ルナツーからほど近い宙域では激しい戦闘が続いており、数多の爆発の光が瞬いていた。
真正面から向かい合った双方の艦隊の間ではMS部隊が乱戦状態となっているが、明らかに連邦側が押されている。
ジム数個小隊ー既に5機を失っているーに2個中隊規模のボール部隊を加えてどうにか数を揃えており、戦い方も後方から支援するのではなくMSに帯同しての正面突撃だった。
そんな中、さらにボールが1機撃墜される。リックドムIIのコンラッド大尉は好機とみて、MS全部隊に艦隊への攻撃を指示した。
《ブラック1より全機へ、このまま防衛線を突破する。艦隊を潰して道を拓くぞ、続け!!》
さしたる損害を受けないままのジオン側は、防御陣形を組んだ連邦軍の艦隊に殺到するべくスラスターを全開にする。
《各々手柄を立てるチャンスだ。艦船撃沈スコアは恩給がデカい、早い者勝ちだぞッッッ!!》
コンラッド大尉はコックピット内でニヤリとしながら、敵艦隊の直上へ躍り出る。そのまま大推力を活かして一気に距離を詰めた。
濃密な対空砲火を易々と躱すリックドムII。艦橋にバズーカを1発叩き込んでそのまま艦底方向に抜けると、反転させて振り向きざまそこへもう1発お見舞いした。たちまち炎上し、崩れ落ちるように陣形から脱落するサラミス。
さらにザク2機が別の1隻に取り付き、至近距離からマシンガンを斉射して艦体を蜂の巣にする。艦のあちこちから爆発が起こり、たちまち轟沈した。
ジオン側MS部隊には旧ザクも混じっているが、バズーカに加えてシュツルムファウストを持てるだけ抱えており、防御陣形ゆえに回避運動をまともに取れない艦艇にとっては脅威だった。
1隻、また1隻と損害を被る防衛艦隊に狼狽する連邦側MS部隊。
《何やってんだ、このまま抜かれたら終わりだぞ!!艦隊を守れ!!》
指揮官が体勢を立て直すべく命令を下すが、技量の未熟なパイロット達は編隊すら組み直さないまま無秩序に敵を追う。
《連携を密にしろ、ボールはジムから離れるなッッッ!!》
そして、突撃の機会を見据えつつ後方に控えるケーニヒスベルク艦橋では………。
「MS部隊、敵MSの防衛線を突破した模様。善戦中……」
薄暗い艦橋では各種計器やモニターの明かりだけが内部を照らしている。オペレーターがグッゲンハイム艦長に報告すると、彼の隣に立つ副艦長は得意げな表情で告げた。
「この調子なら、我々だけでルナツーを陥とせるかもしれませんな。『バラク』に頼るまでもない。」
「油断するなよ、まだ『奴ら』が現れていない。ルナツーは間違いなく呼び寄せている……どこかから現れる筈だ。」
顔を背けたまま、真剣な表情で続ける。
「それに奴らが来ずとも、あまり時間をかけすぎると今度はソロモンを陥とした本隊が来る。……時間との戦いだ、MS隊が防衛線を抜いたら我が艦隊も一気に仕掛けるぞ!!」
途中から声量を上げ、クルーに下命。手元のチューブ飲料を手に取り一口飲むと、眉間に皺を寄せながら再び眼前を見据えた。
(認めたくはないが、我々は二度も退けられている。今回も何か予想もつかない方法で我々を苦しめるだろう。しかし今回こちらには『バラク』に加えて………奴ら相手の切り札がある。)
艦橋の窓からは、相変わらず激しい戦いの様子が見えた。防衛艦隊のサラミス級から放たれた艦砲射撃を難なく躱しつつ、ケーニヒスベルクとムサイ5隻の小艦隊は連邦側との距離を徐々に詰める………。
その頃のネオショー。いよいよ接敵を控え、艦内の慌ただしさはピークに達していた。
艦橋では、ウォーラス大尉の声が唐突に響く。
「迂回、ですか?!」
イケタニ大佐は冷静な態度と表情を崩さずに答えた。
「そうです。このままの進路だと、確かに敵の背後を抑えて防衛艦隊との挟み撃ちにできますが……」
手元の多目的ディスプレイに図解を示しながら、ウォーラス大尉に説明する。
「……比較的手薄な、上下いずれかに逃れて防衛線を破られる可能性があります。また正面の練度の低い友軍艦隊から、誤射を貰ってしまうかも。」
「そうですが!!……しかし、それでは友軍の被害が……!!」
ウォーラス大尉は顔を顰めて反論するが、言葉が続かない。顎に手を当てて考え込んでしまう。
「時間が無いのは承知です。ですが、この敵艦隊を通すわけにも、取り逃すわけにもいきません…………たとえ、1隻たりとも。」
珍しくイケタニ大佐の言葉に力がこもる。彼の意図を察したのか、ウォーラス大尉は苦々しい表情ながらも静かに頷いた。
「操舵手、速度と進路そのままで上方プラス30。コンプトン及びタラントはこのまま追随、ユキカゼ及びロストックは下方マイナス30。敵艦隊の上下を抑えたのち一気に仕掛けます。MS隊第2小隊及びボール第3、第4小隊はただちに発艦してユキカゼに帯同。第一種戦闘配備を発令。」
一気に下命するイケタニ大佐、直ちに復唱する各部署。ネオショーの前部ハッチが開き、ガンキャノン2機が勢いよく射出される。
そしてハンガー内では、MSの発艦が進められていた。
《発艦を確認……次アルファ3出すぞ、カタパルト戻せ!!》
《ボールは側面ハッチから出させろ、後は自力で追いつけ……!》
《アルファ3、発艦位置まで前進。左舷デッキはアルファ4の発艦準備を急げ。》
フライトデッキは多忙を極めていた。ひっきりなしにクルー達の通信が飛び交う。
アルファ3ーケイトのジムが壁面の武装ラックからビームライフルを取り、足元にスライドしてきたカタパルトに乗る。踵と爪先ががっちりと固定され、中腰の姿勢になった。
《アルファ3ケイト・マーヴィン、出る。》
《アルファ4、ドイル・サンダーソン、いきますッッッ!!》
申告とともに、カタパルトが勢いよくスライド。ジム2機が宇宙空間に飛び出した。
《ボール小隊、出せ!》
号令とともに舷側のハッチも開き、ボール小隊が次々と出撃する。単装キャノン砲と連装機関砲を装備した機体の混成部隊だ。
双方の艦隊の接触まで、あと僅か。ネオショー率いる小艦隊は既にルナツーの防衛圏にあった………。
ネオショー艦隊の接近と分散は、ケーニヒスベルク側にも既に勘付かれていた。報告を受けたグッゲンハイム艦長は、明らかに嬉々としながらオペレーターに問う。
「来たか!!数は?!」
「はっ……下方からサラミス級2隻、キャノン型2機ほか数機が帯同。上方からコロンブスにサラミス級2隻が随伴、こちらが本隊と思われます。」
ひと呼吸おいて考える間もなく、素早く指示を出した。
「よし、上方の本隊にはコンラッド大尉麾下の2個小隊を向かわせろ!!下方の敵には『ザクレロ』を差し向けてやれッッッ!!」
ケーニヒスベルクの艦底部ハッチが大きく開く。その中から現れたのは、ジオンの試作MA(モビルアーマー)。
機体前面には大口を開けたような不気味な「顔」、そしてカマキリのような一対の前腕にヒートナタを装備したMA-04X「ザクレロ」だった。
猛進する第2小隊は距離を詰めながら、艦隊中央のザンジバルの異変に気づく。
《アルファ1から各機、敵艦隊の腹側を抑え……待て、何か来るぞ!!》
《何だありゃ、顔……?!》
ドイル軍曹は驚愕しながらも、他の小隊員同様冷静さを崩さない。彼らは密集形態のまま、ザクレロに正対する。
(第1小隊が以前仕留めたアレと似ている……ならば、戦い方は変わらない筈。おまけに砲口も丸見えときた。)
アークライト中尉が見た通りザクレロの巨大な「顔」、その口にあたる部分からは大仰な砲身が顔を覗かせていた。
そして、いよいよ距離が縮まるとその砲口が妖しく光る。
《ビーム砲来るぞ、全機合図でブレイクだ………今ッッッ!!》
ザクレロから放たれた光条は、極太の一直線………ではなかった。
「なっ、何だとッッッ?!?!」
それは幾筋ものビームに拡散し、編隊を解いた第2小隊を襲う。
《拡散?!うぉ゛わッッッ!!!……ggz……》
《しまっ、あ゛ぁ!!!…zzgg……》
拡散ビームに捕らえられたワイルダー少尉のガンキャノンが右肩と頭部を失う。またケイトのジムも盾と左腕を破壊され、ボール2機も巻き込まれた。
ザクレロはそのまま第2小隊とすれ違い、再度攻撃するべく大きく旋回する。
瞬時にガンキャノン1機とジム1機を中破させられ、またボール2機大破の損害を被ったアークライト中尉。しかし冷静なまま指示を下す。
《拡散ビームか、味な真似を……!アルファ2とアルファ3は一旦退け、ボール小隊は2機を援護!!》
2機がロストックとユキカゼの方に向けて離脱すると同時に、ドイル軍曹のジムが即座にガンキャノンの斜め後方につく。
《アルファ4、しっかり着いてこい。手厳しいが、面白くなってきたぞ!!》
俄然気合いが入るアークライト中尉。両肩のスプレーミサイルランチャーでザクレロを牽制しつつ、ビームライフルを放った。
戦況が、動き始める………。
一方の第1、第3小隊。
《何てこった、もう始まってやがる!!》
バーリングが思わず声を上げる。敵艦隊の直上を抑えたネオショーの前面ハッチは既に開け放たれており、そこからは双方の艦隊の間で次々起こる爆発の様子がよく見えた。
また次々飛び込んでくるレーザー通信は、明らかに友軍の苦戦を告げている。
《敵MS2個小隊が接近中、第1小隊は直ちに発進願います!!》
サクラの声。相変わらず早口気味だが、聞き取り易い明瞭な口調。
《……了解!!シンイチ・モリタ、チャーリー3行きます!!》
《ジョナサン・バーリング、チャーリー4出るぞッッッ!!》
ほぼ同時に、カタパルトから射出されて飛び出す2機。すぐにチャーリー1、チャーリー2も発進して編隊を組み直した。
ネオショーの船体上面に張り付いていた第3小隊4機も順次離床し、後衛を担う。
《敵は6機、まずは……小手調べといこうッッッ!》
バレンツィーノ大尉のジムスナイパーカスタムが、あえて距離がある方の敵の後衛ーリックドム3機の小隊ーを狙って放つ。意表をつかれた最後尾の1機が喉元をブチ抜かれると、たちまち爆散した。
《ブラック6、ブラック6!!この距離で当てやがったッッッ……?!》
《ブラック4狼狽えるな!!編隊を乱さず確実にいくぞ!!》
ブラック1、コンラッド大尉が檄を飛ばす。
前衛のリックドムIIを含めた3機は縦一直線、緊密な編隊を組みシンイチとバーリングのジム2機に迫った。
《チャーリー3、4、そっちに3機!!死角にまわる、3小隊は後衛の2機をやれ!!》
《リマ1了解。リマ2続け、3と4はブレイクして援護……!》
セオリー通り、2機ずつの編隊に分かれる第1小隊。後衛の第3小隊は、僚機1機を失ったリックドム2機に対応する。
(三位一体?!何のつもりだ……!!)
敵の前衛は縦一直線の編隊を崩さない。シンイチのジムはビームライフルを放って牽制するが、最小限の動きで回避された。
突如、先頭のリックドムー攻撃一番手を担う機体ーの胸部が閃く。ここに付けられた拡散ビーム砲は、射程こそ極めて短いものの目眩しには十分だった。
「ぐッッッ……!!」
シンイチのジムが一瞬、怯む。
そのままさらにスラスターを噴かして、ヒートサーベルを真っ直ぐに突き出す。
すんでのところで後ろっ飛びに避けるが、その直後に二番手のもう1機がバズーカを放った。
頭部機銃で迎撃、弾頭が爆散する。その爆炎を突き破り、最後尾のリックドムIIーコンラッド大尉の乗機が現れる。
振り下ろされたヒートサーベルを盾で受けるが、凄まじい重量と推力に徐々に押されていく。
《やっと来たか二本差し、ここで死んでもらうぞッッッ!!!》
接触回線で届く敵の声。熟練した古強者であることが伺えた。
コックピット内に鳴り響くロックオンアラート。けたたましく明滅を繰り返す警告灯。ジムの左腕が負荷限界に近い事を示し、盾も溶け始めている事を告げていた。
《テメェが本命か……!!》
脇腹に蹴りを入れるジム。蹴られた勢いをあえて利用して横っ飛びに離脱するリックドムII、その進行方向にビームライフルを向けようとするがー
(………いや、違うッッッ!!)
直感的に、先程までリックドムIIがいた位置に向き直りビームライフルを撃つ。
放った先に別の1機、先程拡散ビームで目眩しをしてきたリックドムが居た。撃墜こそ免れたものの、把持したマシンガンを右腕ごと失う。そこに突っ込んでくるバーリングのジム。
《チャーリー4そいつ頼んだッッッ!!》
シンイチが言うより早く、隻腕のリックドムは真っ正面からビームサーベルで刺殺されていた。
《もうヤッてる、そっちに戻るぞ!》
動かなくなったリックドムを打ちやりながら、合流。2機揃って、リックドムIIにビームライフルとバズーカを撃ちまくる。
《ブラック3!!!……仇を討ってやるッッッ!!》
《ブラック2まだ行くな、やりすごして仕切り直せ!!》
ジム2機の背後から迫るリックドム。しかし即座に背中合わせになり、盾を構えつつビームサーベルを抜く。
バズーカを盾で受けると潔く捨て、刺突の構えで一気に距離を詰めー
「突きッッッ………!!!」
無意識の雄叫び、しかし体を反らして躱された。
背面に突き立てられるリックドムのバズーカ。だがジムの左手にはビームライフルが握られており、ノールックかつほぼ紙一重の時間差でバズーカより先に放たれる。リックドムの胴体中央に風穴を穿つと、たちまち木っ端微塵に爆散した。
「チャーリー3、スプラッシュ(敵機撃墜)1!!」
シンイチのジムは爆炎に煽られ姿勢を崩すが、すぐに立て直してバーリングのジムと編隊を組み直す。
《ブラック2!!なっ、何だ今のは?!どうやって…ぐぁ゛っ!!……ggzzzg……》
驚愕し警戒が疎かになったコンラッド大尉のリックドムIIは、バレンツィーノ大尉のジムスナイパーカスタムに頭部を撃ち抜かれ、さらにマシンガンを斉射されてたちまち行動不能に陥った。
次々と消えるモニターパネル。真っ暗になったコックピット内で、コンラッド大尉は呆然とする。
《………ヤツはもう戦えまい。第1小隊各機、ルナツー艦隊の援護にまわるぞ!!》
《了解ッッッ!!》
力無く宇宙を漂う巨大な人形となったリックドムIIを尻目に、第1小隊はルナツー守備隊の援護に馳せ参じる。
第2小隊の激しい抵抗により、ザクレロはもはや虫の息となっていた。片方のヒートナタを失い、左のエンジンブロックから冷却剤を噴いて白い尾を引く。機体には多数の弾痕が刻まれているが、それでもなお第2小隊とサラミス2隻への攻撃を諦めない。
なんとか追随するアークライト中尉のガンキャノンは目立った損傷こそないものの、ザクレロの頑丈さに舌を巻いていた。
《実にしぶといな、モビルアーマーというものは……アルファ4大丈夫か、着いてきてるか?》
《大丈夫です!盾を持っていかれたのと、左のバランサーが少し……》
ドイル軍曹のジムは盾を失っているものの、こちらも他に大きな損傷は見られない。
ここでザクレロが大きく旋回して2機に正対。最後の攻撃を試みる。
《来るぞ、次でトドメだ。アルファ4私の後から出るなよ!》
《了解!!》
ガンキャノンのすぐ後ろにジムがピッタリと張り付き、縦一直線になった。
対するザクレロは、機体両側面のミサイルを撃ち尽くしながら拡散ビーム砲をチャージする。残った推力を振り絞るように突っ込み、もはや捨て身の勢い。
《相変わらず牛みたいに突っ込んでくるだけか、そんな攻撃ではなッッッ!!》
スプレーミサイルランチャーでミサイルを迎撃しながら一気に距離を詰める。ザクレロの「口内」に装備された砲口がひときわ閃くと、たちまち拡散ビームが放たれた。
幾筋もの光条。それらはガンキャノンの左肩と右脚を掠めるが、拡散ゆえ致命傷を与える事は叶わない。装甲を撫でわずかに溶解させるのみ。
《ブレイク!!……今だ、撃ちまくれぇッッッ!!》
光条が消えてザクレロのヒートナタが空を切った直後、すれ違いざま上下に分かれて手持ちの武器を撃ちまくった。ガンキャノンはビームライフル、ジムはスプレーガンと左腕に担いだバズーカを全力で叩き込む。
機体各部を徹底的に破壊されたザクレロは、ついに耐え切れず大破。巨大な「顔」が無惨に割れたかと思うと、木っ端微塵に爆散した。
一連の様子は損傷機を収容中のユキカゼからもよく見えており、艦橋内では歓声が上がる。
「モビルアーマー撃破ッッッ!!」
「よし、やった!!さすがはアークライト中尉、見事なもんだ……まるでブル・リーピングだな。」
※作者より:「ブル・リーピング」とは、突っ込んでくる牛さんをいかに華麗に避けるかを競う競技です。ようは牛さん殺さない闘牛ね。
マルヤマ中佐が感心していると、操舵手のチャン軍曹が階級を忘れて檄を飛ばした。
「言ってる場合ですか艦長、ヤツらの下っ腹を突くんでしょ!!進路は!!船速は?!」
その勢いに慌てて居住まいを正し、艦長帽を被り直すマルヤマ中佐。
「おっと、こりゃイカンね……!ホーキンス少尉、本隊の状況は?」
「敵MS2個小隊を撃破、敵艦隊への攻撃を開始するとの事。」
いつも通り、冷静かつ事務的な口調の返答。即座に指示が下った。
「よーっし、進路そのまま、あっちの動きに合わせながら最大船速で突入!射程に入り次第一斉射撃ね!ロストックにも連絡よろしくっ!!」
敵艦隊を上下に挟んだネオショーの艦隊が、ついに動き出す。戦闘はいよいよ佳境を迎えつつあった。
「胴おぉぉォォォーーーッッッ!!!!」
シンイチのジムが、一刀のもとにザクを斬り捨てた。
勢いそのままに、その直近から挑みかかってきたフル爆装の旧ザクに頭部機銃を撃ち込む。シュツルムファウストの弾頭が誘爆し、旧ザクを大破に追い込んだ。
一連の様子を見た別のザクのパイロットが、恐慌にかられ無線で絶叫する。
《にッッッ、二本差しだ!!奴が出た……ggz……がっ…zzgz……》
そのザクも、ハイパーバズーカの直撃を受けて爆散した。
《バカ野朗、ビビるな!!所詮欠陥品のジムだ、当たれば墜ち…gggzzzz………》
さらに続けて、ツノ付きの小隊長機がビームスプレーガンの猛射に沈む。
ネオショーのMS部隊が加勢に入ったことで、明らかに形勢が逆転しはじめていた。
主力たるコンラッド大尉の小隊と切り札のザクレロを失った今、残るのは並のパイロットが操る性能不足のザクかその数合わせの旧ザクばかりだった。
ルナツーのMS部隊と防衛艦隊が被害を続出させつつもなんとか持ちこたえていた理由は、ここにあった。
窮地に陥るジオン側。しかし、グッゲンハイム艦長は冷静さを崩さない。むしろ好機とばかりに新たな指示を下す。
「………各艦に伝達、これより作戦第二段階に移る。この混乱に乗じ、敵艦隊中央へ向けて突入せよ!!全速前進!!」
扇型に展開した前衛4隻のムサイ級が前に出ると、そのやや後方中央にザンジバル級ケーニヒスベルク、直後にムサイ級リュッツオウが続く。
艦尾スラスターを全開に吹かし、ルナツー防衛艦隊をいよいよ射程に捉えんと前進を始めた。
敵艦隊の一連の動向を捉えたネオショー艦橋でも、イケタニ大佐が次の一手をうつ。
「各艦へ、これより敵艦隊への直接攻撃を開始します。ただし………中央のザンジバルと、後衛のムサイは避けること。ルナツー防衛艦隊にもその旨通達を。」
ウォーラス大尉が再び怪訝そうな顔でイケタニ大佐に問う。
「?!中央の2隻を、逃がすんですか?!」
「いえ、逃がすつもりはありませんよウォーラス大尉。それで分かることがあります。」
そんな中、レーダー手のスタンリー少尉と通信手のサクラから矢継ぎ早に報告。
「敵MS部隊残存全機、こちらに来る!!」
「敵艦隊、射程に入りました。コンプトンとタラントが砲撃を開始します。」
イケタニ大佐が頷き、さらに命令。
「第1、第3小隊をこちらに集結させてください。サラミス隊は、ルナツー防衛艦隊とともに前衛のムサイ4隻撃沈を最優先。おそらくですが………これを破れば、敵は投降する筈です。」
戦いは混迷を極めていた。
ネオショーを含めた本隊に殺到する、未だ十数機近い規模のザクと旧ザクの混成部隊。しかし第1、第3小隊とルナツー所属MS隊の生き残りがそれを許す筈もなく、続々と追い縋り行く手を阻む。
そして、それを掻い潜った敵にはサラミス級2隻の濃密な対空砲火とボール小隊の集中射撃が待ち構えており、ザク編隊は次々と撃墜されてゆく。
《チャーリー3、そっちから1機抜けたぞ!!》
しかし、迎撃を巧みに躱して生き残った隻腕のザク1機がネオショーの艦橋に迫り、バズーカを突き立てた。
砲口の先には、通信手席。全速力で駆けつけるシンイチの脳裏に鮮明に浮かぶ、恐怖にひきつった顔のサクラ。
(間に合えッッッ………!!!)
第三十話 ソロモンの影:ルナツー死守編 終幕
幕間 続・サブリナの閻魔帳
ネオショーが敵艦隊を射程に収める少し前、MSデッキ隅の休憩スペース。その奥にある、整備兵用待機室。
そこでは大勢の整備兵達が詰めかけ、椅子に座ったまま眠っていたり簡単な食事をとっていたり、思い思いの時間を過ごしていた。
その片隅のテーブルではサブリナが一人で座り、使い込まれたノートに何やら書き記している。
当番兵達の配給の手伝いをしていたクレアが彼女を見つけると、チューブ飲料を手に近付く。
「サブリナさん、お疲れ様です。飲み物どうですか?」
差し出すと、いつもの笑顔を浮かべて受け取った。
「あぁ、ありがとねクレア……丁度喉乾いてたのよ。」
「………?それ、何か書いてたんですか?日記?」
「んー?コレね……秘密のノートよ♡」
ニヤリと不敵に笑う。サブリナが書き記していたのは、いつしかシンイチに見られた(というより自ら見せた)閻魔帳。
「ところで、あんた口堅いほう?」
唐突に聞かれ、戸惑うクレア。
「えっ?!………えーっと、はい、まぁ。」
「なら見せたげる。何だと思う?コレ。」
ノートの1ページ目を示す。部隊員の名前と、画線法で刻まれた「何か」の数値がびっしりと書かれていた。
「えっ??これ………撃墜数、とかですか?」
「違う違う、整備班や弾薬班に、電装班の名前もあるでしょ。それにホラ、あんたの名前も。」
「あっ、ホントだ……3本ある。というか男性陣が圧倒的に多い………でも、わからないなぁ……なんですか?コレ。」
サブリナの口角が一段と上がる。意地悪そうな表情に変わり、口元から八重歯が覗いた。
「ンフフ〜、じゃあ答えね。アタイの谷間をチラ見してきた回数よ♡」
「え゛ッッッ?!?!これ全部?!?!」
「そ。罰金として男は1回につき1ドル、女は気兼ねしないから1ミルね。」
「お、お金取るんですか……女性はミルて、レートがバグってる…………」
やや引き気味ながらも、何やかんや楽しみながら羅列された名前を読んでいくクレア。
「……あっ、タチバナ先輩は11ミルだから、1セントとちょっと貯まってますね。モリタ准尉は……8回、バーリングさんは………ウソ、100超えてないですか?」
「アイツは付き合い始める前に100超えて、そこから数えるのやめたわ。」
「そうなんですか、さすがというかやっぱりというか……アークライト中尉もある、やだ15回も!バレンツィーノ大尉は………無いですね。」
「あの人はマジモンの紳士よ。」
そして、見ていくうちに名前と数値が横線で消されているものもいくつか見つけた。
「これって………」
何かを察したクレアは、少し複雑な表情になる。
「うん、死んだ奴。アタイにボールの操縦を教えてくれた若いコも………死んじゃった。カワイイ顔してたんだけどねぇ〜……」
明るい口調を崩さないが、顔を逸らす。他にも機関室クルーや砲火班の数人の名前に、横線が引かれていた。
「できれば…………誰の名前も、消したくなかったんだけどね。そういうワケにもいかないみたい。罰金は、全部終わって皆で飲み会開いた時の資金にするつもりだったのに……サ。」
顔は笑っているが、途中から声は潤み、目には涙が溜まる。
「サブリナさん………」
サブリナは目元を擦い、明るい表情を取り繕う。悲しさと寂しさを必死に堪えている様子が伺えた。
「………この戦いが終わったら、ちょっと遅くなったけど、クリスマスでしょ。その時にこれを暴露して一気に徴収するつもり。アンタも精々気をつける事ね、意外とスケベなの知ってるんだからッッッ!」
そんな健気な様子に、クレアもまた笑顔を向ける。
「やだ、やめてよサブリナさん……フフフ!」
「アハハハ……!」
互いに顔を見合わせて、笑い合った。
これ以上「不幸な横線」が増えないことを、心の中でせつに願いながら………。
幕間 続・サブリナの閻魔帳 終幕
はい………皆様ご無沙汰しております、野武士山芋侍でございやす(憔悴しきった挨拶)
更新頻度がどんどん伸びておりますが、大丈夫です。書いてます(?)
ルナツー編は本来2話構成の予定でしたが、このまま決着まで書いてしまうと凄まじい長さ(幕間含めると多分いつもの1.5〜2倍くらい)になりそうだったので急遽3話構成としました。
ここで、サラミス級ユキカゼのブリッジクルーについての設定を少し。今回名前が出てきた操舵手とオペレーターは二人とも女性です。それぞれ
チャン軍曹→チャン・シャオユン、勝ち気なお転婆娘
ホーキンス少尉→エレノア・ホーキンス、つんけんしたお堅いお姉さん
といった雰囲気、さて君はどっちが好みかな?( ͡° ͜ʖ ͡°)
っていうか、サブリナの閻魔帳について覚えてる人って居るのかな?まぁ忘れてる人は第三話を読んでください第三話(投げ槍)
さて次回、ついにルナツー編が決着となりますホントです(念押し)。「バラク(雷鳴)」は名前の通り轟くのか、その時ルナツー基地はどうなってしまうのかッッッ!!!
次回第三十一話「ソロモンの影:ルナツー決着編」
お楽しみにッッッ!!
…え、ホーキンス少尉とチャン軍曹のキマシタワーな絡みが見たいって?
あっ、書こうか?(錯乱)