ヤチヨカップから少し経ち、彩葉さんとかぐや様はヤチヨ様のライブの振り付けの練習を行なっていた。彩葉さんはバイトや勉強もあるのに頑張ってますね。話を聞くと現実世界でも振り付けを練習しているとのこと。
「無理をしていませんか?」
「え、えっと…大丈夫です。最近は引越しとかがあって…。」
「多少の調整はこちらでできるので何か不便があったら言ってください。」
「本当に何から何まで…。」
彩葉さんは少し頑張りすぎなので、多少の気遣いは大丈夫でしょう。
「でも、最近はよく寝て、食べてるんですよ。この前もかぐやと一緒にパスタを…。」
「…良かったです。」
少しだけ…、ほんの少しだけかぐや様が羨ましいと思う。一体、どんな味なのだろう…。
「ダララララ…カニ!ダララララ…ウサギ!」
「はいはい、可愛い可愛い。」
なんでこんなに元気なんだか…。
「練習しすぎてお腹空いた〜。終わったらパンケーキ食べよ?」
「私は緊張でごはん食べれんかったよ…。」
本当に楽観的、私にも分けてくれ。
「ダララララ…どじょう!」
「あっ!」
かぐやと話していたらヤチヨがかぐやのやっていた物真似をして来た。後ろには無表情だが呆れが含まれた顔の秘書さんがいた。
「パンケーキいいな〜、ヤチヨも食べたいな〜。」
「一緒に食べる?」
「よよよ、ヤチヨは電子の海の歌姫なので食べられないのです。」
「え〜!」
ヤチヨとかぐやが話していると秘書さんがこちらに近づいて来た。
「彩葉さん、緊張することは普通ですが楽しむことが1番です。」
「……。」
アバターの私より少し小さいのに凄く大人びてるな。
「そうですね、ありがとうございます。」
「いえ、ヤチヨ様も緊張を和らげようとしてくれているのですから。」
ヤチヨの物真似は私たちが緊張しないようにしてくれてたんだ…。
「えー、ヤチヨにも何か言ってくれないのー。」
「彩葉だけー?かぐやにも何か言ってよー。」
「ハァ…。」
ヤチヨとかぐやが秘書さんに近寄る。
「ヤチヨ様は多くのライブを開催したでしょう。」
「みんなが楽しんでくれるかな〜って、ヤチヨはいつもガクブルだよ。」
ヤチヨでもそうなんだ。そう思うと少し気持ちが楽になってくる。
「…ヤチヨ様はいつもうまくできています。私はこれからもうまく行くと信じています。」
「ンフー。」
うぉ、眩しっ。また新しい供給だ。ヤチヨ道は深い。
「かぐやさんもライブの練習期間、振り付けだけでなく配信もしているのを知っています。どうかこのまま頑張ってください。」
「イェーイ!」
もう秘書さんお母さんじゃん、小さいお母さん。
「では皆さん、会場の準備ができました。」
「いざ、ゆこうか。」
ヤチヨと秘書さんの顔が仕事モードに入った。大丈夫、楽しんだ者が勝ちだ。
「ねえ、ヤチヨ。」
「なんだいなんだい?」
「ヤチヨのデビュー曲ってもう歌わないの?」
私を暗い海の底から掬い上げ、光の輝きを魅せてくれた曲。長らく歌っておらず、今日のセットリストからも外れている。
「あれはもう届いたからお役目完了〜。」
「え……。」
「ほら、時間だよ!」
ヤチヨの声と共に衣装が切り替わり、照明が明るくなる。…秘書さん、演出を担当してるらしいけどめちゃくちゃ緊張させてくる演出だ。
「ヤオヨロ〜!みんな、生きるのどうですか〜?」
今まで私は観客の一人に過ぎなかった。
「良いことあった?それとも泣いちゃいそう?」
サイリウムを握って、ステージのスターを見上げていた。
「よしよし、全部大丈夫。どんなに孤独な道のりでも、楽しかったなーって記憶が足元を照らすよ。」
でも今日、ここに立って初めて知った。
「この時間も忘れられない思い出にしたいから…どうか…。」
演者もまた客席を見上げていたことを。
「一緒に踊ってくれる?」
ライブが終わったが、観客の歓声が終わらない。
「彩葉……。」
「かぐや…。」
「めーーーーちゃ、楽しかった!」
私も楽しかった。かぐやにライブまで連れ回されてたけど、そんな事されてたら緊張なんてどっかに行っちゃった。
「彩葉、好き。」
「私?」
「あー、もー、彩葉と結婚しよっかなー。」
なんで私なんだ。客席からはファンから愛の叫びが聞こえるのに。
「ダメ?」
その顔はずるい。まあ…。
「まあ、生活費折半してくれるなら、一緒に住むのは良いけどさ。」
「え、本当?」
……お迎えが来るまでだけど。
ツクヨミ内のモニターに月が映し出される。アバターが頭部が行灯の白い人の体に変わる者もいる。
『2030/09/12 2030/09/12 2030/09/12 2030/09/12 2030/09/12 2030/09/12 2030/09/12 2030/09/12 2030/09/12 』
赤い文字で日付が映し出される。
「お迎えが…来てしまいましたね。」
白い人に掴まれて、かぐや様は虚な表情で崩れる。彩葉さんが白い人の腕を切り落としたが、そこからは花びらではなくドス黒い液体が流れることからツクヨミのルール外にいることに気づくでしょう。
『おいたは、ダメだよー。』
白い人が吹き飛ばされる。ヤチヨ様の顔は笑顔だが怒りが含まれているのが見てわかる。こちらも体を固定し、動きを封じる。
『モウシワケアリマセン』
機械音声の様な声と共に白い人は消えていく。
『今のは一体?何が起こってしまうんだー!?続報を待て!』
ヤチヨ様の一言でこれは演出として片付けることができそうですね。
「…運命の荒波は物凄く高いですね。」
「ヤチヨ、今のって…。」
私たちはライブが終わった後、控え室にいた。かぐやは一点を見つめて動けずにいた。
「うーん、バグじゃなさそうだね?」
「悪戯という点もあります。」
「調べとくよ。」
嘘をついている。直感的に確信した。
彩葉さんとかぐや様がツクヨミからログアウトする。
「遂に来ちゃったね。このライブはとても楽しかったけど、それと同時に悲しくなっちゃった。」
「……。」
ヤチヨ様は笑顔だが、少しだけ声が震えていた。
「あの感じですと、彩葉さんには嘘だとバレているでしょう。」
「そうだね…。ねえ秘書さん。」
「なんでしょうか。」
ヤチヨ様が私に抱きつく。いつもの感じではなく、不安で、何かに縋る様なものだった。
「彩葉は…気づいてくれるかな?」
「きっと、気づいてくれます。貴女は8000年待ち焦がれたのですから。」
初めて見た時はホラー演出があるのかと驚きましたね。