シンイチが目覚めると、見覚えのない天井が目に飛び込んできた。
(えっ、あれっ?!ここは……………?)
ゆっくりと体を起こして周囲を見渡す。静かで無機質な病室には、心電図モニターの安定した音だけが響いていた。
包帯を巻かれた頭に手をやりながら、混濁しきった記憶を必死で整理する。
煙が充満し警報音で満たされた愛機ーフライマンタのコックピット、眼前に迫るザクの背面、緊急脱出の際の凄まじいG………。
(……そうだ、ベイルアウトしたんだった……フライマンタから。…………待てよ、フライマンタ??)
違和感を覚えた。
次々と溢れ出す記憶の中に、身に覚えのないものがいくつか混じっている。
(??何だ、なんか、妙に長い夢を見ていたような……?)
明らかにフライマンタのそれではない、妙に狭苦しいコックピットに座る自分、そこで身を寄せる三つ編みの眼鏡をかけた女性、暗い地下都市、ザクによく似た青いMS………。
(ホント何なんだ、コレ??…………一体……いや、覚えてる。見覚えがあるぞ。確か……)
頭の中に霧のように渦巻いていた違和感が徐々に晴れる。
そして核心に近づこうとしたその時、病室の扉が開いて誰かが入ってきた。
振り向くと、連邦軍の士官服を着たポニーテールの女性。シンイチより少し歳上に思えた。
「キョーコさん…………あっ、いや、タチバナ中尉殿!!ぐッッッ…!!」
口をついて、無意識に名前が出た。立ちあがろうとしたが、下半身に鋭い痛みがはしって動けない。
女性士官ーキョーコ・タチバナ中尉は無言のまま掌を向けて制した。
「大丈夫よ、そのままで。」
凛とした声。ため息とともに、再び横になるシンイチ。
「………いや、何とお礼を言っていいか。本当に助かりました。」
フライマンタから緊急脱出した後自分を助け出し、逃避行を共にしてくれたのは彼女だった。
ベッド傍の丸椅子に腰掛けると、おもむろに口を開く。
「………お礼を言いたいのは、あたしの方よ。」
少し目を伏せて、微笑む。
「はい、それは………えっ??」
「妹を……サクラを、救ってくれてありがとう。愛してくれて、ありがとう。」
その言葉をきっかけとして唐突に、シンイチの脳内で全てが繋がった。
先程よりさらに、勢いよく溢れ出す記憶。
「あっ……いや、それは……俺は……」
それと同時に、堪えきれない程の罪悪感。言葉を探すが上手く言い出せない。
頭を抱えて蹲り、なんとか声を絞り出す。
「俺は、貴女を……貴女達姉妹を、救えませんでした。」
そんな彼を、キョーコが優しく諭す。
「全てを救う事なんて、誰にもできないわ。それより今できる事を……サクラを、幸せにしてあげて。」
立ち上がると、シンイチに背を向けて歩き出し、病室をあとにした。
「まっ……待って下さい中尉!!いや…キョーコさん!!まだ……ゔぅッッッ!!!」
全身に激痛がはしる。急激に朦朧とする意識とともに、病室の輪郭がゆっくり溶け始めた。
(…もうすぐ、出撃よ。)
ここで、再び目が覚めた。
ネオショー艦内、シンイチの自室。
(夢、か?……妙にはっきりしてたな、明晰夢ってヤツか……)
(………それにしても、何故今キョーコさんが……??)
パイロットスーツを着たまま胸元を緩めて寝ていたのだが、たちまちベッドサイドの直通電話からけたたましい呼び出し音が鳴る。
素早く跳ね起き、受話器を取った。
《モリタ准尉、スクランブルだ!!準備してMSデッキに集合!!》
艦橋で詰めていた当直士官の声。はっきりとした声で返答する。
「……スクランブル了解、すぐ行きます!!」
胸元のファスナーを上げてヘルメットを引っ掴み、自室を飛び出す………。
ネオショーの艦橋ではクルーが動き回り、慌ただしい雰囲気に包まれていた。
「敵の規模は?MSは居るのか?」
当直士官が通信手席に座るサクラに尋ねる。
「ルナツー管制からの情報だと現時点ではザンジバル級機動巡洋艦1隻、その他は不明とのことです。」
当直士官はため息をつき、シートにもたれかかった。
「『その他不明』か。『その他』の部分が重要だったりするんだがな…」
「ミノフスキー粒子散布下ですし、暗礁宙域も近いですからね。ザンジバル級ならMS6機は載っているはずなので、ひとまず…」
ここで、艦長のイケタニ大佐が重装宇宙服を着ながら出入り口から現れる。
途端にクルー全員が振り向いて敬礼した。
「あぁ、そのままで。……ウォーラス大尉、状況は?」
「ザンジバル級が1隻のみです、MSはまだ確認されていません。おそらく偵察かと…」
「1隻のみ。………了解、MS隊には搭乗待機を命じて下さい。それと、もう一つ。」
少し考えて、再び口を開く。
「…ルナツー管制に問い合わせて、ザンジバル級のデータを要求して下さい。特に武装や搭載MSの数、機種を詳細に。」
「了解、直ちに。……艦隊進発後、MSはすぐ出しますか?」
「いえ、MS隊は全員搭乗待機のままで。……考えがあります。」
通信手席のサクラが再び報告。
「ルナツー管制より命令、343分艦隊出撃せよとの事です。」
イケタニ大佐が頷き、力強く告げる。
「我が艦隊はこれより、敵機動巡洋艦を攻撃します。敵の規模は詳細不明につき、各位くれぐれも油断なきよう。………全艦、両舷全速!」
「両舷全速、アイ!!」
操舵手が復唱ののち舵をとり、ネオショーとその護衛艦がゆっくりとドックから離れる。
後部スラスターに火が入り、巨大な船体が加速し始めた。
対するザンジバル級機動巡洋艦「ケーニヒスベルク」の、薄暗い艦橋。
敵艦隊の動向を捉えたオペレーターが艦長に伝える。
「ルナツー基地より艦隊が出てきました……補給艦1、サラミス級2。MSは居ません。」
「……何だと?小規模な補給艦隊風情が、何のつもりだ?」
隣に控える副長が鼻で嘲笑いながら申し向けた。
「補給艦を先頭にして暗礁宙域へ向かうという事は……こちらを避ける気でしょう。おおかた敵襲に怖気付いて、慌てて逃げ出すところじゃないんですか?」
「いかに連邦とはいえ、そこまでマヌケで腰抜けな事は無いだろうが……」
オペレーターからさらに報告。
「敵艦隊、速力を上げて暗礁宙域に進路を取ろうとしています。どうしますか?」
「やはり逃げる気では?艦長、追撃しましょう!ルナツーを一目見るだけで、このまま手ぶらで帰るのも癪だ。」
「うーーむ………。」
副長が自信満々に迫るが、艦長は顎に手をやりしばし考える。
(MSが居ないのは気になるが……我々を迎撃するにしても動向がおかしい。本当に退避しようとしているだけなのかもしれん。いずれにせよ好機を逸して逃してしまうよりは、ドズル中将閣下に手土産の一つでも………。)
顔を上げて、命令を下す。
「……敵艦隊の進路に向け、主砲を撃って牽制しろ。ある程度距離を詰めたらMSを出せ。コンラッド大尉に連絡、総員第一戦闘配備だ!!」
「総員第一戦闘配備、第一戦闘配備!!……ところで艦長、例の『切り札』は如何様に?」
「まだ出すな。文字通り『切り札』だからな。」
にわかに艦橋内が慌ただしくなる。ザンジバル級機動巡洋艦は加速しつつ、両舷に固定配置した主砲の砲口を妖しく光らせた………。
「ザンジバル舷側のメガ粒子砲、熱量増大!!艦砲来ます!!」
オペレーターが叫ぶが、イケタニ大佐はいたって冷静。
「進路そのまま、おそらく初弾は牽制です。発砲を確認ののち直ちに面舵30、敵に正対してください。」
「了解…………発砲、今!!」
「おもーかーじ、30!!」
艦隊の目の前を、4本の光条が凄まじい速度で通過する。左舷前方に控えるタラントを掠めるも、命中無し。
続けて命令。
「両舷全速、敵艦との距離を詰め。ユキカゼ及びタラントは、射程に入り次第全力砲撃開始。」
ウォーラス大尉が復唱、サクラがその旨を両艦に伝える。
「敵艦からMSは?」
オペレーターからさらに報告。
「スカート付き3機を放出、真っ直ぐ向かってきます。如何しますか?」
「3機………?ふむ。妙ですねぇ…」
イケタニ大佐は敵の数に若干の違和感を覚える。ルナツー管制から送られてきたデータによると、ザンジバル級機動巡洋艦のMS搭載数は6機。
(……少なすぎる。やはりこちらを甘く見ているのか……しかしそれ程定見が無いとは思えない。『何か』を隠し持っているのか……)
少し考えたのち、さらに命令。
「バレンツィーノ大尉に出撃準備命令を。射出要員を除くデッキクルーは、直ちに与圧区間へ退避。」
「すぐ出さないんですか?!」
オペレーターが訝しむが、イケタニ大佐は冷静を保っている。その表情には焦りも恐怖も一切見受けられず、また身震いひとつしていない。
「おそらく敵はこちらの事を、まだ『敵の襲撃に怖気付いて逃げ出した小規模艦隊』と思って油断している筈。これを利用するべきです。」
淡々と告げる。
何かを察したオペレーターは、冷や汗をかきつつも笑みをこぼして頷いた。
「……了解ッッッ!!」
ユキカゼとタラントが一斉に砲撃を始めるのを見るやイケタニ大佐は手元の直通電話を取り、ハンガーを呼び出し作戦を伝える………。
ネオショーとその護衛艦に迫るジオン公国軍MS部隊「ブラック小隊」ーMS-09Rリックドム2機を従えた、MS-09R-2リックドムII。
その真新しいコックピットの中でパイロットーコールサイン「ブラック1」は、連邦軍小艦隊の動向に違和感を覚えていた。
(…おかしい、さっきまで暗礁宙域に逃げようとしてきた奴らが正対している。護衛艦もかなり撃ち始めた、やはりこいつらは迎撃部隊なんじゃ……?!)
しかし敵はMSを出してくる気配は無い。そう思っているとー
《ブラック2からブラック1、もうすぐバズーカの射程に入るぞ。どうする?!》
僚機から通信。その口ぶりから、彼もまた違和感を覚えているらしい事が伺えた。
《どうするも何も、射程ギリギリで撃っても当たるかよ。もっと近づいて……ん?!》
最優先目標に定めた艦隊中央のコロンブス級、その両舷に備わった前面ハッチが開くのが見えた。中から現れたのは見慣れた丸い機体、これまで散々墜としてきた「RB-79ボール」。
《ボール!!……棺桶が、脅かしやがって!!》
右後ろに控える3番機が加速して一気に前に出る。
《ブラック3出過ぎるなよ、何か変だ!!》
警告すると同時に、ボールに続いて飛び出す人型。明らかにMS。
カタパルトから射出された勢いのまま、凄まじい速度で猛然と距離を詰めてくる。
《なっ………MS!!!》
コロンブス級に狙いを定めていたバズーカの照準を慌てて切り替え敵MSを狙うが、時すでに遅し。
飛び出してきたカーキ色のジムーバレンツィーノ大尉のジムスナイパーカスタムが、左腕に固定したビームサーベルを突き立ててリックドムを貫く。
《Hurraaaaaaaaaaah!!!!》
リックドムは貫かれながらもバズーカを放つが、砲弾はあらぬ方向へ飛び宇宙の彼方に消えた。
一瞬火花が散ったかと思うと大爆発を起こし、宇宙の塵と化す。この間、僅か数秒。
《アッッッ……アダムス!!!ブラック3!!!》
ルウム戦役からの戦友を失った。カーキ色のジムがさらに迫る。
《死ねぇッッッ!!!》
バズーカを向けるが、横合いから突っ込んできたサーベル二本差しのジムーシンイチの乗機に右腕ごと斬り飛ばされる。
左手に把持したマシンガンを放つが、さらに距離を詰めて盾で射線を逸らされるとー
《お前がな……》
ビームライフルを目前に突き付けられる。
《しまッッッ…………!!!》
本能に響く、今まで感じた事の無い恐怖。
瞬間、体を逸らしてかろうじてビームを躱し、そのまま後ろっ飛びに逃げる。
躱したはずのビームはリックドムIIの左肩を貫通、その機能を奪っていた。大推力を活かして一気に距離をとりつつ、残った2番機に告げる。
《ブラック2攻撃中止、攻撃中止だ!!退け!!》
《何言ってる!!ここまで距離を詰めたんだ、一撃喰らわせてやらにゃ…!!》
対空砲火とボール小隊の攻撃を掻い潜りながら反撃を試みる2番機。バズーカを数発放ち、直掩のボール1機に当てる。
ここでネオショーの方向を見やると舷側ハッチが開かれており、そこからさらにMSが現れた。
《何ッッッ?!……まだ積んでやがるのか、畜生!!》
そのうちの2機がこちらに目を向けて向かってくるのを見るやさらにバズーカを放つが、バレルロールして躱された。
バズーカを担いだジムーバーリングの乗機は、牽制に頭部機銃を放ちながらリックドムに迫る。
《スカート付きか、宇宙(そら)じゃただのノロマだなッッッ!!》
バズーカを指向するが、リックドムの胸元が突如目眩しのごとく激しく閃いた。
《連邦のヘボ野朗共が!!》
バズーカを捨ててヒートサーベルを抜き距離を詰めようとするが、怯ませたジムの背後からさらにもう1機現れ、マシンガンを乱射する。
《なッッッ、2機対……ぐわが?!?!》
機体各部に被弾。頑丈な装甲は数発を弾き返すが、1発がメインカメラに飛び込み頭部を破壊する。
コックピット内ではモニターが死んで何も見えず、また姿勢制御か操縦系をやられたのか、スロットルもフットバーも効かない。
《ハッ……何てこった、まさかこの俺が……》
後悔と絶望に沈みながらも、冷ややかな笑みを浮かべるブラック2のパイロット。
《チャーリー3、トドメを!!》
チャーリー4、キム軍曹のジムはリックドムの傍を高速ですり抜けながら冷静に伝える。
《よしきた、くたばれぇッッッ!!!》
体勢を立て直しつつバズーカを放つと、リックドムの胴体中央にクリーンヒットし木っ端微塵に爆散。
リックドム小隊は、あっという間に2機を失った………。
《MS全機に通達、追撃は不要。繰り返します、追撃は不要!》
サクラの声で通信。暗礁宙域へ逃げるリックドムIIとザンジバルを見送りながら、バーリングが得意げに言い放つ。
《ッッッしゃあ、おととい来やがれヘタレ共!!》
《チャーリー3無駄口も不要だ、このドアホ!!……まぁでも、何とかなったな。ボール小隊に犠牲は出たが………。》
シンイチが咎めつつも、初見の敵相手にかろうじて互角に戦えた事に安堵する………しかし、それも束の間。バレンツィーノ大尉が何かに気づいた。
《………?!まだ何か来るぞ、警戒!!》
ザンジバルの艦底部から放出される、明らかにMSとは違う「何か」。
スラスター光が見えたかと思うと、凄まじい勢いでネオショーに向け進路をとり、迫ってきた。
それこそMSとは比較にならない速度、サラミス2隻の対空砲火とMS、ボール部隊の一斉射撃をも易々と躱す。
《なんだアレ、速過ぎる!!!!》
《ブレイク、ブレイク!!!》
MSとボール小隊が散開ー遅れたボール1機が捕えられた。
その「何か」には大型のクローアームが一対、機体はカメムシのような形。
足も頭も無く、それでいて巨大。
ジオン公国軍の新兵器「モビルアーマー」、MA-05「ビグロ」だった。
クローアームに捕らえられたボールはたちまち投げつけられ、デブリに衝突して爆散。再び艦隊に進路をとる。
未知の敵を前に狼狽するバーリング、珍しく声に恐怖が滲む。
《なッッッ………なんだアレ!!どうやって墜とすんだあんなモン!!》
《落ち着け!!とにかく避けろ、おそらく一撃離脱型だ!!》
バレンツィーノ大尉が必死で呼びかける。
《……撃ち続けて進路を逸らせ、狙いはネオショーだ!!》
再び、MS全機で撃ちまくる。ボール小隊と、艦内からアークライト中尉のガンキャノンも出てきて濃密な弾幕を形成。
………ここで、シンイチが「閃く」。
(わざと捕まれば………!!!)
おもむろにシンイチが射撃を止め、ビグロの進路に立ち塞がる。
《?!チャーリー2何のつもりだ、よせ!!》
シンイチのジムがビグロのクローアームに捕えられた。
襲いかかる凄まじいGに耐えつつビームライフルの狙いをつける……しかしなかなか定まらず、さらに空軍時代に鍛え抜かれた彼といえども意識が朦朧とし始める。
《何をする気だ、自殺志願者かッッッ?!》
パイロットが接触回線で嘲笑しつつも何かを感じ取り、メガ粒子砲が備えられた機首にシンイチのジムを押しやった。
《望み通りにしてやろう、消えて無くなれッッッ!!》
「……ここ、だぁッッッ!!!」
機体前面に並んだミサイル発射口へ向けてビームライフルを乱射する。
しかし、極端に傾斜した重装甲に弾かれてしまう。クローアームに掴まれたジムの胸部装甲が悲鳴を上げ、コックピット内には金属の軋む不気味な音が響き、さらに警告灯も赤く点滅し始めた。
ビグロの機首が開き、メガ粒子砲の砲口がいよいよ妖しく光る………!!
「まだまだ……ッッッ!!!行け、行けえぇぇッッッ!!!」
諦める事なくさらに撃ちまくると、ついにミサイル発射口へビームが1発飛び込んだ。
たちまち誘爆に次ぐ誘爆を引き起こし、その巨体が分断される。
シールドを構えて耐えつつ、爆発から逃れるシンイチ。
機体を拘束したままのクローアームをビームサーベルで斬り落とし、爆炎の照り返しをその背に受けながら一気に離脱。
ドロドロに溶解したシールドを捨てながら、仲間達の待つ艦隊へ向けて改めてスラスターを吹かした………。
帰投後、ネオショー艦橋に集合する面々。
「全く、何という無茶を………!!」
イケタニ大佐は冷静さを保ちながらも、その声は怒りに震えている。
「敵を撃退し、尚且つ損害も最小限。剰え敵の新兵器をも破壊し君の機体の破損も軽い。これ以上何も言うつもりはありません。が………」
一呼吸置き、
「今後ああいった無謀な行動は、控えていただければ。バレンツィーノ大尉からもそれをよく指導しておいてください。……それでは、わかれ(解散)。」
「「「「了解!!」」」」
敬礼して、艦橋を離れる。
出入り口から出るや、バレンツィーノ大尉がシンイチに平手打ちした。
「二度と、やるな。次は編成から外すぞ。」
その勢いで隔壁に身体をぶつけながらも、なんとか姿勢を立て直す。
「すみません………本当に、弁明のしようもない。」
今回ばかりはバーリングも何も言わない。キムも沈黙。
バレンツィーノ大尉はひとつため息をついて腕を組み、言葉を探している様子。
………しばらくして笑顔を向け、フッと笑う。
「しかしまぁ……犠牲は出たが、結果的に艦隊は救われたし戦果も大きい。文句は、ここまでとしよう。」
手を差し伸べる。シンイチはそれをがっちりと掴んだ。
「………はい!!」
バーリングとキムも顔を見合わせてようやくニヤリと笑い、シンイチの肩を掴んで立ち上がらせた。
「しかし今回は………色々と『埋め合わせ』が大変そうだぞ。そちらは大丈夫か?」
「はっ……はい?『埋め合わせ』ですか?」
シンイチがキョトンとすると、艦橋の出入り口から弾丸のような勢いでサクラが飛び出してきた。
「シンイチ、さあぁぁぁぁぁん!!!!」
「サッッッ、サクラ………ぐぉほッッッ?!?!コ゜ッッッ…………!!」
絶叫とともに抱きつく。勢い余って鳩尾……というより思いっきり股間に頭突きが入ってしまい、白目を剥いて気を失う。
「シンイチさんの馬鹿馬鹿馬鹿ッッッ、死んだと思ったじゃない!!!もうあんな無茶しないでよ、お願いだから……お願い、だから……うぁあぁぁぁあぁ〜〜〜ん………」
一気に捲し立て、シンイチの下半身に抱きついたまま頭を擦り付けながら泣きじゃくるサクラ。
その様子を見たバーリングとキムが若干引き気味に説得する。
「ちょッッッ……サクラちゃん落ち着いて!!そいつ気失ってる!!多分金的入ってるから一旦離したげて!!」
「タ、タチバナ軍曹、一旦離れては……?!なんだか絵的にコレは…うごはッッッ!?」
引き剥がそうとしたキムの鳩尾に偶然サクラの肘が入り、彼もまた蹲った。
「あ゛ッッッ………?!キムさん?!やだごめんなさい、大丈夫ですか?!?!」
「あーもうめちゃくちゃだよッッッ!!」
軽い騒ぎが、通路内で巻き起こる。
バレンツィーノ大尉が呆れながらもその様子を笑顔で見守り、再びため息。
「まぁ、これが……我が隊の『色』か。」
通路内の小窓から、宇宙(そら)を見やる。
そこから見えた地球は、ひときわ青く輝いていた………。
第二十二話 迫る影 終幕
幕間 整備兵のぼやき
ネオショー、MSデッキ。
帰投したMSが並べられており、それぞれに大勢の整備兵が集まって修理や整備点検に勤しんでいた。
今回一番損傷が激しかったのはもちろんシンイチのジムで、シールドを喪失しただけでなく左肩の装甲が一部溶け落ちていた。
「……こりゃ、ひでぇな。」
「あぁ……よくもまぁ無事に還ったよ。今回は敵の新兵器とド派手にやり合ったんだって?モリタ准尉…」
シンイチの機体担当の整備兵コンビ、ネイトとマイルズが戦慄しながら呟く。
「あの人も意外と無茶するよな、バーリング曹長程じゃないけど…」
「思いきりが良いというか、時折暴走するというか…」
くだらない会話をしながら、スイ~ッとコックピットまで浮かび上がる。マイルズがハッチを開けてシートに座り、整備プログラムを立ち上げた。
「暴走……そういや聞いたか?モリタ准尉の事…」
ネイトが周りを憚りながら呟く。
「何?なんかやらかした?」
「いや、噂よ。オペレーターのサクラちゃんと付き合ってるって…」
マイルズが驚く。北米戦線からずっと生真面目なシンイチの姿を見ている故、尚更であった。
「マジでか?!あの人ああいう地味めなコが好みなのか……あ、胸部装甲も警告出てる。」
「装甲、取っ替えかな………あ、胸部装甲で思い出したけどサクラちゃんって割と巨乳なの知ってた?」
「何だと?!サクラちゃんの胸部装甲が?!」
マイルズの目が大きく開き、先程までコンソールの方を向いていた顔をクワッと向ける。
「そりゃもう、爆発反応装甲よ…ありゃ90はあるな、間違いない。」
「ほう、リアクティブアーマーってヤツか……90もあるなら、俺でも暴走するわ(?)。」
するとそこへ…
「よう!!お疲れさん!!」
シンイチが現れ、ネイトの背中をドンと叩く。
「うおぉッッッ、モリタ准尉殿……!!お疲れ様です!」
「いやぁ〜つい無茶しちまった……かなり仕事、増やしたかもな。修理イケそう?」
ネイトが向き直り、胸を張って説明する。
「……あっ、大丈夫です、ジムタイプの腕パーツなら大量に予備があるので。すぐ取っ替えれば済みそうかと。」
「ナルヘソ、やっぱ元々補給艦なだけあるな…あっ、あとさぁ、胸部装甲がどうとかって言ってたろ?」
二人がギクっとした。
((マズい、聞かれてたかッッッ……?!))
「……胸部、色々警告灯出てたんだよね。そっちも見といてくれたら。ヨロシク!!はいこれ差し入れッッッ!!」
チューブ飲料を二人にそれぞれ投げてよこす。
「あッッッ……ありがとう、ございます!」
「うぉッッッ……と!!こりゃどうも!」
「あとさぁ、二人とも……リアクティブアーマーが90とか暴走がどうとかって言ってたけど、何の事?」
再びギクっとするが、マイルズがすぐさま機転を効かせた。
「……い、いや、ジムにリアクティブアーマーを着けたら防御力も上がるんじゃないかなぁ……と、ハハハ、ハハハハハ…」
シンイチがやや疑いの目を向けながら、やや訝しげに呟く。
「それは………陸戦ならともかく、宇宙ではどうなんだろうな?…まぁ、よろしく頼むよッッッ!!」
崩れた敬礼を交わすと、機体を蹴ってスイ~ッと離れていった。
「………ヤバ、かったぁ!!!!聞かれてたかと思ったマジで!!」
「モリタ准尉の陰口なんてお前、聞かれたら竹刀で百叩きだぞ………!!」
「いやそこまではせんだろ!!流石に…」
そこに再び、音もなく唐突に現れるシンイチ。忍者かな?
「あっ、ところで俺とサクラがどうとかって言ってたけどさぁ…」
思わずツッコむマイルズ。
「アンタ絶対聞いてただろマジで!!!!」
「うん。」
「……えッッッ、ちなみにどっちから告ったんスか?」
毒を食らわば皿までとばかりにネイトが思い切って聞くと、シンイチは平然と答える。
「サクラ。」
「ほえぇぇ〜〜〜!!……ちなみに、ちなみにどこまでヤッたんすか?!」
「え?まぁ……チューはしたよ。」
「マジですか………!!あッッッ、スンマセンもっと聞かせてもらっていいっすか?!」
頬を掻きながら、少し考えて答えるシンイチ。
「んー、まぁ……そうね、ある程度なら全然、いいよッッッ!!あっ、でもサクラの名誉のためにもエッチな話題は勘弁な!!」
互いに快くサムズアップ。
「「勿論です!!!!」」
そこからは三人集まって和気藹々と、シンイチとサクラの馴れ初めや各々の恋バナに花を咲かせたのであった………。
幕間 整備兵のぼやき 終幕
素晴らしい提案をしよう、お前もジム系を愛でないか?(挨拶)
はい皆様お疲れ様です野武士山芋侍でッッッす!!!
今回はリ→ク↗︎ド↓とザンジバル、ビグロを登場させてみました。リクド2型は0080の割と序盤?である程度出てきたし、12月初旬なら小隊長機とかその辺のポジションで許される……よね?(汗)
ビグロの倒し方はホワイトベース隊とガンダム戦記のユーグ隊長のやり方をミックスさせてます。違うのは自ら捕まれに行ったトコですね。
シンイチが何故とっさにこの戦い方を思いついたのかは…………謎です。
そしてシンイチの冒頭の明晰夢が示すものは………謎です。
はい、大事な事なので二回言いました(爆)
さて次回、なんと「アレ」の輸送を偶然シンイチ達が手助けするお話となります!!
次回第二十三話「『希望』を載せた船」
お楽しみにッッッ!!
…っていうか今更重大な事実に気づいた、サブリナの見た目はシュラク隊(Vガンダム)のケイト・ブッシュそのまんまだわ(汗)