機動戦士ガンダム外伝 斬凶戦記   作:芋 侍

5 / 7
第四話 悪魔の行軍

機動戦士ガンダム外伝 斬凶戦記 

第四話 悪魔の行軍

 

ジオン公国軍、某拠点。

一人の若い男性士官、ハンス・ブレンドレ少尉が腰に手を当てて立ち、点検を受ける愛機を見つめていた。

MS-06R-1A高機動型ザクII。

通常のザクIIの脚部にスラスターを追加し、背には推力が増強された大型バックパックを背負ったMS。

同型機は名だたるジオン公国軍エースパイロット達の手に渡り、宇宙での戦いにおいてなおも赫々たる戦果を挙げている紛うことなき名機。

現にこの機体を受け取った彼も、初陣でいきなり連邦軍の宇宙戦闘機数機を撃墜しさらに巡洋艦をも撃沈せしめる大戦果を挙げている。

「連邦のモビルスーツ………如何程のものかな。」

得意気に独りごちた。

側面を刈り上げた短めの金髪、自身に満ち溢れた顔と鋭い目付き。あどけなさは残るが、その瞳には闘志が宿る。

ふいに、彼を呼びやる厳格そうな声。

「ブレンドレ少尉!調整と点検は終わったのか?!」

直属の小隊長、トシヒコ・コマツ大尉だ。少しやつれた雰囲気で、オールバックの黒髪は少し乱れていた。

ブレンドレ少尉は面倒臭そうに振り返り、さらに気怠そうに敬礼。

「あぁ、大尉殿……。もうすぐ終わるところです。それで、何か?」

眉を顰めるコマツ大尉。

「何だ、その態度は………ハァ、まぁいい。もうすぐ午後の哨戒の時間だ、終わり次第指揮所に集合しろ。」

咎めようとして、飲み込む。

かように生意気な兵でも編成に加えて鍛えていかねばならない。おまけに出撃前。

下手ないざこざを起こして万一後ろから撃たれでもしたらコトだ。

そしてコマツ大尉には、怒鳴りつけたり殴ったりして矯正する程の余分な元気は無かった。

「了解………。」

再び愛機の方に振り返り、点検の様子を見やる。

整備兵達はめいめい機器の片付けに移らんとしていた。

おもむろに、コマツ大尉が尋ねる。

「……初陣で、サラミス級を沈めたそうだな。」

「えぇ、まぁね…。」

再び、大儀そうに続ける。

「それよりこの機体を手に入れる事と、重力下適応改修の方がよっぽど骨が折れます。」

若輩者らしい、慢心に満ちた語りよう。

「そうか。」

コマツ大尉が腕を組む。

「戦果は見事だ。物怖じしないのも大いに結構。しかし…」

諭しながら、ブレンドレ少尉の斜め前に歩み出て向き直り、真剣な顔で続ける。

「月並みな事だがな、自信過剰はほどほどにしておけ。お前のようなヤツは間違いなく、いつか足元を掬われるぞ。」

整備兵が引き揚げはじめたのを見、コマツ大尉は踵を返して指揮所の方向へ歩き去っていった。

「……面倒なのに当たったか。先が思いやられる…」

小声で呟いて、愛機の方に向き直る。

すると、またも彼を呼びやる声。今度は若い、幼さが残る女性の声。

「ハンス!」

「アナ!!」

コマツ大尉の時とは全く正反対の反応、親しみと優しさを込めて互いに愛称で呼び合う。

少し浅黒い褐色肌のアナスタシア・スコーネルト少尉は、おかっぱ風ショートヘアの金髪を靡かせながらブレンドレ少尉に駆け寄る。

その際、少し躓いてしまい彼に肩を支えられた。

「おっと……。地球の重力には、まだまだ慣れていないみたいだね。」

「ごめんね、ありがとう…そうみたい。ハンスは?」

「僕は重力よりも、この暑さがどうにもね…。早くも嫌になってきた、新しい上官と一緒に。」

今しがたその「新しい上官」が向かった指揮所に顔を向けながら言う。

調整された天候のもとに暮らすスペースノイドである彼らにとって、地球の自然は時に不快なものに感じられる事が多い。

「ダメよ、上官には敬意を払わないと…」

「君の頼みでも、流石にね………アイツはキシリア様に睨まれているという噂だ。信用できない。」

さらに続ける。

「思想犯の疑いをかけられて、一時拘束された事もあるそうじゃないか。家族も人質にとられているとか。」

あくまで噂程度だが、そのような話をさる筋から聞いていたブレンドレ少尉は彼に疑念を抱かざるを得ず、またそれは明からさまに気怠げな態度が示していた。

「でも……でも、そうだとしても実戦経験はあの人のほうが…」

「それでも、だ。僕はヤツを信用しない。これから信用する事もないだろう。」

きっぱりと言い切る。スコーネルト少尉は残念そうに顔を伏せた。

「…僕の前で、そんな顔をしないでくれよ。」

打って変わり、優しい声で諭しつつ彼女の頬にそっと手を添える。

「ひとまず指揮所に行こう、もうすぐ哨戒の時間だとさ。」

「………うん。」

若い新人士官二人は、連れ立って指揮所に歩きはじめた。

ジオン公国軍が誇る新型のザクは整備と調整を終え、戦いを見据えて静かに立ち尽くす………。

 

《……デルタ1よりホバートラック『ミーアキャット』、ポイント4に到達。敵影無し。》

《…了解デルタ1、ソナーにも反応無し。先に進んでください。》

《了解。》

同日夕刻、岩石地帯を3機の陸戦型ジムが哨戒のためひた走る。

彼らは先の作戦において第41機械化混成中隊に窮地を救われ共闘した部隊で、残存機を集めて再編成されていた。

彼らが生き残ったのは偶然ではなく、またその腕前は伊達ではない。

その筈だったのだが………。

 

突如、砲撃。

 

彼らの直近で複数炸裂する砲弾。

《敵襲、防御態勢!!『ミーアキャット』、敵の位置と数は?!》

すぐさま集合、長機を列機2機が背中合わせで背後にまわりカバー。教本どおりの防御姿勢。

《3機が並んで接近中、方位125、先頭はおそらく06(MS-06ザクII)、続けて07(MS-07グフ)、最後尾にさらに06!!》

ミーアキャットの女性オペレーターはサクラより年齢が若そうな声だが、ハキハキと手短に、そして簡潔に報告する。

しかし、違和感。先頭の識別はザクにしてはスピードが速すぎる。

《これ………新型?!先頭の06かなり速い、十分に警戒を!!》

《デルタ1了解、新型なら是非とも台無しにしてやろう!》

《デルタ2了解!》

《3了解ッッッ!!》

さらに砲撃、炸裂。

おそらくザクバズーカ、近接戦闘に秀でた2機をバズーカ持ちが後方から援護する標準的なスタイル。

先程より近くに着弾した。

《よし、突出する新型から仕留める。その後3機で07に集中砲火だ、デルタフォーメーション!!》

防御態勢から、攻撃態勢へ。

左右に展開した2機がマシンガンを構え、その中央に突出したザクを誘い込む。

《………ッッッ!!!》

が、その突進速度は予想以上であった。

岩場をものともせず、爆発的なダッシュ力であっという間に距離を詰め、ヒートホークを振るう。

《なっ、速ッッッ………》

溶断された陸戦型ジムの右腕が呆気なく宙を舞う。握られたマシンガンを1発も撃たぬまま。

《デルタ2、退け!!!!》

続けて回転からの横薙ぎでコクピットを引き裂かれ、沈黙。

《がっ………かッッッ………zzgggzzgzz………》

《デルタ2!!!野郎ッッッ……》

デルタ3とデルタ1がマシンガンを放つが、敵機は流れるような足捌きで銃撃を躱す。

《こなくそっ、チョロチョロと………あ゛ッッッ……zzzgzgzz…》

デルタ3に無慈悲な一撃、後追いのグフに死角から近づかれている事に気付かず、横合いから胴を一刀両断される。

その手際は、さながら剣客。

《クソッッッ………タレがぁ!!!!》

残ったデルタ1が部下二人を葬った敵に闇雲にマシンガンを乱射するが、怒りに任せた攻撃は無情にも空を切る。

《デルタ1、後退を!!デイビス少尉!!》

オペレーターが涙声で必死に呼びかける。

グフは左掌のフィンガー・バルカン(五連装75㍉機関砲)で牽制しつつ残ったジムに接近。

デルタ1は弾倉が空になるや否や左手でビームサーベルを引き抜き、距離を詰めてきたグフを串刺しにすべく勢いよく突き出す。

しかし、最小限の切先の動きで払われその軌道は逸らされた。

ほぼ間を置かず、ジムの左胸を真っ直ぐに刺突。

切先で払う所作や突きの動作は、さながら剣道の「払い突き」そのもの。

《デルタ1!!!そんな!!!!》

息も絶え絶えのデイビス少尉は、最期の力を振り絞るように最期の無線通信。

《………gggzzz……すまん、やられ……ggzz……空軍へ、連絡…ここに全弾、落とせ……ggz……ーアキャットは、撤退………zzz》

通信が途切れた。

絶望している暇はない。オペレーターは顔を上げ、無線機に向かって叫ぶ。

《………ッッッ!!ホバートラック『ミーアキャット』から空軍、ユニフォーム1へ!!指定地域への空爆を要請。座標送る!!至急頼みます!!》

通信は、接触回線を通じてグフの中のコマツ大尉にも一部届いていた。

思わず舌打ち。

「空軍?………諸共爆撃するつもりか、潔いな。……各機ずらかるぞ!!」

陸戦型ジムの胸部に深々と突き刺したヒートサーベルを引き抜こうとした、が。

「…なっ、何だと?!?!」

グフの右腕は、ジムの両手にがっちりと掴まれていた。

外せない。それどころか、まるでグフの右腕を握りつぶさんばかりの握力。

《隊長、何やってるんです?!離脱しますよ、急いで!!》

《こちらユニフォーム1、目標地点を確認、まもなく投弾コースに入る………デンジャー・クロースに注意………zzggz》

接触回線で、さらに無線通信。このままだと道連れは避けられない。

《チッ、仕方ない………!!!》

迫る戦闘爆撃機の大編隊、ブレンドレ少尉の高機動型ザクがグフに駆け寄り…そして、たまたま入った敵の通信に背筋が凍る。

《……zzgz…一緒に……休暇といこう……gzz…》

デイビス少尉は、警報音で妙に騒がしいコクピット内でニヤリと笑い静かにこと切れた。

 

時をおかず、地形を変えんばかりの猛爆撃。

爆炎と砂煙の中から出てきたのは、デルタ小隊の生き残り達を乗せたホバートラック。

絶望に打ちひしがれながらも、彼らは逃避行を急ぐ。

 

同時刻同地点、爆撃後。

3機のジオン公国軍MSが、濛々たる砂煙の中から姿を現した。

高機動型ザク、グフ、通常型のザク。

このうち、グフは右腕が肩口から無い。

爆撃の直前、ブレンドレ少尉の高機動型ザクは陸戦型ジムに掴まれて離れられないグフの右腕を丸ごと斬り落とし、その後なんとか離脱に成功していた。

《………まさか、助けられるとはな。》

《………次は見捨てますよ。二度と無きように願います、大尉殿。》

《あぁ。…次回はもう少しマシな手段で頼む。》

互いに皮肉りあう悪魔達は、血のような色の夕日を背に戦場を後にする………。

 

後刻、元ジオン公国軍某基地、連邦軍占領下ー

帰投してきたホバートラックを見、バーリングが珍しく絶望と驚愕が混じった声を上げた。

「何てこった、ウソだろ?!?!」

拠点に戻ったのは、ホバートラック「ミーアキャット」ただ1台。

側面のハッチが開き、憔悴しきった顔のドライバーと女性オペレーターが出てくる。

オペレーターはよろよろとハッチから降り、途端にその場にへたり込んでワッと泣き崩れてしまった。

すかさずサブリナが駆け寄って抱き寄せ、その背を摩る。

「大丈夫、大丈夫だからね………!!よく還った、よく戦った。アンタよくやった、凄いよ。大丈夫よ………!!!」

励ましながらも、サブリナの声は徐々に潤む。

近くで61式を整備していたサラも工具を投げ出して駆け寄り、不器用に肩に手をやる。

「デルタが全滅………クッッッソォ、どんな奴だろうと…ブチ殺してやる!!!!」

バーリングにとっては、先日酒を酌み交わしたばかりの気の良い連中。

普段のおちゃらけた態度を完全に忘れて手近にあったバケツを踏み潰し蹴っ飛ばし、怒りを露わにする。

点検のため陸戦型ジムのコクピットに腰掛けてハッチを開けていたシンイチは、一部始終を見て眉を顰め、拳を握る。

爪が食い込み、血が滲むほどに。

その傍の乗降用タラップに立っていたバレンツィーノ中尉も、腕を組んで目を閉じ悩ましい表情。

新たな脅威が近づいているのを、小隊の全員が実感していた………。

 

そして、夜。

新しく設営された格納庫内で日課の素振りに勤しむ剣道着のシンイチ。傍ではサクラがベンチに腰掛けて、その様を見守っている。

一通り振り終え、蹲踞の姿勢から納め刀。

立ち上がって深々と、いつもより長く一礼。今日散った仲間達へ餞を贈る。

ゆっくりと深呼吸したところで、サクラがぽつりと呟く。

「…今日泣いてたあの子、あたしの後輩なんです。優秀でしっかりしてる子なのに…あんなに…。」

「……俺もあの子の気持ちがよく分かる、本当に。かつて一度、似たような状況に陥った事があるからね。」

サクラが驚いて顔を上げる。

「……そうだったん、ですか。」

シンイチはサクラからペットボトルに入ったスポーツドリンクを受け取りながら、続ける。

「あぁ、空軍時代にね。目の前で、次々と皆死んでいった…。」

「そんな…事……」

シンイチがボトルを開けて一口飲んだ。

サクラは少し迷うような間を置いて、呟いた。

「………婚約、してたんですって。あの子と、デイビス少尉…。」

「……………?!」

シンイチの動きが止まる。

あまりの衝撃に胸が締め付けられて、言葉が続かない。

そこで丁度、件のオペレーター、クレア・ランパート兵長が格納庫の出入り口から入ってきた。

緩くパーマががった金髪を頭の後ろでお団子にし、顔にはそばかす。

まだ年頃の少女といった雰囲気。

「あっ、失礼しました…」

二人を見てすぐに立ち去ろうとするが、シンイチが優しく声をかける。が、どこかぎこちない。

「……あぁ、いやいや構わないよ!………本当に、辛かったよね。…大丈夫?」

「あっ、…………はい。でも、もういいんです。」

暗い表情のまま俯く。が、健気にすぐ顔を上げる。

「それに、先程は大変失礼しました。お見苦しい、ところを………」

ギュッと唇を噛み、両拳を握りしめて涙を堪えるクレア。声は震え、目が潤んでいる。

「君の悔しい気持ちはよく分かる………任せてくれ、仇は必ず討つ。」

中身が入ったままのボトルを握る右手に力が入る。

「奴らには同じ目に遭わせてやる、絶対にだ。……そして君は、君のやるべき事をやるんだ。いいね。」

彼女に背を向けたまま、静かな口調ながら怒りが滲んだ様子で淡々と語るシンイチ。

右手に握りしめていたペットボトルが、バキッと音を立てて凹み、潰された。

残っていた液体が床に滴り落ちる。

同時に、クレアの目から大粒の涙が溢れ出す。

「……お願い、します………皆の仇を、お願い………ふっ、う、うぅぅえぇぇぇんッッッ……!!」

彼の頼もしさと優しさに、ついに再び泣き崩れるクレア。サクラが駆け寄り、優しく肩を抱く。

静かな格納庫内に響く、痛々しいまでの嗚咽。

シンイチは仁王立ちしたまま、しかし胸中には激しく、静かに怒りを燃やしていた………。

 

第四話 悪魔の行軍 終幕




芋侍です、幕間はランパート兵長が可哀想すぎて書けません(爆)
高機動型ザクをそのまま地上に降ろすのはどうかな〜と思ったけど、バトオペ2で同機は両方イケてたし時期的に不都合は無いし、オマケに見栄えも良いし適度に強いしで今回ライバル機の一つとして加えました…うん、多分大丈夫でしょ、知らんけど(爆)
次回は皆大好き「あの機体」がお目見え、お楽しみに!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。