機動戦士ガンダム外伝 斬凶戦記   作:野武士山芋侍

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●★●★●作者からの重要なお知らせ●★●★●

タグはR-15ですが、今回は随所にアダルティな表現を含みます。
苦手な方はブラウザバック推奨。

●★●★●重要なお知らせおわり●★●★●


第十九話 宇宙(そら)へ、共に

 

ジャブロー基地の外れ、森林地帯。

ボロボロになった片腕のグフフライトタイプが北へ向けてひた走る……しかし損傷が激しく、もはやホバー移動すらままならない。

「クソッ、コイツもここまでか!役立たずめ………」

ハンスが悪態をつく。

警告灯が軒並み灯り警報音が鳴りっぱなしの狭いコックピット内には、彼と同僚兼恋人のアナスタシアが体を密着させて収まっていた。

彼らはあの後どうにか連邦軍の包囲網を破り、さらに基地の警戒網の外にまで抜け出すことに成功していたのであった。尤も、連邦軍の執拗な追撃に愛機をここまで追いつめられたが。

「ここまで逃げられたのなら、後は友軍の救助を待つだけじゃない?」

「甘いよ、アナ。ジオン公国軍は敗北者に対してそんなに『優しく』はない………あぁぁッッッ、ダメだ、クソォ!!」

コックピット内のディスプレイが悉く消え、機体は大きく揺れて膝をつく。

「……ここまでか。コイツはもうここに捨て置くしかないな。」

「そうだね、サバイバルキットは…」

シート下からサバイバルキットを取り出してハッチを強制排除、2人で外に出る。

ジャブロー基地の方角からは黒煙がいくつも上がっている。先行したガウ攻撃空母の編隊がかなり徹底的に爆撃を加えていたので、その火災がまだ収まっていなかった。

ハンスに抱きかかえられてグフから降りたアナスタシアが、静かに呟く。

「………コマツ大尉、大丈夫かしら。」

しかしそれとは対照的に、ハンスは彼女を降ろしながら冷たく言い放った。

「死んでるだろうな、間違いなく。」

「そんな!!…そんな、言い方……やめてよ。」

アナスタシアは少し声を荒げたがすぐに小さくなり、顔を伏せて涙ぐむ。

アナスタシアにとってコマツ大尉はさながら父親のような存在だった。

実戦では何度も助けられただけでなく、MS操縦のノウハウを教えてくれたり、また任務外では不埒な兵士達から幾度も守ってくれたり…。

それこそサイド3で暮らしていた頃の厳格な実の父親よりはるかに、自分を娘のように扱ってくれた存在だったのだ。

ハンスも彼女のそういった事情を知っており、また自分も助けられた身であるため、コマツ大尉の事についてそれ以上は何も言わなかった。

「救助ビーコンは既に立ち上げてるから、運が良ければここに友軍が助けに来るだろうね。連邦軍の方が先かもしれないけど。」

「……もし連邦軍の方が、先に来たら?」

俯いて背を向けたまま、ぽつりと呟く。

「僕も君も士官だ。もし捕まったとしても、そうそう乱暴されるような事はないだろう。」

アナスタシアに向き直り、優しく抱き寄せた。

「………ただ、何しろ奴らの本拠を小突いた後だ。君がもし危ない目に遭いそうになったら、何としてでも君だけは守るさ。」

「ハンス…ありがとう。でも…もし私が汚されたりしちゃったらその時は、ごめんね。」

「やめてくれよ!!」

身体を離し、すぐ傍の木陰に腰掛けた。

「…そんな事、想像したくもない。」

首を振って顔を顰める。

アナスタシアもハンスの隣に腰掛け、再び身を寄せて耳元でそっと囁いた。

「それとも………先にハンスが、ここで私を汚してくれる?」

思わず顔を上げ、彼女に顔を向けると目が合った。予想外の大胆な台詞に困惑しながらも、それを誤魔化すように大声で咎める。

「よせよ!!バカな事言うもんじゃない!!」

「私は、いいよ?ハンスなら。」

平然と答え、ハンスの手を取って自分の胸に当てがう。柔らかな感触とともに、彼女の心臓の鼓動と体温が伝わってきた。

一気に赤面するハンス。

「………アナ、本気なのか?」

「来て。でも………優しくしてね?」

ゆっくりと顔を近づける二人。互いに目を閉じた…………。

しかしここで、僅かな地響きとエンジン音のようなものが聞こえてくるのに気づく。

「……何だ?何か来る。」

立ち上がり、周囲を見渡した。

するとすぐ隣の河川の水面が盛り上がり、巨大な潜水艇が現れる。

ジオン公国軍のプローバー級情報収集艦だった。クルーが艦内からスピーカーで呼びかける。

《おい、そこの二人!!ジオン兵か?!……救助ビーコンを拾ってきた、すぐに乗れ!!》

顔を見合わせた。ハンスは少し笑みを浮かべて呟いた。

「………行こうか。」

「………うん。」

安堵感とともに二人は、手を繋いだまま垂らされたタラップに駆け寄る。

ハンスとアナスタシアを乗せたプローバーは静かに潜航し、暗い川底へ消えていった………。

 

地球連邦軍、ジャブロー基地。

地下のMS格納庫に戦闘を終えた機体が次々と帰投してきていた。みな大なり小なり損傷を負ってはいるものの、いずれも修理不能なほどの損傷ではない。

大型トレーラーに載せられたバーリングの愛機も、ホバートラック「アルマジロ」とキムの陸戦型ジムに先導されつつ運ばれてくる。

ズゴックの3本のアイアンネイルは開いた状態で突き立てられてそれぞれ頭部、右胸、左脇腹を貫き、陸戦型ジムを機能停止に追い込んだ。

しかし幸いにしてコックピット中心への直撃は避けられていたため、バーリングは命拾いしたのであった。

そこへ別行動していた第2分隊、パーシヴァル大尉とサラの61式戦車2輌も合流。

《……大尉!!陸戦型ジムが1台ヤられてる!!》

「何だと?!おい、アレは……!!」

トレーラーに載せられたバーリングの陸戦型ジムを見て青ざめるパーシヴァル大尉。

戦車から降りるやいなやホバートラックから出てきたダンカン少佐に詰め寄り、問いただす。

「……大丈夫だ、バーリングは無事だ。掠り傷を負ったが、命に別状は無い。」

それを聞いて安堵する戦車分隊の面々。ザジーは大げさなため息とともに、その場に尻餅をついた。

「なるほど、兄貴の『ラッキー・バーリング』の異名は伊達じゃなかったって事か………。」

「ハハハハハ!!『ラッキー』か!!アイツらしい異名だな。大した奴だよ全く……。」

豪快に笑い飛ばすパーシヴァル大尉。しかしここで、サラが再び心配そうに問いかける。

「少佐殿、ところで……バレンツィーノ大尉は?……モリタ准尉は?」

「そっちも心配いらない。連絡があった………噂をすれば何とやら、だ。」

ダンカン少佐が地下へ続く道路のほうに振り返って親指で示すと、MS特有の重々しい足音とともに現れるやはり見慣れた陸戦型ジム2機。

バレンツィーノ大尉とシンイチの機体だった。

珍しく笑顔を浮かべ、MSハンガーに歩み寄る2機に手を振るサラ。

「ウチのエース達のご帰還だ、精々派手に出迎えてやろうじゃないか!!」

「はい!!」「合点承知!!」「…………!!」

パーシヴァル大尉の号令一下、彼らもドヤドヤと歩き出す。

両機ともやはり損傷は無いようで、そのままゆっくりとハンガーに固定された。

コックピットから降りてきた二人にキムが合流して並び、ダンカン少佐の前に立つ。

バレンツィーノ大尉が敬礼し、帰投の申告を始めた。

「申告します。ユージン・バレンツィーノ大尉以下3名、帰投しました。敵MS撃破確実3機、我方の損害は小破2、中破1、大破1。なおジョナサン・バーリング曹長は負傷につき搬送、以上です。」

頷き、返礼するダンカン少佐。

「………うむ、よくやった。この激戦の中、誰も犠牲にならずに還ってきただけでも上出来だ。上への報告は俺に任せて、もう上がっていいぞ。」

「了解。………それでは小隊各員、わかれ(解散)!!」

全員で敬礼。

ホバートラックのクルーや戦車分隊の面々だけでなく、整備兵達も次々と集まって出迎えるが、シンイチは気にも留めない。歓声も拍手もどこか他人事のようで耳に入らず、肩を落としたままただヨロヨロと歩いて立ち去っていく。

(………?シンイチさん?)

サクラだけは、彼のその異様な雰囲気に気づいた。

「…あれ、どったの?」

「すみません、少し外します。…すぐ戻ります!」

キムにヘッドロックをかけている最中のサブリナにそう言い残すと、シンイチの背を追って駆け出した………。

 

シンイチの自室。無機質なエアコンの音だけが響く、薄暗い室内。

ファスナーを下ろしてパイロットスーツを上だけ脱ぐと、ベッドに腰を下ろしてがっくりと項垂れた。

大きなため息。吐息すら少し震えている。

疲労もあるが、精神的な負い目や罪悪感は今回ばかりはもはや数倍以上だった。

しかし、押しつぶされないよう心の中で必死に自分に言い聞かせる。

(……自分を責める必要は無い。やるべき事はやった、全力を尽くした。ああするしか無かった。コマツ師範を救うには………)

唐突に、葛藤が生まれる。それは胸を締め付けながらどんどん膨れ上がった。

(……救うには……何とか説得出来なかったのか。もしあそこで助け出せれば、バレンツィーノ大尉やダンカン少佐が上層部にうまく取り計らってくれたんじゃないのか。だとすれば、俺のやった事は……)

(何が、『斬る』だ。結局殺す事しかできない俺に、何が………)

後から後から、思い浮かぶ「別の道」。そして後悔と自責の念。溢れる涙。

全ては、もう遅すぎた………。

と、ここで、入り口のドアをノックする音。

「………シンイチさん?サクラです。入っていいですか?」

その声を聞くや慌てて顔を上げ、目元を拭う。

急いで立ち上がり、ドアに駆け寄って鍵を開けた。

「あっ…あぁ、やぁサクラ!…どしたん?」

明るい風を装うが、サクラは心配そうな顔。

「……急に歩いて行っちゃうから、何かあったのかな、って。大丈夫ですか?」

「別になんともないよ、少し疲れてるだけさ。別に……」

言葉を遮って、サクラが迫った。

「嘘、シンイチさん何か変よ!!何だかものすごく思い詰めてる感じだったもの。あたし、あたし心配で……」

「……そっか、それは……ありがとう。入んなよ。」

今にも泣きそうな雰囲気で顔を伏せるサクラに、ばつが悪くなったシンイチは部屋に入るよう促した。

 

ベッドに並んで座る。少しばかり沈黙が続いたが、シンイチが重い口を開いて語り始めた。

「『例のグフ』、覚えてる?」

「………はい。デルタ小隊を全滅させた、あの……」

「そう。今回またそいつに出会した。それで……ついに斃したんだ、今日ようやくね。」

「それって………!」

手を挙げて遮り、さらに続ける。

「前々からずーっと、気になってた。例のグフのパイロットの事がね。もしかしたら、知ってる人なんじゃないかって。」

「知ってる……人?」

シンイチの顔を覗き込む。

「……俺が高校時代、一時期サイド6に留学していた話はしたね。お世話になった剣道の師範が居たってのも。」

サクラが頷くと同時に何かを察したが、あえて何も言わない。何も言えない……。

「風の噂でその人が軍隊に入ったって話は聞いた。考えにくい事だけど……」

目を閉じて、眉間を摘む。シンイチは無意識のうちに苦々しい表情になっていた。

「どういう理由や経緯があったかは分からないけど、その人……コマツ師範は、コマツ先生は……あぁクソッッッ、やっぱり…」

目をきつく閉ざすが、涙が溢れるのを抑えられない。途中から声が潤む。

サクラがシンイチの肩にそっと手を添えた。

「シンイチさん、無理しなくても…」

「……いや、言わなくちゃならない。受け入れなくちゃ……乗り越えないといけないんだ。………そのコマツ先生は、あのグフのパイロットだった。」

サクラは息を呑み、思わず両手で口元を覆う。

「俺が……俺が、殺したんだ。コマツ先生を。……俺が………俺が………」

頭を抱えて泣き崩れた。サクラはただ、シンイチの背を優しく撫でる事しかできない。

少しして、顔を起こす。すっかり涙に濡れてはいるが、はっきりした強い口調で語る。

「俺は軍人だ。軍人である以上、殺すのも殺されるのも当然覚悟の上さ。…………でも、でもな。」

再び声が弱々しくなり、サクラに向き直る。

「………今度のは、ちょっとばかりヘビーすぎる、かな。」

無理矢理に、笑顔を繕ってみせた。再び目元に手を当てて、俯いた。

「……悪い、取り乱して申し訳ない…………」

少し後。

手でゴシゴシと目元を拭って顔を上げ、明るい雰囲気を取り繕う。

「さぁて、こんな事でメソメソしてちゃいられないな!!すぐに……あれ?えっ?」

立ちあがろうとするシンイチの両肩を押さえるサクラ。再びベッドに座った状態の彼を、そのまま何も言わずに優しく包み込むように抱きしめる。

少しの間呆然としていたが、サクラの身体から伝わる温もりと心臓の鼓動が、今まで必死に押し殺していた感情を一気に溢れさせた。

流れ出る涙を、抑えられない。

サクラが優しい声で語りかける。

「……シンイチさん、辛いのなら無理しないで。いつか言ってたよね、『辛い時は甘えていい』って。あたしも……あたしも、シンイチさんを支えたいの。だから……」

「シンイチさんも、辛い時はうんとあたしに甘えて。壊れそうになったら、いつでも来て。」

その聖母のような振る舞いに、思わず嗚咽するシンイチ。サクラの腰に手を回して、胸に顔を埋めたまま人目を憚らず泣いた………。

 

…ひとしきり涙を流したシンイチは、我に帰ると同時にサクラの胸から顔を離す。

「……あっ!!あぁしまった、何てこった!!君の服、胸元が…!!」

シンイチが流した涙でサクラの軍服の胸元は少し湿っていた。

「えっ、いいですよこれくらい!すぐ乾きますから…」

慌てて立ち上がり、手近の衣装ケースからタオルを取り出す。

「いやいや、ちょっと拭いたほうがいい。全く情けない、ホント俺とした事が……あ゛ぁッッッ!!!」

「やッッッ!!」

慌てていた事に加えて半脱ぎ状態のパイロットスーツに躓き、ベッドに座ったままのサクラに覆い被さるように倒れてしまった。さらにシンイチの右手は、サクラの豊満な胸に………。

互いに真っ赤な顔になる二人。シンイチに至ってはそのまま全身フリーズしてしまう。

「……シ、シンイチ…さん?シンイチさーん?お、おーい、大丈夫、ですか?」

か細い声で呼びかけるサクラ。返事が無い。

照れくさそうに、少し顔を逸らして言う。

「…………シンイチ、さん……ちょっと、恥ずかしい……よ?」

ここで、シンイチ再起動。同時に体操選手の如く飛び起き、そのまま床に突っ伏して土下座した。

「ほおおぉぁぁぁッッッ!?!?ごめん!!!!本当にごめん!!!!違うんだ、そういうつもりじゃ……いやホント違うの、わざとじゃなくて……!!とにかく、ごめん!!この通り!!!!」

一気に捲し立て、床に穴を開けんばかりの勢いで額を擦り付ける。その様子を見たサクラはポカンとしていたが、すぐに……。

「………ぷっ、アハハハハ!!シンイチさんったら、すごい動き……何今の、アハハハハ……!!」

たちまち、大笑い。シンイチは呆然とする。

「……アハハ、……ハァ…やだもう、またこんなに笑っちゃった。大丈夫よシンイチさん、あたし何も気にしてないから。」

眼鏡を外し、笑いすぎて出た涙を拭う。シンイチが安堵のため息を漏らしつつ立ちあがった。

「……ッッッはぁ〜〜、いやいややっぱりこういうのは段階を踏んだほうがいいよ、良くない良くない…」

サクラが珍しく意地悪な笑みを浮かべつつ、人差し指を唇に当てて言う。

「じゃあ……その『段階』、踏みますか?シンイチさん。」

シンイチが驚愕し、振り向く。

「えッッッ?!?!それは……どういう?!?!」

「さぁ……何でしょうね?ウフフフ……♡」

サクラがわざと胸を抱えるように腕を組んだ。

「だッッッ………ダメダメ!!まだ……ダメ、だよぉ?!?!」

一度背を向けたと思ったら再び妙なポーズで振り返るシンイチ。その様子に、またも笑い出すサクラ。

室内は無機質なエアコンの音と、笑い声で満たされた………。

 

それから、襲撃の後始末が終わったジャブローで宇宙での新体制が発表となる。

第41機械化混成中隊はルナツー補給艦隊所属艦への配備が決定し、MS中隊指揮官としてバレンツィーノ大尉がそのまま着任。

また中隊の戦力も増強され、シンイチ達第1小隊の4機に北米から異動してきたリマ小隊の生き残りやアークライト中尉率いるガンキャノン分隊も加えて、MS総勢12機の大所帯となった。

反対にダンカン少佐と戦車分隊の4人はジャブローに残留となり、後者はMS「ガンタンク」搭乗のための機種転換訓練を受ける。

ホバートラックのクルーも、残留となったダンカン少佐を除いて全員宇宙行きが決定したのであった。

再び異動準備に追われ、休む間もなく多忙な時間を過ごす面々。同じく宇宙への転身が決まった他の部隊も同様で、基地内はまたもやごった返す。

 

………そして。

準備がひと段落し、出発をいよいよ明後日に控えた日のジャブロー基地MS格納庫。

陸戦型ジム4機は機体各部の消耗状態から(キムの乗機も他戦線から回されてきた中古機だった)、使える部分だけを残して全て解体処分となる。

ホバートラックと61式戦車は再整備の後、他戦線への配備が決定。

41中隊の面々は、自身の愛機達と最後の別れを交わしていた。

そんな中サブリナはバーリングの陸戦型ジムの胸元までタラップで登り、ズゴックに風穴が開けられた頭部を優しく撫でる。

「……坊や、アタイの大切な人を守ってくれてありがとう。愛してるわ、さようなら………。」

別れの言葉とともに、目に涙を浮かべてオプチカルシーカー(顎部分)にディープキスした。

そんな彼女を、バーリングが呼びやる。

「お〜〜いサブリナ、アルマジロにお別れはいいのかぁ?」

振り返り、涙を拭いて一言。

「………すぐ行く!!」

軽やかに機体から降り、バーリングの元へ向かった。

 

ホバートラック車内。

狭く暗い車内に立つサブリナは、思い出に浸っていた。

ドライバーを命ぜられた日のクルーとの初顔合わせに始まり、シンイチに見られた閻魔帳。ダンカン大尉に無理矢理着せられた防弾ベスト。壮絶な奪還劇からの、姉を喪ったサクラの悲痛な叫び……。

色々な感情の洪水がサブリナの脳内で氾濫し、涙とともに溢れ出た。

静かに啜り泣く彼女の傍で、バーリングが車体脇のハッチに頬杖をついて腰掛け、その様子を背中で見守る。

「………………離れたく、ないの。」

おもむろに涙声で呟くサブリナ。バーリングが振り向いて立ち上がり、歩み寄る。

「どうした?まだ名残惜しいのか?」

肩に軽く手を添えた。何も返事はない。

ため息をつき、背を向けて離れようとしたその時。サブリナがバーリングの手首を強く握って引っ張る。

驚いて振り向くやいなやー

「おぉっ……何……んむッッッ?!?!」

「んんっ……」

短い声とともに、サブリナがバーリングの唇を奪う。一度離して、また重ねる。幾度も繰り返してそのまま抱き合うと、勢いのあまりバーリングが尻餅をつく。

重ねたままの唇をようやく離した。

「…………地球のどこでも宇宙の果てでも、地獄の底へだって、アタイはアンタについていくつもりよ。たとえビンタされても、グーで殴られても。」

「サブリナ……お前……んッッッ!!!」

両頬に手を添えて、言葉を遮るように再び唇を重ねる。

「ッッッぷは、ハァ……『綺麗な男』なんて、真っ平ごめんだわ!!男は小汚いくらいが丁度いいの……アタイの事を想ってくれてるんなら、今すぐここで抱いてッッッ!!!」

秘めていた想いを一気に吐き出した。

バーリングはしばし呆然とするが、やがてニヒルな笑顔を浮かべて………。

「本当に、俺でいいんだな?」

馬乗り状態のサブリナに問いかける。

「死んでもアンタを離さない。」

「…………そうか。」

目を見つめ返して、少しだけ笑う。

すると今度はバーリングから唇を重ねて横に転がり、上下が入れ替わった。

指を絡ませて手を握り、念を押す。

「……俺のはちょいと『激しめ』だぜ。本当に、いいんだな?」

バーリングに覆い被されたサブリナも意地悪な笑みを浮かべてもう片方の手も指を絡ませ、両足でバーリングの腰をホールドしながら一言。

「……望むところよ。」

薄暗い格納庫の中、整然と並んだ61式戦車とホバートラック。

そのうちの1台、開け放たれた車体横のハッチに白いキャミソールがはらりと落ちる。車内から伸びてきた手がそれをすぐに引っ掴んだと思うと、ハッチがゆっくりと閉じられた………。

 

そしていよいよ、宇宙への出発当日。

シャトルに乗り込んだ41中隊の面々は、座席に座ってシートベルトをがっちりと固定した。

新中隊長のバレンツィーノ大尉が最前列で立ち、各員に伝える。

「…さて、諸君。ここからはもはや待ったなしだ。我々はこれまでの『待ち受ける戦い』から、ジオン公国軍のホームグラウンドである宇宙へと乗り込み、奴らを屈服させるための激しい戦いに赴く。」

「新しい戦場、新しい敵、新しい戦い方。そのどれもが、我々を苦しめるだろう。しかし決して弛む事なく、またあわよくば全員で生き残り、この母なる大地を再び踏みしめよう。」

「我々なら、きっとそれが可能だと信じている。言うべきことはそれだけだ。………では、征こう。同志達よ。」

バレンツィーノ大尉が席に着くと、盛大な拍手が起こる。

「…よっしゃあ!!!」

「やってやろうぜ!!!」

「ブチかましてやる!!!」

拍手の中に指笛や、気合いの入った掛け声も混じった。

シンイチは隣に座るサクラと顔を合わせて微笑むと、左手でサクラの右手をしっかり握り指を絡ませる。

そしてすぐに正面を見据えて、表情を引き締めた。

(……絶対に、生き残る。絶対に、『斬る』。奴らを、コマツ師範を苦しめた、あの壊れた国を………絶対に!!)

改めて、決意を固めるのであった。

やがてシャトルは離陸し始め、急加速ののち急上昇に移る。

重力の糸から解放されるまで、あと少し………

 

 

斬凶戦記「地上編」終幕 宇宙編へ続く………。

 

 

幕間 もうひとつの「別れ」

 

地上に残留となった戦車分隊の面々と別れの挨拶を交わすシンイチ達。

「モリタ!!死ぬなよ!!それとサクラちゃん泣かすな!!」

「モリタの兄貴、戦争が終わったら店開くんで是非食いにきてくださいよ!!」

「わかってます、そりゃもう……イデデデ!!背骨折れる!!折れる!!あとザジーの店は絶対行く!!イデデデデデ!!」

豪快にハグして背中を叩くパーシヴァル大尉。

恐る恐るナザレンコと握手を交わすバーリング。

「あー、アンタ……アンタとは結局、一言も喋らず仕舞いだね。まぁ、お達者で……」

「バーリング曹長こそ、お達者で。サブリナさんをきっと守ってあげてくださいね。」

珍しくナザレンコが口を開いた。見た目に反して妙に甲高く若々しい声に、驚愕し声が裏返るバーリング。

「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!!」

「どアホぅ、うるせーぞバーリング!!………あれ、ところでサラ……いや、カミナンデス少尉は?」

「あぁ、アイツなら格納庫だ。61式に最後のお別れをしてるんだろう。」

「そっすか、じゃあ俺…行ってきます。皆ありがとう!!達者で!!」

豪快に手を振るパーシヴァル大尉。バーリングはザジーと話し始めてしまったので、一旦置いておく。

そして、格納庫。61式戦車がズラリと並び、そのうちの1台、サイドスカートにマゼラアタックのキルマークが大量に付けられた車輛の前にサラは居た。

「カミナンデス少尉!お疲れ様です。」

「…モリタ、准尉。何か?」

声をかけると、何故か顔を逸らすサラ。

「あっ、あぁ……もう明日出発ですので、ご挨拶を。一緒に戦えて光栄でした。ご武運を、少尉殿。」

敬礼を贈る。

「……あぁ、貴官こそ、生きて……」

彼女の肩が震え、言葉が途切れる。また途中から涙声になっていた。

「…カミナンデス少尉殿、大丈夫ですか?」

唐突に振り返り、シンイチに歩み寄る。

そのまま軍服の胸元を握り、顔を埋めた。

「ちょッッッ…えっ?!少尉殿?!?!」

予想外の行動に戸惑うシンイチ。胸に顔を埋めたまま、啜り泣いている。

彼女もまた、シンイチの凄まじい戦いぶりを後ろで見ていた一人だった。またそれだけでなく、サクラに対する紳士的な振る舞いやそもそもの逞しい体つきを見るうちに、いつしか自分も想いを寄せていたのだった。

シンイチが背中に手を回そうとしたが……

「駄目、やめて!!優しくしないで。つらく、なるから………やめて。もう少しだけ、このままでいさせて………。」

手を下ろす。そして、しばらく後。

ようやくシンイチの胸から離れるサラ。まだ涙が頬を伝っているが、吹っ切れた様子で口を開いた。

「もう、大丈夫。………これで、ちゃんと前を向ける。あの子を……サクラを、絶対に幸せにしてあげてね。」

シンイチが即答する。

「もっ、……もちろんです!!至極当然、そのつもりです!!」

ここで、サラが初めて笑顔を見せた。

「フフッ、その様子なら大丈夫そうね。あなたみたいな人がパートナーなら………でも……」

「?でも、何ですか?」

照れくさそうに目を逸らすサラに、優しく問いかけるシンイチ。

「………一度だけでいいから、私を『サラ』って、呼んでほしい……」

赤面しながら呟く。しかし途中から小声になった上に、格納庫の喧騒で遮られてしまった。

「……?え、ちょっと聞き取れなかったんですが、何か?」

シンイチがさらに聞き返したが、サラは背を向けた。

「……何でもないわ。それじゃ、元気でね。さようなら。」

踵を返し、足早に立ち去るサラ。

笑顔とともに再び挙手敬礼して彼女を見送ると、サラは一度だけ振り返り、小さく笑って敬礼を返した。

その姿が格納庫の奥へ消えるまで、シンイチは敬礼を解かなかった………。

 

幕間 もう一つの「別れ」 終幕




おはようございますこんにちはこんばんは野武士山芋侍です。

読んでいただきました通り、本作「斬凶戦記」はこれをもちまして地上編終幕となります!!

何の因果か新作ガンダムもお披露目とあいなった今日のよき日、ここまで読んでいただいた読者の皆様におかれましては本当にありがとうございます。
ぶっちゃけるとジャブロー編からここまでは上手く書ける自信が全く無く、「これ地上編最後までイケるんか…?!」などとビクビクしながら書いておりました。
まぁそんなこんな言いながらも割と上手いこと纏まって良かったかなと、後半妙に駆け足気味な気がするけど。
アイツらはようやくのぼりはじめたばかりだからな、このはてしなく遠い宇宙坂をよ……(意味不明)
……いや宇宙編も正直全く自信無くて早くも不安なんですけどねどうしようホント助けてヒャハハハハハハ!!!(発狂)
感想、推しキャラ、質問、知りたい裏設定等々ありましたらいつでもウェルカム、前も言ったけど「このキャラしゅきぃ…マヂ推せる…」的なのは大歓迎も大歓迎、泣いて喜ぶと思料されますドーゾ!!
さて次回からは新天地、宇宙での戦いが始まります。第41機械化混成中隊は、シンイチ達は生き残ることができるのか。そして自分は書き上げることができるのかッッッ!!!!(滝汗)

次回第二十話はタイトル未定、お楽しみにッッッ!!!!(オイオイ)

…え、ホバートラック内でバーリングとサブリナは何回「致した」かって?
………5回です。
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