ルナツー宙域ではなおも激しい戦闘が続いており、そこかしこで爆発の光が瞬く。戦いの様相は、先刻までとは明らかに変わっていた。
バズーカを携えてシュツルムファウストを満載した旧ザクがサラミス級に迫るが、たちまち対空砲火に捕らえられ爆散する。
また、直掩のボール小隊にヒートホークを振り翳して仕掛けようとしたザクが、背後からビームサーベルに刺されて墜ちた。
当初劣勢を強いられていた連邦軍は、ネオショー率いる第343補給分艦隊の参戦を境に明らかに優勢を取り戻しているのだった。
反対にジオン側はMS部隊の半数近くを失っており、ザンジバル級機動巡洋艦ケーニヒスベルクを中核とする艦隊にもいよいよ砲火が集中する。
しかし、ここにきてジオン側は劣勢をものともせず連邦側との距離を詰めるべく突貫し始め、戦闘はいよいよ混迷の極みにあった。
そんな中、迎撃を潜り抜けた隻腕のザク1機が今まさにネオショーの艦橋に迫る。
シンイチのサーベル2本差しジムがスラスターを全開まで噴かして駆けつけるが間に合いそうにない。ビームライフルなら届く距離だが、爆発させてしまえば間違いなく艦橋に被害が及ぶ。
(間に合えッッッ………!!!)
心の中で必死に祈るが、無情にもザクのバズーカは既に艦橋に向けられていた。
あとは引き鉄を引くのみー
《させるかァ!!!》
ここで、シンイチの耳を劈く絶叫に近い雄叫び。ボール小隊11番機、連装機関砲を装備したカーマイケル軍曹の機がザクに体当たりを見舞った。
体勢を崩しながらもバズーカが放たれるが、狙いは大きく外れる。
弾頭は直撃こそ避けられたが、船体を掠めて対空機銃の1基を吹き飛ばした。
「やったなッッッ………!!」
カーマイケル軍曹のボールが至近距離から機関砲を連射し、右腕と頭をもぎ取る。そこにシンイチのジムが現れ、背後からのひと突きでザクをスクラップに変えた。
《ネオショー、被害は?!》
刺殺したザクを打ちやりつつ必死に問いかけると、僅かに間を置いてネオショーから返答。
《左舷対空砲1基大破、なるも……負傷者無し。気密漏れがありますが、じきに塞がる見込みです。》
早口気味ながらも冷静なサクラの声に安堵のため息を漏らすと、カーマイケル軍曹に改めて礼を述べる。
《カーマイケル、ありがとう!!……悪い、トドメを盗っちまった。》
《俺の単独撃墜にしといて下さい、それで貸し借り無しです!》
気取った声の返答に思わず笑顔になり、吹き出すシンイチ。
《もちろんさ、死ぬなよッッッ!!》
《准尉殿こそ!!》
持ち場に戻るべく編隊を解く2機。離れ際、艦橋に目をやると、こちらを見つめるサクラの姿が見えた気がした………。
ケーニヒスベルク艦隊の下方から全ての火砲を放ちつつ猛然と迫るサラミス級「ユキカゼ」と「ロストック」の2隻。
その死角をカバーするようにアークライト中尉のガンキャノンとドイル軍曹のジム、そしてボール小隊が展開する。
《アルファ1から各機、こちらもまもなく有効射程だ。前衛のムサイ級に全火力を集中!!》
指示を下しながらも、彼は僅かな違和感を覚えていた。
(何故今更艦隊が突っ込んで来たんだ?……それに前衛の4隻は、まるで中央の旗艦のための盾だ。そうなるとイケタニ大佐の勘は、『核弾頭』の在り方は、まさか………)
なんとか振り払い、眼前を見据える。
(……いや、今は目の前の敵を仕留めるのみ。先ずはそこからだな。)
すると、ムサイ級のうち1隻に直撃弾。ユキカゼかロストック、いずれかの主砲が命中したらしく左舷側のエンジンブロックが爆発する。
《よし、一気に仕掛けるぞ!!アルファ3いけるか?!》
《シールド準備よし、ライフルも使える……そちらに帯同、援護します。》
アルファ3、ケイトのジムは背面と右前腕にシールドを固定し、破壊された左腕はそのままに応急的な追加装備で戦線に復帰している。
《アルファ2はそこでじっとしていろ、ただし敵を近づけるなよ!!》
《了解、ハエ叩きは得意なもんで!!》
頭部と右腕を失ったワイルダー少尉のガンキャノンは、ロストックの右舷前方ー先のゲルググ部隊との戦闘で破壊された第1砲塔の部分ーに取り付き、また左手にビームライフルを携えて砲台代わりとなっていた。
改めて編隊を組み敵艦に迫る第2小隊の3機。ムサイ級が主砲とミサイルを撃ちまくって牽制するが難無く躱され、またケイトのジムが持つシールドにミサイルが阻まれる。
瞬く間に距離を詰めると、3機は手持ちの武器をありったけ叩き込んだ。船体各部を徹底的に破壊されたムサイ級は、速力を落とし隊列から落伍していく。やがて宙域を漂う無数のデブリの1つとなることは、もはや想像に難くない。
《………アレはもう沈むな、次だ!!》
アークライト中尉は続けてやや後方、2隻目のムサイ級に標的を絞りスプレーミサイルランチャーの全弾を放つ。
逆サイドの前衛にもルナツー防衛艦隊の砲火が集中、さらに直上からはヤン・コワルスキ中尉の第3小隊が取り付き早くも1隻が沈みつつある。
かように絶望的な状況下であっても、ケーニヒスベルクは突貫をやめない。それどころか船速を増し、防衛艦隊のただ中を目掛けて進んでいた。
爆沈するムサイを見届けながら、コワルスキ中尉もまた不安にかられる。
(ザンジバルと後詰めのムサイはまだ止まらない。奴らの目的がドック破壊ならば、まさかあのまま真っ直ぐ突っ込むつもりなのか………?!)
《リマ1、6時!!!》
僚機からの通信で我に返った。背後にはヒートホークを振り翳すザク。
両肩に担いでいたハイパーバズーカのうち、弾切れになった片方を咄嗟に投げつけて囮にする。それはたちまち両断されるがー
《そいつは、くれてやる!!》
一瞬の隙を突き、向き直ったザクの顔面に叩き込まれるバズーカの砲弾。そのまま木っ端微塵に吹き飛び、MSとしての原型を失った。
ネオショーへの脅威をほぼ一掃した第1小隊も対艦攻撃に加わる。
バレンツィーノ大尉のスナイパーカスタムがムサイの主砲をそれぞれ一撃で撃ち抜き、ブルパップマシンガンを携えたジムーキムの乗機がその艦橋に全弾を叩き込んだ。
《良い判断だチャーリー2、悪いがこのまま沈めさせてもらおう!!》
最後に健在だったムサイにも、シンイチとバーリングの2機が直上から取り付かんと迫る。やはり主砲が斉射されるが、手練れの彼らにはもはや擦りもしない。
《ウルセェ艦だな、上の口塞いで黙らせてやる……!!》
軽口を叩きつつ、バズーカの全弾を撃ち込むバーリング。数発が着弾して文字通り「黙らせ」た。
《チャーリー3、下の口は任せたぜ!!》
《言ってる場合か、黙って牽制してろどアホ!!》
その隙にシンイチのジムが艦底部に回り込み、ビームサーベルを容赦なく突き立てる。
「うっ……おおぉぉぉらぁああああ!!!!」
巨大な魚を捌くかの如く、ビームサーベルで船体を一気に引き裂いた。推進剤に引火し、あちこちで爆発が起こる。
第1小隊の一連の攻撃であっという間に2隻が沈み、第2小隊もさらに1隻を沈めていた。
これでケーニヒスベルクの艦隊は、前衛の4隻全てを失う。
しかし、グッゲンハイム艦長はなおも動じない。彼は静かに「次の一手」に備え、思案を巡らせていた………。
そしてここで、戦闘中の全部隊にルナツーから通信が入る。
《………至急至急、ルナツー管制から交戦中の全部隊へ。敵艦隊残存艦より降伏の申し入れあり。ただちに攻撃を中止せよ。攻撃中止、繰り返す………》
ネオショー艦橋は騒然となった。
「艦長……!!」
サクラが神妙な面持ちで振り返ると、イケタニ大佐が頷く。
「………想定通りですが、まだ終わっていません。ルナツー管制に繋いでください。またザンジバルと通信できるようオープンチャンネルの用意も、直ちに。」
「了解!」
素早く作業に移る。
「ウォーラス大尉、各小隊にザンジバルとムサイの動向から目を離さないよう………」
言い終わらないうちに、サクラから報告。
「かっ、艦長……ルナツー管制から命令です。投降した艦の処遇をルナツー守備隊に引き継ぎ、補給整備ののちコンペイトウ(旧ソロモン)方面へ転身せよと……!!」
イケタニ大佐が目を見開く。
「ルナツー管制とは、繋がっていますか?!」
サクラが頷くと、即座に手元の無線通話機を取る。
「ルナツー管制、その2隻は危険です。クルー全員を退艦させたのち、内部に調査チームを……」
通話を遮り、事務的な声で返答。
《必要無い、こちらでドック入りさせたのちに処遇を決める。命令に従え………何か、事情でもあるのか?》
ひとつ深呼吸。必死に平静を装いつつ、静かに告げる。
「………それでは、私がこれから送るデータを確認して下さい。結論から言うと、あの艦のどちらかには………核弾頭が積まれている可能性が非常に高い。またあの艦隊の行動には、それを用いた攻撃を疑うべき点があります。」
《…………何、今……何と言った??》
明らかに困惑する管制官の声をよそに、手元の端末を操作するイケタニ大佐。やがて送信完了の表示を確認すると、静かに告げた。
「ルナツー基地……ひいては我が軍のためです。代理の司令官閣下においては、判断を誤ることのなきよう何卒よろしく願いますと伝えてください。」
通話を切り、艦長席に深くもたれかかった。
そして、大きくため息をつく。
「これで納得してくれれば、上層部にも少しは信頼がおけるようになるんですがねぇ………」
隣に控えるウォーラス大尉も艦長席にもたれかかり、問う。
「もし………納得してくれなければ?」
「そうですねぇ……連邦を離反して、海賊艦隊にでもなりますか。」
互いに顔を見合わせて、ぎこちなく苦笑いを浮かべた。
ルナツー司令部で「留守を預かる」上級司令官達の慌てようが、二人の脳裏に浮かぶようだった………。
ケーニヒスベルク艦橋。通信手が振り返り、グッゲンハイム艦長に告げる。
「艦長、我が艦隊の降伏申し入れは受理された模様。現在ルナツーからの返答待ちです。」
「よし、作戦第三段階に移行。全乗組員はランチ(脱出艇)に乗船、操艦システムを艦長席にまわせ。」
クルーは各々命令通りの作業に移り、艦長は座席のシステムを確認する。
艦橋の窓からはサラミス級の船体が間近に見え、またそれに随伴するMSがこちらを睨みつけていた。ケーニヒスベルクは今や完全に包囲下にある。
艦長の隣に控える副長は、不満そうな様子で俯き拳を握りしめたまま立ち尽くしていた。
「副長、どうした。すぐに退避準備にかかれ。貴様は艦と命運を共にする必要は無いぞ。」
固く閉じていた目をカッと開き、勢いよく艦長に振り返る。
「………艦長、第三段階の目的達成は不可能です!!かくなる上は、ここで『バラク』……いや、核を炸裂させ、敵艦隊の殲滅を!!」
艦橋に居たクルー全員が振り返る。グッゲンハイム艦長は冷静なまま諭した。
「進言は却下だ、副長。キシリア閣下の御命令はルナツー基地艦船ドック内での核起爆。背くわけにはいかん、すぐに……」
「キシリアの命令など、クソ喰らえだ!!」
言葉を遮って、腰のホルスターから拳銃を抜きグッゲンハイム艦長に突きつける。驚いた顔で振り向くと同時に、怒鳴りつけた。
「血迷ったか副長!!何のつもりだ、ここでこの程度の艦隊を潰したところでどうなる!!」
「ここまで囲まれていては、作戦続行は不可能だ!!それならせめて、我々に苦汁を飲ませてきた奴らを……コンラッド達の仇を道連れに!!…………端末を寄越せ、それで操作できるのだろう!!」
艦長席の手元に応急的に据え付けられた小型の端末を拳銃で指し示す。艦長は答えない。
「ドズル閣下の部下である我々が汚名を濯ぐには、これしかない!!キシリアの手駒になどなるものかァ!!!」
「ドズル閣下は戦死なされた、今更忠義立てなどと………!!」
艦長は落ち着いた口調に切り替えて、何とか諭そうと試みた。
「……副長、落ち着け。まずは銃を下ろせ。」
「黙れ!!!」
艦橋内に、複数の銃声が響き渡った。
銃弾はグッゲンハイム艦長の左脇腹を撃ち抜き、大腿を掠める。艦長も腰のレーザーガンを発砲、さらにクルーの何人かも副長を撃ち、射殺した。
床に飛び散る血液、その上に遺体となった副長が倒れ伏した。
「ぐッッッ……がはッッッ……ごぉ゛ッッッ!!」
「艦長、艦長!!」
「艦長殿!!!」
吐血し、座席から崩れ落ちる艦長に駆け寄るクルー達。
「構うな、第三段階の準備をしろ!!俺は死ぬ身だ、手当てなどいらん!!」
「しかし………!!」
そしてここで、通信手から報告。
「艦長、ルナツーより返答。『艦を撃沈処分とするので、操艦要員を除いたクルー全員を退艦させよ』との事!!」
それを受けた艦長は、なぜかニヤリと笑う。
「………逆に好都合だ、副長には……最期に、役に立ってもらおう。フフフ………」
艦長帽を脱ぎ、副長の胸元に置く。
艦橋の窓からは、周囲を取り囲んでいた多数のサラミス級のうちいくつかが離れるのが見えた………。
《チャーリー1からネオショー、ザンジバルと……後衛のムサイから、ランチの離脱を確認した。》
バレンツィーノ大尉が報告。見た通り、両艦からは複数のランチが放出されている。
また乗り切れないクルーは、生き残ったザクから垂らされたワイヤーに捕まり、曳航されるような形で脱出していた。
《了解、そのまま要塞砲の射角まで誘導せよ。》
ルナツー管制が告げると、続けてイケタニ大佐から被せるように通信。
《その前に、ザンジバル級の艦長と接触させてください。脱出ランチ、艦長が乗っているものは応答せよ。》
少し間を置いて、ノイズ混じりの声で返答があった。
ネオショー艦長席のモニターには、憔悴しきった顔のクルーが映し出される。
《……ggzz…こちらランチ1号艇、艦長は……本作戦失敗の全責任をとり…zzggg……自害なされた。遺体はこちらに収容して……》
声が途切れる。
「艦長の顔を拝見させてください。モニターに映せますか?」
ガサガサと雑音ののち、画面が大きく動かされる。再び映し出されたのは、血糊がついた遺体袋。中央には艦長帽が置かれている。
《……zzgz……こちらが……艦長………》
クルーが遺体袋のジッパーを下げると、中年男性の顔が露わになる。胸元の階級章は「少佐」。
サクラを含めたネオショー艦橋クルーの数人が、顔を背けた。
「……艦隊司令にしては若い、ですね?」
ウォーラス大尉が訝しむ。
「…………そうですね。」
(小規模とはいえ、艦隊司令官が少佐。それにムサイ級の方はコムサイを使わず、わざわざランチを出す。妙ですねぇ……)
僅かな違和感を覚えつつも、イケタニ大佐は挙手の敬礼を贈る。
そしてその間、ケーニヒスベルクと僚艦のリュッツオウは、さながら処刑台へ歩みを進める死刑囚の如く静かに前進する。
《両艦とも、要塞砲の射角に入るのを確認した。それでは操艦要員の退艦を至急、またMS部隊は速やかに離脱を………》
しかし2隻とも停まる様子を見せない。それどころか、増速し始めた。
《………?両艦とも、そこで停船せよ。》
指示を受け入れる様子がない。ルナツー管制官の声に焦りが混じり始めた。
《何をしている?2隻ともそこで止まれ、直ちに!!》
異変に気づいたバレンツィーノ大尉が、すぐさま全隊員に呼びかけた。
《様子がおかしい、マズいぞ!!アレらを止めろ!!》
一斉に殺到するMS隊。艦橋内に一人残ったグッゲンハイム艦長は、いよいよニヤリとする。
「いいぞ……集まってこい!!俺の最期の仕事に、せいぜい花を添えてくれよ………!!」
いの一番にケーニヒスベルクへ取り付いたバーリングが、無線で叫ぶ。
《止めろったって、沈めちゃマズいんじゃなかったのか?!どうしろってんだよ!!!》
《………ブリッジだ、まず艦橋を潰せ!!!》
シンイチが呼びかける。バーリングは言うが早いがビームサーベルを抜き、艦橋に振り翳した。
「一足遅かったな、マヌケ共め!!!」
ビームサーベルが突き立てられる直前、手元の端末を素早く操作する。
ディスプレイには「時限装置作動」の文字が浮かび、それと同時にいずこかに合図を送る表示。
「ジオン公国に、栄光……………」
ビームの束が飛び込み、グッゲンハイム艦長はその超高熱に消え去った。
《バーリング離れろ、要塞砲が来るぞ!!!》
《なッッッ?!?!畜生めが!!!》
即座に離れる2機のジム。そのままスラスターを噴かし「無人」となったケーニヒスベルクから一気に距離をとった。
その途端に、要塞砲からの集中砲火。ケーニヒスベルクとリュッツオウの船体を幾筋ものビームが貫く。
たちまち、凄まじい爆発。
衝撃に煽られながらも、なんとか姿勢を立て直す。
《………zzgzzg……ザンジバル級の轟沈を確……ggzz……警戒を解除、巻き込まれた機は無事か?応答……zzgg……》
《チャーリー3、チャーリー4応答しろ!!生きてるか?!》
事務的なルナツー管制の声と、対照的に必死に呼びかけるバレンツィーノ大尉からの通信。
「………こちらチャーリー3、両機とも無事です………それより核は?今ので、誘爆したんですか?」
《今確認中だ。ひとまず無事で良かった、しかしお前はまた無茶を………!!》
《全くだモリタ、今度こそサクラちゃんに刺されるぜッッッ!》
全て終わった筈なのに、違和感を拭えないシンイチ。爆散した船体の破片やガスが大量に漂うさ中に、目を凝らすと………
なおもルナツー基地目指して猛進する、1隻のコムサイ。
「何だ、コムサイ……?!どこから……」
リュッツオウに搭載されていたもので、グッゲンハイム艦長から死の間際に送られた合図を受け、爆沈する寸前に切り離されていたのだった。
爆発の混乱に紛れて真っ直ぐに、開け放たれた艦船ドック入り口に向かっている。さらに間の悪いことに、すでに要塞砲の死角に飛び込まれていた。
シンイチの脳内で、違和感が確信に変わる。
(ザンジバルの腹の中にはモビルアーマーが入っていた、MSも満載状態で核弾頭なんてデカい兵器が入る余分なスペースは無い………という事は、まさか………!!)
直感的に叫んだ。
「コムサイッッッ!!!本命はこっちだぁ!!!」
たちまち、スラスターを全開にして追い縋る。
《二段構えかよッッッ!!何てヤツらだ、皆手を貸してくれ!!》
シンイチに続きながら、仲間を呼び寄せるバーリング。
《至急至急、動ける機はポイントαー11に集合しコムサイを止めろ!!チャーリーに手を貸せェ!!》
先程まで事務的な声だったルナツー管制官が絶叫した。狂ったように殺到するネオショーMS部隊と、コールサイン「スペード1」率いるルナツー守備隊。
《アレを止めろ!!何としてもだ!!》
《スペード1から各機、動けるヤツは来い!!》
コムサイの艦橋では、乗員2名が覚悟を決めていた。
「気づかれたか……ええいままよ!!ジオン公国に栄光……….ゔゎあぁぁッッッ!!!」
だが、そこへ肉薄したバーリングのジムにビームサーベルを突き立てられたちまち消滅、無人と化す。
《ブリッジを潰したぞ、どうだ?!》
「………ダメだ止まらん、このまま押し返すしかないッッッ!!!」
シンイチのジムはコムサイの機首に取り付き、両腕で押さえ込むようにしてスラスターを全開に噴かす。進行方向と正反対の向きに推力を与えて減速を試みるが、明らかに足りない。
《んな事……でも、これしか無いのか!!》
バーリングのジムも同様に取り付いて噴かすが、それでも減速する気配はない。
ルナツーの艦船ドックへの入り口がどんどん迫る。緊急閉鎖の指示を受けてハッチが閉まりつつあるが、どう見ても間に合いそうにない。
《待たせたなモリタ、皆でルナツーを守るぞ!!》
《こちらスペード1、生き残り全員お前らのガッツに賭けた!!》
《1小隊だけに、いい思いはさせないさ!!》
そこに、次々と取り付く別の機体。バレンツィーノ大尉やキム、アークライト中尉のガンキャノン、さらにルナツー守備隊の生き残りも馳せ参じる。
《よぉし、押せえぇぇぇぇぇ!!!!》
バレンツィーノ大尉の号令一下、取り付いた全機で改めて一斉に噴かし始めた。
ルナツー守備隊のパイロットと、アークライト中尉が必死に指示を飛ばす。
《スペード1からボール隊、誰でもいいから機首下面に取り付いて押せ!!!》
《アッ……アルファ3、ボール隊に手を貸せ!!》
命令通り、機首下面に取り付くボール6機。さらにケイトのジムもシールドを押し当て、こちらも一気にスラスターを噴かす。
正面から速度を殺そうとするMS隊と、機首を持ち上げて進路を逸らそうとするケイトのジムとボール隊。周囲で警戒していた機体もさらに加わる。
各々の機体のコックピットは警告灯で赤く染まり、またけたたましい警報音で満たされる。それでも、誰一人としてスロットルレバーを戻す者はいない。
そして、推力を加え続けるうちにようやくコムサイの速度が落ち始める。また機首が徐々に持ち上がり始めた。
その進行方向がいよいよドックから逸れ、さらに何もない虚空に向けられた時ー
《よし、いいだろう!!全機直ちに離れろ、推進剤が尽きたヤツは誰かに捕まれ!!》
再びバレンツィーノ大尉の号令一下、今度は一斉に離れる連邦軍MS部隊。真っ先に取り付いていたシンイチのジムは推進剤が尽きており、姿勢制御もままならない状態だった。
アークライト中尉のガンキャノンとバレンツィーノ大尉のジムスナイパーカスタムに両肩を支えられると、素早くその場を離れる。
そして、無人となったコムサイはそのまま飛び続け、要塞施設から十分に離れた位置で推進剤が尽きた。
さらに慣性に任せて漂流を続けた後、ついに時限装置により起爆シーケンスが作動。
ルナツー基地から遠く離れた宙域で無数のデブリを巻き込みながら、コムサイは閃光に呑まれて跡形も無く消え去るのであった…………。
同じ頃。
ルナツーから遠く離れた宙域を漂う、ボロボロのリックドムII。既に推進剤は尽き、また被弾により操縦系統は破壊されていた。
もはや自力で航行することもままならない。
コックピットハッチが強制解放されると、中からパイロットー先の戦いでからくも生き延びた、ジョセフ・コンラッド大尉が這い出てきた。
そして、遠くに核の閃光が閃く。
「あれは………グッゲンハイムめ、しくじったか。」
それを見た彼は、作戦の失敗を悟り独りごちた。
味方は全滅し、機体は動かず帰還など望めない。また虜囚の辱めなど言語道断。
腰のホルスターから拳銃を引き抜き、手に取る。
ナバン62式、ジオン公国軍の制式拳銃。
「まさかこんな形で、コイツを使う事になるとはな。」
初年兵時代の訓練過程で撃ったきりだったそれを、自分の側頭部に押し当てる。引き金に指をかけ、僅かに躊躇いを含みつつもゆっくり力を込めるとー
「ジオンも連邦も、クソッタレだ…………」
しかし引き切って撃発する直前、耳元を擽るようなノイズが走る。
指の力が緩むとともに振り返ると、リックドムIIに近づく友軍のジッコ突撃艇。
《…zzggg………生存者か?!回収に来た、早く乗れ!!……gzzgg……》
それを見たコンラッド大尉はしばし呆然としていたが、やがて自嘲気味にニヤリと笑って呟く。
「全く、まだ死なせてくれんワケか。まぁ………それもいい。」
かつての愛機から離れ、ゆっくりと突撃艇のハッチに向かった………。
《自分は最後でいい、他の損傷機を先に……!!》
シンイチの必死の訴えをよそに、アークライト中尉が軽い口調で返す。
《何を言ってる、今日のヒーローが先に降りないでどうする……さぁタッチダウンだ、精々舌を噛むなよッッッ!!》
両肩を支えられたサーベル2本差しのジムが、ゆっくりとネオショーに着艦する。
そのままハンガーに固定され、他の機も続々と帰投してきた。
ハッチを開けたシンイチを待っていたのは、千切れんばかりの歓声と拍手。コックピットからヨロヨロと這い出て足元を蹴り、デッキに降り立つ。
しかし膝に力が入らず、着地と同時に崩れ落ちそうになる。すぐさま駆け寄って支えるサクラ。
目立つ怪我こそ無い。
しかし極限の緊張ーそれこそかつて、高機動型ザクを一瞬で斬り伏せた時とは比べものにならない程ーから解放された反動と疲労ゆえに意識は朦朧としており、彼女の声も、一緒に詰めかけた他のデッキクルーの声もほとんど聞こえない。
しかし今にも泣き出しそうなサクラの表情と、おそらく自分の名前を呼んでいる唇の動きだけはかろうじて見えていた。
そして、意識が途切れる直前。
そんな彼女に向けて、引き攣った笑顔とともにようやく絞り出した言葉は………
「やぁ、サクラ………還ったよ。」
第三十一話 ソロモンの影:ルナツー決着編 終幕
幕間 艦橋は百合の園
全てが終わり、静けさを取り戻したルナツー基地とその宙域。戦いを生き延びた艦艇は港湾施設に係留され、またMSは全てハンガーに固定されていた。
乗組員やパイロットがつかの間の休息に向かう中、サラミス級巡洋艦「ユキカゼ」の艦橋では2人のクルーが残って最終点検を行っていた。
オペレーターのホーキンス少尉と、操舵手のチャン軍曹。
彼女達に残された仕事は、艦の異常箇所の割り出しと交代要員が到着するまでの見張りだった。
チャン軍曹は艦長席に座って端末を操作している。
「ッッッたく……せっかくひと段落したってのに、アタシ達は残業かぁ………しかも………」
わざと聞こえるように大声で愚痴り、オペレーター席に座るホーキンス少尉の方を見やる。
「誰かさんみたいな石頭と同じ空間でなんて、ヤんなっちゃう。早く部屋に帰ってシャワー浴びて寝たいのに、なぁ〜〜〜………」
「………………………。」
何も返事が無い。黙々と、自分の作業に没頭している。
「…………ちぇっ。愚痴り相手にもなってくんないなんて、つまんないの。この石頭(ボソッ)」
小声で罵倒し、再び端末に目を落とすチャン軍曹。
すると突如、ホーキンス少尉が立ち上がる。しかも大袈裟に音を立てながら。
驚いてまたも顔を向けるチャン軍曹。そのまま足音を響かせながら、赤い縁付きメガネを外しつつ彼女のもとへ歩み寄る。
「なっ、何…………」
目前まで迫ると無表情のまま、チャン軍曹が座っている艦長席の背もたれに左手で壁ドン……ならぬ、座席ドン(?!)を見舞った。
「ヒェッ?!」
その剣幕に、短い悲鳴とともに思わず絶句する。ホーキンス少尉はもう片方の手で彼女の顎を持ち上げ、そのまま顔を面前まで近づけて………
「…………貴官には、『教育』が必要か。」
「なッッッ………何の?!」
「私は『少尉』、貴官は『軍曹』。上官に対する態度と、口の利き方がまるでなってない。初年兵以下だ。」
「そッッッ、それは………アンタとアタシは長い付き合いだし……」
遮って、さらに説き伏せる。
「関係無い。まずはその減らず口を………そうだな。ここは先の戦いの1小隊、チャーリー4に倣うとしよう。」
「なっ、何さ?!何を倣うのさぁ?!?!」
ホーキンス少尉はさらに顔を近づける。吐息が肌を擽り、危うく唇が触れそうな距離。
「『上の口を塞ぐ』んだ………悪くない、手かもしれない。」
「やっ、やだぁ…………でも、その……アタシ初めてだから、激しいのはイヤぁ………」
チャン軍曹が涙目で観念したところで艦橋の出入り口が開き、マルヤマ中佐がチューブ飲料を手に入ってきた。
「よっ、ヒマか?!……………………あっ」
彼の目に飛び込んできた光景は、いうなれば「百合が咲いています。大切にしましょう。」といった雰囲気のもの。キマシタワー
「……………………ヒマじゃ無さそうだね、あっ………飲み物、ここ置いとくから!!それじゃッッッ!!!!」
呆然とする2人をよそに、チューブ飲料を適当なデスクに置きそそくさと立ち去るマルヤマ中佐。
出入り口扉が閉まると同時に、再びチャン軍曹に向き直るホーキンス少尉。
「作業が終わったら、私の部屋に来ること。『教育』してやる…………みッッッッッッちりと。」
頬を赤らめ、身をよじりながらチャン軍曹が答える。
「は、はい…………少尉殿♡」
エレノア・ホーキンス少尉。何を隠そう彼女は、真性のレズビアンなのであった………。
幕間 艦橋は百合の園
☆Yakurefu REMIX☆(気さくな挨拶)
はい………皆様長らくお待たせしてしまい大変申し訳ありません、おはようございますこんにちはこんばんは野武士山芋侍にございます。
いやぁやっぱりルナツー編は3話構成にして正解だわ、これは2話構成だと倍どころの話じゃあないッッッ!!
妙に時間かけて長々と書きまくった割には例によって例の如く穴だらけ隙だらけ矛盾だらけやと思うので、前後においてちょいちょい修正を挟む予定です。ゴメンよ。
まぁこうは言ってるけど、少なくとも自分が大前提としてる「チートなし死亡生存ifなし原作改変なし」ってのはなんとかかんとか維持できてるんかなぁと……多分、多分ですよ?!(汗)
いやチートなしの部分は最近怪しいか?どうなんだろう?もうわからん(爆)
それから、カーマイケル軍曹には割とマジで「鬱フラグクラッシャー」の称号を与えていいと思う………思わない?
さて次回、ガッツリ戦闘回が3話も続いたのでここでサイド6以来のてぇてぇ回を挟みます。それこそ一年戦争最後の、ね。
次回第三十二話「クリスマスはコンペイトウで」
お楽しみにッッッ!!
…え、ホーキンス少尉はチャン軍曹にどんな「教育」をしたのかって?
そりゃあ深い深ぁ〜いところまで、みッッッッッッちりとですよ。
内容はもちろん「上官への適切な言葉遣いと接し方」についてです。言わせんなよ恥ずかしいッッッ///