目を覚ます。寝ていたということは…まあ、そういうことですよね。
「寝る前より強く抱きしめてるのですが。」
「だってぇ〜…。」
抱きついているヤチヨ様の頭を優しく撫でる。
「泣かないでください。せっかく貴女の目指すハッピーエンドに着いたのですから。」
「何回も言うけど、それに君は入ってるの?」
「………。」
「プッ、図星じゃん。」
静かに、かぐや様。
「ねえ、少しいいかな。」
「…この問答、何回もしましたね。」
「で、どうなの?」
「はい、なんでしょうか。」
ヤチヨ様が私の顔が見えるように正面に抱え直す。…抱えるのはもういいでしょう。
「君のしたい事を教えて。」
したい事…したい事ですか。
「…ツクヨミをこれからも見守る事ですね。」
「ププッ、言葉に詰まってる〜。」
かぐや様、本当に静かに。
「ヤチヨはしたい事たくさんあるのにな〜。」
「それは…よかったです。」
「一つはね…。」
ヤチヨ様の目が私の顔をじっと見つめる。
「君に謝りたいな。」
「え……。」
「…私も〜。」
「君はさ、自分のことを罪人だ〜だの、悪役だ〜だの言ってた。」
「それは…そうですけど。」
「じゃあそう思ったのはいつからって言うと、卒業ライブの時だよね。」
伝えなかったことまでFUSHIのせいで見られているので何も言えない。
「あと私が秘書さんに酷いこと言った時…。」
「その原因を作ったのは私たち…かぐやなの。だから君が罪人になったと思ったせいなのは私たちだから…。」
「…違う……。」
かぐや様とヤチヨ様が悲しい顔をする。違うんです、本当は…。
「だから本当にごめんなさい。」
「秘書さんをこんな辛い目に合わせて、自分たちだけでハッピーエンドだなんて…。」
「違います!!」
違う、本当に違う。別に貴女たちを恨んでいるわけでもない。嫌いなわけでもない。だから謝らないでください…。
「本当は…、本当は……!」
一度感情を表に出してしまうと制御ができない。出してはいけない。みなさんに迷惑をかけてしまうから…。
「言って。」
「お願いだから。」
その言葉が合図のように、口から言葉が漏れてくる。
「感謝したいんです。かぐや様が月から逃げてくれたおかげで私は地球での楽しさを見ることができた。ヤチヨ様のおかげで人との交流をすることができた…。だから…。」
ヤチヨ様とかぐや様の顔が歪んで見えない。私の服に水滴が落ちる。
「私をここまで連れてきてくれて…ありがとうございます…。」
かぐや様とヤチヨ様が泣きながら私を抱き、私も泣きながら二人を抱く。
「ごめんなさい…!」
「貴女が謝るなら私も謝ります…。」
「じゃあ…ありがとう。」
「ありがとうね、秘書さん。」
「私も、ありがとうございます。」
暫く泣いて落ち着いて、少し時間が経った。
「みなさんには、多大なご迷惑をおかけしまして…。」
「もう、そうじゃないでしょ。」
「そうそう!勝手に帰ろうとしたんだから、戻ってきたことで言うこと〜。」
「…ただいま戻りました。」
「うーん、もうちょっと軽くても…。」
「……た、ただいま。」
「よ〜し!」
軽い感じはあまり慣れないですよ。ずっと敬語でしたので。
「ヤチヨ、全部終わったら秘書さんにしたい事があったよね。」
「そうだったそうだった。泣いてて忘れるところだったよ。ありがとね彩葉。」
そう言えば彩葉さんはヤチヨ様の記憶を体験していましたね。私は見ないようにしていましたけれども。
「ねえ、秘書さん。私ね……。」
ヤチヨ様はそれはもう嬉しそうにして…。
「君に"名前"を付けたいな!」
「………へ?」
「ツクヨミを作ってからずっと考えてたんだ。」
「ヤチヨだけずるーい。かぐやも考える!」
「どうせなら俺らも参加するか?」
「じゃあみんなで考えよー!」
「そんなの"秘書"で…。」
「「ぜーったいダメ。」」
かぐや様とヤチヨ様、そんな息ぴったりに言わなくても…。
「私たちだけ名前があって、不平等でしょ。色々考えてきたんだから楽しみにしてね。」
私だけポツンと座っていると、みなさんがこちらに向かってくる。顔を見るにだいぶ満足していますね。
「では、みんなで話し合った末に決まった名前は〜………!」
「ダラララララララ……。」
「こちら!」
ヤチヨ様が広げた紙には『小夜』の文字があった。
「『サヨ』ですか?」
「そう、意味は昔の言葉で『夜』を美しく言った言葉なの。」
「KASSENの時、髪が夜空のようで綺麗だったからって理由。」
「結構色々出したんだよ。ヤチヨみたいに月をつけるだの、星のが入れたいだの。」
小夜、サヨ。役職ではなく人での名前。私のためにみなさんが考えてくれたもの。少しだけ視界が歪む。
「あれ、泣いちゃってる。」
「…泣いてません。」
「素直になりなよ〜。」
「…そうですね…フフッ、ありがとうございます。」
「イェーイ!じゃあ"秘書さん"改めて『サヨ』、これからもよろしくね!」
ああ、これで私もみなさんの隣にに行けるのですね。
「さて、じゃあこれから現実にサヨの身体を作るけど…。」
「私から要望を出してもいいですか?」
「もちろん、できる事なら聞くよ。」
少し考えましたが、現実ではこれくらいが生きやすいでしょう。
「私の身体を筋骨隆々の男性体にしてください。」
辺りが一斉に静かになる。
「あ〜…、どうしてだサヨちゃん。」
「え〜、似合わな〜。」
「理由を聞くべきだろう。」
帝さんと乃依さん、そして雷さんが理由を尋ねる。
「現実は重力などがありますし、筋肉量を多くすれば動きやすさも変わるだろうと考えました。それに伴い、男性体ならばより力も増すでしょうし、ヤチヨ様のサポートもできる理想的な身体です。」
「で、でもサポートするのはツクヨミ内だけだから、今の身体でもいいんじゃないかな〜ってヤチヨは思うんだけど〜。」
それでは甘いですよヤチヨ様。
「身体は強ければ強いほどいいですから。今の身体ではみなさんに助けられてばかりになってしまいます。」
今の身体は自分で言うのもなんですが華奢です。ただでさえ迷惑をかけていましたので、これからはみなさんも恩返ししていかなくては。
「せっかく可愛いし、素材もいいのに。」
「一緒におしゃれなカフェとか行きたかったのに〜。」
「まあまあ、とりあえず要望は聞いたから少し待っててね。」
「よろしくお願いします、彩葉さん。」
「やっちゃうの彩葉〜。」
「作れはするけど、多分無理だろうなー。サヨには悪いけど…諦めてもらうしかないかな。」
「よかった〜。」
目が覚める。身体が重く感じます。これが重力……、とても新鮮な感覚でした。
「視界は問題なし。動ける?」
身体を動かそうとしましたが、びくともしません。
「うーん、これだと無理そうだね。適合率も低いし。」
「じゃあ予定通り……。サヨー。これからもう一つの身体に移動してもらいまーす。」
つまり、私の要望の身体を扱うことができないってことですか?まあ、次の身体もハイスペックだといいのですが。
「じゃ、移動開始しまーす。」
意識が流れるような感覚を覚えた。
「お、起きたよ彩葉ー!」
「そっちはどう?動けるかな。…うん、大丈夫そうだね。鏡いる?」
「あ、ありがとう…ございます。」
前の身体とは違ってなんとか起き上がることができた。声が高いのでこの身体は女性体でしょうか。彩葉さんから鏡を受け取って自分の姿を見てみる。
「な、なぜ……!」
「う〜ん?」
わざとらしそうに首を傾げるヤチヨ様。
「ツクヨミ内の身体と同じじゃないですか!」
鏡の中の私の姿は私のアバターそのものだった。
「しょうがないよ。一つ前のの身体は適合率が低いからね。」
彩葉さんの説明が始まる。
「魂みたいなものが自分の身体だって認めない、つまり拒絶反応みたいなものがあると身体は動かせないんだよね。でもヤチヨの身体をヤチヨは動かせなかった。調べたらいわゆる"自認"が関係していることがわかったの。」
じ、自認?それと何か関係が…?
「つまり今までのヤチヨは"ヤチヨ"と"かぐや"が同じ身体にある、まあ二重人格だと思ってもいいのかな…?だから純粋なヤチヨの身体は動かせなかったってこと。いまのヤチヨとかぐやは元を辿れば"かぐや"だけど、そこから自分が"ヤチヨ"か"かぐや"かの認識に分かれていて、動かせる身体も変わったってこと。」
頭が熱くなりそうです、研究には多少なりとも関わっていたはずですが。ぼーっとしているとかぐや様からたとえが入った。
「まー、簡単に言えば同じ個体でも進化先は別みたいなものだよ。」
なるほど?少しはわかりやすいかもしれません。…きっと、そのことに気づくのにも多くの時間がかかったのでしょう。私の知らないところで新たな発見もあったはずですから。
「じゃあサヨ、せっかく身体を得たけどさ。」
「はい。」
「まずはリハビリからだね。」
ツクヨミ内での感覚は薄い。つまり歩いている状態でさえ私は初心者というわけです。
「ええ、そうですね。」
「ねえねえ。」
ヤチヨ様がとても嬉しそうに聞いてきた。
「現実で身体を手に入れたけどさ、サヨは何がしたい?」
「そうですね…。」
今まではヤチヨ様をサポートすることだけでした。でも、せっかく身体を手に入れましたし…。
「今の世界を写真や動画ではなくこの目で見てみたいですね。」
今までなかった感覚があるなら、ツクヨミの外はどんな感じなのでしょう。あそこで終わると思っていた前の私では考えたこともなかった。
「よかった、やりたいことができて。」
「みなさんのおかげです。」
「「ねえサヨ。」」
「はい。」
ヤチヨ様とかぐや様が同時に話しかける。
「「ありがとう!私たちを支えてくれて。」」
「私も、ありがとうございます。」
その笑顔が見られることができたのなら、ここまで来た甲斐があったものですね。
こうして二人のかぐや姫と一人の月人は人間となり、地球を楽しんで暮らしていきましたとさ。めでたしめでたし。
いきなりですが、これにて本編は終わりです。かなり急ぎ足で雑になったかもしれません。いろいろと下手かもしれませんが楽しんでください。
この物語を書こうとした理由は単純にかぐやの孤独を多少はどうにかして和らげたいと思ったかつ、少しの曇らせも欲しいかなーと思い書きました。
一度書いたのは短編でしたが、色々詰め込みすぎて投稿した時に詰め込みすぎたと感じ、一度消して再度書いたものがこの物語になります。
後日談、というよりかは日常編みたいなものもたまに書くと思います。
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