「………尾けられてますね。」
「そうだな、1隻だけだが……」
サイド6を出航したネオショー。その艦橋で、当直士官のウォーラス大尉とレーダー担当のスタンリー少尉が真剣な表情で会話する。
ネオショーを中心とした小艦隊のはるか後方には、ジオン公国軍のザンジバル級機動巡洋艦が1隻。
サイド6の宙域を出てしばらく後、待ち構えていたように艦隊の後方につけて追随していた。
しかも主砲やミサイルの有効射程には入らないように近づく・遠ざかるを繰り返し、連邦側の反撃の意思を鈍らせていた。
そしてここで、事態が動く。
「………ん?!ザンジバル後方にさらに2隻探知、まだ遠いが……艦影照合、ムサイ級です!」
「増援か、合流する気だな………という事は……」
「その時に、仕掛けて来ますかね?」
スタンリー少尉がウォーラス大尉に顔を向け、眉間に皺を寄せて問う。
「可能性は十分にあるな。この前と同じザンジバルなら、単独で突っ込んでくる程バカじゃない………艦長を呼ぼう、コイツらをルナツーに連れて行くワケにはいかん。」
通信手席のサクラも振り返り、ウォーラス大尉に告げる。
「艦内に第一種戦闘配置を告げますか?」
「いや、まだ第二種でいい。奴らが距離を詰めて来そうなら第一種だ。搭乗待機中のパイロットは?」
「アークライト中尉の第2小隊と、ボール第1、第2小隊が待機中です。」
「ん、いつでも出られるようにと伝えておいてくれ。」
「了解。ネオショーコントロールより艦内各員、第二種戦闘配置、第二種戦闘配置。待機中のアルファ1どうぞ……」
第二種戦闘配置が告げられた艦内は、にわかに慌ただしくなった………。
MSデッキ、ハンガーに固定されたRX-77「ガンキャノン」のコックピット内。
アークライト中尉が無線で艦橋のサクラから連絡を受けていた。
「……了解、第二種戦闘配置だな。敵の状況は?」
《はい、中尉。艦隊の後ろに張り付いていたザンジバルが増援を得た、と。》
「規模は?」
《ムサイ級が2隻。おそらく合流次第仕掛けて来ると思料されます。ミノフスキー粒子濃度もどんどん上がってますし…》
顎に手を当てて、少し考え込むアークライト中尉。一呼吸おいて、返答。
「わかった、いつも素敵な声で助かるよ。ところで…どうだろう。次の半舷上陸では、一緒に食事でも?」
軽い口調で口説く。通話の向こう側でサクラが赤面する様子が目に浮かんだ。
《んもぅ、やめてください!!シンイチさんに言いつけますよッッッ!!》
無線を聞いていたケイトが割り込んできた。
《小隊長、不粋です……不快だし、不躾です。》
普段従順なジェフも、苦笑いを浮かべて窘める。
《中尉殿……流石に他人(ひと)の彼女を口説くのは、いかがなものかと…》
「ハハハ!手厳しいなウチのレディ達は……そうだなジェフ、無礼討ちにでもされてはいけないからこのへんにしておこう。」
無線を切ると、ガンキャノンの対面にある反対側のMSデッキに目をやる。
シンイチが整備兵と一緒に愛機の様子を確認しており、丁度良いタイミングでくしゃみをした。どうやら彼も「咳エチケット」を忘れていたらしく、隣でバーリングが何やら騒いでいる。
脳裏に蘇る記憶。バーリングや部下達とともに駆け抜けた、ボール部隊での苦しい時期。
「………我々も、ここまで戦えるようになったか。」
感慨深く呟いているとさらに通信が入り、第一種戦闘配置が告げられる。
整備兵やその他非番のクルー達はたちまち与圧区画へ退避した。
再びネオショー艦橋。
イケタニ大佐が艦長席に着き、ウォーラス大尉から現状の報告を受ける。
「……よくわかりました、敵艦隊の動向から目を離さないよう。」
「如何しますか?」
一旦、口を閉ざして考えるイケタニ大佐。
(敵艦隊は3隻に増えたが、艦載機の数的優位はボールも含めるとこちらが有利。前回仕掛けてきたあのザンジバルなら、ウォーラス大尉のいうように単独で突貫してくる事は無い筈。となると……)
顔を上げて、はっきりした声で告げる。相変わらず臆している様子は全く無いばかりか、既に勝利を確信したような自信溢れる声。
「………『ユキカゼ』のマルヤマ中佐に繋いでください。少し『損な役回り』を演じてもらう事になりますが。」
「了解!!」
「それから、第2小隊は直ちに出撃してユキカゼに帯同。第3小隊も艦隊の直掩に出しましょう。タチバナ軍曹、お願いします。」
サクラが頷き、直ちに通信。
「……第2小隊、第3小隊、出撃どうぞ。発艦後、第2はユキカゼに帯同。第3は艦隊の直掩に回られたし。」
《………了解、アルファ1、ウィリアム・アークライト、出るッッッ!!》
《アルファ2、ジェフ・ワイルダー、出撃する!!》
暗い宇宙に向けて躍り出る、前衛2機のガンキャノン。さらに後衛をつとめるアルファ3、アルファ4のジム2機を発進させると大きく旋回し、護衛艦たるユキカゼに進路をとる。
サラミス級巡洋艦「ユキカゼ」艦橋、同艦の艦長たるゴロウ・マルヤマ中佐がおずおずと艦長席に着いた。
「苦労人」。どこか頼りない雰囲気の彼の出立ちを見ると、誰もがそういう印象を抱くであろう。
しかし彼はルウム戦役においてイケタニ大佐の副官を務め、のちにサラミス級の1隻を任される優秀さといざという時の指揮の冴えをも持ち合わせていた。
「皆、暇じゃ無さそうだね。敵は3隻だって?ちょい手強いかぁ…」
「艦長、イケタニ大佐から直通で通信。」
オペレーターの事務的な声に、途端に顔を顰めるマルヤマ中佐。イケタニ大佐から直通で連絡がある際は、大抵厄介事を押し付けられる場合が多いからだ。
「……ハァ〜〜ッッッ、繋いで。」
頭を抱えてひとつ大きなため息をついてから、艦長席手元の直通電話を取る。
「了解、何とかしますよ。」
一通り会話を終えると艦長帽をとり、すっかり禿げ上がった頭を掻いた。トレードマークの黒縁眼鏡をかけ直してまたもため息をつくと、改めてはっきりした声で命令。
「これより、敵追撃艦隊と交戦する。それにあたり我が艦は……別働として敵側面へ回り込む任を受けた。」
操舵手のチャン軍曹が驚いて顔を向ける。
「側面ですか、この状態から?!孤立しますよ…!!」
「イケタニ大佐には考えがあるんだと。第2小隊も着いてきてくれる……チャンさん回避運動しっかりね、下手したら艦ごと沈むよ。」
青ざめるチャン軍曹。彼もまた、艦長共々イケタニ大佐からの無理難題に辟易としている様子。
「艦長、2時方向よりガンキャノン2機、ジム2機。第2小隊です。」
「……了解、直掩のボール隊ももう出そう。前衛は第2小隊に任せて、こっちは射程に入り次第全力射撃ね。とりあえず『喰いついて』きたヤツから集中的に叩くから、まずはそのつもりで。砲術長、使える砲は全部使って。」
オペレーターからの報告を受けると先程までのおずおずとした態度はどこへやら、テキパキと早口で指示を出す。
「回頭180°、プラス20。しかるのち、第四船速まで加速。」
「回頭180°プラス20、アイ!!とりーかーじ、一杯!!」
艦橋内に響き渡る号令。
百戦錬磨のイケタニ大佐指揮の下、彼の「作戦」が静かに動き始めていた………。
サラミスに帯同する2機のガンキャノン、砲の射線に入らないよう右舷側を並んで飛ぶ。
「ユキカゼが船速を上げたな?いよいよか!!」
《あとは…敵さんがどう動くかですね。》
「そうだなアルファ2、まだ動きは………いや、来ている。」
やや先行する2機のジム、アルファ3のケイトから報告。
《ベクトル変更有り、ムサイ級1隻が回頭しこちらに来ます。》
続けて、ユキカゼより連絡。
《ユキカゼコントロールからアルファ小隊、敵艦はMSを随伴させている。艦隊正面にリックドム3機が展開、後方にザク3機。十分警戒せよ。》
相変わらずオペレーターの事務的な声。
「よし、ボール隊は艦隊直掩。釣れた獲物は少ないが……我々ならどうとでもなる。撃ってきたら二手に分かれて、まずはー」
ここで遠影に見えた、僅かなフラッシュ。
「………ブレイク(散開)ッッッ!!発砲炎!!」
指示を出していると先頭をゆくリックドムからバズーカが放たれ、編隊の脇を至近弾が掠めた。
ガンキャノン2機を狙っているが、アークライト中尉はあくまで冷静。
「貴様が最初の獲物だ……!!」
急機動からのGに堪えつつ、ビームライフルの狙いを定めて撃つ。初弾は躱された。
「アルファ2!!」
《もう捉えてますよ!!》
ジェフのガンキャノンが続けてビームライフルを撃ち、さらにキャノン砲を見舞う。
激しい攻撃に敵編隊は散開、2機はそのまま向かってくるが1機はユキカゼに進路をとった。
そして、ベテランの2人はそれを見逃す筈もない。
「よそ見禁物ッッッ!!!」
正面の2機に向かうと見せかけて急旋回、編隊を離れた1機をガンキャノン2機の強烈な砲火が襲う。
スプレーミサイルランチャーの猛烈な弾幕に捕まり大破、さらにビームライフルの一撃がドムの腹をぶち抜く。
たちまち大爆発。
残りの2機が仕掛けようとしたが、1機は背後からビームサーベルの一突きに沈む。
後方のザク編隊に向かったと見せかけたケイトとその僚機が引き返し、リックドム編隊の背後をとっていた。
《………無用心、無警戒、無思慮……クソ雑魚。》
ビームサーベルを引き抜くと、横腹を蹴っ飛ばして打ちやる。
残った1機がケイトのジムを狙ってバズーカを撃つが、体をのけ反らせて躱され、アルファ4ードイル軍曹のジムからビームスプレーガンを撃ち込まれて片腕を失った。
たちまち逃げ出すリックドム。
《アルファ4、深追いは駄目。次行くよ。》
《了解!!》
両者とも落ち着き払った、冷静な声。ジム2機は続けてザク編隊を狙う………が。
「アルファ1、スプラッシュ(敵機撃墜)1!!」
アークライト中尉が既にザクの1機を仕留めていた。残った2機は右腕の無いリックドムと合流し、母艦たるムサイ級「ブリュッヒャー」へ向け後退している。
「一旦編隊を詰めろ、だが艦砲に注意!!」
あっという間に随伴MSの半数を失ったムサイ、しかしユキカゼへの突進をやめようとしない。
全ての砲を斉射しながら迫る。ユキカゼは反撃もままならず、回避に専念せざるを得ない。
直掩のボール小隊をも掠め、このままでは被害が出かねない。
「アレは早めに沈めないと、マズいな…!!」
《アルファ1、まだ直掩が居ます!どうしますか?!》
「考えがある。このまま密集して追撃、合図でブレイクだ。」
4機で密集し、敵MSに追いすがりながら一斉に撃ちまくる。
「艦砲来るぞ……!今だ、ブレイク!!」
ムサイ級の主砲群からビームが放たれる。6本の光条はしかし、援護を求めていた筈の友軍たるザク1機を巻き込み、隻腕のリックドムをも掠めて操縦不能に追い込んでしまった。
アークライト中尉の編隊はすんでで躱す。
彼はあえて敵を深追いし、この誤射を狙っていたのだった。
残った敵はザク1機と無防備なムサイ。
艦砲を躱して体勢を崩したザクはジェフのガンキャノンにマシンガンを見舞うが、重装甲で阻まれる。即座に反撃、ビームライフルに撃ち抜かれた。
「アルファ2ナイスキル、では母艦を丁重に葬ろう。アルファ3と4は一旦離脱。」
標的をMSに変更して必死に砲撃を加えるムサイ。ミサイルをも撃ちまくるが、ミノフスキー粒子散布下故細かい誘導が効かない。
激しい攻撃をいとも容易く躱したガンキャノン2機は敵艦の両舷底面、艦砲の死角になる位置に滑り込むや、手持ち武器と両肩部の兵装を一気に叩き込む。
次々と破壊される艦内区画、誘爆が誘爆を生んで船体は分断された。
「……このくらいで十分だろう、離脱する。破片に注意!」
ガンキャノン2機が距離を取ると同時に、凄まじい爆発。ムサイは大小のデブリとなり、かつての威容は完全に失われた。
「第二小隊、ムサイ級1隻と随伴MSを殲滅ッッッ!!」
歓声が上がるユキカゼ艦橋。しかしマルヤマ中佐は小さな勝利に浮つかない。
「まだまだ、まだだぞ!!命令通り敵艦隊の側面……いや背後だ、このまま後ろに回ろう!!その方がいい!!一旦第三船速まで落とし取舵40°!!」
即座に命令、操舵手が復唱。
「とりーかーじ、40!!第三せんそーく!!」
重々しく旋回し、敵艦隊のスラスター光を頼りに突進するユキカゼ。第2小隊が付かず離れず帯同する。
ザンジバルとムサイは背を向けて全力で逃げるネオショーとタラントに砲撃を見舞うが、巧みな回避運動の前に有効打を与えられないでいた。
また直掩のジム4機とボール小隊もあえて船体に張り付き対空防御に専念し、濃密な弾幕を展開。敵MSの接近を許さない。
さらに非番の身から出撃許可を得たシンイチ達第1小隊もデッキから躍り出て、戦闘は一段と激しさを増す。
《クソッッッ、補給艦風情が生意気な………わあ゛ぁッッッ!!!!》
リックドムの1機がボール小隊の集中射撃に捕まり、爆散。
ネオショー艦橋ではクルーの怒号と落ち着き払ったイケタニ大佐の指示が交互に、そしてひっきりなしに飛び交っている。
「第16ブロック被弾、損傷軽微なるも…隔壁が破損、気密が破れました!!」
「ダメコン班、修復急げ。ユキカゼの状況どうか。」
サクラがやや早口で報告、その声には歓喜が滲む。
「ムサイ1隻と随伴MSを殲滅したそうです!!まもなく敵艦隊の背後を……うわッッッ!!!」
その最中、再び衝撃。どこかに被弾したらしい。
機関部担当のオペレーターが叫ぶ。
「左舷機関部付近に被弾、一部火災発生!!」
「そちらも大至急対応を。機関室に連絡、左舷側エンジン2発を誘爆防止のためカット。ユキカゼの合流は?」
「もうまもなくです……今、来ました!!」
そして、そこへ敵艦隊の後方を突くように現れるユキカゼと第2小隊。凄まじい砲撃により、ムサイ級が片方のエンジン部分を破壊されて大きく傾く。さらに直掩のMSも1機砲撃に巻き込まれた。
《なッッッ……さっき離れていったサラミス級?!ブリュッヒャーはやられたのか?!》
ザンジバル級「ケーニヒスベルク」の艦載機、リックドムIIのパイロットであるジョセフ・コンラッド大尉が驚愕する。
《ブラック1から『ケーニヒスベルク』及び『リュッツオウ』!!後方からサラミスが来てるぞ、一旦退け!!》
必死に呼びかけるまでもなく、追跡していた連邦艦隊から進路を大きく逸らし、射線を外す両艦。
しかしこれが、イケタニ大佐の狙いであった。
ネオショーの艦橋で会心の笑みを浮かべる彼は、先程より自信に満ちた声で下命する。
「全艦直ちに右舷へ回頭、敵艦隊の左舷後方につけ。ユキカゼはそのまま追撃。」
「おもーかーじ、120!!機関全速!!」
大きく迂回しつつ進路を変えるネオショーとタラント。これで、ザンジバルと傷ついたムサイ級を連邦側が追いかける形となった。
《チャーリー1から全機へ、『客人』方を盛大に見送るぞ!!続けぇッッッ!!》
ビームサーベルを抜いたMS隊全機が追撃にかかる。その威容と勢いは、さながら抜刀隊。
シンイチのジムがリックドムを背後から襲って一刀の下に斬り捨てると、バーリングのジムがザクの顔面にバズーカを撃ち込んで爆散させる。
そんな混戦の最中、デブリの影から出て艦隊直上に躍り出るリックドム。明らかに通常のジャイアントバズーカとは違うさらに大型の獲物ービームバズーカを抱えている。
即座に気付くキム。その巨砲はネオショーを狙うがしかし、距離があってカバーが間に合いそうにない。
《ぐッッッ……ネオショー、急ぎ回避運動!!》
ビームバズーカの砲口が妖しく光る、が…
《させるかぁッッッ!!!》
アークライト中尉のガンキャノンが横合いから飛び込み、リックドムにタックルを見舞った。
放たれた極太のビームはガンキャノンの両脚を消し飛ばしたが、紙一重でネオショーを外す。凄まじい奔流はそれ以外の何を破壊する事なく宇宙に消えた。
《………ッッッ!!くたばれぇ!!!》
仕返しとばかりに、リックドムの顔面に左拳が叩き込まれる。頭部フレームが歪んで部品や破片が肉骨片の如く飛び散り、モノアイが目玉のように飛び出した。
さらにビームライフルの接射を胸部に数発見舞うと、たちどころに大爆発。
《危なかった……アルファ1、スプラッシュ1…》
《なんて……こった!!アルファ1大丈夫ですか?!》
両脚を失い、姿勢を崩したガンキャノンに駆け寄って支えるバーリングのジム。
《……擦り傷だ、それより追撃!!行け!!》
するとここで、ネオショーから通信。
《各MSへ、これ以上の追撃は不要。全機帰投されたし。繰り返します………》
サクラからの無線を合図にしたかのように、激しい戦いは終わりを告げた。
そして、しばらく後。ネオショーが舷側のMSデッキ扉を開放し、また周囲にボール部隊を配置して待機していると、追撃から帰投してきたMSが続々と到着。
《あっ、還ってきた…バーリングのジム、と………えっ、ガンキャノンが?!》
ボールK型に乗ったサブリナが歓喜の声を上げると同時に、その様子を見て戦慄した。
両脚を失ったガンキャノンをキムとバーリングのジムが肩を貸して支え、ゆっくりと着艦する。
青ざめるサブリナがすぐに報告。
《……至急至急MSデッキ、アルファ1中破!!最優先で奥に連れてくから手伝って!!チャーリー3、パイロットは?!》
バーリングが答えるより早く、アークライト中尉が返答。
《こちらアルファ1、私は大丈夫だ。そしてこの損傷は私自身のヘマだ、何も問題は無い。》
安堵するサブリナとデッキクルー一同。
大型マニピュレーターを備えたサブリナのボールK型がガンキャノンを支え、ゆっくりとデッキに運ぶ。
他の機体も順次、危なげなく帰投するのだった………。
ネオショー、MSデッキ。
いつものように帰投したMSが並べられ、整備兵が修理に点検に動き回っている。
ハンガーに固定された両脚のないガンキャノンの前で、アークライト中尉が頭を抱えていた。
「全く、私らしくない……いや、私らしいといえばその通りか。またこの有様とは……」
「しかし今回は怪我も無いし艦も無事だし、おまけに戦果も大きいから良かったじゃないですか。」
「機体なんて消耗品ですし……替えは利きますし、それにもうすぐルナツーに着きますし。」
傍に控えるジェフとケイトが励ましていると、小隊4番機のドイル軍曹が両手に大量のチューブ飲料を抱えてやってきた。
「小隊長、皆さん!!コレ艦長からの差し入れです!!是非……!!」
「おぉ丁度良い、喉乾いてたんだ!!気が利くなぁ新入り軍曹…」
ジェフが遠慮無くコーラ風味フレーバーの飲料を取ると、ケイトが恨めしそうに呟く。
「あ゛っ、それ私が好きなヤツ……強欲、傲慢、業突く張り。」
「なッッッ……そこまで言わなくても!!ホラ他にも甘いのあるぞ、甘いの好きだろ、3個欲しいのか?イヤしんぼめ!」
「ヤだ、コーラ風味よこせ。しからずんば死を……コーラは命。」
「命て!!大袈裟かッッッ…このダウナーお姉さん擬きッッッ…!!!」
年甲斐も無く奪い合う二人。ドイル軍曹が窘めようと割って入るが、全く効果が無い。
彼の手元からこぼれ落ちたチューブ飲料のうちの一つが、アークライト中尉の手元に漂ってきた。
開けて一口飲むと、加糖タイプのコーヒー飲料……つまるところ、コーヒー牛乳だった。かなり甘い。
「これは……第一小隊のモリタが好みそうな味だな。」
向かいのMSデッキに目をやり、感慨深く呟いた。やはりシンイチが整備兵を手伝ったり、バーリングとサブリナが人目を憚らずイチャついていたり。
「フッ、同じ艦に居るからか?何だか我々も彼ら……第1小隊に似てきたな。戦い方も雰囲気も、色々と。」
笑みを浮かべて、改めて愛機に向き直る。
艦とMSの修理は順調、ネオショー率いる小艦隊はまもなくルナツーに到着するのであった………。
第二十五話 二番手の意地 終幕
幕間 小さな「始まり」
ネオショー艦内、搭乗員待機室。
報告を終えたアークライト中尉が入ってきた。
「やぁ、皆ご苦労だっ………誰も居ないのか、珍しいな。」
ひとつため息をつくと、中央に置かれた長椅子に足を引っ掛け、身体を横たえる。
「ふぅ………。」
目をきつく閉じ、眉間を摘む。すると突然、出入り口の扉が開いた。
アークライト中尉がそちらに目をやると、どこか幼さを感じさせる女性下士官が一人。
「……あっ、お疲れ様です、中尉殿……」
「おぉ、お疲れ……ん?君は確か……」
いうなれば年頃の少女といった雰囲気の彼女は、緩くパーマがかかった金髪を頭の後ろでお団子に纏め、顔にはそばかす。
サクラの後輩にしてネオショーの副通信手、クレア・ランパート伍長だった。
「ランパート伍長、です。アークライト……中尉、殿………。」
「……そうか。君とは確か北米の頃から一緒だったが、あまり話した事は無かったな。ところで……何か用かな?」
アークライト中尉が優しい声で問いかけると、クレアは顔を赤らめつつ目を逸らして俯いた。
「あの、その………えっと……無事で、良かった、です。それから………」
「あぁ、ありがとう。……それから、何かな?」
言葉に詰まりながらも、なんとか想いを打ち明けるクレア。
「その……艦を守ってくれて、ありがとうございます。危ないところでした、本当に………。」
「なに、君がわざわざ礼を言う事は無いさ。我々は艦載MS隊として、任務を果たしたまでだ。」
平然と答えて、笑顔を向けるアークライト中尉。
「でっ、でも!!私とても怖くて、部屋で震える事しかできなくて……!!」
今度は言葉を遮り、やはり優しく諭した。
「まぁまぁ、誰にでもできることとできないことがある。それは時と場合にもよるさ。君は何も気負う事はない。」
やはり平然としている。その様子に、クレアは大変感銘を受けた様子。
「か、カッコいい……いや、その、何でもないです!!!失礼します!!!」
一礼すると、脱兎の如く待機室から飛び出した。
呆然とするアークライト中尉。何だかんだで彼も朴念仁……。
そして、室外ではサブリナが待ち構えていた。小声でクレアを励ます。
「やったじゃん、クレア!!大きな一歩目よ、頑張って!!」
「うぅぅぅ………絶対引かれた、ドン引きされた……どうしよう、もう顔を合わせられない…私お嫁に行けない……」
「大丈夫大丈夫、まだまだこれからよ!!あとはアタイが言った通り馬乗りになってズギュンでオギャーよッッッ!!」
「それホントよくわかんない……」
そう、以前から密かにアークライト中尉に想いを寄せるクレアを焚き付けたのは他ならぬサブリナであった。
彼女曰く自分は「恋愛マスター」である、と勝手に思い込んでいるらしい……。
「ちなみに……サブリナさんはバーリングさんとその、結ばれた、時に…『ズギュンでオギャー』したんですか?」
恐る恐る聞いてみるクレア。するとサブリナは胸を張り、フンと鼻を鳴らして自信満々に答える。
「モチのロンよ!!そりゃもうアタイから乗っかってズギュンどころかズッコn」
「駄目ッッッ!!!!」
「ひでぶッッッ?!?!」
「タチバナ先輩?!?!」
唐突に横合いから現れたサクラは、どこから持ち出してきたのかハリセンでサブリナの横っ面を一撃。
この後、後輩たるクレアに悪影響を与えまいと「強めに」釘を刺すのであった………。
幕間 小さな「始まり」 終幕
おはようございますこんにちはこんぶsッッッ…ばんぶsわッッッ(噛)、芋侍でっす!!
というワケで今回は、地上編ではほぼいいトコ無しだったアークライト中尉とゆかいな仲間達withガンキャノンを大いに活躍させてみましたッッッ!!
あと、前回はホントもうこれでもかって位徹底したてぇてぇ回だったので今回はガッツリ戦闘回です。例えるなら第二十四話がスイーツバイキングで今回はステーキバイキングみたいなモンですはい。
えっ、例えがよく分からんって?わかれ(無理強い)
なお今回初登場したマルヤマ中佐、ネオショーのイケタニ大佐共々モデルにした人物が居ります。わかったかな?( ͡° ͜ʖ ͡°)
幕間のランパート伍長もこれまた新キャラっぽいですが、こちらは第四話で登場済みです。コマツ大尉に婚約者殺されて泣いてたあのコね。
彼女に救いはもたらされるのか?それは私にもわからん、本当に申し訳ない(某ミームの博士風)。
さて次回、ルナツーに帰投して中隊の再編成&第2小隊との模擬戦リベンジマッチとなります。ほぼ対等の条件となった今回、どんな戦いが繰り広げられるのか?
次回第二十六話「中隊再編成」
お楽しみにッッッ!!
…え、サブリナの「馬乗りになってズギュンでオギャー」ってのは具体的に何なのかって?
第十九話読んでください、第十九話(投げ槍)