ルナツー宇宙基地。
地球連邦軍の、宇宙における唯一にして最大の拠点。
天然の小惑星内部を丸ごと要塞化したその規模は、ジオン軍の宇宙要塞ソロモンやア・バオア・クーすら凌駕し、いかに優勢な彼らの宇宙艦隊といえどうかつに手を出せなかった。
現に開戦から間もなく一年が過ぎようとしているこの時期においても、大きな攻撃を受け甚大な被害を被った事は一度も無い。
そしてこのルナツーを足がかりに、ジオン公国軍の各拠点に対する連邦軍の大規模な侵攻作戦が始まろうとしていた………。
ルナツー近辺の宙域を進む武装型コロンブス級補給艦「ネオショー」と、それに帯同する護衛艦ーサラミス級軽巡洋艦「ユキカゼ」「タラント」の二隻。
シンイチ達が所属するこの小艦隊は部隊名こそ「第343補給分艦隊」と呼ばれているものの、その役割は他の輸送艦や補給艦の護衛及び周辺宙域の哨戒と掃討で、実質的な実戦部隊であった。
彼らは初の哨戒任務を完遂し、今まさに拠点であるルナツー基地へ帰投せんとしている。
搭乗員待機室の小窓からその威容を眺めつつ頬杖をついて座るバーリングは、静かに物思いに耽っているようだった。
「よう、どうしたバーリング。なんか珍しく静かじゃないか。」
どこか暗い雰囲気の彼に、シンイチが親しげに話しかける。
「……そりゃ俺だって、四六時中ヘラヘラしてる訳じゃねぇよ。そういう時もあるさ……ルナツーじゃ、色々あったからな。」
「ボール時代か?」
バーリングとアークライト中尉がボール(RB-79ボール)部隊の生き残りである事は、何度か聞かされていた。
「まぁな、嫌なヤツも居たがいいヤツも居た……アークライト中尉以外は、殆ど死んじまったが。」
「………そうか、なんか悪いな。」
シンイチが詫びるが、バーリングは諦観したような様子であっさりと答える。
「気にすんな、戦争ってのはそういうモンだろ。」
話していると丁度、待機室にサブリナが入ってくる。
「ふぃ〜、おっつー……あっ、なになに?何の話?」
彼女は重装宇宙服を半脱ぎした上にインナーも脱いで腰に巻き付けており、上半身だけは地上に居た頃と変わらない白のキャミソール姿を晒していた。
「おいおいサブリナお前、宇宙でもその格好かよ……色々と大丈夫かそれ?」
バーリングが顔を顰めて問いかける。
「んぇ?すぐ着れるようにしてあるからいいでしょ!動きやすいし。」
両肩をぐるりと回してみせる。シンイチは目のやり場に困って思わず目を逸らした。
「それならまぁいいけど………えっ、いいのかモリタよ?」
急にシンイチに向き直り、話を振る。
「はッッッ?!いや知らん……でも着といた方が良いだろ、なんでキャミ一丁なんだよ、普通に危ないだろ。」
若干引き気味で答えた。
「もおぉ、待機室内なら別にいいじゃん!!アタイ達の間柄なんだからサ!ん〜♡」
苦笑いするシンイチの前でバーリングに抱きついてキスするサブリナ。関係は相変わらず極めて良好のようだ。
目を逸らしたまま、シンイチが忠告する。
「あー…二人とも、仲が良いのは結構だけど、その………ここで『おっ始める』のは、頼むから勘弁してくれよ?」
「やらねーよ!!俺らを何だと思ってるんだ…」
するとサブリナが意地悪そうな笑みを浮かべ、今度はシンイチにスイ〜ッと近づく。指先で胸元を撫でつつ耳元で囁いた。
「何ならシンイチも、混ざっちゃう?♡」
「「どアホ!!!」」
シンイチとバーリングが同時にツッコむと、いつも通りからからと笑うサブリナ。
「ハァ、やれやれ………。」
ため息をつきながらふと小窓を見やると、湾口へ進入するネオショーに並走して警護にあたるボール小隊が見えた。
バーリングが感慨深げに呟く。
「……あれから、もう4ヶ月も経つのか………」
ー宇宙世紀0079年8月頃、ルナツー基地。
「………これが、貴様らの愛機となる新兵器『RB-79ボール』だ。我々はこれをもって、ジオンのザクと戦う。そして、勝つつもりだ!!かくも重要な兵器を任された事を、よく心に留めて任務にあたるように。いいな!!」
ハンガーデッキに並べられた「新兵器」の前で整列して立つ兵士達に、部隊指揮官の演説が響き渡る。
兵士の列の中には、初等教育を終えて伍長に任官されたばかりのバーリングも居た。
「……こんな玉っころで、ジオンのザクとねぇ。ロクに試験運用も何もしてない急拵えのコイツで、どうやって戦えってんだ……」
小声でぼやく。入隊早々、先行配備されたボールのうちの1機を任されることとなったのだ。
彼の前にはアークライト「少尉」が立っており、前を向いたまま注意する。
「バーリング伍長……だったか?中隊長殿は気難しいお方だ、私語は慎め。」
「へいへい了解、小隊長殿………。」
会話の一部はどうも聞かれていたらしい。中隊長がバーリングの面前に立ち、大声で迫ってきた。
「ジョナサン・バーリング伍長、何か質問か?!それとも、この新兵器に何か不満が?!」
姿勢を正し、はっきりとした口調で答える。
「はッッッ!!ありません!!ただ自分は、早くコイツで我が祖国を蹂躙したジオン野朗どもを皆殺しにしたく、そう思っておりました!!」
ニヤリと笑って頷く中隊長。そんな事を思っていないのはお見通しだった。
「よろしい、そのクソ度胸だけは認めよう。歯を食いしばれ!!」
たちまち、手拳で右頬を一撃。
吹っ飛ばされて列外に転がるが、すぐに立ち上がって並び直した。
「…………フンッッッ!!」
立ち去る背に向けて彼は、見られないよう中指を立てる。
兵士の列からは、下品な笑い声が漏れていた………。
6月にプロトタイプが完成した「RB-79ボール」は早くも制式採用され、早急に配備が進められていた。
パイロットの養成をじっくり行っている暇などない、スペースポッドの操縦経験がある者はとにかく優先的に乗せられ、簡単な促成教育ののち戦力化される。
そんな不十分なパイロットと間に合わせ程度の完成度しかない兵器を擁する部隊の初陣は、すぐにやってきた。
《……スコッチ1から小隊各機、援護しないか!!第2小隊はどこにいる?!俺を助け……がッッッ…gggzzgzzz…………》
断末魔とともに、中隊長機が撃墜。
初陣の相手は3機のザクで編成された強行偵察部隊、与し易しと踏んで2個小隊6機で正面から攻撃をかけた。
しかしー
たちまちザクの運動性能に翻弄されて瞬時に2機を失い、その後さらに2機が喰われてしまう。
なんとか生き延びたバーリングは、デブリの陰に隠れて息を潜める。
(中隊長が死んだ………?!こんな時に小隊長の野朗は、何処行きやがった!!まさか部下を見捨てて逃げたんじゃあるまいな、あの新米士官……!!)
身を隠す際、アークライト少尉と逸れてしまった。心細さと同時に、恨みを募らせるバーリング。
そこに、ザクの1機が迫る。
モノアイが閃いて不気味に動き回り、さながら獲物を探す捕食者。デブリの陰を一つずつ確認するように、慎重に機体を滑らせてくる。
(こうなりゃ一か八かだ。ここで待ち伏せて、ヤツが背を向けた瞬間に…!!)
バーリングが身を隠しているデブリの目と鼻の先に、いよいよザクが近づく。少し体を向ければ見つかる位置………気づいていない。
「……死ねぇッッッ!!!!」
デブリから飛び出し、キャノン砲を放つ。砲弾は見事にザクの右腕を肩口から吹き飛ばした。
そのままマジックハンドでしがみつき、キャノン砲の砲口を胸部中央に押し当ててもう一発を発射。
「まだッッッ………まだあぁぁ!!!」
新兵特有の恐慌状態に陥ったバーリングは、コックピット内で絶叫しつつさらに二発目、三発目を撃ち込む。
「どうだ、効いたかジオン野朗めが!!!死ね、死ねェ!!死にやがれ、死にやがッッッ?!?!」
突如、激しい衝撃。
猛然とマシンガンを撃ちながら、別の1機が迫っていた。
コックピットへの直撃こそ無いものの、右のマジックハンドが根本から吹き飛びキャノン砲がへし折れる。
(やられた!!ここまでか……!?)
バーリングの脳裏に走馬灯が走った。
……サイド2で街のチンピラだった頃、改心して軍隊に入る決断をした際心から祝福してくれた両親。
故郷のコロニーがジオン公国軍の手で地球に落とされたと知ったのは、その僅か数週間後の事だった………。
(………畜生、せめて親父とお袋の分……もう1人くらいは、道連れに……!!)
ヒートホークを抜いて一気に距離を詰めるザク。絶体絶命かと思われたその時ー
《バーリング伍長!!!!》
別のデブリの陰から現れるアークライト少尉のボール。ザクが振り向くと同時に、キャノン砲弾が頭部をもぎ取る。
さらに撃ち込む。右腕、左脚と順にちぎれ飛び最後はコックピットに大穴が開き、爆散。
爆炎の照り返しを受けるアークライト少尉のボールから通信が入った。
《…なるほど、キャノン砲の威力だけは評価できそうだな。あとは運用方法次第か……バーリング伍長、大丈夫か?》
冷静に分析しつつ呼びかける。
バーリングはしばし呆然としていたが、我に帰り返答。
《………はっ、スラスターは生きてます。なんとか……動けるかと。》
《よし、帰投するぞ。残りの1機は……逃げ出したらしい。》
母艦へ進路をとる2機。
ボール部隊の被害は6機中4機撃墜1機大破という散々たるものであったが、それでもザク2機を撃墜できたことは数少ない救いだった………。
ボール部隊の母艦、サラミス級軽巡洋艦「ダンケルク」。
帰投してきたボールは艦底部に逆さまに係留し、艦載されていた。
アークライト少尉とバーリングが艦長に報告を済ませ、ブリッジを後にする。
重苦しい雰囲気で移動用グリップに捕まり、待機室に向かう二人。その道中でバーリングがようやく口を開いた。
「………少尉、殿。」
「なんだ?」
「先程は、ありがとうございました。お陰で……」
遮って、はっきりと告げる。
「礼はいらない。小隊長として、成すべき事をしたまでだ。部下を守るのが隊長の役目だろう?」
「そりゃ!……そうですが。」
バーリングが顔を伏せた。
「あの中隊長は指揮官失格だ。こちらが不利と見るや、部下を盾にし始めた。そもそも、まだ戦い方もわからないうちから数だけを頼んで正面突撃など、全くもって愚の骨頂。」
一気に打ち明けたところで、待機室前に到達。グリップを止めてバーリングに向き直る。
「バーリング……我々が生き残ったのは、偶然じゃない。『正しい戦い方』ができたからだ。」
「つまりだ。今回のようにやれれば、仲間の犠牲も減らせるし奴らに損失を強いる事ができる。それにしたってアレは未完成な部分が多いが……」
バーリングが再び顔を上げる。アークライト少尉の声には恐怖が滲んでいるが、それをなんとか押さえつけるように淡々と語る。
「犠牲も多いが、戦い方はわかった。我々はまだやれる。……いや、ここからだ。」
ここで少尉はようやく、両脚が震えている事に気づいた。
「私も……まだまだ未熟だ。あぁ、クソッッッ……!!」
太腿を両手の握り拳で幾度も殴りつけ、なんとか黙らせる。
「ちょっ……少尉殿、大丈夫ですか?!」
「いや失礼、情け無い……全く。こんな小隊長だが…………着いてきて、くれるか?」
拳をほどいて、右手を差し出した。
「………もちろん!!俺もまだヒヨッコですが、頑張ります!!」
固く握手を交わしながら、心の中で確信する。
(この小隊長はおそらく『当たり』だ。信頼して良い、かもな。)
二度目の出撃は、その3日後だった。
追加配備された機体とやはり不完全な教育の新人パイロット。しかし「デブリの陰に隠れて自分達より少ない敵に奇襲をかける」「三機一組を絶対に崩さない」というアークライト少尉の戦術と指揮は適切で、他の小隊が被害を続出させる中損失を出す事なく任務を完遂する。
それからさらに出撃を重ね、撃墜数こそ大して増えなかったものの彼の小隊だけは誰一人欠けることなく帰還し続けた。
他の小隊のパイロットか整備兵の誰かが言い始めたかはわからないが、いつしかアークライト少尉の率いる小隊は「ルナツーの一番星」という異名を頂戴した。
さらに出撃を重ねたある日、彼らに新しい任務が与えられる。
通算10回目の出撃、MS部隊に護衛されたパプア級補給艦の攻撃任務であった………。
《……アルファ1から『ダンケルク』、敵補給艦直上を押さえた。まもなく攻撃……》
暗礁宙域を進むパプア級補給艦の隣には護衛としてムサイが1隻、その近くをMS3機が固め警戒している。
アークライト少尉のアルファ小隊はボール6機。さらに後方にはダンケルクが待機しているため、戦力的にはほぼ互角だった。
……現時点では。
小艦隊はアルファ小隊の待ち受けるエリアに足を踏み入れる。同時にー
《………ッッッ!!敵モビルポッド、直上!!!》
一気呵成に奇襲をかけるアルファ小隊。ザクが真上を向くより先に、砲撃。
パプア級補給艦に数発の直撃弾を見舞ったところで、デブリ群へ一気に後退し身を隠す。
《アルファ2よりアルファ1、MS3機来る。いつも通りで?》
《その通りだアルファ2、まだ顔を出すなよ。》
……ここで、新米のアルファ3より報告。ほとんど絶叫に近い声。
《アルファ1、敵MS後方より接近!!数、3機!!》
《何だと、別働隊ッッッ?!?!》
アルファ小隊の後方からさらに迫るザク3機。護衛のムサイは搭載MSの半数を艦隊に張り付かせ、残りをデブリ群の警戒に充てていた。
それも、アークライト少尉が採った戦法と同じく「ボール小隊に気取られないようデブリの陰に隠れながら」である。
彼らによって無視できない損失を被りつつあったジオン側は、ここにきてついに対策を講じてきたのだった。
今回攻撃を受けたパプア級補給艦は、いうなれば彼らを誘き出すための囮。さらに直撃弾をもらった補給艦の貨物室は、全くの空。
《小隊長ッッッ……数が同じだと不利ですぜ、どうします?!》
アルファ4から指示を乞う声。なんとか思案を巡らせるアークライト少尉。
《……とにかく、三位一体でザク1機に当たれ!!少しでも数を減らすんだ、まずは正面の連中!!》
命令を受けた小隊6機は素早くデブリから出て、正面から迫るザク3機に向けて一斉射撃を見舞った。
ザク1機が左脚を千切られるが、依然として怯む様子は無くさらに距離を詰めてくる。
左脚を失ったザクが仕返しとばかりに、バズーカを放った。
《うッッッ……うぉわぁぁぁ?!?!》
恐慌状態の新人ーアルファ6に直撃。木っ端微塵に吹き飛ぶ。
前衛の2機も射程に入り、猛然とマシンガンを放つとたちまち1機が捉えられ、蜂の巣にされた。
《アルファ4!!…ど畜生めがぁ!!!》
《いかんッッッ、アルファ5出るな!!固まれ!!》
アークライト少尉の制止を振り切ってアルファ5が突貫。キャノン砲を撃ちながらザク小隊に迫るが、当たる筈もない。
マジックハンドで拘束しようとするが、それをも躱されると同時に蹴飛ばされ、デブリに衝突して爆散した。
《クソッッッ……退け、退けぇッッッ!!デブリの陰に隠れろ!!急………》
遅かった。アークライト少尉の面前に迫るザク。ヒートホークを振り翳す。
バーリングが狙うが、射線が重なってしまい撃てない。
《少尉殿!!!!》
振り下ろされたヒートホークは、ボールの前面装甲とマジックハンドを両方とも切り裂く。
剥き出しになったコックピット。飛び込む大量の破片がアークライト少尉の身体に刺さる。
さらに、とどめの一撃……
「ちッッッ……調子乗んな、一つ目がぁ!!!!」
バーリングが渾身の体当たり。そこからマジックハンドで拘束し、接射を見舞う。ザクのコックピットを貫いた。
当然、戦果を喜ぶ暇などない。残るザク2機に後方の3機も合流し、5機が一斉にアルファ3へマシンガンを浴びせていた。
「この……この、ふざけんなよ………!!!」
共に生き残り続けた気のいい新人達。まるで玩具のように弄ばれ、殺されてゆく。
アルファ3が爆散するのを見届けたザク5機のうち、1機がゆっくりとこちらを向いた。
初出撃の時とは違う。誰も助けてはくれない。
覚悟を決めて、操縦桿を握り込むー
するとここで、集まっていたザク5機に猛然と降り注ぐミサイルと機銃弾。
宇宙戦闘機「セイバーフィッシュ」の編隊が奇襲攻撃をかけてきた。たちまち1機が巻き込まれて炎上する。
残ったザク4機はセイバーフィッシュ編隊を追い、ボール2機を残して飛び去っていった………。
大破したアークライト少尉の乗機を牽引し、どうにか帰投する二人。
少尉は身体のあちこちに破片が刺さっていたが、息はあった。彼を衛生兵に任せ、報告のためブリッジに上がると……
「全く、酷い有様だな。君の居た部隊はまたも全滅というわけか。それで………戦果は?伍長。」
指揮官席に座ったまま、労いも何も感じられない声で問う艦長。バーリングは怒りで拳を握り込むが、なんとか堪えつつ口を開く。
「………ザク1機を確実撃墜、セイバーフィッシュ隊との共同でさらに1機。目標のパプア級には……直撃弾数発を、認めました。」
ここで、通信手から追い打ちをかけるような報告。
「ザク小隊に追われていたセイバーフィッシュ編隊、全機撃墜されたそうです。」
艦長がため息をつくと、バーリングに振り返り、告げる。
「………被害に見合う戦果とは言えないな。しかしこれだけ味方を失っても、君だけはザク1機を撃墜して生還か……全く、幸運なことだ。まさに『ラッキー』……『ラッキー・バーリング』とでも言おうかな。ハハハハハ…!」
無神経な発言に、バーリングの中で何かが「切れた」。床面を蹴り、艦長が座る指揮官席まで一気に浮かび上がる。
通信手や他のクルーが制止しようとするが、何も見えない。何も聞こえない。バーリングの目には、全てがスローモーションに見えている気がした。
驚愕に歪む艦長の顔面を、渾身の力で殴りつける………。
その後バーリングは、地上の最前線へ懲罰同然に送られた。
与えられた任務は南極条約違反の汚れ仕事、国籍マークすら変えないままの鹵獲ザクを用いた騙し討ちだった。
MSを任されたのはボールの操縦経験を買われての事だったが、それ以外の事はたとえ負傷・戦死しても一切関知しない使い捨てのような扱い。
自棄になった彼はまるで死に場所を求めるように戦場を駆け回る。敵陣へ単機で突っ込み、命令を無視して追撃を続け、アサルトライフルで立ち向かってきた兵士の集団をザクマシンガンで吹き飛ばした。
…それから1ヶ月程経った頃。
所用でジャブローに立ち寄った際、MS部隊設立に携わっていたダンカン大尉とバレンツィーノ中尉に腕前を見込まれ、仮想敵機のパイロットとしてスカウトされた事が彼の人生の転機となる………。
ーそして、現在。
武装型コロンブス級補給艦「ネオショー」艦内、搭乗員待機室。
小窓から外を見ていると、サブリナに肩を小突かれた。振り向くと同時に軽く唇を重ねる。
「な〜にうかない顔してんのよ!らしくないんじゃない?」
バーリングの面前で笑顔を向けるサブリナ。口元からは少し八重歯が覗いている。
「………そういう時も、あるさ。」
「何それ!フフフッ……!」
彼女を抱き寄せると、甘い香水の香り。
(いずれ報いは受けるだろうが………せめてコイツと添い遂げてから、『向こう』でな。)
ボールの護衛を伴ったまま「ネオショー」は、ゆっくりとルナツー基地の湾口に進入した………。
第二十一話 ルナツーの一番星 終幕
幕間 サブリナの新しい「相棒」
ネオショーが入港してすぐ、バレンツィーノ大尉率いる41中隊はルナツー司令部へ報告。
すぐにまた出撃があるだろうとの事で艦へ戻ると、格納庫では整備兵総出でMSの点検が行われていた。
その慌ただしさを見たシンイチがふいに呟く。
「メカニックは大変だな、休む暇無さそうだ……。」
「あぁ、ある意味俺たちよりキツい………ん?」
バーリングが格納庫の隅に目を向けると、予備機として置かれている先行型ボール(ボールK型)にも整備兵が集まり、何やら作業をしていた。
オレンジ色の機体色に、頭頂部の連装機関砲と各種追加装備がどこか物々しい。
「何だ、予備機のコイツも動かすのか。大丈夫かよ………って、あれ?!?!」
コックピット内に目を向けた瞬間、驚愕。
なんとサブリナが座っていた。しかもボール部隊の若いパイロットに何やらレクチャーを受けている様子。
血相を変えて彼女のもとへ駆け寄るバーリング。
「あっ、ジョナサンおっつ〜。どったの?」
「どったのっておまッッッ……サブリナお前まさか、まさか、お前……コイツを?!コイツで?!?!違うよな、違うだろッッッ?!?!」
シートに座ったまま、サブリナは平然と答える。
「出るわよ?このコで。何か?」
その様子に、額に手を当てて仰け反るバーリング。すぐに姿勢を戻し、捲し立てる。
「いや、いやいやいや、危険すぎるッッッ!!!駄目だ、駄目だ!!」
「敵の潜水艦を発見?」
「駄目だ!!って違ぁうッッッ!!!!………おい、命令か??誰かから指示があったのか?!どうなんだ?!」
横で小さくなっていた若いパイロットの両肩を掴んで揺すり、凄まじい剣幕で詰め寄る。
「……はっ、その……レンフィールド准尉殿からお願いされて、『操縦を覚えたい』と……」
「ガッッッッッッ…………デム!!」
またも仰け反り絶句するバーリング。恐る恐る補足する。
「……しかし、ですね曹長殿、我が艦隊のボール小隊はこれまで、イケタニ大佐の指揮もあり…極めて低い損耗率を、ですね…」
再び姿勢を戻し、凄まじい形相で凄む。
「お 前 は 黙 っ て ろ こ の イ カ 野 朗 埋 め る ぞ」
「ハッ、スンマヘン…」
今度はサブリナに詰め寄って何か言おうとしたが、それを遮るように彼女が弁明。
「待って、大丈夫!大丈夫よ!『出る』ってのは船外作業の時だけ。戦闘で出るワケ無いじゃない……それは本当に本ッッッ当の最後の手段だけど。まぁそもそも、アンタ達が守ってくれてたらそれが必要になる事も無いでしょ?」
「………そういうのはな、一番来てほしくねぇ時に限って必要に迫られるもんなんだよ。」
目を伏せて腕組みし、真剣な口調で諭すバーリング。
そんな彼に、サブリナはシートから立ち上がり、軽くキスをして静かに打ち明ける。
「……アタイね、もっと皆の役に立ちたいの。サクラちゃんだってあんなに戦ってるんだから、アタイも負けたくないな、って思って。」
そ〜っと、席を外すボールのパイロット。コックピット内を覗かれないよう、また自らも覗かないようハッチに背を向けて立つ。
「サブリナ、お前………」
「ダメ、かな?」
ハッチの縁に腰掛けて少し考える。そして………
「……しゃあねぇなぁ!!ただし少しでも危ねぇ真似しやがったら、バレンツィーノ大尉とイケタニ大佐に直談判して艦隊から追い出してもらうぞッッッ!!」
「やった♡………えっ、でも艦隊から外すのは酷くない?!」
「うるへぇ、ボールは損耗率ハンパねぇんだよ!!」
「え〜ッッッ、でもこのコ機関砲が連装で強そうじゃない!!他にもなんか…色々付いてるし、カラーリングだってホラ、アタイのイメージそのまんまでしょ?」
「どアホ、色は関係ねー!!!!」
痴話喧嘩を始めた二人をよそに、格納庫内は慌ただしい雰囲気と喧騒で満たされるのであった………。
幕間 サブリナの新しい「相棒」 終幕
俺は推敲を行う!俺は予約投稿を行う!バイノハヤサデー!(挨拶)
皆様お疲れ様です野武士山芋侍です。あっ、今更だけど「野武士山」が苗字で「芋侍」が名前ね。
今回はバーリングの過去を掘り下げつつ、ガンダム外伝恒例の「連邦わるわる要素」もちょろっと足して物語に深みを持たせてみました…持たせられたかどうかは正味わからんけど(爆)
「連邦わるわる要素もっと増やせ」って?イヤです( ^ω^ )
そしてボールがめっちゃ魅せましたね!!日本全国、また世界のボール好きの皆様喜んでいただけましたでしょうか。もちろんこれ以降も魅せるからお楽しみに!
さて次回、ルナツー基地にジオンの強行偵察部隊が現れます。リクドとかも出るよ!
……あっ、ちなみに関西ではリックドムの事を「リクド」と略します、イントネーションは「リ→ク↗︎ド↓」ね。「マクド」と同じ。
次回第二十二話「迫る影」
お楽しみにッッッ!!
…え、バーリング×サブリナにシンイチが「混ざっちゃった」パターンも見たいって?
ダ メ だ っ つ っ て ん で し ょ ! ! !
シンイチはいつだって歪みねぇ「漢」です。