす。治すはずの力が暴れだし、二人も巻き込まれてしまった。

 

__________ドサッ

 

こうして虎杖の悲鳴が、部屋いっぱいに広がったのだった。

 

*

 

仕事が終わり、家に帰る。

 

玄関に入っても音がせず、廊下を進む。

 

居間にいるなら三人の会話が聞こえるはずだし、美々子と菜々子が居間にいなくとも、悠仁が映画を見ているだろうから。

 

部活や学校の都合でたまたま遅いだけか? などと考える。

 

居間の電気は付いていた。

 

中に入ると、美々子と菜々子が怯えたようにお互いを抱きしめあっており、悠仁は隅で体育座りをしていた。

 

異様な光景だ。

 

「、、、何があったんだい?」

 

そう言葉にすると、悠仁は外に飛び出してしまった。

 

ただごとではないのがわかる。

 

美々子と菜々子に怪我がないのを確認し、悠仁を追いかけに家を後にした。

 

 

しばらくすると、ゴミ捨て場に座る悠仁が見えた。近づこうとしたら、私を見るなり悠仁は叫び、暴れ出した。手持ちの呪霊で無理やり抑え込み、落ち着くまで待つ。

 

「、、、夏油さん、俺、俺が、俺! が!!」

 

どうやらまだ興奮状態が続いているようだ。

 

呪霊が縛る体を解放し、今度は私が強く抱きしめる。そうすると次第に力が抜けてきたのか、悠仁は大きな声をあげて泣き出した。

 

泣き終わると状況がわかってきたのか、私の手の拘束から抜け、体育座りをして顔を膝に埋めたのだ。

 

「悠仁、何があった? 大丈夫かい?」

 

頭を埋めたまま、悠仁は答えた。

 

「俺が、美々子と、菜々子を、傷つけた。反転術式が、上手くいかんくて、俺が、間違えて。

、、、治そうとしたのに、結局、傷つけるだけになって、それで、、、」

 

絶え絶えになりながらも、もらった情報を咀嚼し、落とし込む。

 

「悠仁は怪我を治そうとして失敗したって認識で合ってる?」

 

首を縦に振るのがわかった。

 

しかし、一向に顔を見せる気配がない。

 

「家、帰れるかい?」

 

確認がてら悠仁に尋ねる。

悠仁は首をゆっくりと横に振った。

 

美々子と菜々子に会うことは、今の悠仁にとって酷だろう。

良い方向に進むとは思えない。

一度、二人とは距離を取らせるべきだ。

 

しかし、私が家を離れ、二人を放置するわけにもいかないので、誰かに頼らなくてはならない。そうなると、相手は信頼できる呪術界の人間になる。

 

今まで呪術界と線を引いていたのが、ここにきて仇になるとは、、、

 

しかし幸運なことに、一人当てはまる人物がいるのだ。

 

動くのは早い方がいい。

 

スマホを操作し、

 

“親友”

 

に電話をかけたのだった。

 

第二章・完




余談

最後まで読んでいただきありがとうございます!
今作に捕捉して説明させていただきます!

五条悟について
キャラ崩壊してるって思ったらごめんなさい。突然いなくなった夏油傑との再会&和解ですし個人的に泣いて欲しいなって思って泣いてもらいました。ちょっと子供っぽくなり過ぎてるかもしれないです。


ミミナナについて
原作では夏油のことを夏油様と読んでいますが、この作品では夏油は呪詛師ではありませんし、虎杖もいるため夏油への依存度が低い傾向にあります。神様というより自分の保護者と見ているの方が近いため傑さんと呼んでもらいました。虎杖はずっと夏油さん呼びなのでそのまま続行です。何かの機会で傑さん呼びにしても面白そうなのでそこは検討中です。


虎杖の反転術式の事故
ハンマーで強く叩くのは簡単だけど、卵を割らずに軽く叩くのは難しい。大胆に使う分には簡単ですが繊細に使おうとすると制御が難しくなるイメージです。
ミミナナは呪霊が見える側の立場ですが夏油と虎杖の方針で呪術界とは関わりを持たせないようにしています。そのため虎杖が見えないように、あえて力を押さえた状態の反転術式を使い爆発したって感じです。


次回は虎杖がどのようにミミナナと向き合うのか成長していく話になります!
お楽しみに!!
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