「突きィッッッ!!!!」
コックピット内に響く雄叫び。
シンイチのビームサーベル2本差しジムが、リックドムの胸部をひと突きして瞬く間に葬り去る。直後、チャーリー4のバーリングから警告。
《チャーリー3、後ろだ!!!》
ビームサーベルを素早く引き抜き、返す刀で背後に迫っていたもう1機の両腕を斬り落とした。間髪入れずビームライフルの接射を数発見舞い、スクラップに変える。
撃破した敵機の爆風を盾で防ぎながら距離をとり、姿勢を立て直しつつ合流した。
《グッドキル、チャーリー3!!だが最後の1機は貰うぞ!!》
「何、どこだ?!」
シンイチが周囲を確認する暇もなく、続けて敵機発見の一報。
《11時方向プラス30、タリホー(敵機を視認)!!》
左斜め前に躍り出るバーリングのジム。今回はバズーカではなくビームスプレーガンを装備している。
その視線の先には、僚機を全て喪い必死に逃げるリックドム。彼の言う通り最後の1機らしい。
攻守が入れ替わり、今度はシンイチのジムがバーリングを援護しながら追随する。
《捉えた、あばよッッッ!!》
スプレーガンの猛射に背部と左脚を撃ち抜かれ、たちまち姿勢を崩してきりもみ状態となる。
そのままデブリに激突し、大破した。
《やった……マニューバー・キル(直接の破壊によらない間接的な撃墜)か。》
「だな、これで3機。一旦デブリ帯を出るぞ。」
2機のジムは、そのまま周囲を警戒しながらデブリ帯を飛び抜けてゆく。
開けた宙域で待機していたサラミス級「ユキカゼ」と合流すると、事務的な口調の女性の声ーユキカゼのオペレーター、エレノア・ホーキンス少尉から連絡が入った。
《……ユキカゼ・コントロールからチャーリー3および4、今ので最後だ。宙域はクリア、繰り返す、当該宙域はクリア。》
「チャーリー3了解、ひと段落か……ハァ…」
ヘルメットのバイザーを開けてひとつ深呼吸すると、手元のカップホルダーのストローを挿したボトルを手に取り一口飲む。
ぬるくなったスポーツドリンクの味を感じていると、今度はバーリングの気怠そうな声が届いた。
《……やれやれ、ようやくか。しかし今のがブリーフィングで言ってた連中か?かなりしぶとかったなァ。》
「かもな、可能性はなくもない……」
次いで、バレンツィーノ少佐からの通信が入る。彼とキムの分隊はユキカゼと協働し、敵母艦たるムサイ級への攻撃を終えたところだった。
《こちらチャーリー1、チャーリー3無事か?こちらも問題無く片付いた、ユキカゼに合流する……》
「チャーリー3了解、現地点で待機します。」
《チャーリー1、出撃前に言ってた不調は大丈夫ですか?》
珍しく心配そうに問いかけるバーリング。バレンツィーノ少佐のジムスナイパーカスタムはここ数日、ジェネレーター周りの不調が目立ちつつあったからだ。
《……『問題無く片付いた』と言っただろう、チャーリー4。もちろんその辺りも含めて、だ。》
《了解、心配無用ってとこですね。》
他愛無い会話を聞きながらシンイチは笑顔を浮かべ、安堵のため息を漏らした。
コンペイトウ近傍の宙域を、4機のジムと1隻のサラミス級が敵を求めて彷徨う………。
一連の戦闘の数時間ほど前、第343補給分艦隊旗艦「ネオショー」艦橋。
「さて。激戦の疲れが抜けきっていないのは、重々承知の上ですが……」
艦長席に座るイケタニ大佐が中隊長たるバレンツィーノ少佐と小隊長2人、さらにシンイチ、ケイト、第3小隊のコリンズ少尉をはじめとした隊員たちに向き直る。
「早々に任務が与えられました。コンペイトウ近傍宙域での哨戒です。」
イケタニ大佐が目配せすると、彼の側に控えるウォーラス大尉が天井に設置された大型ディスプレイに宙域図を表示させた。
「ソロモンの陥落により、敵はその残存戦力をア・バオア・クーに結集させ、グラナダと結ぶ防衛ラインを形成しつつあります。友軍部隊が目下そこへ逃れていく敵の追撃にあたっていたのですが………」
2つの拠点を線で結び、続けてコンペイトウ直近の宙域をレーザーポインターで示した。
「ひとつ問題が発生しています。ソロモンからの撤収時に、殿をつとめたと思しき敵部隊の一部によって友軍が甚大な被害を受けたと、コンペイトウ司令部から報告がありました。」
一様にざわつくパイロット達。バレンツィーノ少佐も眉を顰める。
「確認できた敵戦力は、チベ級1隻を旗艦にムサイ級数隻。ゲルググ2機を従えた暗色の高機動型ザクの混成で、他にリックドムが多数……」
ここでシンイチが、ルナツー攻撃前に退けたかの部隊を思い出す。さながら稲妻のような機動でコンプトンのボール小隊を翻弄した、アキモト大尉率いる高機動型ザク小隊。
彼にトドメを刺せなかった事を改めて悔やみ、拳を握り締める。
「……我が軍の次の攻撃目標が何処になるにせよ、今後の侵攻ルートにおいて脅威となりうる存在は必ず排除せねばなりません。」
コワルスキ中尉が腕を組み、鼻をフンと鳴らして口を開く。
「コンペイトウの近くまで出張ってくるとは、殿を預かる部隊にしてはかなり強気な連中ですな。ソロモン奪還でも狙っているのか、あるいは極度の死にたがりか。」
「というより……ここまで進出してくるという事は、強行偵察も兼ねているのかも知れん。こちらの戦力の出し具合をみて、次の攻撃目標が何処か探っているのかも。」
バレンツィーノ少佐が話し終えたところで、シンイチが挙手。
「すみません、ちょっとだけ。コイツらはもしかして……」
「どうしたモリタ、連中に心当たりが?」
アークライト中尉が促すと、頷いてさらに補足するシンイチ。
「えぇ、暗色の高機動型ザクが指揮官機なら、ルナツー襲撃の直前に俺とバーリングの二人で退けた奴らと同一かも。倍の数のボール部隊を楽に壊滅させていたところを見ても、かなり手強いかと。それに……」
「それに?」
珍しくケイトが口を挟んだ。首を傾げて顔を覗き込み、女性らしい仕草で問う。
心なしかこれまでより距離が近く感じられたが、シンイチは特に気に留める事なく続けた。
「うん、そいつがゲルググ2機を従えているのなら、そちらも相当な脅威でしょう。奴の配下に収まる腕前となると、以前仕留めた素人集団とは別格と考えていい。」
コワルスキ中尉が再び鼻を鳴らす。
「フン、腕利きと新型機の組み合わせということか………一筋縄ではいかなさそうだな。面白い。」
ここでシンイチが苦笑いしながら中尉に向き直り、砕けた口調に切り替えて告げた。
「……俺たちにとっちゃ『面白くない』かも、ですけどね。」
「いやぁ、全くだ。いつも以上に気を引き締めて当たるとしよう。」
拳を手のひらに打ちつけ、気合いを入れるコワルスキ中尉。
パイロット達が一様に頷くと、改めてイケタニ大佐が指示を下す。
「これより我が艦隊は、当該宙域に可及的速やかに向かうとともに、例の艦隊を最優先排除目標とし哨戒行動を開始します。第二種戦闘配置を発令、パイロットは不測の事態に備えてただちに搭乗待機。それでは、わかれ(解散)。」
『了解!!!』
敬礼とともにその場を離れる面々。
去り際にシンイチが通信手席に目をやると、そこに座ったサクラが心配そうな面持ちで見つめていることに気づく。
一旦立ち止まり、笑顔を向けて手を振ると、彼女もまたにこりと笑って小さく手を振った。
一連のやりとりをたまたま目にしたケイトは、心に僅かなむず痒さを覚えてしまう。
(彼女持ちにこんな気持ちは………不粋、不躾、不純。)
自分を戒めながら踵を返し、艦橋を後にした………。
そして数時間後の現在、再びコンペイトウ近傍。ユキカゼの直上に位置する暗礁地帯ー
《ムサイ級1隻……つまり軽巡ザイドリッツとその直衛が全滅か。前哨戦はこっちの完敗ってところやな。》
デブリの影に身を隠した暗い塗装の高機動型ザクが、同じく傍らに控える僚機にレーザー通信で伝える。
《アキモト大尉、今なら……》
ゲルググのコックピットに収まるハンスは、眼下に見える敵艦を見張りながらそう言うと、右手に持ったビームライフルに手を添えた。
《せやな……ぼちぼち、仇討ちといこか。ボンは一緒に来い、お嬢は最後尾で後詰めを頼むで。第2小隊は迂回しながら接近、しかるのち定位置で待機しスキあらば仕掛けろ。》
少し後方の離れた位置には、やはりデブリに身を隠したアナスタシアの乗機。そのさらに後方には、促成兵達のゲルググ3機。
隊長機の合図を受けて3機は機体を滑らせるように、ユキカゼとその直衛MSに攻撃を仕掛けんと距離を詰め始める。
同じ頃、ユキカゼの艦橋ではすでに不明な反応の兆候を捉えて警戒体制に移行していた。
《第1小隊各機へ……再度本艦の直上、2時方向に複数の不明熱源。十分に警戒せよ。》
《何だよ、さっき宙域クリアって言ってなかったか?本当しぶといなぁ……》
連絡を受けたバーリングが無線でぼやくと、明らかに苛立ちを含んだ声でホーキンス少尉が注意する。
《チャーリー4無駄口は慎め、警戒を怠るな。貴官は何度言わせる気だ?》
《チャーリー4こちらチャーリー1。オペレーターの言う通りだ、そろそろいい加減にしないと編成から外すぞ。》
バレンツィーノ少佐の脅し文句が効いたのか、流石のバーリングも肝を冷やす。
《ッッッ!!了解、警戒を続行する!!》
通信を聞きながら、シンイチはこれまでにない程の嫌な予感を覚えていた。
(………直上で反応………仕掛ける位置は、タイミングは………!?)
脳内で思案を巡らせるとともに、ふいに真上に目をやる。
そして、間をおかずモニター越しに僅かに見えた発砲炎に思わず声を出した。
「……直上、今来るぞッッッ!!ユキカゼ緊急回頭ッッッ!!!」
言うが早いかその方向に向けてビームライフルを放つシンイチのジム。
《なっ、何だと?!》
突然の報告に、オペレーターの珍しく慌てた声。
「取舵いっぱい!!!」
「アイ、取舵!!」
すぐさま指示を下すマルヤマ中佐、間髪入れずチャン軍曹が舵を切る。ユキカゼが左にロールしながら大きく急旋回すると、ビームの光条が船体を掠めた。
右舷側の放熱板を貫通し、さらにレーダー機器が破壊される。
「ひッッッ……被害報告!!ダメコンは?!」
「右舷放熱板軽度損傷、レーダーの一部がブラックアウト!!なお航行に支障無し……」
報告を受け、即座に指示を下す。
「敵の射点から位置を割り出してMS隊に伝えろ、第二波に備えて急速避退!!」
バレンツィーノ少佐も命令しつつ機体を動かすが、しかしー
《来たか、各機ブレイク……なっ、何ッッッ?!》
コックピット内が警告灯で赤く染まり、警報音が鳴り響く。ジェネレーターが出力不足を告げていた。
《チャーリー1?!大丈夫ですか、被弾ですか?!》
シンイチが必死に問いかける。通信の背景音には、コックピット内の機器を必死に操作する音が混じっていた。
《………いや、また不調だ!!だが機動はできる。定点で狙撃くらいは……とにかく、ユキカゼに張り付いて援護する。チャーリー2、3と4で前に出て迎撃しろ!!後から合流する!!》
《了解……タリホー!!ザクとゲルググ、2機!!》
直上のデブリ群から姿を現した敵機に向けて一気にスラスターを噴かす3機のジム。手持ちの火器を撃ちながら、激しく牽制する。
《初弾はちょい外したが、出てきたな!!ジム3機か、大したこと……あぁ?!何やとッッッ?!》
敵編隊中央、小隊長機と思しき機体を見たアキモト大尉は戦慄する。
(んなアホな、野朗……まさかマーシャルとパッツィをヤッた『2本差し』かッッッ!?こんなトコで出くわすとは、ツイとるんだかツイてへんのだか……!!)
ほぼ同時に、シンイチも敵の正体に気づく。
(黒い高機動型ザク、やっぱり以前のアイツ!!今度は逃がさんッッッ!!)
暗色の高機動型ザクに向けて一気に距離を詰めるサーベル2本差しのジム。敵を見据えつつ、バーリングとキムに指示を出した。
《チャーリー2、4はゲルググを頼む、俺は隊長機を抑える!!》
《はいよ、チャーリー4了解!!》
《チャーリー2了解!!》
スプレーガンと90㍉マシンガンを携えた2機のジムは、高機動型ザクの隣に控えるゲルググに向け激しく攻撃を加える。
《分断する気か、ええ判断……うぉッッッ?!?!》
ゲルググとジム2機の間に割って入ろうとしたアキモト大尉のザクに、シンイチのジムが襲いかかりビームサーベルを叩きつける。すでに二刀流、最初から全力で殺しにかかってきていた。
かろうじてヒートホークで受けるが、やはり出力の差は明白。刃毀れしないうちにすぐに体を逸らしてやり過ごし、鍔迫り合いから抜け出す。
同時に横蹴りを見舞うが、盾で受けられた。
姿勢を崩しながらも頭部機銃で牽制するジム、一旦間合いをとる。
「逃がすかよ、今度こそ!!!」
「相変わらずアホみたいな機動やな、2本差し!!!」
コックピット内で互いの存在を認めつつ、再び距離を詰めて互角に渡り合う両者。
一方で、ハンスのゲルググをアキモト大尉のザクと分断させることに成功したバーリングとキム。しかし、その技量と機体の性能差故に予想以上の苦戦を強いられていた。
現にバーリングのジムは、既にシールドを破壊されている。
《チャーリー2距離を詰めすぎるな、コイツは手強いぞ!!》
《了解、もう一度回り込みます!!》
必死に呼びかけつつ、正面からバーリングが立ち向かって牽制。その死角をキムが狙うのだが、なかなか隙を突けない。
そして攻撃をいなしながら、ハンスは敵の手の内を見破りつつあった。
(泥人形共め、読めたぞ!!つまり1機に相対すると、もう1機が死角から突いてくる二機一組の戦法………次で最後だ!!)
ここで、あえてバーリングのジムに詰め寄るゲルググ。右手のビームライフルを乱射しつつ左手でビームナギナタを抜き、手首を回転させ振り回しながら迫る。
《くっ……そぉ、こっち来たか!!チャーリー2援護!!》
ビームの光条をかろうじて躱しつつ、スプレーガンで牽制。
「この位置、この機動ッッッ!!ヤツの僚機は……ここだぁッッッ!!!」
バーリングのジムの間合いに飛び込むと見せかけて、射線を外しつつ瞬時に振り向く。
ビームライフルの銃口の先には、マシンガンを放たんと構えるジム。
《チャーリー2ブレイク!!!》
バーリングの必死の叫びと同時に放たれるゲルググのビームライフル。その光条はジムの右腕と武器、そして左脚を貫き瞬く間に大破せしめた。
《ぐぁ゛ッッッ……チャーリー2、やら……ggzgg…》
《チャーリー2!!!野朗ッッッ………》
左手でビームサーベルを抜いて斬りかかるが、それも既に読まれていたようで難無く受けられる。
《ぬるい、死ねぇッッッ!!!》
双刃のビームナギナタが振り上げられると、バーリングのジムはたちまち両腕を失った。
《まずった!!ベイルアウt……gzz………ggzzz……》
そのまま左の肩口から右の脇下にかけて、ばっさりと両断される。爆発こそしないものの、機能を停止し動かなくなった。
糸の切れた操り人形のごとく、力無く宙を漂うバーリングのジム。彼の悪態も通信に乗ることはなかった。
《……アキモト大尉、2機共始末した。すぐ向かいます。》
踵を返して、交戦中の高機動型ザクを援護すべく飛び去るゲルググ。
一連の様子を、相棒のシンイチが直接目の当たりにしなかったのは幸か不幸か………。
敵襲の報を受け、ネオショーの直衛についていた第2小隊がユキカゼのもとへ急ぐ。
そして、激しく鍔迫り合うシンイチとアキモト大尉のザクを視界に収めるまであと僅かの位置に迫っていた。
「……見えた、ユキカゼだ!!損傷は軽いようだな。アルファ1からチャーリー1、状況は?!」
スプレーミサイルランチャーを装備したガンキャノンのアークライト中尉が問いかけると、即座に返答があった。
《こちらチャーリー1、アルファ1救援に感謝する。すまんがこちらは機体不調でうまく動けない……チャーリー3が交戦中だ、私も後から向かうが、先に行って手伝ってやってくれ!!》
ユキカゼの甲板上にはバレンツィーノ少佐のジムスナイパーカスタムが着地しており、その船体から出てきた複数の整備兵に修理と調整を受けている様子が見えた。
《アルファ1了解……よし、アルファ2は俺と来い、チャーリー3を援護する。アルファ3と4はユキカゼの直衛だ。了解か?》
言うが早いが、2機ずつに分かれて別々の進路をとる。しかし突然ー
《さらに不明熱源、アルファ小隊の4時方向プラス40!!》
オペレーターの絶叫に近い声での報告。
《何、4時方向ーー》
その方向に振り返ったアルファ4、ドイル軍曹のジムがたちまち幾筋ものビームに撃ち抜かれた。
盾を貫通して頭部に風穴が空き、さらに数発が腹部と胸部に飛び込む。
《アルファ4、ベイルアウトッッッ!!!》
《ドイル、逃げろォ!!!》
アルファ3、ケイトが叫ぶが時すでに遅し。ワイルダー少尉が呼びかけると同時に機体が爆散し、宇宙の塵と化した。
「やっ、やったァ、MS1機撃墜!!!」
確実な撃墜を認めると、歓喜の声とともに即座に離脱していくMS3機。ドイル軍曹のジムを撃ったのはアキモト大尉麾下の第2小隊、促成兵の駆るゲルググだった。
即座に撃ち返す2機のガンキャノン、逃げ遅れた殿の1機にビームとキャノン砲弾が命中し、きりもみ状態から木っ端微塵に爆散。
《アルファ小隊大丈夫か、誰かやられたのか?!》
バレンツィーノ少佐からの問いかけに、アークライト中尉が敵機の爆発を見届けながら冷静に報告。
《アルファ4ダウン、脱出確認できず………アルファ3はそのままユキカゼの直衛につけ。アルファ2、チャーリー3の救援に向かう!!》
その声には、明らかに悔しさが滲んでいた。
《………っ、アルファ3了解……》
僚機を喪ったケイトもまた、震える声で返答する。
周囲の安全を確認すると、彼女のジムはユキカゼに向かう。そしてアークライト中尉とワイルダー少尉のガンキャノンは、なおも交戦中のシンイチのもとへ馳せ参じるべくスラスターを噴かす。
仲間の死を悼む時間は、今の彼らには無かった………。
「ぐッッッ、くそッッッ……!!!」
《形勢逆転やのォ2本差しィ〜!!今日こそ死んでもらうぞボケコラァッッッ!!!》
接触回線で煽るアキモト大尉。彼のザクの激しい連撃をいなしつつ、新たに合流したハンスのゲルググからの射撃をすんでで躱す。
《ド頭(タマ)カチ割ったらぁ!!!》
十分に加速を加えての、強力なドロップキック。かろうじて盾で受けるが、その凄まじい衝撃に大きく体勢を崩すシンイチのジム。
コックピット内に絶え間なく鳴り響く警報音、忙しく明滅を繰り返す警告灯。
さらにビームの光条が機体を掠め、盾が吹き飛んだ。
(やっぱりさっきのゲルググか?!ヤツがこっちに来ているという事は、まさか………)
最悪の事態を、朧げながら察する。
(それでも………!!こんなとこで死ねるかよッッッ!!!)
悪い予感を振り払うかのごとく、頭部機銃を乱射して牽制する。しかしついに弾が尽きてしまった。
ビームライフルのエネルギーも残り少なく、さらにビームサーベルは2本のうち1本を失っている。そんな彼のもとに、再びヒートホークを叩きつけてくるアキモト大尉の高機動型ザク。耳元に、またも接触回線で怒号が響く。
《それで仕舞いかァ2本差し?!もっと根性見せんかいオラァ!!!》
(ここまでなのか?!………バーリングも、キムもおそらくやられた。残ったのは俺だけか……)
警報音がひときわ大きくなった。ロックオンアラートに加えて、ビームサーベルがパワーダウンしている事を示す。
(バレンツィーノ少佐、ジョナサン、キム、皆すまない。サクラ、ごめんー)
次々と思い浮かぶ、仲間達の顔。そして愛しいサクラの、今にも泣き出しそうな表情。
(還れない、かもしれない。)
スロットルレバーを握る手の握力が、僅かに緩んだ。
と、そこへーー
《チャーリー3、生きてるか!?》
《野朗オォォ、まとめてブチ殺す!!!》
2機のガンキャノンが全ての武器を放ちながら横合いから突っ込んできた。その猛射が高機動型ザクの武器を破壊する。
《チャーリー3、よく持ち堪えた!!待たせたなッッッ!!》
さらにバレンツィーノ少佐のジムスナイパーカスタムも駆けつけ、ロングビームライフルの一撃がハンスのゲルググの右肩を撃ち抜く。
《増えたか、しかもキャノン型2機に狙撃型……これはイカンやつやなッッッ!!》
不利と見るや、即座にシンイチのジムに後ろ蹴りを加えて逃げの一手に移るアキモト大尉。
《ボン、退け!!右肩の借りはまた今度や!!》
《了解……待った、アナは?!》
戸惑いを隠せないハンスとともに、2機はデブリ帯に飛び込んで視界から消える。
なおも追撃しようとする部下達を制しながら、バレンツィーノ少佐が警告。
《各機深追いするな、まだ居るかもしれん!!チャーリー3、そっちに合流する……》
その言葉にシンイチは、安堵よりも先に再び嫌な予感に襲われた。
(敵は2機、ジオンMS小隊は通常3機………しまった、あと1機は?!)
慌ててジムスナイパーカスタムの方に顔を向けると、背筋が凍りつく。
その背後には、もう1機の敵機が近づきつつあった。
うまくデブリに隠れて近づきつつ距離を詰め、また虎視眈々とチャンスを狙っていたアナスタシアのゲルググが、ビームナギナタをその背に突き立てんと刺突の構えで迫る。
《チャーリー1、6時……!!!!》
叫びながら駆け寄るが、遅かった。
躊躇わず突き立てられるナギナタ。
ジムスナイパーカスタムの腹部中央から、明るい黄色のビーム刃が貫通する。
その光景を見るや、シンイチの視界に映る景色が急激に色を失う。コックピット内で激しく明滅する警告灯さえ、全てモノクロに見えた。
《とっ…………獲ったァ!!!!》
ナギナタが引き抜かれると、腹部に風穴が穿たれる。
直前、接触回線が偶然拾った敵の声には聞き覚えがあった。幼さの残る女性の声。
しかし思い出すよりも先に、スラスターを全開に噴かして一気に詰め寄るシンイチ。
斬る、殺す。
声にこそ出さないが、思うのはただただその一点のみ。彼の表情は完全に死んでおり、僚機の通信も全く耳に入らない。
《アナ、逃げるんだッッッ!!!!》
ハンスが呼びかけるが、それとほぼ同時にーー
《えっ、あ………zzzgzggzz………》
ゲルググの腹部に深々と、真っ直ぐに突き立てられるビームサーベル。
そのまま切り上げ、腹部から頭頂部までを縦に切り裂く。次いで横薙ぎに払われると、下半身も切り離され三つに分断した。
すぐさま、バレンツィーノ少佐の機体に向き直る。
機体は力無く漂いながら、風穴の空いた腹部から火花を散らしていた。
しかし、やがて………
(すまん、モリタ。とんだドジを踏んだらしい。皆を頼む………。)
シンイチの脳裏に届いたのは、バレンツィーノ少佐の最期の言葉か、はたまた今際の際の残留思念か。直後、スナイパーカスタムは大爆発を起こしてついにMSとしての原型を失った。
その後戦闘は、損害を出した両軍がそのまま引き揚げたため終わりを迎える。
宙域には、破壊されたMSの残骸が無数に漂う。それらは何も語らず、ただその中に在った生命の終わりだけを静かに示していた…………。
第三十三話 還らざる友へ、去りゆく君へ 終幕
幕間 中隊長の「予備機」
少しばかり時間を遡って、出撃前のネオショー格納庫。
かつてない慌ただしさに包まれたMSデッキはいつも以上の喧騒で、ひっきりなしに動き回る整備兵達でごった返していた。
シンイチがコックピットハッチに立って整備担当のネイトと話していると、格納庫の隅に見慣れないジムタイプが置かれている事に気づく。
「あれ??……なぁネイト、あんなトコにMSなんて置かれてたっけ?」
そもそもその場所はーおそらく機密保持も兼ねてであろうがー今まで巨大なブルーシートで覆われていて、中が見えないようになっていた。
「あぁ、アレは……バレンツィーノ少佐専用の予備機ですよ。」
「予備機??それにしちゃ妙に新型っぽいな??」
シンイチの言う通りそのジムタイプは、カラーリングこそノーマルタイプとよく似た紅白だがより精悍な顔付きをしていた。
また機体各部も洗練されたデザインに仕上がっており、見るからに「高性能機」といった雰囲気が外観から見て取れる。
「そりゃあね。あれは確かジムGS型、通称『ジム・コマンド』ってヤツだったかと。」
名前の響きの良さに思わず感嘆するシンイチ。そしてどういうわけか、にわかにテンションが上がる。
「はぁ、『コマンドー』!!なんだかシンプルに強そうじゃないか、なぁ!!」
明らかに別の何か、そう例えば「上半身裸の筋肉モリモリマッチョマンな男が大暴れする映画」を連想しそうな間違い方に冷静に突っ込むネイト。
「いや『コマンド』です、伸ばさない。」
「あぁ、伸ばさないのね……」
それを聞いて納得したのか、少し落ち着きを取り戻し改めて問う。
「……んで、何でまたその予備機がお目見えになったの?」
「どうした二人とも、新型が気になるか?」
丁度そこに現れるバレンツィーノ少佐と整備小隊長のロイセウィッチ、通称「ロイス」。
「あっ、少佐!それにロイス!……この『ジム・コマンドー』は、新たに誰か乗るんですか?」
「『コマンド』ね。」
バレンツィーノ少佐が頷くと、ロイスに目配せをしながら答えた。
「私だ。スナイパーカスタムが最近不調気味でな。次の出撃を最後に、乗り換えようと思っている。」
「ナルヘソ、それで……そういや少佐の機は確か、初期型を無理矢理改装してるんでしたっけ?」
実際RGM-79ジムの初期型は粗製乱造された影響で稼働率が低いものが多く、バレンツィーノ少佐のスナイパーカスタムもその初期型ベースの強化改修機だった。
また酷使された影響でジェネレーター周りの不調が頻繁に起こっており、その事について整備班とバレンツィーノ少佐はしばしば悩まされていた。
「あぁ…それにいい加減ガタも来ていたからな。」
そして、ロイスが補足するように饒舌に語り出す。
「コイツなら後期型ベースで各部が一新されているから、不調にも悩まされないし大分戦い易くなる筈だ。ノーマルなジムより推力も出力も段違いだし、全体的な性能ならジオンのゲルググタイプにも迫る……」
「ちょちょちょ、わかったから小隊長。長い長い。」
「あンだとぉ〜?!テメェただでさえ俺の話なんて聞いちゃいねぇのに、機材の話くらいキチッと聞きやがれッッッ!!整備兵だろがこのォ!!」
「ぐぇッッッ?!?!」
話を遮ってきたネイトにスリーパーホールドをかけるロイス。そんな彼らを、バレンツィーノ少佐が笑顔で窘める。
「おいおいよさないか小隊長。出撃前だ、穏やかにな。」
「何だかロイスも、サブリナに雰囲気が似てきたな……」
改めて、新型機に向き直る二人。
「まぁ、何だ……モリタ。」
「はい?」
真新しい機体に目を向けたまま、バレンツィーノ少佐が告げる。
「もし私が次の出撃で墜ちたら……コイツには君が乗れ。」
その一言に顔を顰め、思わず声が大きくなるシンイチ。
「やめて下さいよ少佐、縁起でも無い!!」
「……ハハハ、なぁに。墜ちるつもりなぞ微塵もないさ、心配するな。」
「当然です。『あわよくば全員で生き残る』って、宇宙に上がる前に言ったのは貴方ですよ。もう忘れたんですか?」
「私はそんな耄碌する歳じゃないぞ、よしてくれ。それに死んでしまっては、美味い紅茶も飲めなくなるからな。」
「そりゃそうです、折角用意したコマンドーにも乗れなくなりますよ。」
「『コマンド』だ。」
「まっこと、その通り………。」
他愛ない、そしてくだらない会話。
戦争のさ中にあって、それは現実の悲惨さを少しだけ忘れさせてくれるものだった。
それがふとした時に失われてしまうのもまた、戦争の悲惨な面でもあるのだが………。
シンイチがそのことを改めて痛感してしまうのは、それから僅か数時間後の事であった。
幕間 中隊長の『予備機』 終幕
はい、皆様おはようございますこんにちはこんばんは、野武士山芋侍です。
はあぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜ッッッ…………(クソデカため息)
できれば誰も死なせたくありませんでした。できれば皆仲良く、それこそ例えば戦争が終わったら連邦ジオン関係無しに酒飲んで馬鹿騒ぎさせてやりたかった。
でも、自分が書いてるのは曲がりなりにも戦争ですからね。そういうワケにはいかない。巨大ロボットがドンパチやる非現実的なお話とはいえ極力リアル路線のお話ですから。
弾が当たれば死にます。ビーム砲がコックピットに飛び込めば死にます。ビームサーベルでコックピット刺されたら死にます。敵も味方も一緒。
リアリティのためだけに死なせたというとそれもまた全然違うんですが………何だろう、上手く言い表せません、あしからず。
さて次回、かつてない程の大きな損害を被った第343補給分艦隊。そして凄まじい喪失感に苛まれる隊員達。彼らは如何にして乗り越えるのか、そもそも乗り越える事ができるのか。
次回第三十四話「ハレルヤ・ラ・ミゼラブル」
お楽しみに。
宇宙(そら)の勇士達に、敬礼。