彩葉さんからメールで招集がかかる。集まったのは真実さん、芦花さん、ブラックオニキスの皆さん、そしてヤチヨ様と私だった。
「みんな、急にごめん。」
「いいの、せっかく頼ってくれたんだから。」
「んで、どうしたんだ。」
「それが…。」
「かあっ〜!かぐやちゃんが本当に月のプリンセスとは!…分かる!」
「築地生まれじゃなかったんだ…。」
「海行っても肌真っ白だったもんね〜。」
「そして、電柱生まれ…分かる!」
彩葉さんが説明したことは側から見たら突拍子もないこと…ですが、皆さんはどこか納得したような、腑に落ちた様子ですね。…帝さんは少し何を言っているのか分かりませんが。
「みんな、こんな胡散臭い話を信じてくれるの…?」
「きっと、皆さんは彩葉さんが下手な嘘をつかない事を知って、信じてくれているようですね。」
「…そっか。」
少し照れくさそうにしている彩葉さんは改めてこちらを向いてきた。
「みんな信じてくれてありがとう。あとは作戦だね。」
どのようにしてかぐや様を月人から守るかを考えることになった。
「ヤチヨ、かぐやを守ることってできないかな。」
「調べてみたけど、どこからアクセスしてるかもわからなかったんだよね、ごみん。」
「ログイン、ログアウトなどを追ってみましたが全てエラーと表示されてしまいました。」
ヤチヨ様が分からないとなれば皆さんも分からずじまいになるでしょう。
「じゃあライブも中止して、かぐやちゃんがツクヨミにログインしないようにするというのは?」
「ふむ、それは少し分かりませんが、スマコンは現実世界にもネットなどを視覚に表示できます。電子のような存在と考えると、少し危ないかも知れません。」
「つまり、現実世界でも怪しいってことですか…。」
そう言うと皆さんは八方塞がりのような顔で考えている。…一人の男を除いてですが。
「なら、真っ向から迎え打つまででしょ。ツクヨミ内に来るなら好都合だ。」
暴論、しかし単純明快な考えですね。
「私もやる。何ができるか分からないけど。」
彩葉さんが覚悟を決めた顔で戦うことに参加する。この空気ですと満場一致ですね。
「あ、あのさヤチヨ、もう一つお願いがあって…。」
ヤチヨ様と彩葉さんが話しているのを見ているとこちらにも話しかけてくる人がいた。
「ねえ秘書ちゃん。少しいい?」
「はい、なんでしょう。」
ブラックオニキスの皆さんでした。なかなか神妙な顔をしていますね。
「チートの使用を許可してほしい。」
「…チート、ですか。」
まさかの告白に僅かながら目を開く。プロの帝さんが言うとも思わなかった。
「よろしいのですか?チートは使用する時点でツクヨミ内からBANされることは知っているでしょう。」
「十分承知。ブラックオニキスはみんなに夢見せるけど、これは妹の願いを叶えてあげたいっていう兄なりの気持ちさ。」
おちゃらけているようでその目は熱が籠っている。…今まで積み重ねてきた実績を捨ててでも家族のために動く。
(このような事をヤチヨ様は、そして私もよく見てきましたね。)
ならば私もそれに応えるべきだ。
「分かりました。チートの使用を許可。警告などの対処はこちらでしますが、長くは保たないと思ってください。」
「ありがとな、秘書ちゃん。乃依、準備するぞ。」
「え〜あれー?めんど〜。」
「リーダーは絶対。」
皆さんがツクヨミからログアウトしてから私はヤチヨ様の方に向かった。
「彩葉さんからのお願いとは…最後のライブのことですか。」
「そうだよ。」
「……。」
ヤチヨ様は嬉しさと悲しさがごちゃ混ぜになっているようだった。
「私さ、嬉しいんだよね。かぐやの為にこんな作戦会議を開いてたことに。…けど、私ができるのは応援だけだけど。」
ヤチヨ様がこちらを向く。
「頑張ってね。」
「最善を尽くします。」
「彩葉、気づいてくれるよね。」
ライブ当日になった。控え室には作戦会議の時にいたみんながいる。
「皆さん、よろしいでしょうか。今回のライブの舞台はKASSENのステージです。恐らく、激しい戦いになると思います。」
「……。」
全員、多少はあれど緊張の気持ちがある。
「私もサポートをしますが、あまり期待はしないでください。…では。」
「彩葉さん、その銀のブレスレットは…。」
「あ、これですか。…かぐやがくれたんです。名前のお返しって…。」
「是非、大事にしてあげてください。」
みんなに色々迷惑かけちゃうなぁ。
「ここでライブ?」
私が見た景色はKASSENのステージだった。なぜかお城が前に二つあるけど。
「彩葉の希望でね〜。」
「ヤチヨ!」
ヤチヨが後ろから声をかけてきた。犬DOGEがヤチヨの方に向かう。
「"君達"にはご迷惑おかけしますねぇ。」
「フンッ、犬コロどもめ!いい気になるなよ。」
ふと彩葉のことを思い出してつい呟いてしまう。
「私がヤチヨだったら、もっと虜にできたのかなぁ。」
「彩葉もちょっと前に似たようなことを言ってたよ。『私がヤチヨだったら帰りたくないって言ってくれたのかな』って!…両思い、だったんだね。」
彩葉がそんな事言ってたんだ。ヤチヨの言っている意味はあまり分からないけど。
「それに、かぐやじゃなきゃできなかった!…いってらっしゃい、かぐや。かぐやなら全部大丈夫。ヤッチョが保証しちゃう、フフッ。」
ちょ〜う無責任!だけど…。
「そのノリ、割と好きだった!」
『みんな、ありがとー!今日でお別れみたいだけど、悲しくはしたかないんだ。みんなでお見送りしてハッピーに卒業させて!』
かぐや様の呼び声と共に6つの桃を降らせる。六人の騎士の誕生ですね。
『ライブの余興!万が一勝っちゃったら、ドンキで買い出しして、パンケーキ作ろう!』
『そっか…そっかぁ。みんな、自由だー!』
「皆さん、準備を始めてください。」
ツクヨミの空に満月が浮かび上がり、歪んでいく。その中から月人が現れる。いつのまにかKASSENのような残機表示があちらにも浮かんでいる。
(こちらの余興に付き合ってくれて感謝します。私たちも全力を尽くしていきます。)
『〜♪〜〜〜〜♫』
かぐや様の曲が始まると同時に月人が無数の白い月人と6体の大型の月人を向かわせる。こちらも動き出す。NPCが白い月人を弓矢で迎え打つ。撃ち漏らしなどは私が二つの城から光線を無数に放ち、消し飛ばしていく。
『芦花さんがやられました。』
『真実さんがやられました。』
二つのメッセージが見えた。戦力差は歴然。あちらの残機も減らしているがそれでも埋められない差はあった。
「真実さん、芦花さん。今復活を…。」
二人を復活させようとすると音声が届いた。
『こっちは大丈夫です!ブラックオニキスの方に回してください!』
「分かりました。」
自身の残機を他の人に回すことになった。残った人数では撃ち漏らしが多くなる。二つの城を同時に動かしているので頭が熱くなってくる。
『秘書さん、大丈夫ですか。』
彩葉さんから心配の声が上がる。あなたの方が必死でしょうに…。
「私は問題ありません。」
月人も邪魔に思ったのでしょうか。城の一つを囲い込み、武器で粉々にしていく。
「こちらの城が一つ落とされました。撃ち漏らしの対処能力が下がったと思ってください。」
かぐや様の一つめの曲が終わる。観客の人たちはこれでライブが終わってしまうと思っていますが…。
「ん!」
かぐや様の合図と共に城の頂上をステージに変え、そこにかぐや様を移す。観客の方では驚きの声が聞こえてくる。
『雷さんがやられました。』
『乃依さんがやられました。』
雷さんと乃依さんがやられ、犬型の月人が半人半獣の姿になり、帝さんを襲う。
『今から使う。』
帝さんからメッセージが送られると同時にブラックオニキスの皆さんの雰囲気が変わる。チートを使用したのでしょう。観客の映像から乙事照琴さんと忠犬オタ公さんが『チートだー!』などの発言や、ファンの顔に嫌悪感が浮かんでいる。
「了承しました。」
頭の中にチート使用者発見の警告とけたましい警告音が鳴り響く。
「っ……!」
熱い頭にさらに警告でキャパオーバーし、城の攻撃が少なくなってしまった。それを見た月人がもう一つの城を落とす。
「っ…、もう一つの城が落とされました。」
城の操作ができなくなり、警告の対処に集中する。自動BANを停止するなどで帝さんのチート使用時間を伸ばす。しかし、時間が経てば経つほど警告が増えていく。
『もう少し保たせてくれ。』
チートを使用したブラックオニキスの皆さんが月人の残機を減らしてくれているが、それでも数が多く押されていくばかりになっている。…かぐや様の二つ目の曲が終わりに近づいていく。彩葉さんがかぐや様の元に向かおうと城の方へ向かっていくのが見えました。
『雷さんがやられました。』
『乃依さんがやられました。』
チートを使用した雷さんと乃依さんがやられてしまったメッセージが届く。しかしこれ以上は頭の熱が限界になってしまいます。
「み、帝さん。これ以上はチートの使用時間を伸ばすことができません…!」
チートを強制解除する。彩葉さんはかぐや様の方へ走り出していましたが、空に大量の月人が覆い尽くしていました。曲のアウトロがフェードアウトし、かぐや様の踊りが終わる。
『…かぐや。』
『彩葉。』
月人は彩葉さんをかぐや様に向かわせないように取り囲んでいましたが、決して見せないようにするのではなく、寧ろかぐや様を見やすくするような配置になっていました。
『はるばるようこそ。逃げちゃってごめん。でも、すっごい、すっごい楽しかったんだ!』
月人はどこか微笑んでいるように見える。
(本当に機械的で、それでいてとても優しい…。)
かぐや様が多くの月人と犬DOGEと一緒に月へ向かっていく。
『最高のライブでした!いっぱいお土産貰っちゃった。みんなありがとう!』
声が震えていますよ、かぐや様。…下手な強がりですね。
『えへへ、名残惜しいけどこれでお終い。それから…。』
かぐや様のアバターの口が動いていますが、声が聞こえない。…きっと彩葉さんの方にお別れを言っているのでしょう。
「………。」
そうしてかぐや様が消えていった。私はマイクを消して…。
「どうか、どうか貴女に歌が届き、そして再びこの地球に戻って来られますように…。」
そう願わずにはいられませんでした。
「みんな、お疲れ様でした。本当にありがとう…先帰るね、ごめん。」
そう言い、彩葉さんはツクヨミからログアウトしていった。周りの皆さんはとてもやるせない顔つきでした。重い雰囲気のまま皆さんがツクヨミからログアウトをしていく。
「…どうだったかな、って君はよくわかっているよね。」
「ヤチヨ様…。」
後ろからヤチヨ様が声をかけてくる。
「残念ながら、力及ばず…。」
「うん、ありがと。かぐやを必死に守ってくれて。」
かぐや様は帰ってしまったが、まだやることはたくさんあります。まずはブラックオニキスのチート使用を釈明しなければいけません…。
「もう、君は一旦休んでて。まずはそれからだよ〜。」
気づいたらヤチヨ様に膝枕をされていました。
「いけません、ヤチ…。」
「ネムッテ。」
FUSHIの声が聞こえると同時に眠気が襲ってくる。疲れた頭ではその眠気に抗えず、私はそのまま眠ってしまいました。
「ねえ、私はね、彩葉に救われているけど…君にも救われているんだよ。」
楽曲コードの書き方がわからないので、とりあえず音符で誤魔化しました。
駄文かもしれませんがどうぞ楽しんでください。
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